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ツイン・ピークス(1990~1991年) [2010年 レビュー]

原題:TWIN PEAKS  監督:デヴィッド・リンチ、マーク・フロストほか

 諸般の事情により自宅で映画を観るのが難しい環境になった。
 けれど僕のストレス解消の良薬ある「映画鑑賞」を止めるわけにもいかず、そこで考えたのが入浴時間の有効活用だった。
 幸いDVD再生が出来る防水テレビは持っていた。ただ平均2時間の映画を一気に観るのは辛い。せめてTVドラマサイズならと、ストックしてあるDVDの棚を見ながら一考。
 「前略おふくろ様」、「北の国から」、「刑事コロンボ」、「キャプテン・スカーレット」と見渡して、最後に視界に入ったのが「ツイン・ピークス」だった。
 リリースされると聞いた瞬間、迷わずAmazonで予約し購入したけれど、3年前に途中まで観てそれっきりだったリンチの傑作シリーズ。パイロット版さえしのげば、あとは毎回60分弱で行けるだろうと踏んで、このシリーズ完走を今日から目指すのである。
 パイロット版を含むと全30話。
 先が長いので、観るたびに短いレビューを書いて随時更新しようと思う。

 ※年をまたいでしまったので加筆。
 忙しさにかまけて、ついに2年越しの鑑賞になってしまった。そうこうするうちにwowowでも再放送が始まり、OAに負けないよう先を急ぐことにする。


 【パイロット・序章オリジナル版/監督:デヴィッド・リンチ】
 記憶にあるオープニングタイトルと若干違うことに気が付く。
 調べてみると確かにワンカットずつの尺が違っていたりする。意外な自分の記憶力に驚きつつ、タイトル明けのファーストカットにまたしても驚く。長く続くツイン・ピークスシリーズの最初の登場人物は製材所のオーナー、ジョスリン・“ジョシー”・パッカード(ジョアン・チェン)だった。
 「なぜジョシーが?」
 リンチの思惑を図ろうとした側から、さらに驚くことが。実はファーストカットからすでに不穏な旋律の「LAURA PALMER'S THEME」が流れていたのだ。そしてカメラは一切寄り道することなく観客を“事の発端”へと導いていく。まるで前戯なしのセックス。しかし抗えない。観客は最初から“そのつもり”でいるからだ。
 改めて観てみると、「パイロット版」としての要素がかなり強い。ABCテレビからシリーズ制作の資金を得るべく、とにかくエピソードは“伏線”だらけで、このあとどう収束させるつもりでいるのか、誰もが「やれるものならやってみろ」と言いたくなる作りになっている。この辺りはリンチとフロストのしたたかな計算が、そのまま脚本に反映されたのだろう。否応なしに続きが見たくなるラストシーンは圧巻。僕ももう後戻りできない(笑)。

 【第1章/監督:デュウェイン・ダナム】
 グレート・ノーザン・ホテルを望む滝の美しいショットから始まる。
 ツインピークスのロケーションは時折息を呑むほど美しいが、住人たちは息を潜めたくなるほど怪しい。おそらく人と自然の調和が全く取れていないせいで、視聴者は無意識のうちに“座りの悪さ”を感じるのだろう。僕たちが「ツイン・ピークス」にそわそわしてしまうのは、不穏な音楽のせいだけは無かったということだ。
 登場人物たちの個性もいきなり際立って来た。
 クーパー捜査官(カイル・マクラクラン)は究極の甘党ぶりを見せつけ、オードリー(シェリリン・フェン)はクーパーに対してさっそく小悪魔の本領発揮、保安官のハリー(マイケル・オントーキン)はドーナツの頬張りかたで実直な凡人であることアピールした。
 リンチ&フロストの恐ろしいところは、第1章でもさらに「伏線」を引いて回るところだ。その極めつけはキラー・ボブ。まさか第1章で登場していたとは…。

