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選挙 [2007年 ベスト20]

選挙」(2006年・日本) 監督・撮影・編集:想田和弘

 時は2005年。郵政民営化を旗印に政治改革を推し進める小泉劇場真っ盛りの年。
 東京で切手コイン商を営む40歳の男性が、突如自民党の落下傘候補となって川崎市議会補欠選挙に出馬することになった。
 男の名前は山内和彦。
 これは「電柱にも頭を下げろ!」とまで言われる壮絶な“どぶ板選挙”に密着した
ドキュメンタリー。

 珍しいことに本編にはナレーションもテロップも一切挿入されていない。そのせいで説明不足な感じは否めず、僕は「映画としての完成度は高くない」と思った。
 しかし監督はこれを「ドキュメンタリーにはメッセージ性が必要とする固定概念に抵抗するための手法」と言い、本作については「観察映画」と表現した。つまり観客はこの映画を観察して何かを感じ、考え、解釈すれば良いということらしい。この言い訳はともかく、「足りないものは足りない」と僕は思うのだけれど、内容自体はとびっきり面白かった。
 なんといっても、戦後のほとんどを支配してきた自民党の政治とはどういうものか、その一端を確実に目撃することが出来るからだ。そして「選挙で勝つ」と言うことはどういうことかを知ることになる。
 例えば「造反」
 この言葉は映画を観る前と後では大きく印象を変える。当時、郵政民営化法案に反対した造反議員に対する自民党の処遇が、正当なのか不当なのか僕にはまったく分からなかった。けれど本作を観たあとでは「正当」と言わざるを得ないほど政治の世界はタテ社会であることがよく分かる。つまり造反とは「義理を欠いた行為」以外の何物でもなく、ヤクザの世界ならエンコ詰めたくらいじゃ済まないハナシだったのだ。

 妻の存在。
 政治の世界に「妻」という言葉は存在しないらしい。紹介するときは「ワタシの家内です」と言い、自己紹介のときは「山内和彦の家内でございます」と言う。その理由は劇中の人は誰も知らなかった。知らないところがまた面白い。これは「どぶ板選挙」が自民党内でマニュアル化されている証でもあるからだ。
 そんな中に突然放り込まれた“家内”さゆりさんの様子もまた面白い。
 政治の世界に足を踏み入れ、次第に熱の上がっていく夫の傍で「生活者」としての姿勢を崩せない妻。完全なる男社会に対して時に嫌悪感を抱き、選挙でメシを食う“選挙屋”連中の言葉に怒りを覚え、現実問題として負けたときの心配をする。本編中では一番観客に近いスタンスの彼女の存在が、観客には縁遠い「選挙戦」を身近に感じさせてくれる。

 繰り返すけれど映像作品としてのクオリティは高くない。しかし「観察映画」というスタイルは成功していると思う。僕もまんまとその術中にはまったようだ。
 個人的には、「神輿」を担がれた男が、票獲得のために「御神輿」を担ぐシーンが意味深でとても好きだ。
 
 この作品は「主人公が魅力的」という圧倒的なアドバンテージを持ち、しかも誰もが知る選挙の誰も観たことのない舞台裏でカメラを回せた段階で「勝ったも同然」だったかも知れない。
 「A」以来の傑作ドキュメンタリー。

選挙

選挙

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • メディア: DVD

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コメント 8

snorita

なんで「家内」?主人、に対する言葉ですよね?内助の功ってやつだからですか?考えたこともなかったです。これおもしろそうですね、観たいけど・・・。
by snorita (2007-05-17 16:46) 

ken

丁寧に「お」をつけると「おっかない」
というくだらないギャグを自民党の先生が乱発していました(笑)。
まったく政治家ってヤツはろくでもないです。
by ken (2007-05-17 17:02) 

芸夢人

 どうもお久しぶりです。
 先月、議員選挙があったんですがもう誰に入れても同じと
いう感じで適当に書いてますね。ある時は。

 ある意味、自民党選挙のドキュメンタリーなサイレント
映画ですかね?
 素直に見たいと思いましたね。
by 芸夢人 (2007-05-29 14:43) 

ken

これは、今まで決して表に出ることの無かった選挙のウラが見えます。
観る価値アリですよ。
by ken (2007-05-29 15:10) 

芸夢人

 どうもお久しぶりでした。
最近DVDをやっと購入して鑑賞しました。

 後援会のオバチャンの生々しいハナシとか、
山さんや他の議員のホンネが面白かったです。

 山さんの奥さんが憤慨する気持ちもわかる気がしました。
やっぱ田舎ってなぁ~という感じで・・。
 という俺も田舎ですが。


by 芸夢人 (2008-07-25 14:39) 

ken

田舎はそうかも知れませんが、都市部はどうなんでしょうね?
都市部で人気の民主党といっても、もともとは自民党ですしね。

by ken (2008-07-25 20:15) 

nary

はじめまして。
いつもkenさんのレビューを楽しみに拝見させていただいています。
「選挙」kenさんが言われるようにとても面白かったです。
あまりにもリアルな会話が次々に飛び出すので、最初は創作なのか?
と疑ってしまいました。候補者、奥さん、応援の議員、事務所の党員
よくこのようなリアルで楽しい?会話シーンが撮影できる
ものだと、私はそのことにとても驚きました。
想田監督のドキュメンタリーのファンになってしまいそうです。
by nary (2009-11-08 15:06) 

ken

naryさん、ようこそ。
想田監督は今年「精神」という作品を発表しました。
これがまたキッツイ作品らしく、噂を聞いて腰が引けたまま、
今日に至ってます。よかったら是非ご覧になってみて下さい。
なんだか、「代わりに行って来い!」みたいでスイマセンw
by ken (2009-11-10 13:15) 

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