グエムル-漢江の怪物- [2006年 ベスト20]
「グエムル-漢江の怪物-」(2006年・韓国) 原案・脚本・監督:ポン・ジュノ
一番の驚きは「殺人の追憶」の監督が“怪獣映画”を撮ったということだろう。
またこれが韓国初の本格怪獣映画であることも興味深い。
しかし、観ればもっと驚くことがある。
なぜなら、これはただの怪獣映画なんかじゃなく、熱い人間ドラマだと知るからだ。
*この先ネタバレします。
「殺人の追憶」は2004年に僕が観た191本の中のベスト1。
僕は当時「被害者の無念さを思い切って一切排除した脚本が素晴らしい」と書いた。あまりに驚いてしばらく声も出なかったラストシーンもそうだったけれど、僕はポン・ジュノの「潔さ」が好きだ。
「自分で見せたいものはハッキリしているんだから、それ以外の余計なものはいらない」とする自信、確信、あるいは信念。そんな人を僕は黒澤明以外に知らない気がする。
ポン・ジュノの才能は上映時間でも計ることが出来る。
例えばこの「グエムル」の上映時間は120分だが、“怪獣対家族”という図式の他に“怪獣対軍隊”という(ゴジラなどで必ず見られる)サイドストーリーがあったなら、間違いなく2時間半はオーバーしていただろう。血が沸騰しそうなほど濃厚なドラマだった「殺人の追憶」もわずか130分で完結しているのだ。
あれもこれも詰め込みすぎる監督や脚本家がいる一方で、適正尺を生み出すポンジュノの「潔さ」は「グエムル」でも存分に発揮されていた。
その一番は先にも書いた通り、【怪獣対軍隊】のシークエンスをほとんど作らなかったことだ。
ポン・ジュノが描こうとしたのは、愛する娘を奪われた家族が、娘を奪還するために命がけで闘う家族愛である。ポン・ジュノにとっての怪獣映画とは怪獣退治が目的ではなく、怪獣の登場によって奪われたささやかな幸せを取り戻すことがテーマなのだ。
例えば娘を北朝鮮に拉致された横田夫妻にとっての最終目的はめぐみさんを取り返すことであり、北の独裁者を倒すことではない。もしも娘を取り返すために独裁者の死が必要ならそれも辞さないが、あくまで事件の当事者は横田夫妻とめぐみさんであって、ドラマの主役は北の独裁者対日本政府ではないのだ。
ここに気がついたポン・ジュノはやはり天才だと思う。
「今までにない怪獣映画を作りたい」
誰にでも言えることだが、誰にでも作れるわけじゃない。
ポン・ジュノのもうひとつ優れている点は、映画の文法をうまく利用してそれを逆手に取っているところだ。
これは映画監督の山崎貴氏もパンフレットの中で語っていたけれど、映画のお約束をことごとく裏切ってくれる「意外性」がたまらなくいい。
父(ピョン・ヒボン)が怪獣の正面で銃の引き金を引くシーン。次男(パク・ヘイル)が火炎瓶を投げるシーン、長女(ペ・ドゥナ)が洋弓を引くシーン。それぞれが観客の期待を見事に裏切り、観る者を飽きさせない仕組みになっている。またそれが妙に笑えてしまうのもポン・ジュノ特有の「味」だろう。
怪獣映画の肝であるクリーチャーの造形について。
個人的には悪くないと思う。75点くらいあげてもいい(笑)。
それよりも僕は生態設定が面白いと思った。
人間を食べるという設定は映画のお約束として黙認せざるを得ないが、排泄物の見せ方が効果的で面白かった。観客に恐怖感を与えるという意味でも。
結末については賛否両論あるようだ。
しかし、僕はこれでいいと思う。
さらにどんなシーンでもってエンドマークを出すのかと観ている途中からハラハラしたが、今回もポン・ジュノのセンスに感嘆せずにはいられなかった。
観客に余韻を促すラストカットは前作同様、ここでも素晴らしい。
ポン・ジュノの才能に嫉妬する怪獣映画の傑作。
この作品をネタに、kenさんと呑みたかったんですよ~
劇場で見て頂いてカンシャします
呑みましょう!
今の所、本年度NO.1の作品です
モチロン、ぺ・ドゥナちゃんが出ていなくてもです(笑)
by 魚河岸おじさん (2006-09-11 16:50)
この映画はいい酒の肴になりそうですね(笑)。
ぜひ呑みましょう!
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-09-11 23:20)
kenさんのおっしゃるように、人間ドラマなのが良さですね。私はたぶん軍隊が戦う映画だったら観ませんでした。小さな家族が立ち向かう筋書きだと聞いて、面白そうだなと興味を持ったのでした。
観てみて、面白かった!です。満足しました。TBさせてください。
by satoco (2007-07-30 10:30)
哀しいかな、この作品の日本での評価は低いです。
と、いうよりも観た人の数が、少ないんだと思いますけど。
もっともっと評価されていい、作品だと思うんですけどねえ。
残念です。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-07-30 10:56)