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チェンジリング [2009年 レビュー]

チェンジリング」(2008年・アメリカ) 監督:クリント・イーストウッド

 1920年代後半、カリフォルニア州で起きたゴードン・ノースコット事件を基にした実話。
 誘拐された子どもが警察の手によって5ヶ月ぶりに戻って来たが、その子どもはまったくの別人だった…という今では考えられないストーリー。まったく実話の強みである。

 このドラマを面白くしている要因は、まず当時のロサンゼルス市警が敵としてクリスティン(アンジェリーナ・ジョリー)の前に立ちはだかることだ。市民の健全な生活を守り、正義の名の下に悪を追求するはずの警察が、保身のために権力を振りかざすことになったら、対峙する一市民はまったくの無力である。つまりクリスティンは失踪した息子を取り戻す以前に、メンツを優先する悪徳警官と闘う羽目になるのだ。
 苦境に立たされる主人公には敵が一人であるより、次々と何人も現れる方が面白い。そのセオリーに則った展開が本作でも繰り広げられる。

 最大の敵であるロス市警からは、2人の刺客が放たれる。
 まず登場するのが、息子ウォルターと名乗る少年だ。クリスティンがいくら「息子じゃない」と叫んでも、少年は顔色一つ変えず自分はウォルターだと言う。警察の前だけでなく、クリスティンと2人きりになっても少年が事実を話さないだけに、この件は実に恐ろしい。
 続いての刺客は警察に歯向かったことで送られる精神病院の医師。少年を息子だと認めない限り、精神に異常をきたしているとされ、院からは出られない。クリスティン絶体絶命である。この苦境からどう脱出するかが前半の見どころだ。

 後半新たに登場する敵がゴードン・ノースコットである。
 事件を知らない人間にこの男の登場は急展開だった。そしておぞましい事件に巻き込まれた可能性を思うと、観客のクリスティンに対する同情は加速度的に増して行く。
 この時点での敵は3組。ウォルターを名乗る少年。ロス市警。そしてノースコット。
 ロス市警とノースコットとの闘いは法廷劇となる。ここのカットバックは見事な編集だった。シーンとしても必要最低限の露出に留め、余計な時間をかけない作戦をとったイーストウッドの判断に拍手。
 そして最後にもう一人の敵が現れる。それはクリスティン自身の“葛藤”である。
 終盤間近。この事件を一体どこまで描くのかと思った瞬間、驚くべき事実が明らかになる。まさに事実は小説より奇なり。この作品で唯一全身が粟立った瞬間だった。

 残念だったのは、クリスティンを名乗る少年の背景が希薄であること。彼に対する観客の「なぜ?」はもっと具体的に解消するべきだったと思う。が、イーストウッド作品の中ではベスト5に入る佳作と言っていいだろう。

チェンジリング 【VALUE PRICE 1800円】 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • メディア: DVD

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コメント 10

きさ

良い映画だとは思いますが、キツイ映画だなあとも思います。
実話とはいえこの描き方はイーストウッドらしいんでしょうね。
ラストもかなり心理的ダメージが、、
by きさ (2009-12-30 17:48) 

ken

僕は「ミスティック・リバー」に比べたら優しい感じがしました。
by ken (2009-12-31 01:08) 

**feeling**

自分の子供に対する母親の強い意志を感じました。
とても。

by **feeling** (2009-12-31 20:26) 

ken

産めば分かるって感じですかね。
by ken (2010-01-01 12:41) 

てくてく

明けましておめでとうございます。
kenさん、今年もよろしくお願いします^^

見ごたえのある作品でした。
前半も“これが実話?”の連続でしたが、
後半からの展開には驚かされました。
帰ってからネットで調べたら、
やっぱり実話に沿っているようですし・・・。
事実は小説より奇なり、ですね。
by てくてく (2010-01-07 16:15) 

ken

何度も何度も、これって実話だよね、と反芻した映画でした。
それくらい痛々しかったですね。nice!ありがとうございます。
今年もよろしくお願いします。
by ken (2010-01-07 19:14) 

midori

ずっとつらくて哀しく,憤りの収まらない展開だったので,
最後のクリスティンの言葉と笑顔に,
観客としては救われたような気がしたのですが,
ロスの町並みがいぶし銀のカラーからモノクロームに変わり
エンドロールが流れ始めて,はたと
クリスティンにはこれから永く続く戦いが新たに始まったのだと,
かえって残酷な結末ではなかったかと我に返ったのでした.
真実の物語なのだから,どうしようもないのですが.
へこみました.



by midori (2010-01-18 12:44) 

ken

彼女自身の“わずかな望み”が、生きる糧になったかと思うと、
確かに残酷な物語でしたね。ただ事実だからどうしようもないのだけど。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-19 01:12) 

coco030705

kenさんへ
こんばんは。
ストーリーはこれが実話だと思うとすごく怖いんですが、
映画としては、ほんとうによくできた作品だったと思います。
役者もいい人をそろえ、取りこぼしのないうまさを感じました。
やはりイーストウッドは映画を知り尽くしている人なんだなと
改めて思いました。
これからもまだまだ撮ってほしいものです。
by coco030705 (2010-12-20 21:18) 

ken

映画人生の晩年でここまでクオリティの高い作品を何本も作った監督は
きっとクリント以外にいないでしょうね。それだけでも感服します。
この作品はキャスティングがクオリティを決定付けましたね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-12-21 03:20) 

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