死刑 [本の雑談]
最近の日本ではこの制度の存置そのものについて語られることが少なくなっている気がする。
死刑。
僕はノンフィクション作家の大塚公子が上梓した4冊、
「57人の死刑囚」
「死刑執行人の苦悩」
「死刑囚の最後の瞬間」
「『その日』はいつなのか。死刑囚長谷川敏彦の叫び」
を平成8年から10年にかけて読み、“究極の罰”に関わる人々の苦悩を知った。
けれど僕自身が「存置派か廃止派か」と聞かれると、実はその答えを持ち合わせていない。
今年久しぶりに書店で見つけた「死刑」のタイトルが、その理由を教えてくれた。
そういえば僕は誰にも聞かれたことがなかったのだ。
死刑はあるべきか否かを。
著者の森達也は、傑作中の傑作ドキュメンタリー「A」の監督である。
もともとはテレビのディレクターで、「A」をきっかけにして「テレビ界から干された」人だ。
干されようが何しようが少なくとも「A」は、草野球のファウルチップがネクストバッターズサークルで余所見をしていた僕の後頭部を直撃したとき以上の衝撃だった。
はたして本書はどうか。
森達也は執筆前、本のイメージを編集者に問われ「死刑をめぐるロードムービー」と答えた。
本人はこれを終盤、「相当に軽薄なフレーズだった」と自己批判するが、読了した僕が思うにこれが最も的確な言葉だと思う。彼は間違いなく、「死刑は存置すべきなのか、廃止すべきなのか」、自らの意見をまとめるための旅をしている。
読者は森達也の旅に同行することになる。
不思議な旅だ。
この旅にはゴールが無い。
感じて、考えて、そして悩み続ける。けれど旅は無限に続けられない。
「たぶんこの駅に終着駅はない。だから自分で下車する駅を決めなくてはならない」
これは大塚公子の確固たる視点と比べると「少々甘っちょろい文脈」と言いたくなるのだけれど、死刑を議論し慣れていない日本人にはちょうどいい温度かもしれない。
個人的には森達也がたどり着いた結論はバランス感覚を欠いていると思う。
死刑になるかもしれない“ある囚人”と面会して、彼の気持ちは大きく揺れ動く。
しかし、彼は“被害者の父”にも“被害者の夫”にもなっていない。
そのとき彼はどうするのだろう、という疑問だけが残った。
ただし、大いに読む価値あり。
「罪深き人間なら殺しても構わない」という法律を成立させているのは私たちだから。
私たちも人殺しの片棒を担いでいるのだから。
- 作者: 大塚 公子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1998/08
- メディア: 文庫
- 作者: 大塚 公子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1993/07
- メディア: 文庫
- 作者: 大塚 公子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1996/06
- メディア: 文庫
「その日」はいつなのか。―死刑囚長谷川敏彦の叫び (角川文庫)
- 作者: 大塚 公子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2001/12
- メディア: 文庫
恥ずかしながら私は、森氏著の『東京番外地』を読むまで、死刑囚は刑務所ではなく拘置所に収監されているということを知りませんでした。
本書『死刑』も読みましたが、このテーマ、森達也にはドキュメンタリー映画として発表して欲しかったというのは無理な望みでしょうか。
by デクノボー (2008-04-16 01:06)
残念ながら今の日本では無理な望みと言わざるを得ないでしょう。
僕も赦されるなら、ドキュメンタリー映画として観たかったです。
ちなみに、僕はこの本で「拘置所収監」を知りました。
以前にも読んでいたのでしょうが、さほど気にも留めていなかったのですね。
by ken (2008-04-16 01:25)
いくつかのきっかけから、学生時代からずっとこのことは私の中で行ったり来たりしていることの一つです。「被害者の家族じゃないから」死刑については語れない、とも思わないのですが、反面、報道であまりにも酷い事件を見ると、心が騒ぐ自分もいますね。
先進国で日本だけが死刑を行っている、「そういう制度としてあるから迷う」、と言うのもありますよね。この本も是非読んでみたいと思います。
古い本ですが、加賀乙彦の「宣告」も、なかなか読ませます。お時間あったら立ち読みしてみてください。おこがましいですが。
by snorita (2008-04-16 08:18)
本のオススメありがとうございます。どこかで探してみたいと思います。
「死刑」もぜひ読んでみてください!
