転々 [2008年 ベスト20]
「転々」(2007年・日本) 監督・脚本:三木聡
ハワイ島からの帰国便で唯一観たのは、オダギリジョーと三浦友和が競演したロードムービー。
84万円という借金を抱えていた大学生の竹村(オダギリジョー)は、ある日借金取り(三浦友和)に踏み込まれる。しかし返済の当てのない竹村は、借金取りから“ある提案”をされた。それは「吉祥寺から霞ヶ関まで一緒に“散歩”をする」こと。報酬は100万円だと言う。
借金返済までの期限はあと3日。竹村は断る理由を見つけられず借金取りの“散歩”に付き合うことにした…。
「東京散歩」という設定はおもしろい。
でも大切なのは、どこを散歩するかじゃなくて、どんな散歩をするかだ。そこにストーリーがなければ映画じゃない。ただの「ぶらり途中下車の旅」である。
僕は2年前から「東京での27年を歩く」と名付けた散歩をしている。上京から四半世紀が過ぎた2006年から始めた個人的イベントで、かつて住んだ街をふらり歩くというものだ。
他人から見ればただ旧いアパートを見上げるだけの散歩だけれど、その周辺には“僕の物語”がいくつも、いくつも横たわっている。
この散歩はときに独りだけれど、ときに妻を伴う。
僕が語り、妻が聴く。
共有することによって“個人の記憶”が“物語”になる。
「転々」では、借金取りの福原が語り、竹村が聞くことによって物語が成立する。
問題は、福原の個人的な記憶を、観客がどこまで共有出来るかだ。
それがこの映画の評価を決めるだろう。
僕自身は“思い出散歩”を実践しているだけに、すぐさま感情移入が出来た。
目的を持った散歩でありながら、途中新たな興味に牽引される散歩の愉しみも伝わってきた。しかし三木聡のカラーと言うべきか、意味を理解しかねるシークエンスに興味を削がれる部分もあった。アンプを背負ったギタリストまでは許せても、少なくとも東京のど真ん中で卒塔婆を持った葬列に出会うことは無いだろう。
ところが。
エンディングが近づくにつれ、徐々に散歩の意味が明らかになって来て、胸が熱くなる。
人はなぜ散歩をするのか?
それは「今の自分を受け入れるため。そして自分が如何に幸せであったかを確認するため」だ。
竹村のセリフが興味深い。
「幸せはゆっくりやって来る。不幸は突然やって来る」
オダギリジョーがこれまでのキャリアに無い、まったくフツーのにいちゃんを演じているのが楽しい。また、そうさせているのは三浦友和の俳優としての懐の深さである。まったく素晴らしい。
小泉今日子は器がデカくて温かい女をやらせるとバツグンに巧いということに気が付いた。「雪で願うこと」の彼女もそうだったけれど、まるで菩薩のような存在感が男目線の作品にぬくもりを与えるのだ。そういえば三浦友和の妻、山口百恵も「菩薩」と呼ばれた女性だった。
佳作。
ハワイ島からの帰国便で唯一観たのは、オダギリジョーと三浦友和が競演したロードムービー。
84万円という借金を抱えていた大学生の竹村(オダギリジョー)は、ある日借金取り(三浦友和)に踏み込まれる。しかし返済の当てのない竹村は、借金取りから“ある提案”をされた。それは「吉祥寺から霞ヶ関まで一緒に“散歩”をする」こと。報酬は100万円だと言う。
借金返済までの期限はあと3日。竹村は断る理由を見つけられず借金取りの“散歩”に付き合うことにした…。
「東京散歩」という設定はおもしろい。
でも大切なのは、どこを散歩するかじゃなくて、どんな散歩をするかだ。そこにストーリーがなければ映画じゃない。ただの「ぶらり途中下車の旅」である。
僕は2年前から「東京での27年を歩く」と名付けた散歩をしている。上京から四半世紀が過ぎた2006年から始めた個人的イベントで、かつて住んだ街をふらり歩くというものだ。
他人から見ればただ旧いアパートを見上げるだけの散歩だけれど、その周辺には“僕の物語”がいくつも、いくつも横たわっている。
この散歩はときに独りだけれど、ときに妻を伴う。
僕が語り、妻が聴く。
共有することによって“個人の記憶”が“物語”になる。
「転々」では、借金取りの福原が語り、竹村が聞くことによって物語が成立する。
問題は、福原の個人的な記憶を、観客がどこまで共有出来るかだ。
それがこの映画の評価を決めるだろう。
僕自身は“思い出散歩”を実践しているだけに、すぐさま感情移入が出来た。
目的を持った散歩でありながら、途中新たな興味に牽引される散歩の愉しみも伝わってきた。しかし三木聡のカラーと言うべきか、意味を理解しかねるシークエンスに興味を削がれる部分もあった。アンプを背負ったギタリストまでは許せても、少なくとも東京のど真ん中で卒塔婆を持った葬列に出会うことは無いだろう。
ところが。
エンディングが近づくにつれ、徐々に散歩の意味が明らかになって来て、胸が熱くなる。
人はなぜ散歩をするのか?
