夕凪の街 桜の国 [2007年 レビュー]
「夕凪の街 桜の国」(2007年・日本) 監督:佐々部清 原作:こうの史代
原作は「Weekly漫画アクション」に掲載された読みきり作品だったと聞いて、先に読んでみた。
原爆が落とされて10年後の広島を舞台にとある女性被爆者の愛と死を綴った「夕凪の街」。
かたや現代。被爆者を母に持つ娘が父親の奇妙な行動を追いかけるうち、自らのルーツを垣間見ることになる「桜の国」。
本編はこの二部構成になっている。
「夕凪の街」は実によく練られたストーリーで、特にマンガというメディアの特性を活かしたラスト直前のシーンが胸を打つ。
この感動は原爆に対する怒りをストレートにぶつけない作者の柔らかな筆致がもたらすもので、主人公・皆実(みなみ)の性格付けもすべては作者のペン使いが表現していたように思う。
ある意味、中沢啓次氏の名作「はだしのゲン」の対極にある作品と言えるだろう。
「桜の国」は、「夕凪の街」を伏線としたドラマを現代で展開させる。
エピソードは少々強引だが、これはマンガだから許される範囲。「ゴッドファーザーPARTⅡ」のような二世代を行き来するエピソードの二段積みが面白い。
被爆二世が主人公だけに、原爆に対する怒りは「夕凪の街」よりもさらに希薄だ。
しかし、21世紀の今も原爆の影響を受けながら生きている人たちがいる、という事実は“怒り”を表現する以上に、原爆の恐ろしさをアピールすることに成功している。
そして、これはマンガだからこそ成し得た仕事と言っても過言ではない。
問題は映画である。
残念ながら原作に甘えた(なんのひねりもない)脚本になっているのがすでに大きな減点。
マンガなら許されても実写では許されないことはゴマンある。特に映画は生身の人間が演じる以上、リアリティを失ってはドラマのクオリティは保てないのだ。
一番気になったのは「桜の国」編。定年を迎えた父(堺正章)が、夕食のあと何も言わずに東京の家を出て、そのまま広島行きの夜行バスに乗り込む設定。しかもサンダル履きで尾行に出た娘の七波(田中麗奈)は財布すら持っていなかったところ、17年ぶりにバッタリあった友人に金を借り、しかも広島まで付き合ってもらうという無茶な展開をする。
確かに原作通りなのだが、ここがマンガなら許されても実写ドラマでは許されないポイントである。
先に書いた通り「桜の国」は二世代のエピソードを二段積みにするという秀逸な構造だけを残し、原作を大きく外れても納得のいく設定に変更すべきだったと思う。
もうひとつ残念なのは全体のタッチ。
悲しいかな、どうしても教育映画にしか観えないのだ。最大の敗因は予算だと思われるが、限られた撮影日数のおかげでカット数は極端に少なく、照明も万全とは言えず、キャスティングにも影響を及ぼしたのではないか。
田中麗奈、麻生久美子、藤村志保さんの3人は良かった。
しかし、「夕凪の街」編の重要な登場人物、打越(吉沢悠)と少年時代の旭(伊崎克則)の2人は、ミスキャストだったと思う。
僕は「ヒロシマナガサキ」を観たあとだっただけに、フィクションと言えど観るに耐えうる良いストーリーだったと思う。これが映画として十分なクオリティを保っていてくれたら、多くの子供たちに薦められたのに。僕もそうだったけど子供たちは、「大人が子供に見せるために作った映画」に敏感なのだ。反抗期にそんなものを見てしまうと、その題材そのものを拒絶してしまうことすらある。これがそうならないといいのだけれど。
原作は「Weekly漫画アクション」に掲載された読みきり作品だったと聞いて、先に読んでみた。