 【第2章/監督:デヴィッド・リンチ】
 この回での重要なキーワードは「夢」
 ローラが死の当日の日記に残した一文、「“J”に会うのが心配」の“J”とは誰なのか。クーパーはその謎を解くべく、夢で教わったと言う実験を始める。戸外で18.44メートル離れたところにガラス瓶を置き、頭文字が“J”の名前を呟きながら、ガラス瓶めがけて石を投げると言うもの。これはクーパー曰く「演繹法的テクニック」で、心と体を使って直感を呼び覚ます方法なのだそうだ。この怪しい実験を入口にして「ツイン・ピークス」は精神世界へと突入して行く。
 もうひとつの重要な「夢」は赤い部屋(レッドルーム)。シリーズ後半の鍵となるシークエンスという印象が強かったけれど、早くも第2章で登場していて驚く。
 ここで年老いたクーパーがローラそっくりの女性に耳打ちをされる。夢から覚めたクーパーは「犯人が分かった!」とハリーに電話を掛けるのだが…。
 オープニング。ホーン家のディナーシーンからリンチの奇妙な演出が炸裂していて楽しい。
 新たな“J”、国境を越えたカジノ「片目のジャック」もこの回で登場する。

 【第3章/監督:ティナ・ラズボーン】
 グレート・ノーザン・ホテルにクーパーを訪ねてくるハリーとルーシー(なぜルーシーも?)。ハリーが「(犯人は)誰だ?」と聞くと、クーパーは悪びれること無く「覚えてない」と言う。
 実はこのシーン。改めて観てみると、とても重要なシーンだったことが分かる。フロスト&リンチはここで「ドラマはローラ殺しの犯人探しをするものではない」と暗に宣言していたのだ。では何を見せるドラマなのか。それは「ツインピークスという田舎町に潜む狂気」である。
 第3章でようやくローラ・パーマーの葬儀が行われる。ここは主要登場人物が一同に介するという意味でもレアなシーンだが、一方では「ツインピークスの縮図」にもなっていて、初心者にも分かり易い設定がいい。
 ここで新たな存在も登場する。
 まず森の奥に潜む邪悪な存在と向き合う自警団“ブックハウス・ボーイス”。第2章で保安官補のホークとガソリンスタンドを経営するエドが、人差し指で目じりをなぞる仕草でコンタクトをとるアレだ。
 そしてローラと瓜二つの従兄弟マデリーン。シェリル・リーの一人二役である。
 回を重ねるごとに登場人物たちの怪しい関係がつまびらかになり、いよいよ「ツイン・ピークス」ワールドの入口に立った気分。

 【第4章/監督:ティム・ハンター】
 ローラの母、セーラの証言を元にキラー・ボブの似顔絵が作られ、さらに「割れたネックレス」の幻を見たとの話が出て来る。手袋をした手が石を持ち上げ、下からネックレスを取り出す幻を見たと。これは序章のエンディングで描かれたシーンを指している。
 第4章ではここまでに引いて来た伏線を使って、さらなる謎の存在を明らかにする。例えば、ネックレスの話を聞いていたドナはジェームズと共に割れたネックレスを埋めた現場に戻ってみるが、驚くことにネックレスは消えている。しかもその片割れを精神科医のジャコビーが持っていることが第1章のエンディングで明らかになっている。
 「ツイン・ピークス」は点と点が一本の線で繋がっても、それが「ヒント」なのか「ミスリード」なのか分からないところが、面白さの要因のひとつなのだろう。これは間違いなくテレビシリーズだからこそ出来る“味”である。
 新しく登場したのがダブルRダイナーの女主人ノーマの夫。道端で寝ていたホームレスを車で轢き服役していたハンクが釈放されて出て来ようとしている。この役者が、知る人ぞ知る元F1ドライバーのゲルハルト・ベルガーにそっくりで、なんだか懐かしいやら可笑しいやらで、彼だけまともに見られずに困っている。
 第4章はここまでの中では比較的おとなしめの演出。嵐の前の静けさか。

