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遭難フリーター [2008年 レビュー]

遭難フリーター」(2007年・日本) 監督・主演:岩淵弘樹

 サブプライムローン問題に端を発した世界的不況の中、「派遣切り」という物騒なワードを聞かない日はない。
 2009年2月に公開予定の本作は、派遣労働者である当時23歳の若者が自身の生活をカメラに収めることで「ハケンの実体」の一部を晒したドキュメンタリーである。しかし彼がビデオカメラを回していた2006年。世間は「ネットカフェ難民」という言葉すら知らなかった。

 何とも独り善がりなビデオだ。まず映し出される映像はデジタルカメラのぶん回しでしかないので余りにも不安定。見ていて気分が悪くなる。これひとつとっても既に独り善がり。
 で、その内容。
 自身が派遣労働者として働くことになったいきさつ(出版社の内定が取れていたが単位が足りずに留年。職を失う)は一切明かさず、「我が身の不幸は誰のせいだ?」という“ボール”を一方的に観客に投げつける。知るか。それを不可抗力と言うなら、我が身に起きた不運の連鎖を語れ。その方がまだ見世物として面白い。

 僕がこのビデオに憤るのは、僕自身上京した18歳から30歳まで恐ろしくビンボーだったからだ。
 家賃が払えなくなってアパートを追い出されたこと2回。キャッシングの返済が滞りクレジットカードはすべて使えなくなり、消費者金融での借金も当然。友人、知人、金を貸してくれる人がいればすべての人から借り、ほとんどを借金の返済に充てた。そしていよいよ困ったとき、愛用していたCANONのEOSを質に入れようとしたら、「それだけは止めたほうがいい」と当時勤めていた会社の先輩が1万円貸してくれて泣いたこともある。でも僕は立ち直った。極貧の20代を経て30代でようやくまともな生活を送れるようになり今に至っている。
 当時は僕も搾取される側の人間として、搾取する側を激しく妬んだ。しかしそれが社会の仕組みなのだ。搾取されたくなかったら、搾取されない人間になるしかないのだ。自分の置かれた環境を声高に「酷い」と訴えたところで、それが何になる。
 主人公はビデオの中で「デモに参加しても何も変わらない」と気が付いている。そこに気付いていながら、何故こんなビデオで一方的に“ボール”を投げつけるのか?
 少なくとも僕は、このビデオから何のメッセージも受け取れなかった。

 そう言いながら、主人公をフォローしておく。
 岩淵弘樹は“担がれた”と思う。
 担いだのは本作のプロデューサーとアドバイザー。おそらくこの2人が映像のリアルさに感心して、いろんなアドバイスを与え、ビデオ作品として完成させるよう導いたのだろう。その頃には「ネットカフェ難民」という言葉は世に出ていたはず。社会にたてつくには格好の素材と、プロデューサーとアドバイザーは確信したに違いない。
 唯一言えることは、地上波で放送できる内容じゃないということ。一部許諾の取れていないシーンが含まれた試写だったので、上映時にどう変わっているやら。


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コメント 2

Sho

気に障ったら申し訳ありません。
kenさんがどうやってのぼりあがっていったのか、その過程にものすごく興味を惹かれました。
by Sho (2008-12-18 06:29) 

ken

僕自身のビンボーネタについては過去に何度か触りだけ書いてきましたが
その全貌はなかなか面白いと思います。ビンボーってネタになるんですよねえw
by ken (2008-12-18 12:17) 

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