原爆が落とされて10年後の広島を舞台にとある女性被爆者の愛と死を綴った「夕凪の街」。
かたや現代。被爆者を母に持つ娘が父親の奇妙な行動を追いかけるうち、自らのルーツを垣間見ることになる「桜の国」。
本編はこの二部構成になっている。
「夕凪の街」は実によく練られたストーリーで、特にマンガというメディアの特性を活かしたラスト直前のシーンが胸を打つ。
この感動は原爆に対する怒りをストレートにぶつけない作者の柔らかな筆致がもたらすもので、主人公・皆実(みなみ)の性格付けもすべては作者のペン使いが表現していたように思う。
ある意味、中沢啓次氏の名作「はだしのゲン」の対極にある作品と言えるだろう。
「桜の国」は、「夕凪の街」を伏線としたドラマを現代で展開させる。
エピソードは少々強引だが、これはマンガだから許される範囲。「ゴッドファーザーPARTⅡ」のような二世代を行き来するエピソードの二段積みが面白い。
被爆二世が主人公だけに、原爆に対する怒りは「夕凪の街」よりもさらに希薄だ。
しかし、21世紀の今も原爆の影響を受けながら生きている人たちがいる、という事実は“怒り”を表現する以上に、原爆の恐ろしさをアピールすることに成功している。
そして、これはマンガだからこそ成し得た仕事と言っても過言ではない。
問題は映画である。
残念ながら原作に甘えた(なんのひねりもない)脚本になっているのがすでに大きな減点。
マンガなら許されても実写では許されないことはゴマンある。特に映画は生身の人間が演じる以上、リアリティを失ってはドラマのクオリティは保てないのだ。
一番気になったのは「桜の国」編。定年を迎えた父(堺正章)が、夕食のあと何も言わずに東京の家を出て、そのまま広島行きの夜行バスに乗り込む設定。しかもサンダル履きで尾行に出た娘の七波(田中麗奈)は財布すら持っていなかったところ、17年ぶりにバッタリあった友人に金を借り、しかも広島まで付き合ってもらうという無茶な展開をする。
確かに原作通りなのだが、ここがマンガなら許されても実写ドラマでは許されないポイントである。
先に書いた通り「桜の国」は二世代のエピソードを二段積みにするという秀逸な構造だけを残し、原作を大きく外れても納得のいく設定に変更すべきだったと思う。
もうひとつ残念なのは全体のタッチ。
悲しいかな、どうしても教育映画にしか観えないのだ。最大の敗因は予算だと思われるが、限られた撮影日数のおかげでカット数は極端に少なく、照明も万全とは言えず、キャスティングにも影響を及ぼしたのではないか。
田中麗奈、麻生久美子、藤村志保さんの3人は良かった。
しかし、「夕凪の街」編の重要な登場人物、打越(吉沢悠)と少年時代の旭(伊崎克則)の2人は、ミスキャストだったと思う。
僕は「ヒロシマナガサキ」を観たあとだっただけに、フィクションと言えど観るに耐えうる良いストーリーだったと思う。これが映画として十分なクオリティを保っていてくれたら、多くの子供たちに薦められたのに。僕もそうだったけど子供たちは、「大人が子供に見せるために作った映画」に敏感なのだ。反抗期にそんなものを見てしまうと、その題材そのものを拒絶してしまうことすらある。これがそうならないといいのだけれど。
一瞬ムツゴロウさんに見えた・・・私だけ~・・・
by **feeling** (2007-06-26 21:28)
言われてみると、…見えますなあ(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-06-26 23:04)
えー!!
映画ダメなの??