 【第5章/監督:レスリー・リンカ・グラッター】
 天候はいつも曇天のイメージが強いツインピークスに、美しい紅葉シーンが登場する。
 序章からここまで、住民たちのただならぬ関係を描いてきた本編だが、ノーマの夫が釈放されたことによって住民の紹介は一通り終わったことになる。しかし相関図の完成とはならないところが「ツイン・ピークス」の面白いところだ。
 一番の驚きはパッカード製材所の土地を狙ってキャサリンと共謀し、放火を企てていたベンジャミンが、その裏でジョシーとも何らかの結託をしようとしているところ。今回は思わせぶりなワンカットがあっただけで、その真相は次回以降に続くようだ。
 思わせぶりと言えばラストシーン。かねてからクーパーに興味津々だったオードリーが、ついにクーパーのベッドに潜り込み、帰りを待っていた。男の視聴者はその多くが「据え膳食わぬは男の恥」と思ったに違いない(笑)。さてクーパーはどうするのか。これも次週のお楽しみだ。
 この回でどうしても気になったのは、ジャコビーのカウンセリングによって引き出されたボビーの告白。自分はローラのせいでヤクの売人になったと泣きながら明かすのだが、ボビー役のデーナ・アッシュブルックの芝居が下手すぎて、ウソの証言をしているんじゃないかと思わせた。真相はいかに。

 【第6章/監督:キャレブ・デシャネル】
 オードリーファンをやきもきさせた一件は、クーパーの「したいことと、すべきことは別なんだよ」という名言で落着。そりゃそうだ。なんたって全米3大ネットワークの地上波なんだから、FBI捜査官と女子高生の淫行など見せられるワケがない。これが「ツイン・ピンクス」とかってタイトルのAVだったら展開は違っただろうけれど(笑)。ちなみにカミングアウトしておくと、僕はオードリー派。
 ここからジェームズ、ドナ、マデリーンの3人による犯人探しが始まる。その手段の一つとしてマデリーンがローラに変装するのだが、シェリル・リーの演じ分け方が見事。ヘアメイクの力も大きいとは言え、ちゃんとマデリーンがローラに変装しているように見えるところがスゴイ。
 第6章で驚かされるのは、前回ジャック・ルノーの山小屋から連れ帰った九官鳥に、かなり重要なセリフを言わせること。九官鳥の覚えていた言葉で事件が進展するなんて、小学生レベルのミステリーである。しかもその九官鳥をレオが暗殺するから面白い。
 もうひとつはジョシーと仮釈放中のハンクの関係。なぜハンクがジョシーの家にいるのか。相関図はまだまだ完成しない。
 そして我らがオードリーは舌先でチェリーの枝を結ぶ特技を披露して「片目のジャック」に潜入。ああ、ぜひ指名したい(笑)。

 【第7章/監督:マーク・フロスト】
 ここでようやくフロストが登場したと思ったら、第7章はこれまでの伏線を一気に発火させる重要な回だった。というのもパイロット版完成後、ABCから許可された製作許可は第7章までで、この先はオプションだったようだ。となれば続きが観たくなるよう作るのは当然のこと。まさに衝撃のラストが用意されている。
 ではどれほどのことが起きたのか整理しよう。
 ジェームズとドナがジャコビーの家に忍び込み、ローラのネックレスとカセットテープを盗む。
 ジャコビーが何者かに襲われる。
 ローラ殺しの容疑者としてジャック・ルノーが逮捕される。
 レオの放火により製材所が火事になる。
 ハンクが“ある契約”によってジョシーから9万ドルを受け取る。
 ルーシーの妊娠が発覚する。
 ネイディーンが自殺を図る。
 ジェームズのバイクからコカインが発見される。
 鉈でボビーを殺そうとしたレオがハンクに撃たれる。
 リーランドがジャック・ルノーを殺害する。
 …そして衝撃のラストは、「クーパー銃撃さる」。ここまで見せて放送を打ち切ったらABCの株価に影響しただろう(笑)。

