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ALWAYS 三丁目の夕日 [2005年 レビュー]

ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年・日本) 監督・脚本・VFX:山崎貴 脚本:古沢良太

 ときどき「どんな映画が好きですか?」と人に聞かれる。
 かつての僕にとってそれはちょっと困る部類の質問だったのだけれど、最近は自分の好みが明確になってきたので即答できるようになった。
 「悪人が出てこない映画と余計な波風の立たない映画かな」
 こう言うと大抵の人はアタマの上に「?」が出る。それが可笑しくてそのまま言葉を続けないでいると、これまた大抵の人が、“次の台詞ってワタシだったっけ?”みたいな顔をして、「…ぐ、具体的には?」と聞いてくる。そこで僕は「言っても分からないと思うけど…」と前フリして、いくつかのタイトルを言ってみる。もちろんハテナマークを消せる人はほとんどいない。それらがマイナーな作品ばかりだからだ。「映画トーク終了~!」の瞬間である。
 でもこれからは違う。
 悪人も出ず、余計な波風も立たない映画が、いま日本中で大ヒットしている。
 「三丁目の夕日みたいな映画かな?」
 こう言えば、きっとこれから先はいくつかのハテナマークを消すことが出来るだろう。

 この映画がヒットしている要因は「昭和30年代ブーム」という懐古趣味が僕たちの中に広く浸透しているせいだ。
 と、これだけで片付けてしまっては韓国映画ヒットの理由を「韓流ブームだから」で終わらせることと同じになってしまうので、「そのブームが派生した理由」を探ってみよう。
 
 ブームの源流は20世紀後半には発生しつつあった。けれどそれが決定的になったのは21世紀になった瞬間である。

 かつて「21世紀」とは「輝ける未来」の代名詞だった。
 今は不便な世の中だけど21世紀には夢のような生活が待っている。僕たちはそう信じて生きてきた。
 ところが21世紀はフツーにやって来た。
 輝ける未来だったはずの21世紀は日めくりカレンダーをめくっていたら順当にやってきた「いつもと変わらない朝」
だった。ただ届けられた朝刊だけが21世紀の日付になっていた。
 「21世紀の今日」も「20世紀の昨日」と変わらず朝刊を受け取った僕たちは「これでいいんだっけ?」と思った。そしてたまらず遠い過去を振り返った。
 「21世紀を夢見てた頃、僕たちは何を思い、何に期待をし、どんな生活をしていたんだろう?」
 記憶の中で一足飛びに過去へ飛んでみると、確かに自分たちはとんでもない進化の渦中にいると認識する。けれどそこで僕たちはもっと大事なことに気がついてしまうのだ。
 ひとつは「先を急ぐ余り失ってしまったもの」。
 もうひとつは、「夢を見ていられる時代がいかに幸せなことだったか」ということだ。

 
【21世紀を迎えて夢を見られなくなった僕たちは、夢を観ていた時代を懐かしむようになった】

 これが「昭和30年代ブーム」
発生の源である。
 「三丁目の夕日」がヒットしている理由は「昭和30年代ブーム」発生の理由と同じだ。
 まず何より、この映画を見ていると幸せな気分になれる。
 モノクロ写真の世界を総天然色で見る面白さもあるし、登場人物の誰かを自分の記憶の中の誰かと結びつける楽しさもある。また美術や小道具の数々を博物館の展示物でも見るように懐かしむことも出来る。
 何より昭和30年代生まれにとっては「誰かの子供でいられた一番幸せな時期」を思い返すことが出来るのだ。映画には悪人も出てこないから余計な心配をすることなく、僕たちはひたすら「記憶のゆりかご」に身を任せられる。これほど心地良いことは無いだろう。
 そしてこの映画がヒットする最大の理由。
 それはこの映画を観たすべての人たちが「前世紀に忘れてきた何か」をこの映画の中で発見し、その忘れ物の大きさに気がついて何度も涙するからである
 僕たちが忘れてきたもの、それは「人の情け」だ。
 
 11月30日(水)20時55分上映開始。
 六本木ヒルズのヴァージンシネマ「スクリーン3」は8割程度の客席が埋まっていた。その多くの人たちがいくつかのシーンで鼻をすすっていた。人の情けに触れて泣ける人がいる間は、世の中もまだまだ大丈夫だと思った。
 
 長くなってしまったので手短に具体的な話を。
 設定で一番巧いのは、東京タワー建築中の昭和33年を舞台にしたことだ。東京人にとっては空気のような存在になっている東京タワーを、当時の人々の夢の象徴として見せたのは抜群のアイディアだったと思う。
 またこの作品には「観客を泣かせるための王道テクニック」が何パターンも取り込まれている。ただ王道でありながら、その「設定」と「展開」と「セリフ」に手垢がついていないところが見事。僕は今年「僕カノ」以来で号泣してしまいました(笑)。
 堤真一と小雪がいい。吉岡秀隆はちょっとやりすぎかな。あとはマギーと温水さんの出番がもっとあればいいなと思ったのと、ピエール瀧演じた「氷屋」は実に味があって良かったです。

