ジャーヘッド [2008年 ベスト20]
「ジャーヘッド」(2005年・アメリカ) 監督:サム・メンデス 脚本:ウィリアム・D・ブロイルズ・Jr.
原作は全米でベストセラーになったノンフィクション「ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白」。
これは面白かった。近年見た戦争映画の中では群を抜いている。
この映画を観る前日の7月5日。毎日新聞の朝刊1面にこんな記事があった。
「独立記念日に1200人が再入隊 イラク米軍」
壮観な写真も掲載されている。カモフラージュの軍服に身を包んだ1200名。派遣中に契約期間が満了し帰国できたが、イラクに残る選択をした兵士たち。
ふと1面下の広告に目をやると、そこには映画「告発のとき」ノベライズの広告があった。
僕はこの映画の中にあった、ある兵士のセリフを思い出した。
「イラクへ帰りたい」
「ジャーヘッド」は原作の著者であり映画の主人公でもあるアンソニー・スオフォード(ジェイク・ギレンホール)のモノローグから始まる。
この物語…
男は何年も銃を撃ち、そして戦争に行く。
帰国し、武器庫に銃を戻す。
もう銃は手にしない。
だが、その手で何をしても…
女を愛したり、家を建てたり、息子のオシメを換えても、
その手は銃を覚えてる。
新聞記事と「告発のとき」と「ジャーヘッド」、三つが繋がった気がした。
「ジャーヘッド」(海兵隊員の頭はジャー(瓶)のように空っぽ、という蔑称)は戦争映画でありながら、戦闘シーンがほとんどない珍しい映画だ。しかも本編で流れる1曲目のBGMは、ボビー・マクファーリーンの「ドント・ウォーリー、ビー・ハッピー」。きっと誰もが意表を突かれると思う。
本編の大半は「戦地で待機中」の出来事に費やされる。
兵士同士の諍い、恋人に対する不信感、休暇の過ごし方、さらには糞尿の始末の仕方まで。戦争の最前線にはほど遠い、ベースキャンプでの日常。
これらを観ながら僕は長い間抱いていた、戦争に関する“ある疑問”を払拭できた気がする。
「なぜ戦えるのか?」
キレイごとはいくらでも言える。しかし当事者じゃない僕はどうしても「恐怖」を切り離せなかった。
死ぬかも知れないという最大の恐怖をアタマの隅っこに追いやるものは何か。
答えは「ストレス」だ。
戦地での待機期間中に蓄積される兵士たちのストレスが、上官の発砲許可と共に解放され、大量のアドレナリンを分泌するのだ。
ただし、そのストレスが解放されない場合もある。
主人公のスオフォードはあっけない「自分の中の戦争」の幕切れを味わう。
何のための待機だったのか。何のための訓練だったのか。
僕はイラクで再入隊した1200人の兵士のことを想った。
「イラクで溜めたストレスは、イラクで発散して帰る」
そんな1200人なんじゃないだろうか?
劇中、兵士たちが「地獄の黙示録」に熱狂するシーンがある。皆が「撃て!殺せ!」と叫んでいる。ところが休日に「ディア・ハンター」を観ようとする兵士たちの姿が興味深い。ただこのシーンには強烈なオチがあるのだけれど。
流れで書いておくと「裏切り者の壁」のシーンが可笑しかった。キャンプ内に立てられたパネルには、肌身離さず持っていた妻や恋人の写真が大量に貼られている。戦争の悲劇の断片。こんなさりげないシーンにリアリティが溢れている。
「ショーシャンクの空に」、「クンドゥン」、「ノーカントリー」の撮影を務めたロジャー・ディーキンスの映像も素晴らしい。
砂漠の砂がスオフォードの顔に降り注ぐスローモーションや、原油が兵士の顔に落ちてくる異様に気味の悪いシーン。そして何よりイラク軍が油田に火を放ってからのナイトシーンがあまりに美しすぎる。アカデミー賞ノミネート6回の実力はここでも遺憾なく発揮されている。
僕はここ数年、ドンパチやるだけの戦争映画には辟易としていた。
けれどこれは違った。
僕が観たかった戦争映画のひとつのスタイルがここにあった。
新しい戦争映画の傑作。
原作は全米でベストセラーになったノンフィクション「ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白」。
これは面白かった。近年見た戦争映画の中では群を抜いている。
この映画を観る前日の7月5日。毎日新聞の朝刊1面にこんな記事があった。
「独立記念日に1200人が再入隊 イラク米軍」
壮観な写真も掲載されている。カモフラージュの軍服に身を包んだ1200名。派遣中に契約期間が満了し帰国できたが、イラクに残る選択をした兵士たち。
