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阿弥陀堂だより [2005年 ベスト20]

阿弥陀堂だより」(2002年・日本) 監督・脚本:小泉尭史 主演:寺尾聰、樋口可南子

 昨今なかなか見なくなった情緒的な日本映画「雨あがる」の小泉尭史監督、2作目。
 その「雨あがる」を観たときに、僕はこんなことを書きました。

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 「退屈でおもしろくない」という人もいるかも知れませんが僕はとてもいい映画だったと思います。
 
なにより「誰も知らない」のときに強く思った「人が生きていく上で本当に必要なものは何か?」の答えがこの映画の中にあったような気がしました。
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 前回僕はその答えを「思いやり」と書いたのですが、今日それを改めたいと思います。

 ですが、その前に。 
 売れない小説家の孝夫(寺尾聰)とその妻で内科医の美智子(樋口可南子)は、美智子の病気をきっかけに東京を離れ、夫の故郷である信州のとある村で生活を始める。
 阿弥陀堂とはその村の死者を祭る場所。その阿弥陀堂には96歳になるおうめ婆さん(北林谷栄)が一人で住んでいて、そこへときどき喋ることの出来ない難病の少女・小百合(小西真奈美)がやってきておうめ婆さんの話を聞いていた。その話を短くまとめ、村の広報誌に掲載していたのが「阿弥陀堂だより」だった…。

 「阿弥陀堂だより」ってタイトルはあとから見れば悪くないんですけど、物語を想像しにくいタイトルだと思う
んですよね。僕自身もluna-louさんの記事を読むまでは観ようという気になれなかったので、まだ観ていない方のためにタイトルの意味だけ書かせてもらいました。
 
 さてこの映画には2つの感動があります。
 まずひとつは、「こんな波風の立たない静かな映画を、よくもまあ1年もかけて撮らせてくれたもんだ」という驚き。
 もうひとつは、9年ぶりの映画出演だった樋口可南子さんと、映画はこれが最期だろうと自ら語った北林谷栄さんのピュアな演技。それは隣にいる寺尾さんが芝居染みて見えてしまって可哀想なくらいでした(笑)。

 映画は、村で生活を始めた夫婦がさまざまな人とふれあう様子を淡々と描いたものです。ドラマとしては大きな波風が立たないのにそれでも飽きることなく観ていられるのは不思議でした。もしかしたらこれが4時間のドラマでも観ていられるんじゃないかと思ったくらい。それはきっとこの映画に悪人が出て来ないことと、ほんの少しずつだけど「良い事」が起きるからでしょう。
 渓流釣りをしたら一匹だけ岩魚が釣れたり、村の子供たちが摘んだ花をくれたり、阿弥陀堂から遠くの山々がきれいに見えたりします。こんな何気ないことを「良い事」と感じるのは、心を病んでいた美智子が少しずつ元気になっていく様と同調しているからです。このうつろいを樋口さんが実に上手く演じていました。
 当然のことながら派手なクライマックスも何もありません。ですが思わず泣いてしまったセリフがひとつありました。孝夫から小説家という仕事がどんな仕事かを聞き納得したおうめ婆さんがこんな話をします。

 「私はね、この歳まで生きてきたけど、もうせつねえ(せつない)話はうんと聞いたから、いい話だけ聞きてえでありますよ。誰もせつねえ話聞くためにわざわざ金出して本買うのはヤだもんなあ。わしゃエエ話聞いて、エエ気持ちになりたいでありんすよ」

 おうめ婆さんの長い生涯を、たったこれだけのセリフに凝縮してみせた小泉監督の才能に感服しました。僕はこのセリフを聴けただけでもこの映画を観た価値があったと思います。
 
 さて結論。
 「
生きていくうえで本当に必要なもの」とは何か。
 僕は「信頼」だと確信しました。
 全幅の信頼を寄せる人が近くにいれば、多くの困難は克服できると思います。
 「雨あがる」のように貧しくとも。
 「阿弥陀堂だより」のように病んでしまっても。
 「誰も知らない」のように親に捨てられても。
 
 僕がこの3作品に心揺さぶられたのは、自分に欠けたものがあったからかも知れません。

阿弥陀堂だより 特別版

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  • 出版社/メーカー: アスミック
  • 発売日: 2003/06/06
  • メディア: DVD

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コメント 12

こんにちは!
「阿弥陀堂だより」はずっと気になってはいたものの、未だ観たことのない映画でした。kenさんの記事を読んで観てみようと思いました!!ちなみに寺尾聡さんは好きな役者さんです!
by (2005-09-10 00:32) 

ken

寺尾さんはいい俳優ですけど、この映画は北林谷栄さんがダントツです。
この作品で、日本アカデミー賞の助演女優賞をとったそうですよ。
ついでに言うと、小西真奈美は人なつこい犬みたいで、なかなか
可愛かったです。
by ken (2005-09-10 01:21) 