 【第8章/監督:デヴィッド・リンチ】
 第7章は1990年5月23日に放送されシーズン1が終了。シーズン2のスタートとなる第8章は同年9月30日の放送だったそうだ。つまりリンチはアメリカ全土に広がった「ツイン・ピークス」フィーバーの中、4ヶ月ぶりに放送する第8章を作った。そこには4ヶ月のブランクで膨らんだ視聴者の期待に応えようとした形跡と、一方4ヶ月のブランクを利用したある変化が見てとれる。
 最大のポイントは“巨人”の登場だ。このオカルト的要素の導入は「ツイン・ピークス」の世界観が理解されてこそ可能なことだった。他にもマデリーンがパーマー家のカーペットに幻影を観たり、細かいことだがリーランドの頭髪が一夜で真っ白になったりする。また視聴者が一番気を揉んだだろうクーパーの安否についても、会話の成り立たない老ホテルマンを登場させるなどして視聴者をイライラさせ、「これが単なる謎解きミステリードラマ」でないことを再度アピールしているのだ。
 もうひとつ驚く変化はドナ役のララ・フリン・ボイルの人相。彼女はこの4ヶ月で高校生には見えないオトナの顔になってしまった。これはクーパー役のカイル・マクラクランとの交際が原因だと思う。その事実を知ったリンチの即興的な演出が、妙に大人びたドナの登場になったんじゃないだろうか。
 さてこの回では、ジャコビーがローラのペンダントを持っていた理由と、エドとネイディーンのなれそめ、ネイディーンのアイパッチの理由、レオとキャサリンの殺害を企んだ首謀者がホーン兄弟であることが分かる。個人的には「片目のジャック」に潜入したオードリーの身が心配。

 【第9章/監督:デヴィッド・リンチ】
 リンチ連投。まだまだ伏線が張られていく。
 冒頭、FBI鑑識員アルバートがクーパーと朝食中に、クーパーの元相棒である捜査官ウィンダム・アールの話を切り出す。引退して精神病院にいたアールが脱走したと。
 前回ドナに何者からか届けられたメッセージ「食事宅配サービスをチェック」。これはローラが生前やっていた、外出がままならない老人へ食事を届けるボランティア。それを引き継いだドナはスミスという名の人物を知る。
 ローラの死後、周囲から浮いた存在になってしまったリーランド。彼がボブの手配イラストを見て、パーク・レイクスにある祖父の別荘の隣に住んでいた男だ、と思い出す。
 病院でこん睡状態のレオ登場。これで製材所火災の日に死んだかもと思わせていたうちの1人は生きていたことが判明する。キャサリンの安否は以前不明。
 極めつけはボビーの父、ガーランド。いつも軍服姿の彼がクーパーに自分の特殊任務を明かす。それが外宇宙の電波のモニター。解読してもほとんどは意味不明だという文字の中に、クーパーが打たれた日に限って突然「フクロウは見かけと違う」という文字と、「クーパー」の文字が。いよいよ宇宙にまで風呂敷を広げてしまった(笑)。
 マデリーンがローラの家でキラー・ボブの幻影を見る。
 そして、片目のジャックから脱出できないオードリーがクーパーに助けを求める電話をかける。しかし途中でブラッキーに切られてしまう。いよいよ絶体絶命!

 【第10章/監督:レスリー・リンカ・グラッター】
 シリーズの3分の1を迎えても、まだまだ新キャラが登場する。
 ハロルド・スミス。ローラが食事配達をしていた顧客の一人。一見聡明な青年に見えるが、何らかの事情で屋外に出ることが出来ず、自宅で洋ランを育てている。
 ホーンズ・デパートの紳士服売り場に勤めるトリメイン。保安官補のアンディの恋敵で、ルーシーによると妊娠の原因を作った男。紳士服のモデルのような風体が可笑しい。
 ジャン・ルノー。殺されたジャック・ルノーの兄。ブラッキーと結託してオードリーをシャブ漬けにし(やめてー!)、ホーンから身代金を巻き上げようと企む。
 そして今回もキラー・ボブの手配書が新たな展開を生む。
 保安官事務所に靴を売りに来ていた片腕の男・フィリップは、キラー・ボブの手配書を見てめまいを起こす。ハリーに「トイレでクスリを飲む」と断ったフィリップはやがて失踪。クーパーはトイレで注射器を発見し、巨人から聞いた言葉を思い出す。「薬品なしで男は指さす」
 精神科医のジャコビーがクーパーの催眠術を受け、ジャック・ルノー殺しの犯人探しに協力する。ジャコビーの潜在意識に眠っていた顔はローラの父、リーランドだった。
 ジェームズとドナの関係も危ういものに。ジェームズとマデリーンの関係を怪しみ、行き場を失ったドナはハロルドの家を訪ねる。ところがそこで「this is the diary of Laura Palmer」と書かれたノートを発見してしまう…。

