花よりもなほ [2007年 ベスト20]
「花よりもなほ」(2006年・日本) 原案・脚本・監督:是枝裕和
岡田准一がイイ。
V6主演の映画「ハードラックヒーロー」と「ホールドアップダウン」を観たとき、岡田准一だけが飛び抜けた存在感を放っていたので、(クドカンの脚本じゃない)主演映画をいつか観てみたいと思っていたのだけど、是枝監督の新作はまさに“岡田准一の魅力”に溢れた作品だった。
比べちゃ悪いんだけど、本作も岡田准一も「武士の一分」と「木村拓哉」ほど肩に力が入っていないのがいい。そう言えば、「武士の一分」がまさしく“仇討ちを行う”のに対して、「花よりもなほ」は“仇討ち以外の道を模索する”というストーリーであるところも面白い。個人的には後者の展開が好きだ。
閑話休題。
時は元禄15年。「生類憐みの令」で有名な5代将軍・綱吉の時代。いささか平和ボケした江戸の下町を舞台に物語が始まる。
物語の縦軸は“宗左”こと青木宗左衛門(岡田准一)が果たす仇討ちで、横軸には宗左が身を置く貧乏長屋の人々との交流が描かれる。
面白いのはこの長屋に君主・浅野内匠頭の仇討ちを果たそうとする赤穂の侍が潜んでいることだ。是枝監督は“赤穂の志士”と“宗左”を対比することで、侍にとって“戦のない時代”が如何に“生き難い時代”だったかを観客に教え、当時は侍が“人として生きる道を模索していた時代”でもあったことを訴える。しかしそこには現代的な考え方も織り込まれていて、先に書いたとおり仇討ちそのものを否定しようとする姿勢も見え隠れする。
この作品最大のテーマは「復讐が生むものは恨みと憎しみだけであって、復讐の連鎖が続く限り、人間は決して成長しない」という現代社会に対する警鐘である。その証拠に日本人が大好きな「赤穂浪士」を是枝監督は「寝込みの爺さんを大勢で襲うのはいかがなものか」と茶化し、「赤穂浪士」に対する日本人のイメージを変えてみせようという密かな企みが見てとれる。素晴らしい。
この作品のもう一つのテーマは「父から息子へ繫ぐもの」。
「仇討ちを果たさん!」とする赤穂の侍、寺坂吉右衛門(寺島進)と、「仇討ちをどうしよう?」と悩んでいる宗左が碁盤を挟んで向き合うシーン。宗左は寺坂と話すうち、とても大切なことに気が付いて(ネタバレ自主規制)胸を熱くする。ここでは不覚にも泣きました。「自分が父親から受け継いだものは何だろう?」。映画の後でこんなことをじっくり考えるのも悪くないと思います。
残念なのは、赤穂の志士の描写が弱いことと、藩が仇討ちを奨励していたという背景が伝わり難いこと。この2点を除いてはなかなかの出来栄えだったと思います。
比べちゃ悪いけど「武士の一分」より全然面白かった(笑)。
はじめまして。たぶんこちらに足跡を残すのは今までなかったように思います(以前から記事は読ませてもらっていましたが・・・失礼しました)。
岡田くんの魅力もさることながらこの作品のキャラクターのよさはあちこちにあるんですが(國村隼さんとか、ああいう役が似合いすぎです)、寺島進氏とのやりとりは最高でしたね。ああいうところが盛り上げどころではないことがこの作品を好きな理由のひとつかもしれません。
by cs (2007-02-12 15:39)
csさん、初コメントありがとうございます。
ストーリー展開は“ベタなぎ”と言ってもいいほど穏やかなんですが
そこがまたいいなと思います。平和な江戸の空気が伝わってきて。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-02-12 22:43)
現代における人情噺の可能性に挑戦した、非常に良作だと思います。
最近の映画では一番好きです。
by オジャン (2007-02-13 09:47)
人情噺、確かにそうですね。
根っからの悪人が出てこない映画ってとても好きです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-02-13 15:54)
kenさん、こんにちわ。
木村拓哉目当てに「武士の一分」を見るなら、岡田准一目当てに「花よりもなほ」を見た方がいい! って思いました。
長屋の面々(キャストがまたなんとも言えず)が、ステキでした~!
by Catcat44 (2007-02-15 17:10)
キムタク目当てに「武士の一分」見るより…って言い得て妙ですねえ(笑)。
僕もまさしくそう思います。nice!ありがとうございます。
by ken (2007-02-16 00:49)
こんにちは。
kenさんはやっぱり細かくご覧になっていますね。
それと、「武士の一分」よりよかったというのが、へえと思ってしまいました。
別にキムタクファンでもないのですが、「花よりもなほ」と比較するためにも、
一応見ておこうかなと・・・。
TBさせていただきます。
by coco030705 (2007-06-02 09:31)
武士の一分は、キムタク映画というよりも、やはり藤沢周平の映画です。
あの映画は藤沢文学だから果たし合いはされた。
けれど、是枝映画は21世紀の映画ですから、果たし合いはされなかった。
僕はそう解釈しています。
見比べてみるのはおもしろいと思いますよ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-06-03 13:11)