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ションヤンの酒家 [2005年 レビュー]

ションヤンの酒家(みせ)」(2003年・中国) 監督:フォ・ジェンチイ 主演:タオ・ホン

 水商売をやっている女性が観たら泣けて泣けてしょうがない映画じゃないでしょうか。
 キーワードは「裏目」です。
 急速な発展を遂げる中国の古き良き時代に賑わった屋台街で商売をする1人の女。
 一体なんのために働いて、なにを目的に生きているのか、時折解らなくなる日々。
 これは70年代でも80年代でもなく、今を生きる女にとって「幸せとは何か?」をストレートに訴えている作品だと思います。
 (この先、ネタバレします。あ、ネタバレどころがラストシーンについて言及しています・笑)
 



 主人公ションヤンの母は弟を産んだ際に亡くなり、父はその後京劇の女優と家出。その弟は麻薬中毒で現在は矯正施設にいて、兄は欲の張った嫁とその実家に住んでいる気弱な男。
 家族に降りかかるあらゆる揉め事はすべて主人公の両肩にのしかかる。まさに不幸モノの定番とも言うべき設定なのですが、この作品は(中国人女性の気質なのかもしれませんが)ションヤンの気力が決して萎えていないところが観客にとっては救いで、彼女の気力が充実しているからこそラストまで一気に見せる力を持っているのでしょう。
 けれどそのラストシーンはあまりにもせつなかった。
 「私は いつでも ここにいるわ」
 と言ったションヤンは、何気なく出た自分の言葉が「自分の人生のすべて」だったことに気付きます。こうして「自分には行くところも帰るところもないのだ」と言う悲壮感が最後の最後に爆発するのです。
 たとえどんな仕打ちを受けてもションヤンの気力を無にしなかったラストまでの約100分が見事に効いたシーンだったと思います。

 ただ振り返ってみると一箇所だけ編集を直したいところがある。
 まず【弟を矯正施設に迎えに行く】シークエンスと、【常連客だった男との情事】は、そっくり順番を前後させたほうがいい。
 弟を迎えに行って「一緒に暮らそう」と言ったにもかかわらず、実は客との結婚を望んでいた、という流れになってしまっているのが少し不自然。
 これを逆にすると、結婚は夢に終わり、結局弟と2人で暮らすことになり、そんな現実に呆然としていると、煙草の火差し出す男が現われる…。
 今の編集のままだと火を差し出した手は「絶対に件の常連客じゃないはず」と観客に思わせるのがもったいないと思うんです。僕の編集プランだと「もしかして?」と観客に思わせる余裕が生まれるはず。
 さらに弟と2人で乗ったロープウェイからの風景が実に素晴らしく、まさしく「五里霧中」を絵にしたカットだっただけに、これを活かすためにも2つのシークエンスを前後させたほうが良いと思うわけです。すいません個人的な覚え書きになってしまいました(笑)。

 魚河岸おじさんが「こんな店があったら通ってしまうかも知れません」と書いていらっしゃいましたが、僕は間違いなく常連になります。男は本当に馬鹿です(笑)。

ションヤンの酒家

ションヤンの酒家

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2004/09/25
  • メディア: DVD


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コメント 7

魚河岸おじさん

こんにちは
なるほど!そのほうが作品的に深みが出そうですね、
ラストシーンは切なくていい感じでしたよね
二人で常連になりましょう、「あっ、来てたのこんばんは」みたいな(笑)
by 魚河岸おじさん (2005-07-06 11:38) 

ken

ははは。
鴨の首をかじりながら、あの映画見た?みたいな話は楽しそうですね。
by ken (2005-07-06 16:41) 

NIKO

この監督は「山の郵便配達」はまだ見てないけど、「故郷の香り」もおもしろかったです。
by NIKO (2005-07-08 17:45) 

ken

にこさん、情報ありがとうございます。
皆さんのおかげで観たいと思う作品がたくさん、たくさんあるんですけど
いかんせん青物横丁GEOはストック本数が少なくてどうにもなりません。
「故郷の香り」も多分無かったと思います。
最近、有る無しまで分かるくらいになりました(笑)
by ken (2005-07-09 03:25) 

Sho

彼女の中では、「血の繋がった薬物依存の弟を守りながら一緒に暮らしたい」という気持ちと「好きになった男の人と一緒に暮らしたい」という相反する気持ちが常にあったんだと思います。その気持ちはどちらも本物で、なので彼女は混乱して苦しんだと思います。
私は未練がましいので(笑)あの展開でも、まだ煙草の火を差し出す腕を、あの男!?と思ってしまいました。
でもあの男のひと、どうみても「ただのハゲチャビン(失礼!!)のスケベなおっさん」にしか見えなかったのが残念!でした。
ラストの泣き笑いは秀逸だったと思います。絶望感と、「ま、でもあたしの人生これもけっこういいじゃない」とホントに思っている部分も感じ、ここでも相反する二つの感情が同時に彼女の中に存在しているように思いました。

情の濃い、懸命に生きてるいい女だな、と思いました。
by Sho (2006-07-13 08:41) 

ken

こういう狭間に生きる女の人って世の中には沢山いますよね。
もちろん男もだけど。
そこへ持ってきてあのラストの表情は見事な演出だったと思います。
「そういえばあそこのママ、どうしてるかなあ」
って感じでもう一度見てもいいかな。この映画は。
by ken (2006-07-14 02:19) 

Sho

>こういう狭間に生きる女の人って世の中には沢山いますよね。
もちろん男もだけど。

そう思います。
by Sho (2006-07-14 10:45) 

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