 【第11章/監督:トッド・ホランド】
 このドラマで最初の逮捕者となるのは、皮肉なことにローラの父親のリーランドだった。
 保安官事務所でジャック・ルノーを殺したのかとハリーに問い詰められたリーランドはこう答える。
 「娘が殺された。こんな絶望感が君に分かるだろうか。体の奥深くで全細胞が悲鳴を上げるんだ。聞こえるのはその悲鳴だけ。そうだ。私があの男を殺した」
 ここでのリーランド役、レイ・ワイズの芝居が素晴らしい。第1章以降、奇怪な行動ばかり演じてきたけれど、それが本当に怪しく見えるのだから、やはりこの人は巧い役者なのだ。
 さて新たな展開。
 ジャン・ルノーがベンジャミン・ホーンに接触。娘の命と交換にホーンのビジネス・パートナーのポジションと、現金12万5千ドル(安っ!)をクーパーに運ばせろと条件を出す。
 シアトルに行っていたジョシーが帰宅。そこでキャスリンの死亡が伝えられるが、遺体が出て来ていないことがピートの口から明らかになる。
 ここ数回、グレート・ノーザンでクーパーたちの様子を伺っていた謎の東洋人がいよいよ動き始める。この男はジョシーからピートへ「いとこのジョナサン」と紹介されるが、もちろんいとこを頼って遊びに来たわけではなく、製材所の土地の売却についてジョシーと会話をする。その流れでジョシーは「ハンクが厄介」と漏らすと、いとこのジョナサンは深夜のダブルRダイナーでハンクを襲うのだった。

 【第12章/監督:グレーム・クリフォード】
 この章では2つの“奪取”が描かれる。
 まずクーパーとハリーによるオードリーの奪還。
 これは傷の痛みを和らげるため、毎朝15分多くヨガをやり始めたクーパーが部屋で逆立ちをしたとき、ベッドの下に落ちていたオードリーからの手紙を第6章以来ようやく発見したことで、オードリーの居場所が明らかになるという寸法。
 そしてもうひとつはドナとマデリーンによる「ローラの日記」の横奪。
 FBIに押収されたのとは違う、2冊目の「ローラの日記」の中に事件の真相が隠れているのでは、と睨んだドナがオードリーと同じく身体を張って奪おうとするのだが、寸でのところで失敗をしてしまう。
 さてこの回にクーパーとスターンウッド判事のこんなやりとりがある。
 「Cooper, how long you been here? (いつ町へ?)」
 「Twelve days,sir. (12日前です)」
 この回は12章。つまり「ツイン・ピークス」は1話が1日分に相当しているということらしい。初めて気が付いた。ということはクーパーはまだ撃たれて5日しか経っていないことになる。それでオードリーを担いで逃げるのは大変だと思うのだが(笑)。