Takabee

小西真奈美は好みのタイプですが、いかんせん、背が高すぎる(あくまでも主観・好みの問題ですが)。ざんねん。
この映画、テレビをつけたらやってて、なんとなく見ちゃいました。が、今の世の中で足りなくなっている『何か』を考えさせられるなぁと思いつつ、後味の良い映画だったと記憶してます。
by Takabee (2005-09-10 01:53) 

ken

小西真奈美は好みのタイプじゃないですが、気になる女優さんです(笑)。
後味のいい映画。そうですそうです、そんな感じです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2005-09-10 12:28) 

coco030705

こんにちは。
小西真奈美は、TVで見るときいつも意地悪な役が多いので、
あまりすきじゃなかったんですが、この映画の彼女は、とってもかわいかったですね。役柄って、女優さんのイメージを左右するものなんですね。
by coco030705 (2006-02-13 17:25) 

ken

役者がイメージを大事にする所以ですね。
観る側もちゃんとした目を持つことが大事です。はい。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-02-13 23:59) 

Sho

こんばんは。 次に借りるDVDの、とてもいい参考にさせていただいています。
今日は、わりと軽い気持ちで一覧を拝見していて、過去に見た作品をさがしていたのですが・・
kenさんの書かれたことを読んで、とてもいろんなことを考えさせられました。
長文ご容赦ください。

実はこの作品、テレビで放映されたとき、途中から見ました。
北林さんは、もう昔から「何もいうことはありません」という演技をされる方だと思っています。
kenさんが書いておられたセリフは、テレビで見たときは聞き逃していました。
私は基本的に、昨今流行のやたら人が死ぬ映画は好きではありません。
実際に身近な人を亡くしていくと、「もう大事な人が死ぬのは現実だけでいいよ」という気になると思います。(人それぞれなのかな?)
なので、北林さんのセリフは、その重みの十分の一くらいしかわかっていないと自分で思うけれど、同感です。

この映画の中で、第一線の医師だった樋口可南子がパニック障害になりますね。何百人目かの患者さんを看取ったとき、自分の中から何かが抜けていってしまった・・と言って。
「ああ、医者でもパニック障害になるのね」と思ってみてました。
樋口さんはしっかりした医師だけど、女の人としてかわいらしい部分も、ちゃんと出ていたように感じました。

信頼―と云うのは、いざ定義しようとすると難しいですね。
思いやり、の方がまだ自分にはわかりやすいように思います。

この映画はほんとに淡々としていて、別に誰かが死ななくても、これ見よがしなエピソードがなくても、十分に人を感動させ、大切な何かを感じさせることが出来るのだと、わからせてくれる作品だと思います。
by Sho (2006-04-24 00:58) 

ken

長文コメントありがとうございました。
この映画は、誰のどんな人生も1本のドラマである、という先人たちの教え
そのままのような気がします。
沢山の人に観てもらえると嬉しい1本ですね。
by ken (2006-04-24 14:25) 

デクノボー

こんにちは。
この映画タイトルをみてもあまり惹かれなくて、興味なしと思っていたのですが、kenさんのレビューを拝見して、見てみたくなりました。
でも、私には正直退屈でした。それはきっと、まだまだ人間が浅いからだと思います。
ただ、おうめさんのあのセリフは印象に残りました。その前段の、小百合さんの小説についての説明にもなるほどと思いました。
by デクノボー (2006-07-10 18:04) 

ken

そうですね。若い方はまだ観る必要の無い映画かも知れません。
人生折り返したくらいで観るのが丁度いいかも、です。
by ken (2006-07-10 18:17) 

Sho

二度目にして、最初から最期まで見ました。
私はこの作品を見ている間、ずっと「あるがまま」という言葉が浮かんでいました。
kenさんが書かれているように、本当に「ささやかな」ことが織り込まれているんですよね。でもそれが、とても心に染みました。
子供達が「夕焼け小焼け」を?歌いながら家に帰っていくところの、小さな頭のかたまりがかわいいなとか、美智子が村のお年寄り達と「お早うございます」って挨拶を交わすところとか。おうめ婆さんが一人でお月見しているところとか。

寺尾さんは、ほんとに可哀想なくらいヘタに見えました(笑)
by Sho (2006-10-03 21:42) 

ken

この映画の寺尾さんって本当に可哀相ですよね(笑)。
僕も久し振りに見たくなりました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-10-04 01:49) 

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