 映画というよりもかつてのホームドラマのような感覚で観に行けば、すべての人に楽しんでもらえる作品だと思いました。オススメです。

ALWAYS 三丁目の夕日 通常版

ALWAYS 三丁目の夕日 通常版

  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2006/06/09
  • メディア: DVD

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コメント 14

po-net

幸せな気分になれそうですねっ。やっぱり観ましょっと!
by po-net (2005-12-04 20:57) 

ken

ぜひぜひ楽しんでください!
nice!ありがとうございます。
by ken (2005-12-05 00:46) 

keiko-nari

CM見てるだけで懐かしいな~と思う
最近友達のお子が、駄菓子屋に行って買い物がしたい
といわれたときに、これ思い出した
keikoサンタは25日に駄菓子セットをめちゃめちゃ贈ろうと心に誓いました
駄菓子屋さんが都内にも存在することに驚きつつも
なんかいいものはなくならないでほしいともおもいながら寝ます
ZZZZZzzzzzz
by keiko-nari (2005-12-05 01:01) 

ken

懐かしいなあ、と思う歳なのか? 違う気がするけど、まあいいか。
駄菓子セットも大量にあげるとありがたみが無くなりますからご注意を。
いい夢みてください。nice!サンキュ。
by ken (2005-12-05 01:21) 

こんにちは、おじゃまします。
両親と、姉が観にいったそうです。わたしは仲間はずれ…(笑)。
両親はちょうどいま、50代後半なので、とても懐かしく、
姉にとってはとても新鮮だったそうです。
当時のことを覚えている人と一緒に行くと、面白さ倍増、かもしれませんね!
by (2005-12-08 11:18) 

ken

いろんな解説を聞きながら観るのも楽しいでしょうね。
でも上映中の劇場でペチャクチャ喋るのはやめましょう(笑)。
nice!ありがとうございます。仲間はずれは可哀想^^
by ken (2005-12-08 16:18) 

Sho

>モノクロ写真の世界を総天然色で見る面白さ
この映画の予告をTVで見たとき「何か不思議な感覚」がしたのはコレだったように思います。
>夢を見ていられる時代がいかに幸せなことだったか
遠い目標を立ててそこに向っているときって、とてもしんどいけれど、でも振り返るとそのシンドイ時期が、幸せだったりするように思います。
手に入れてから、到達してから、むなしくなっちっゃたり・・
「人の情け」ね。根底ですよね。見てみたくなりました。
by Sho (2006-05-17 05:32) 

ken

ようやくDVDになりますね。
これだけは近いうちにもう一度観ようと思います。
by ken (2006-05-17 13:56) 

霞

こんにちは TBありがとうございます。
さて、この映画、すごく良かったです。
昭和が一番希望に満ちていた時代。人情とか夢をまだ多くの人がしっかり持っていた。昭和の中で一番希望に満ちた時代のように感じます。
この時代にはまだ生まれていませんでしたが、
懐かしく感じる風景もたくさんありました。
六ちゃんは母の世代。母から集団就職の話を聞いていましたが、
こんな感じなのかとビックリしました。
結婚するまで学校も就職先も地下鉄で30分程度の所だったので、親元を離れて住み込みで働くってどんな気持ちなんだろう?とか色々と考えてしまいました。今度母に話しを聞いてみたいと思います。ずっと暖かい気持ちで観れた映画でした。最後は自然に涙が出ました。「映画って良いですね」と言いたい作品です。
by (2006-07-05 23:01) 

ken

僕は時代は全く違いますが親元を離れて住み込みに近いことをした経験が
あるので、六ちゃんの気持ちは分かったような気がします。
描いた時代の温かさがきちんと出ていた良い映画でしたね。
by ken (2006-07-06 00:13) 

あーちゃ

ほのぼのとしていて、そして、ちょっとくらい時代で、
30年代を知らなくても楽しめて、感動できるいい映画でしたね。
by あーちゃ (2006-09-23 00:48) 

ken

そうです。この映画は30年代を知らなくても感動できるところが凄いんですね。
きっと日本人が大好きな「人情モノ」だからなんでしょう。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-09-23 01:05) 

daland

>Kenさん
初めまして。こんばんは。
コメントとTBありがとうございました。

昭和33年には生まれてましたが、記憶がほとんどありません。
もちろん東京タワーが半分なんて知りません。

それでも懐かしさで一杯なのはどこかに記憶が残っているんでしょうね。
「続」の小雪さんに期待してます。

今後もよろしくお願いします。
by daland (2007-06-18 21:46) 

ken

僕は地方出身者なので、古きよき時代の東京がどんなだったろう?
と、思いを馳せるだけでも楽しく、少しだけセンチメンタルになります。
潜在意識の中にあるものと、ないもの。
dalandさんの記憶の引き出しのどこかに、素敵な思い出があるんでしょうね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-06-19 00:58) 

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