【第13章/監督:レスリー・リンカ・グラッター】
 個人的に最も好きなキャラクター、クーパーの上司であるゴードン・コール(デヴィッド・リンチ)が登場。なぜリンチ自身が俳優として登場することになったのか、その経緯は知らないが、ゴードンを難聴という設定にしたのはリンチだろう。ただ声を張り上げるだけでいいなら芝居もラクだ。そのゴードンがクーパーに語った「ピッツバーグのようなことが起きてはならん」とはどういう意味か。
 片目のジャックから救出されたオードリーは父ベンジャミンと対面し、宣戦布告じみた啖呵を切る。はたしてオードリーは父の罪をどう暴いていくのか。
 片腕の男。彼にはマイクという名の“人に宿る霊”がついていて、クーパーの前でその人格を表した。そして「ボブは人間に寄生し、人の恐怖と快楽を食っている」と証言する。また「彼の本当の顔を見ることが出来るのは、神が選んだ者か、呪われた者だ」と。
 ところで第11章から登場したアジア人の投資家タジムラ。実は彼は製材所の火事で死んだと思われていたキャサリンだと暗に教えられる。グレートノーザンに居合わせたピートとのやりとりで観客に気付かせようとしている点が面白い。

【第14章/監督:デヴィッド・リンチ】
 リンチが監督している回は、やはり映像からしてリンチらしさがにじみ出ている。特に視聴者を不安に陥れる演出は巧い。この回での出色は、自宅に戻ると切り出したマデリーンを(ボブに憑かれた)リーランドが襲うというシークエンスだ。
 これまでも何かと奇妙なことが起きてきたパーマー家のリビング。レコードプレイヤーには曲が終わって戻るに戻れないレコード針が所在無げに一定のリズムでノイズを発している(これが効果音として後々効いてくる)。そこへセーラが「呪怨」の伽耶子のように階段を下りてきて失神。
 この「普通なら気に留めるはずのもの」を無視して、鏡の前で身なりを整えるリーランドは、まぎれもなく強烈なホラーである。丸太おばさんから巨人へ。そしてロードハウスのステージに立つ女性歌手へと続ける前後の文脈も見事。さすがである。
 さらにハロルドが自殺し、第二の「ローラパーマーの日記」が保安官に押収され、オードリーの詰問によってベンジャミン・ホーンがローラとの関係を告白。それをクーパーに密告することでベンは逮捕される。目の前でベンの逮捕を目撃したタジムラは(やはり)その正体を夫であるピートに明かす。
 このあと怖いのは植物人間となっているレオの覚醒だ。レオが登場する度に早くも身構える自分がいてちょっと可笑しい。

【第15章/監督:キャレブ・デシャネル】
 「ツイン・ピークス」のVHSレンタルが始まった当時、僕は最期まで観ているはずなのに、今回の展開には驚いた。まさかマデリーンがボブ≒リーランドに殺害されるとは…!しかもローラのときと同じくビニールに包まれて発見されるのだ。シェリル・リーもまさか2度同じ最期を迎えるとは思っていなかっただろう。合掌(死んでないって!)。
 それよりも、この回で「ローラ殺しの犯人はボブ」と宣言したことになる。いや、それも正しいのかどうか、記憶の飛んでいる僕には定かではなくなって来た。
 また、これまで互いをリスペクトし合っていたクーパーとトールマンがはじめて対立する。ベン・ホーンの24時間の拘留期限を超えるタイミングで起訴か釈放かの決断を迫られたトールマンがベン・ホーンを逮捕したのだ。クーパーは「彼は犯人ではない」と進言するのだが、トールマンは聞く耳を持っていなかった。どうなる!クーパーとトールマンの間柄は。
 サブキャラにも展開が。ダブルRダイナーのノーマの母が「再婚をした」とやって来る。この再婚相手、金融アナリストということになっているが、実際はハンクのムショ仲間だったというオチが付く。なんちゅー展開や。

【第16章/監督:ティム・ハンター】
 いよいよシリーズ最大の山場。
 ローラ・パーマー殺しの犯人が明らかになり、登場人物たちもそれを周知する重要な回である。
 一方でルーシーの妊娠騒動も継続中。父親はアンディなのか、それともデパート勤めのディックなのか。ルーシーは2人に産む宣言をし、産んだ後の血液検査で本当の父親が誰なのかを突き止めると言う。このときのディックのタバコが火災報知機に反応し、リーランドの壮絶な最期を演出することになる。
 シリーズはこの16章で折り返したことになるが、ここまでの展開を支え、視聴者の興味を牽引してくれたのは、ローラの父リーランド演じるレイ・ワイズの演技力だったことに気付かされる。序盤こそ娘を失って気が触れた父親のように見せつつ、実はボブが取り付いていたという役どころは、かなり難しい役だったと思う。それをさりげなくこなしていたことに気付かされるのが、リーランドがリーランドに戻る最期のシーンである。クーパーの腕の中で懺悔をし、天に召されるまでのシーンは「ツイン・ピークス」の中でも1、2の名シーンと言っていいだろう。
 ドラマはここからさらに深みにはまっていく。実体のないボブ相手にどう決着をつけようと言うのか。