ふと1面下の広告に目をやると、そこには映画「告発のとき」ノベライズの広告があった。
僕はこの映画の中にあった、ある兵士のセリフを思い出した。
「イラクへ帰りたい」
「ジャーヘッド」は原作の著者であり映画の主人公でもあるアンソニー・スオフォード(ジェイク・ギレンホール)のモノローグから始まる。
この物語…
男は何年も銃を撃ち、そして戦争に行く。
帰国し、武器庫に銃を戻す。
もう銃は手にしない。
だが、その手で何をしても…
女を愛したり、家を建てたり、息子のオシメを換えても、
その手は銃を覚えてる。
新聞記事と「告発のとき」と「ジャーヘッド」、三つが繋がった気がした。
「ジャーヘッド」(海兵隊員の頭はジャー(瓶)のように空っぽ、という蔑称)は戦争映画でありながら、戦闘シーンがほとんどない珍しい映画だ。しかも本編で流れる1曲目のBGMは、ボビー・マクファーリーンの「ドント・ウォーリー、ビー・ハッピー」。きっと誰もが意表を突かれると思う。
本編の大半は「戦地で待機中」の出来事に費やされる。
兵士同士の諍い、恋人に対する不信感、休暇の過ごし方、さらには糞尿の始末の仕方まで。戦争の最前線にはほど遠い、ベースキャンプでの日常。
これらを観ながら僕は長い間抱いていた、戦争に関する“ある疑問”を払拭できた気がする。
「なぜ戦えるのか?」
キレイごとはいくらでも言える。しかし当事者じゃない僕はどうしても「恐怖」を切り離せなかった。
死ぬかも知れないという最大の恐怖をアタマの隅っこに追いやるものは何か。
答えは「ストレス」だ。
戦地での待機期間中に蓄積される兵士たちのストレスが、上官の発砲許可と共に解放され、大量のアドレナリンを分泌するのだ。
ただし、そのストレスが解放されない場合もある。
主人公のスオフォードはあっけない「自分の中の戦争」の幕切れを味わう。
何のための待機だったのか。何のための訓練だったのか。
僕はイラクで再入隊した1200人の兵士のことを想った。
「イラクで溜めたストレスは、イラクで発散して帰る」
そんな1200人なんじゃないだろうか?
劇中、兵士たちが「地獄の黙示録」に熱狂するシーンがある。皆が「撃て!殺せ!」と叫んでいる。ところが休日に「ディア・ハンター」を観ようとする兵士たちの姿が興味深い。ただこのシーンには強烈なオチがあるのだけれど。
流れで書いておくと「裏切り者の壁」のシーンが可笑しかった。キャンプ内に立てられたパネルには、肌身離さず持っていた妻や恋人の写真が大量に貼られている。戦争の悲劇の断片。こんなさりげないシーンにリアリティが溢れている。
「ショーシャンクの空に」、「クンドゥン」、「ノーカントリー」の撮影を務めたロジャー・ディーキンスの映像も素晴らしい。
砂漠の砂がスオフォードの顔に降り注ぐスローモーションや、原油が兵士の顔に落ちてくる異様に気味の悪いシーン。そして何よりイラク軍が油田に火を放ってからのナイトシーンがあまりに美しすぎる。アカデミー賞ノミネート6回の実力はここでも遺憾なく発揮されている。
僕はここ数年、ドンパチやるだけの戦争映画には辟易としていた。
けれどこれは違った。
僕が観たかった戦争映画のひとつのスタイルがここにあった。
新しい戦争映画の傑作。
ジャーヘッド (ユニバーサル・ザ・ベスト:リミテッド・バージョン) 【初回生産限定】
- 出版社/メーカー: ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
- メディア: DVD
あのエンディング、自分はどうも釈然としなかったのですが、
見方を変えるとそうなのですね。
映画で見る分にはドンパチ、ドッカンドッカン好きです。
by ばくはつごろう (2008-07-07 20:55)
そうなんですよ、川崎さん。…ちょっと古かったですかねw
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-07-07 23:11)
kenさんの視点、とても納得感がありました。
この映画、私もけっこう好きです。戦争、兵士をまったく新しい視点からとらえてますよね。
by クリス (2008-07-21 08:30)
主人公がジェイクだったから、もしかしてまたオカマ掘るのか?
と思ってドキドキしてましたが、それがなくてホッとしましたw
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-07-21 11:49)