ミュンヘン [2006年 レビュー]
「ミュンヘン」(2005年・アメリカ) 監督:スティーヴン・スピルバーグ
この映画のタイトルはマズイです。
というのも、劇場公開時に書店で平積みされてたのはこの本でした。
「ミュンヘン~黒い九月事件の真実~」(角川書店)
当然コレが原作本だと思うじゃないですか。
でもこの「本」と「映画」は何の関係もありません。ただ同じ題材を扱っているというだけ。
本当の原作はこっちです。
「標的(ターゲット)は11人~モサド暗殺チームの記録~」(新潮社)
これって反則でしょ?どうしたって先の「ミュンヘン」が原作だと思うもん。
僕は角川書店の「ミュンヘン」を原作と信じて、それを読んでから映画を観たので、ずーっと「おっかしいなあ」と思っていました。なんたって展開がまるで違いますから(笑)。
「ミュンヘン」というタイトルをまずいと思う理由はもうひとつ。
僕はこの映画、事件の検証をする展開かと思っていました。
タイトルが「ミュンヘン」だから、オリンピックスタジアムで始まり空港で終わるんだろうと勝手に想像をしていたんです。
ところが事件の描写は冒頭の10分で終了。メインは復讐の物語なんです。この展開に驚いた人もきっと沢山いたことでしょう。
と言うわけで、これからご覧になる方は【イスラエル政府から“テロリストの首謀者を暗殺せよ”と指令を受けた男たちの物語】と認識してご覧になってください。
この先はネタバレに突入します。
そんなわけで関連書籍を2冊も読んでしまったせいで(笑)、映画に関してはいくつかの不満があります。
が、その前に一言。
原作「標的(ターゲット)は11人」はかなり面白いです。
どうしてこの本が劇場公開時に陽の目を見なかったのか不思議でなりません。
映画を先に観ると、「そんなドラマみたいなことがホントにあるのかよ!」と何度か思うのですが、あくまでも原作に忠実だったりするので、原作を読みながら「あれって脚色じゃないんだ~」と驚くことが何度かありました。
唯一スピルバーグのついた大きな嘘は、キプロス島のホテルでの「ベッド爆殺工作」の描写。実際には隣の部屋にいた新婚カップルに傷ひとつ付けずに任務を成功させていました。
また、とても残念だったのが「ターゲット以外の誰も巻き添えにしてはならない」という絶対条件の存在を、うまく説明し切れていないこと。
原作には工作管理者(ケース・オフィサー)から、アフナーら暗殺チームの面々にこう話すシーンがあります。
『諸君にとくと肝に銘じてもらいたいことがある。それはこのミッションで諸君が冒しやすい間違いが考えられるからだ。ヒットリストには11人の名前が記される。(中略)11人残らず殺ったとしても、罪なき第三者にかすり傷でも負わせたら、諸君は間違いをしでかしたことになる。本作戦では、この点がすべてに最優先する。』(第四章「標的は11人」より抜粋)
この描写は本編にも組み込んで欲しかった。
そうすることで最初のミッションである「電話爆殺作戦」はもっと緊張感のあるシーンになったと思います。
164分も費やしながらアフナーと妻との関係性の描写が希薄だったのも残念でした。
僕は「原作ありきの映画でも、読まずとも充分おもしろい」が映画の基本だと思っています。
その考え方に変わりはありませんが、原作を読むと「監督の個性」を知ることが出来ます。実はこれも「映画の楽しみ方のひとつだな」と今回改めて思いました。
「ミュンヘン」も原作を読んでおくと、スピルバーグ“熟練の技”を堪能できると思います。
その確かな技は「流石」の一言。
なるほど、そうだったんですか。
さすがkenさん。
ミュンヘンは純粋に映像が綺麗だと思ってみてました。
あと、工作員のだれだっけ、料理が上手な人、あの人の描写が良いなと。
by きりきりととと (2006-10-09 11:18)
最初の暗殺で、白いミルクと赤い血が広がるカットは、
さすがスピルバーグ!と唸りました。
料理上手な人は主人公のアフナーですね。
原作でも料理の説明はあるんですが、あそこまでフューチャーしたのは
スピルバーグのアイディアでした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-10-09 15:17)
確かに映像はよかったんだけど、主人公が線細すぎて、個人的には国家にすりつぶされていく個人の意志というよりも、単純に力量以上の仕事をほいほいひきうけると悲惨な目に遭うよ、みたいな展開にしか見えなかったのが残念。シリアナの方がよかった~。
by 瑠璃子 (2006-10-11 20:01)
シリアナは難しかったですねー、僕には。
ミュンヘンは原作読んだからもう一度見てもいいな。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-10-12 17:48)