【第17章/監督:ティナ・ラズボーン】
 前回から3日後。パーマー家に街の住人たちが集まり、リーランドの通夜が始まる。
 ゆったりと美しいカメラワークでその様子が切り取られ、これまでの16本とは趣の異なるタッチで進行する。なんとも穏やかな空気が流れているのは、一応事件が解決した安堵から来るらしい。だが視聴者にとってはそれこそが最大の違和感。
 “ボブはどこへ行ったのか?”
 今回のオープニングは不安を隠しながら平穏を描くというホラーの常套手段を使ったようだ。
 クーパーは町を離れる準備を進めている。そんなとき製材所のキャサリンが保安官事務所に現れ、ハリーを驚かせる。結局いくつかの事件は片付いていないのだ。
 さらに保安官事務所で別れを惜しんでいたクーパーの前に、FBI捜査官とカナダ警察の警官が現れる。オードリー救出作戦が法に触れた可能性があるという。そしてクーパーは停職。背後には黒幕の存在がのちに明らかになるが、問題はラストシーン。キャンプをしていたクーパーの目の前でガーランド少佐が姿を消してしまうのだ。
 このオカルトチックな展開。「ツイン・ピークス」は後半どこへ行くのだろう。
 そしてこの回、オードリーが久しぶりに登場。クーパーに「あなたは完璧なところが欠点ね」と名言を吐く。ああ、可愛い(笑)。


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non_0101

こんにちは。
お風呂タイムとは考えましたね!
私はつい、雑誌を持ち込んでしまいます(^^ゞ
ドラマを観るにはぴったりですね☆
by non_0101 (2010-10-24 11:05) 

u_yasu

入浴時間の有効活用!!素晴らしいです!!!
そういう手がありましたか!!!

ツイン・ピークス、
観始めると、引き返せないですよねぇ。

私も何だかまた観たくなって来ちゃいました☆
by u_yasu (2010-10-24 18:30) 

うろごつはくば

懐かしいの出してきたなあ。
by うろごつはくば (2010-10-24 20:15) 

ken

>non_0101さん
 紙系はちょっとしんなりしちゃうのがダメで、それで防水テレビを買ったのでした。
 これからはドキドキしながらのお風呂ですw
 nice!ありがとうございます。

>u_yasuさん
 そうなんです。60分弱ならなんとなくガマンできるかなと。
 健康にも良さそうだしw
 nice!ありがとうございます。

>うろごつはくばさん
 僕らの世代には刺さるネタですよねw
 nice!ありがとうございます。
 
by ken (2010-10-24 20:52) 

漣花

kenさんが,ツインピークス観るって,なぜか嬉しい(笑)
ブームの頃,かなりハマって,何度も見て,雑誌も集め,
「ローラの日記」を買いそびれたのが,とても悔しかった記憶が。

あの,普通理解しがたい色々な事に,引き寄せられてたまりません。
私も,春頃レンタルして観ました。見出すと止まらない。
私もまた観るかな・・・
by 漣花 (2010-10-27 10:38) 

satoco

ただもう懐かしいです。
そういえばファーストカットはジョシ―でしたねえ。
このドラマに触発されて研鑽した私のチェリーパイはちょっとしたもんですw
by satoco (2010-10-27 14:21) 

ken

>漣花さん
 僕はちゃんと見るのは、これで2回目です。
 「ツイン・ピークス」はワケのわからなさがたまらなくいいですよね。
 それを不思議に思いながら、なんとなくウンウン言ってるハリーもいいw
 nice!ありがとうございます。

