流れる [2006年 レビュー]
「流れる」(1956年・日本) 監督:成瀬巳喜男 原作:幸田文 脚本:田中澄江、井手俊郎
これは当代きってのスター女優が「これでもか、これでもか!」と登場する東宝のお家芸のような映画です。
田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、中北千枝子、杉村春子、岡田茉莉子、栗島すみ子…。
僕は「まあ次から次にぞろぞろ出てくるなあ」と思いながら観ていたんだけど、途中ではたとあることに気がついた。
「これだけの女優が揃いながらドラマがまったくくどくない」
僕が男だからでしょうか、女優だらけの映画って妙に“お腹一杯”になっちゃうんですよ。
でもこの作品に限ってそうならなかったのは「キャラクターが全員立っていた」からだと思います。
ふとフランソワ・オゾンの「8人の女たち」を思い出しました。
この作品のキャラクターはビジュアル的な差別化は図られていたと思います。世代も人種も職業も適度にバラつきを持たせてあって、まずまず面白かった。なのに僕の中に「くどい」という印象が残っているのは、人格の作りこみが完璧じゃなかったからだろうと思います。判りやすく言うと、「ところどころゆるいセリフがあった」ということ。
大勢の俳優が登場する作品では、誰が言ってもいいセリフを特定の誰かに言わせてしまうと、そのキャラクターの個性は失われてしまいます。
その点「流れる」の登場人物たちはひとりひとりの個性が立っていて、セリフの内容にも迷いが無い。それどころかセリフがキャラクターの枠からはみ出すことなく、目をつぶって聴いても登場人物を見失わずドラマが楽しめるほどでした。これは原作と脚本がいかに優れているかの証です。
とは言っても、やはり成瀬の演出手腕も恐るべし。
女性の心理描写にかけては小津も黒澤も足下に及ばず。名だたる女優の名演技を引き出す才能は脅威の一言。
成瀬作品がなぜ女性に人気なのか。この1本で分かったような気がします。
おおおー気に入ってもらえてよかった。
今は無き並木座で確かこれをみたような気がします。最後の栗島すみ子に驚き。原作もよかったし、その原作と女優陣を最大限に生かし切った成瀬、おそるべし。
by 瑠璃子 (2006-10-19 23:00)
成瀬に出会えて良かった~と最近思います。
ホント「恐るべし」です。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-10-20 00:09)