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オペラ座の怪人 [2005年 ベスト20]

オペラ座の怪人」(2004年・アメリカ/イギリス) 監督:ジョエル・シューマカー

 
「オペラ座の怪人」がホラーサスペンス映画だったことを知る人は近い将来いなくなるだろう。
 1986年。薄気味悪かった古典映画は、イギリスが生んだ天才作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーの手によって豪華絢爛なミュージカルに生まれ変わり、そして2004年には「ミュージカル映画」としても歴史に名を残すことになったのだ。
 幸運にも【劇団四季版】と【映画版】の両方を観た僕は、まさに歴史が塗り替えられた瞬間に立ち会ったことになる。
 …と、こう書くと未見の人には僕の言葉がいささかオーバーに聞こえるかも知れない。でも僕は一時の勢いで言っているわけではない。これでも言葉は慎重に選んだつもりだ。

 「ミュージカル『オペラ座の怪人』はその過去を無き者にするほどの目も眩むような傑作である」

 製作・脚本・作曲、アンドリュー・ロイド=ウェバー。
 23歳にして「ジーザス・クライスト=スーパースター」を書いた現代のモーツァルト。「オペラ座の怪人」の主役は彼の書いた楽曲だ。
 「OVERTURE」からエンディングの「LEARN TO BE LONELY」まで、初めて聴く者を一瞬で虜にする魅惑のスコア。
美しい映像を従え時に清流のように時にマグマのように流れ行く劇的なメロディ。これを傑作と呼ばずして何と呼ぶ。当たり前の話だが「捨て曲」なんてひとつもないのだ。
 少し具体的な話をしよう。
 物語はバレエダンサーのクリスティーヌ(エミー・ロッサム)がプリマドンナ(ミニー・ドライヴァー)の代役務めるところから大きく展開し始める。ここで歌われる「THINK OF ME」がまず美しい。メロディも、リハーサルから本番へと移行するさまをワンカットで見せるシーンも、そしてエミー・ロッサム自身も。
 無事大役を果たしたクリスティーヌがファントムに導かれるシーン。ここではクリスティーヌとメグ(ジェニファー・エリソン)による小鳥のさえずりのようなデュエットが愛らしい。「ANGEL OF MUSIC」と歌うクリスティーヌの「誤解」が心にチクリと痛い。
 「THE PHANTOM OF THE OPERA」と「THE MUSIC OF THE NIGHT」はファントムの2面性を歌い上げた表裏一体の曲。ここではジェラルド・バトラーの歌唱を存分に堪能しよう。
 ファントム、クリスティーヌ、ラウルに対する“裏主役”とも言うべき3人、プリマドンナのカルロッタ、劇場支配人のフィルマン(シアラン・ハインズ)とアンドレ(サイモン・キャロウ)による「PRIMA DONNA」も聴き応え充分。本作中では唯一コミカルな演出を含んでいて楽しく観ることが出来る。
 「ALL I ASK OF YOU」はクリスティーヌとラウルが婚約するに至る美しい愛の歌だ。しかしファントムの気持ちを思えば心の痛む曲でもある。2人のデュエットに続いて、ファントムが一人で歌うパートはあまりにせつない。
 舞台で映える最大の見せ場は仮面舞踏会のシーンだ。再び“裏主役”の3人が導入部を引っ張る「MASQUERADE」は最もミュージカルらしい名場面。ここを中盤の山場にして物語は急展開して行く。
 「WISHING YOU WERE SOMEHOW HERE AGAIN」はクリスティーヌのソロ。雪の中、迷える心を携えて亡き父の墓前にたたずむクリスティーヌは美しいが、パフォーマンスとしては若干「出力不足」じゃないかと思う。
 個人的には「オペラ座の怪人」で最高の楽曲だと思うのが
「THE POINT OF NO RETURN」。ファントムとクリスティーナのデュエットが、ラウルだけでなく観客の心までも惑わせる。ありえないことだけど、「もしかしたら今日は違う結末になるんじゃないか?」と。
 そしてドラマは「DOWN ONCE MORE」でフィナーレへ。ジェラルド・バトラー渾身のパフォーマンスに心置きなく涙しよう。

 繰り返すけれど、ミュージカル「オペラ座の怪人」は歴史に名を残す傑作である。
 しかし、2004年のアカデミー賞。数ある部門の中でこの作品がノミネートされたのは歌曲賞、撮影賞、美術賞の3タイトルのみだった。
 主要部門にノミネートが無かった理由は知らないけれど、図らずも【映画版】のプロジェクトがスタートしたとき、監督のジョエル・シューマカーはこう語っていた。