それは「今の自分を受け入れるため。そして自分が如何に幸せであったかを確認するため」だ。
竹村のセリフが興味深い。
「幸せはゆっくりやって来る。不幸は突然やって来る」
オダギリジョーがこれまでのキャリアに無い、まったくフツーのにいちゃんを演じているのが楽しい。また、そうさせているのは三浦友和の俳優としての懐の深さである。まったく素晴らしい。
小泉今日子は器がデカくて温かい女をやらせるとバツグンに巧いということに気が付いた。「雪で願うこと」の彼女もそうだったけれど、まるで菩薩のような存在感が男目線の作品にぬくもりを与えるのだ。そういえば三浦友和の妻、山口百恵も「菩薩」と呼ばれた女性だった。
佳作。
2008-10-05 11:34
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コメント(8)
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なるほど。ただ歩く映画と思っていましたが、「散歩」なわけですね。納得です。私は散歩、それも「都心の散歩」が好きで、数年前まで週末は新宿を起点に10キロ以上の散歩をしてました。(コースはほぼ同じ)
俄然、見たくなってきました。
by Sho (2008-10-07 06:44)
テーマのある散歩を実践している方なら、きっと楽しめる映画だと思います。
ぜひご覧になってみてください。nice!ありがとうございます。
by ken (2008-10-07 12:17)
ご存知の通り、私は三木聡監督が好きで、オダギリジョーが好きです。
kenさんは三木聡監督は嫌いだと思っていました。
三木作品というだけで、敬遠しないkenさんにまず、niceです。
ロードムービー好きですね。
ラストシーンと擬似家族の辺りが好きです。
三浦友和と小泉今日子に支えられている作品ですネ。
by ミック (2008-10-12 21:35)
正直言って好きなタイプの監督じゃありませんがw
だからと言ってハナから観ないというのは、僕の主義に反します。
ロードムービーは大好きだしw
擬似家族のシークエンスはいいですよね。僕も気に入ってます。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-10-12 23:06)
見ました。
最高です。
すごくよかったです。
by Sho (2009-01-03 12:39)
オダジョーの世代には分からないかもしれないけれど、
それ以上の世代にはかなり刺さる映画ですよね。
by ken (2009-01-03 13:02)
遅ればせながら観ました。
正直言って、これは観た人間にしか良さがわからないですね。
で、良さを説明するのも難しいんでしょう。
レビューがどれだけ好意的に書き込まれていても、星の数がいくら多くても、誰のレビューを読んだところで、読んだだけでは半信半疑でした。
本当に観る行動に移すまでに年月を要し、やっと先々週観ました。そして先週も観てしまいました。たぶん近いうちにまた観ますね。
ふふみの歌うデタラメ(としか思えないんですけど)が、エンドロールに「挿入歌」とちゃんと在ったのが嬉しかった。つい口をついて出てしまいます。
by midori (2011-02-21 19:18)
midoriさんのツボにハマッたところも面白いですね。
仰るとおり、この作品はどんなレビューにも語り尽くせない味わいがあります。
でもそれって究極の映画じゃないかと思えて来ました。
なんなら結末まで喋っても、観たら面白い映画。
そんなものがあったら世の中ひっくり返るかも。
でも「転々」はそんな空気を纏った映画だと思っています。今でも。
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-02-22 00:31)