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南極料理人 [2010年 レビュー]

南極料理人」(2009年・日本) 監督・脚本:沖田修一

 南極大陸。
 昭和基地から離れること1,000キロ。標高3,800m(富士山頂以上!)、平均気温マイナス57℃。あまりに寒すぎてペンギンやアザラシはおろかウィルスさえ存在しない過酷な職場、ドームふじ基地。これは第38次南極観測隊の調理担当として着任した西村淳のエッセイが原作のドラマである。主人公の調理人を演じるのは今がまさに旬の
堺雅人。

 本作は設定からして“勝ち”だ。
 南極基地に専属料理人がいるなんて、ほとんどの人が知らないだろうし、ではどんな環境で、どんな仕事をしているのかは誰だって気になる。だからその日常を見せるだけで観客の期待に
応えたことになるし、もちろんそこでの生活がフツーなわけないから、どうしたって面白いに決まってる。事実、食糧事情のみならず、水の確保の仕方や余暇の過ごし方など、あらゆるエピソードが興味深い。けれど僕は「なんだか痒いところに手の届かない映画だな」と思った。なぜならそれぞれのエピソードに、ちょっとした「?」が付いて回るからだ。
 たとえば雪氷学者の本さん(生瀬勝久)の誕生日。子どもと電話で話したあと、「お母さんに代わって」と言うと、しばらくあって「話したくないって」と言われるシーン。
 究極の遠距離恋愛が破綻した雪氷アシスタントの兄やん(高良健吾)が、基地の外に出て上着を脱ぎ捨て「死んでやる!」と叫ぶシーン。
 トライアスロン出場を目指すドクター(豊原功補)がマイナス70°Cの吹雪の中、裸で自転車に乗って出かけるシーン。
 通信担当の盆さん(黒田大輔)が西村に隠れてバターにしゃぶりついてるシーン。
 いずれも笑いを誘うシーンとして作られているが、いずれも素直に笑えなかった。
 説明が足りないのだ。
 特にそれぞれのシーンにフォローがないのは理解に苦しんだ。なぜ妻は電話に出たくなかったのか。兄やんはどのタイミングで死ぬのを止めたのか。そしてなにより富士山頂より高度でマイナス70℃の中、上半身裸で自転車に乗って死なないのか?(笑)。
 つまりこの作品、個々のエピソード(素材)はいいのだが、料理の仕方を間違えているのだ。監督の沖田修一は若干31歳。若さがところどころに出たと思う。典型的な「モッタイナイ映画」である。

 ところで、どう解釈していいか分からないエンディングのあと、僕はDVD特典の予告編を観て驚いた。これが本編以上に良く出来ているのだ。僕が観たかった「南極料理人」はすべてここに詰まっていた。もちろん2分足らずの映像である。行間は僕自身が埋めているのだけれど、南極で暮らす苦しみや哀しみ、そしてささやかな喜びがきちんとそこに描かれていたのだ。
 きっと予告編のエディターさんも、本編を観て「何かが足りない」と思って繋いだのだろう。
 そうか。予告編にあって本編に無いもの。それは感動だ。やれやれ、なんてこった。

 そんな本編でありながら役者は全員良かった。
 特に生瀬さんと豊原功補がいい。こんなに自然体な2人を観るのは久しぶりだった。
 そして堺雅人。なんて器用な人なんだ。振る舞いがスマート過ぎて、ちょっとリアリティに欠けたけれど、背筋がキレイな役者だなと感心。ああ、だから脚本さえもっとしっかりしてれば。モッタイナイ。

南極料理人 [DVD]

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コメント 12

クリス

おはようございます。
そうでした。いろんなエピソードが、狙いすぎたカットばかりにみえたのは、
説明がたらなかったからですね。
おもしろいのもあったけれど、残念なのも多かったなぁ。

けど、堺雅人はよかったです☆
最後、みんなのお母さんのようになってエプロンもしたところは
やりすぎーって思ったけれど、
料理する手つきが、「おいしそう」って思わせる器用さを持ってました。
仰るように、背筋もキレイだったなぁ。DVD特典が多くて、みごたえがありますね。
by クリス (2010-04-13 06:59) 

ken

レンタル版のDVDには予告編と特報しかついてませんでした。
セル版は違うのでしょうか?
エプロン姿は、西村さんの気持ちが表れていて僕は好きでした。
兄やんに「あぐら!」って怒るところなんか、まさに家族でしたね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-04-13 15:18) 

クリス

セルのデラックス版は、+特典ディスク=176分もありました。
「南極料理人ができるまで」とか「アナザーテイク」とか、
舞台あいさつの様子も入っていて。
まだ、前々みきれてません。
おまけのレシピカードみたときは、ちょっとプレッシャーを感じましたが。
子役と戯れる堺雅人が、とてもツボでした・・・^^; やー いいですね☆

「あぐら!」は、わたしも好きでした。
私的には、エプロン抜きにしてやって欲しかったシーンでした。
by クリス (2010-04-13 21:19) 

ken

クリスさんはいま完全に“堺雅人ブーム”到来中ですねw
特典映像、てんこ盛りなのはファンとしてありがたいけれど、
次の映画に行けなかったりして、ちょっと「やりすぎ~」なときもありますね。
by ken (2010-04-13 22:11) 

きさ

この映画、劇場で見たのですが、惜しいと思いましたね。
実は原作を読んでいるのでまだわかりましたが、原作を読んでいないといろいろと描き切れていないと思います。
俳優さんはみないいので、ますます惜しい映画です。
by きさ (2010-04-13 23:25) 

ken

きっと原作には細かく書き込まれているんだろうと思いました。
やっぱりね。
by ken (2010-04-14 00:28) 

漣花

いや~~堺雅人,大好きなんです。
これ,近々見ようと思っているのです。
なので,レビュー途中まで読みましたが,
酷評だったらコワイので(笑)サラサラと
2行おきくらいに読みました。(笑)
観てから,また読みに来ます。
堺雅人ものは,見たいのが数本控えております!!
by 漣花 (2010-04-15 22:49) 

ken

最近、堺雅人ファンの方、多いですね。
ご覧になったあとで、じっくり読みに来て下さいねw
by ken (2010-04-16 00:49) 

non_0101

こんばんは。
私はよく分からないまま笑い転げていました(^^ゞ
特に“ラーメン”は可笑しかったです~
この映画の後に公開になった「ホワイトアウト」は最初に南極の怖さを語っていました。
説明的でもそういうシーンがあると、その後にいろいろ伝わってくるのですよね☆
by non_0101 (2010-04-18 20:08) 

ken

ラーメンのエピソードは日本人らしい話でしたね。
でも、ラーメンを作るシークエンスは特に、感動的に作れた筈なんですけどね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-04-19 01:33) 

CORO

隊長が夜中にラーメンを盗み食い?していたのは、
三時間ごとに気象を観測するために起き出すから
そのついでだったのかな…などと、今急に思い付きました。
それも原作を読めばわかるんでしょうか^^;
by CORO (2010-06-18 21:35) 

ken

あれはただのラーメン中毒だからだと思っています…けど違うんでしょうかw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-06-19 23:48) 

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