 「『オペラ座の怪人』を観たくても劇場に行けない人が世界中に何百万人もいる。アンドリューの音楽を愛するその人々に映画版をプレゼントできると思った」

 映画「オペラ座の怪人」はそういう使命を帯びた作品なのだ。
 それはクリスティーヌを想うファントムの「自己犠牲」の精神と同類なのかもしれない。

オペラ座の怪人 通常版

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オペラ座の怪人

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コメント 11

gutta

そんな背景があったんですね、知りませんでした。
by gutta (2005-12-08 09:23) 

たしかに…、簡単に観にいけない。
ミュージカルとか、舞台とかって、気合と暇とお金がそろわないとなかなか。
これは、観るべきですね、うん。
パリのオペラ座って、いまでも不思議な言い伝えや、ジンクスがあるそうです(そして屋上にはなぜか養蜂場があるそうです)。行ってみたいです!
by (2005-12-08 11:24) 

ken

>ぐったさん
 「オペラ座の怪人はホラー映画だった」なんてトリビアネタが
 いつか紹介されるんじゃないかと思いました。
 あの番組が続いていればだけど。
 あ。ぐったさんは「あの番組」知らないかしら(笑)。
 nice!ありがとうございます。

>せきせいかんこさん
 僕は今まで観たミュージカルでハズレはひとつもありませんでした。
 「キャッツ」「マンマミーア」「クレイジー・フォー・ユー」「コーラスライン」
 「オペラ座の怪人」「ライオンキング」「シカゴ」…やはりライブのパワーって
 すごいです。どれもオススメ。nice!ありがとうございます。
by ken (2005-12-08 16:16) 

ecco

かすかな記憶ですが。。
古い昔の「オペラ座の怪人」を
テレビで見たんです。
その時のなんだこれはっ!
て思った感覚からすると
四季の舞台なんかあまりに違い過ぎましたね(笑)
by ecco (2005-12-08 22:28) 

ミホ

小説とミュージカルでは全く違う印象を受けました。
それだけ、音楽の力ってすごいんだなぁ~と思います。
映画版は、ミニー・ドライバー以外が全員、きちんと自分で歌っているっていうのに、好感が持てました♪
わたしも、この映画はミュージカル同様、大好きな1本です。
by ミホ (2005-12-08 22:41) 

ken

>eccoさん
 この作品は、物事の解釈の仕方や表現の仕方によってかくも変わるものか
 という典型かも知れませんね。四季版をもう一度観たくなりました
 nice!ありがとうございます。

>ミホさん
 僕はサントラを即効で買ってしまいました。今、完全にヘビロテになってます。
 音楽の力、恐るべしですよね。nice!ありがとうございます。
by ken (2005-12-10 01:28) 

po-net

映画を観てから若干時間が経っていましたが、kenさんの記事を拝見して
シーンをありありと思い出しました。ジーンとくる映画でしたぁ。
やっぱりサントラ買おうかな。四季の舞台をまだ観ていないので
こちらも楽しみです。
by po-net (2005-12-10 09:22) 

この作品がなかったら私、役者やってません…。
この作品でラウルやファントムを演じていた某俳優さんに基礎をみっちり鍛えてもらったので、私の人生の中で凄く大事な作品です。彼は本当のファントムのようにこっそり私に指導してくれていたので、色々な思い出が詰まっています。

元々舞台版を死ぬほど観たので、やっぱり舞台の方が思い入れが強いんですが、映画は映画でまた違った面白さがありますよね。
欲を言えば…という部分も多々ありますが…映画にしたらこういうものかな?と思ったりします。その意味ではジーザス・クライスト・スーパースターの方が映画の方がいいなと個人的には思いました。
by (2005-12-14 21:23) 

ken

>po-netさん
 サントラは買って損ナシ!ぜひ楽しんでください。
 nice!ありがとうございます。

>aikaさん
 思い出深い作品なんですね。
 「ジーザス…」は舞台も映画も観ていないので、とても観てみたい作品です。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2005-12-15 12:33) 

kei

kenさん、
私もお邪魔しに来てみました。
TBありがとうございました。

来るブロードウェイデビューのために大事にとってあるので、
実はミュージカル版はまだ観てないんです。

原作は駄作だとどこかで見たことがありますが、
それをこのようなすばらしい映画、ロングランのミュージカルに作り上げたのはすばらしいですね。
サントラ版も聞きたくなりました。
by kei (2007-04-10 00:04) 

ken

ブロードウェイデビュー(出るわけじゃないw)。
僕もいつか出来るといいなあ。nice!ありがとうございます。
by ken (2007-04-10 00:29) 

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