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ハピネス [2009年 レビュー]

ハピネス」(2007年・韓国) 監督・脚本:ホ・ジノ 脚本:イ・スキョン、シン・ジュンホ、ソ・ユミン

 ホ・ジノは物静かな恋愛映画を得意とする監督だ。
 韓国の映画賞を総なめにした長編デビュー作「八月のクリスマス」。
 イ・ヨンエの澄んだ空気のような美しさが際立っていた「春の日は過ぎゆく」。
 作品のクオリティは低いものの、行間の演出に長けた「四月の雪」。
 いずれも劇場で観ると、自分の呼吸や鼓動を抑えたくなるほど静かな(セリフも音楽もない)シーンが多い。この“間”の操り方はホ・ジノ独特のものだ。僕は「四月の雪」をそうと知らずに観て、タッチが「八月のクリスマス」に似ていると思い調べたら、やはりホ・ジノ作品だったので驚いたことがある。

 ソウルでクラブを経営していたヨンス(ファン・ジョンミン)は肝硬変に冒されていた。
 店は潰れ、田舎の療養施設で治療することになったヨンスは、そこで肺疾患患者のウニ(イム・スジョン)と出会う。やがて2人は恋におち、施設を出て共に暮らすようになるが、その1年後ソウルから友人とかつての恋人がヨンスを訪ねてやって来る…。

 ヨンス一人で「都会のねずみと田舎のねずみ」を演じるようなストーリー。
 よく出来ていると思う。よく出来ているからこそ、都会で暮らす地方出身者と、過去に一度でも女性に酷い仕打ちをしたことのある男は、きっとまともに観ていられない。僕自身どちらにも当てはまる人間なので激しく動揺してしまった。「なんて酷い男なんだ」とヨンスのことを思いながら、僕はかつての自分を何度も恥じた。思い当たる節のある男子は観ても良し、観なくても良し。ただ言わせてもらえば、観れば必ず優しい気持ちになれる。
 それはともかく。
 タイトルにあるとおり「幸福とは何か」を考えさせられる作品である。
 俳優に与えられた言葉は最小限で、観客は俳優の表情からヨンスとウニの感情を推し量り、それぞれのドラマを完成させることになる。すると「幸福とは何か」という問いが自ずと湧き上がって来るのだ。

 人生は選択の繰り返しである。
 しかもぶっつけ本番。「お試し」も「待った」も許されない。唯一許されることは「もしも…」と思いを巡らせることだけだ。
 選んだ道の数だけ選ばなかった道がある。
 歩を進めなかった道に残された人のことを時には思い出すのもいい。
 物静かな映画だから、その余裕は充分にある。

 ウニを演じたイム・スジョンの儚い演技が心に染みる佳作。

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コメント 4

脳外科医

ヨンスの行いが痛くって、切なかった。
おっしゃるように自分の過去を顧みているからなのでしょう。

ホ・ジノ監督の静かな世界、好きです。
by 脳外科医 (2009-12-29 08:33) 

ken

ご覧になっていましたか。
脳外科医さんも、ご自分の過去がフラッシュバックしたのですね。
男ってホントにひどい生き物ですね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-12-29 08:38) 

noel

kenさんのレビューで納得しました。
行間が語っている作品なんですよね。
静かで悲しい、どこかで悔いているような主人公たち。
儚くて優しい作品たちですよね。

酷いことをしたヨンスに腹が立ちながらも現実に押し流されている自分に重ね合わせてしまうと責めることも出来ないって言うか。
ウニの静かな清らかさに、見ている自分たちのズルさの許しを請ういたのではないかな。

うちの夫は退屈だった言いましたが、私はどの作品も心捕まれてした。

by noel (2009-12-29 09:37) 

ken

noelさんのご主人はきっと、僕のような悪人じゃないのだと思います。
ただ現実に押し流されている人は多いでしょうね。
男と女の関係だけじゃなく、現実社会の利便性から逃れられない僕たちも
現実に押し流されているのと同じなのでしょう。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-12-29 20:02) 

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