ショック・・・(号泣)
原作漫画を読んで感動した口です。
いろいろな国のヒトにも読んだ欲しいと思った作品です。
そっかぁ・・・だめなのかぁ・・・
映画では無くて原作漫画の方ですがTBさせて下さい。
by メイ (2007-07-01 00:35)
原作はいいですよねえ。
映画はほとんど原作のまんまですから、ま、ちょっとごらんになって
観てください!(汗)
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-07-01 00:42)
こんばんは。
kenさん的には吉沢悠さんは合っていませんでしたか(T_T)
わたし的には、あのやわらかい雰囲気が皆実を包んでくれるようで好きでした(^^ゞ
映画を観た時に“死ねばいいと誰かに思われたこと。本当にそう思われても仕方の無い人間になってしまったこと。”の台詞がぴんと来なかったので、すぐにコミックを買ってしまいました。
映画もいいと思ったのですけど、コミックは本当にすごかったです~
by non_0101 (2007-07-18 00:25)
原作は素晴らしいです。
吉沢悠さんは、あまりに現代的なヘアメイクだったのが残念でした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-07-18 10:47)
こんばんは、nice!&コメント&TB、ありがとうございます m(_ _)m
配役についてワタシは伊崎くんがめがねをかけて30代の芝居をしていた
ときにちと吹いてしまいました ( ̄▽ ̄;
その前の学生服がはまりすぎていたのでなおのことなんですけど、もう彼
三十路だったとは……。
それと田中麗奈さんは最初、「えーっ!」と思っちゃったんですけど、
後から原作読んでなんか納得。
とにかく麻生久美子さんは良かったですね (≧▽≦)b
by 和-nagomi (2007-08-07 22:35)
こんばんは!
nice!&コメント&TB有難うございます。
同感です。ヒロシマ ナガサキも見たいと思っている作品です。
マンガも是非読みたいです。
by NOLITA (2007-08-07 23:20)
>和-nagomiさん
童顔って罪ですね(笑)。
田中麗奈と麻生久美子。
この2人をキャスティングできたのは原作の持つパワーだったと思います。
nice!ありがとうございます。
>NOLITAさん
「ヒロシマナガサキ」もぜひご覧になって、思いを新たにしてください!
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-08-08 00:48)
kenさん、お久しぶりです。
福岡では地元の女優田中麗奈が出ているにも拘らず公開日がなぜか8月11日と、7月21日の広島、7月28日の東京よりなぜか遅くてヤキモキしました。なのでその直前に二夜連続で放送された「はだしのゲン」の後で視聴しましたが、たしかに作風は「はだしのゲン」と対極な描かれ方でしたね。とてもきれいに仕上がっていましたが、現代版はやはり田中麗奈と中越典子の「福岡&佐賀」コンビの演技が物足りないように思えました。堺正章もせっかく出演しているのに存在感が薄い・・・。
蛇足ながら高校野球は残念でしたね。私は広陵の方が絶対勝つと思っていましたが判定ひとつで狂ってしまうのだから。映画に関してもしっかりと判定しないと(苦笑)。私も福岡に住んでいるだけあって、佐賀も広島も縁者がいて、島田洋七や緒方孝市と違った意味で、複雑な心境です。
by カープファンのスカーレット (2007-08-23 23:38)
スカーレットさん、お久しぶりです。
高校野球で思い出しましたが、確かに麗奈×典子は
福岡&佐賀コンビでしたね(笑)。ワイドショーもたくさん出てたなあ。
判定にはいろいろと声もあるようですが、僕は公立高校が優勝できて
良かったと思います。
by ken (2007-08-24 00:09)
こんばんは。
桜の国編の始まり方は原作のマンガに忠実なのですね。
私は関東の人ではないので、桜の国編の舞台が東京であるということが最後の方までわかりませんでした。(広島から東京行きに乗ったところでわかったのです)
舞台は「広島」と、 現代に戻った桜の国編では旭の疎開先だった「茨城」だと思ったので、原作を全く読んでいない人にもわかりやすくしてほしかったですね。(私が鈍いだけなのかもですが・・・)
by ちゅうちゃん (2007-09-26 00:11)
>桜の国編の舞台が東京であるということが最後の方までわかりませんでした。
これは僕も昔、田舎に住んでいることに何度も思ったことでした。
でも今となってはすっかりそんなことも考えずにいたので、ちょっと反省。
…といっても僕が作った映画じゃないけど(笑)。
by ken (2007-09-26 01:27)