by ken (2008-04-16 14:33)
いつもROMですが、読ませていただいています。
森さんの本だと『いのちの食べ方』を思い出します。
実は、私自身、ベジタリアンなので……。
最近は、だいぶ妥協していますけどもう20年になります。
同名のドキュメンタリー映画も見ました。
一緒に行った相方は、ノン・ベジタリアンで肉大好き人間ってこともあるんでしょうが爆睡してました。そして、観終わって一言……
「で、なに……これは可愛そうだから肉、食うなってこと?」
その後、口論になったのは言うまでもありません (-_-;)
死刑というと、まっさきに思い出すのは『デッドマン・ウォーキング』です。
新宿武蔵野館で3回観て、DVDでも2回観ました。
他に『ザ・ハリケーン』、『カポーティ』、『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』でしょうか。
いずれも視点や映画の楽しみ方が違いますが佳作だと思います。
実は、私にとっては死刑の問題はとてもタイムリーでした。
こまわり君をリアルタイムで読んでいたので冗談で「死刑!」と言っていた子供の頃、あまり深く考えなかったのですが、大人になっては、大きな関心事のひとつになっていました。
タイムリーだったというのは、光市母子殺害事件の差戻控訴審に関する各テレビ局の番組づくりに関して、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会が出した意見書をダウンロードして読んでいたんです。
私自身、一連のメディアの報道にはすごい違和感と気持ち悪さを感じていました。
そして、死刑の問題に関わる被害者の感情や被告の人権、マスメディアのリテラシー不足や感情的な“世間”の残酷さなどをいろいろと考え巡っていたのです。
本当に難しい問題です。
森さんの本はもちろん、大塚さんの本も読んでみます。
でも、自分自身、死刑の問題は、法律や制度の問題ではなく
つまるところは、死生観の問題なのではないかと思っています。
長くなりましてすみません。
ちなみに最近観た私のお気に入り映画です。
『愛より強く』
http://www.elephant-picture.jp/aiyori/
『うつせみ』
あ、どっちも収監される映画だ……(笑)
以下、参考URL。
『いのちの食べ方』
http://www.amazon.co.jp/dp/465207803X/
http://www.espace-sarou.co.jp/inochi/
『デッドマン・ウォーキング』
http://www.amazon.co.jp/dp/B000A16QHA/
『ザ・ハリケーン』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005HRP7/
『カポーティ』
http://www.amazon.co.jp/dp/B000WMDZFI/
『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』
http://www.amazon.co.jp/dp/B000TDVOOY/
「光市母子殺害事件の差戻控訴審に関する放送についての意見」
http://www.bpo.gr.jp/kensyo/kettei/k004.pdf
by Tapas (2008-04-17 00:24)
Tapasさん、コメントありがとうございます。
「デッドマン・ウォーキング」と「ハリケーン」は観ていますが、
ほかの2本は観ていません。いつか観てみたいと思います。
それよりも、光市母子殺害事件に関する資料をまず読みたいと思います。
by ken (2008-04-17 00:43)
こんばんは。
大塚公子さんの本はkenさんが挙げられた中で、 「死刑執行人の苦悩」
「死刑囚の最後の瞬間」を以前読みましたが、自分の身近に感じることのない話で、刑に処される当事者、執行する人、どちらにも気持ちが揺らいでしまい、未だに自分の中でどうすべきか、、、気持ちがはっきりしない話題です。
私のような意見がはっきりしない者が言うのもなんですが、一人ひとりがこの話題を意識して考えることも必要なのかな、と思います。
by うつぼ (2008-04-17 21:24)
4月22日に光市母子殺人事件の差し戻し控訴審の判決が出ますからね。
今まさにそういうタイミングなんです。
絶対に皆が考えなければいけないテーマだと強く思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-04-18 00:40)