>satocoさん
 うわー、チェリーパイ焼くんですか?
 アイスクリーム添えで、ぜひデリバリーして下さい!w
 nice!ありがとうございます。
by ken (2010-10-27 16:34) 

movielover

お風呂タイムに映画!!贅沢ですね~。
私もお風呂で観られたら、きっとドラマとかはまってしまいそうです。

ツインピークスは観よう観ようと思いつつ、キチンと観られていません。
いつかは制覇しなくちゃと思ってるんですけど…。

今海外ドラマはDr.HOUSEとSUPERNATURALの1stシーズンを観ています。
by movielover (2010-10-31 00:25) 

ken

僕はもともとテレビドラマがあまり得意ではないので
(連続して観るのが面倒という理由と、
予算がかけられていなくてチープという理由による)
「ツイン・ピークス」と「24」のシーズン1くらいしか観ていません。
お風呂で見るにはいいですけどね、時間的にw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-10-31 02:13) 

Sho

すんごい懐かしいです!!
当時1/3位まで観たような・・
そうそう「不穏」なんですよね。あんなにのどかな風景なのに。
改めて観たくなりました。
by Sho (2010-11-03 06:36) 

ken

映画とは違ったTVシリーズならではの魅力を、送り手側も受け手側も
改めて実感したエモーショナルな作品だったと思います。
でももうレンタルショップには置いてないでしょうね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-11-03 11:32) 

ecco

諸般の事情・・・なんとなくお察ししますw
ツインピークスですか。
我が家が諸般の事情満載のころに
唯一の楽しみとして見ていたような・・・
なんだか記憶がすでに曖昧なのと
こうしてあらためてkenさんの記事でそうだった!って
思うことと色々です。

結局最後どうなったんだっけ?
最後までみてないような気がします。

あらためてみてみるのもいいですね^^
さて。
私にできるでしょうか(笑)
by ecco (2010-11-07 08:28) 

ken

お察しいただきありがとうございます。
僕も今、見直しながら「そうだった!」の連続ですw
改めて観てみるのは大変だと思いますが、90年代のカルチャーと共に
かつての自分を振り返ることも出来るので、悪くないと思います。
ぜひトライしてみてください。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-11-07 12:34) 

yuuri37

ん~?そんなに入浴時間、長いの?
シャンプーしたり、体をゴシゴシしたり、忙しすぎるではないか・・・でも、時間のない私にはやってみる価値ありってか?
by yuuri37 (2010-11-07 16:57) 

ken

45分の半身浴をしております。
あとの5分でシャンプーしたり、体をゴシゴシしたり。
時間のない方にはオススメです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-11-08 01:38) 

noel

twitter拝見しておりましたので諸般の素敵な事情お察し申し上げます。

大昔見ましたね。たぶん途中まででした。
画面に綺麗な風景と女性陣が綺麗どころが多かったことと、なにやら訳が分からず不気味。幻想的かと思えばそうでもない、とにかく凡人では理解出来ないと言う事が理解出来たのが私のツイン・ピークスでした。
このワケワカラン具合はエヴァに匹敵します(笑)
好きだけど理解出来ないという不条理が存在します(笑)
by noel (2010-11-08 10:44) 

ken

なんだかよく分からないけど、観ちゃうってのは現代アートと一緒ですね。
twitterフォローされてましたか。そうですか。よろしくお願いしますw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-11-08 12:20) 

ルル

こんばんは。

連続続き物は苦手(面倒)で、ツイン・ピークスはほとんど観ていないのです。
解説を読むと、ちょっと見てみようかな?って思いましたわ。
by ルル (2011-04-03 21:09) 

ken

僕もテレビドラマは基本観ません。なんたって飽きっぽいのでw
でも、DVDになっていると、観ようかなという気になりますね。
自分のペースで観られるので。
でも自分のペースで観ていたら2年越しになっちゃいましたw
nice!ありがとうございます。ぜひ観てみて下さい。

by ken (2011-04-03 22:37) 

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