007/ゴールデンアイ [2010年 レビュー]
「007/ゴールデンアイ」(1995年・イギリス/アメリカ) 監督:マーティン・キャンベル
前作以来6年ぶりに制作されたシリーズ17作目。
調べてみたら、公開が6年も開いたのは007シリーズ最長のことだった。
なぜこんなにブランクが開いたのか。その真意は知らないが、少なくともこの間(1989~1995)に東西冷戦が終結したことは大きな要因のひとつだろう。
荒唐無稽なスパイ映画に「東西冷戦」は好都合だった。東側の組織や人間を悪者にしてもクレームが来ることはないし、その設定がどれだけテキトーでも文句を言う人間が西側にいるわけでもなかった。だからエンタテイメントの世界でスパイは存在していられたのだ。
本作は冷戦時代のあるミッションから描かれる。
ソ連の神経ガス工場に潜入したボンド(ピアース・ブロスナン)は施設爆破の任務を遂行するが、共に潜入した006ことアレック(ショーン・ビーン)は敵に射殺されてしまう。
それから9年後。モナコを訪れていたボンドはNATO軍の最新鋭タイガー・ヘリコプターが何者かに奪われる事件に遭遇する。その犯人は9年前にアレックを殺した現ロシアの将軍ウルモフ(ゴットフリート・ジョン)だった…。
このように冷戦時代のエピソードをフックにして、「冷戦終結後もボンドには重要な任務がある」というアピールが盛り込まれたストーリーなのだ。
新シリーズのスタートとも言われた本作では、なによりボンドの存在理由を万人に納得させる必要があった。でなければ007シリーズは終わっていただろう。結果的には成功した作品と言っていい。
何かを得るためには、何かを捨てなければならない。
本作には過去のボンドを嘲るセリフがいくつかあってニヤリとさせられる。
まずは3代目マニーペニー(サマンサ・ボンド)との、いつものようなやり取りの中で彼女がこう言う。
「それってセクシャル・ハラスメントよ」
僕はまさかマニーペニーの口からこんなセリフが飛び出すとは思いもしなかったので正直この瞬間は驚いた。もちろんマニーペニーは半ばジョークで使っているのだが、時代の変化を感じる決定的なセリフだ。
これに輪をかけて強烈な一言を放つのが、同じく3代目のM。貫禄充分のジュディ・デンチである。
「あなたは女性蔑視の太古の恐竜で冷戦の遺物」
ボンド映画の中でも、1、2を争う名セリフだと思う。と同時にこの17作目のチームは本気なんだな、と思った。本気で007の新シリーズを作ろうとしているんだな、と。
Mにそう言われたときのブロスナンの表情もいい。バツの悪そうな、けれど「それって俺のことじゃねーし」とも取れる表情は、ある意味ジョークだ。
さらに、ボンドが任務の協力を仰ぐべくCIAのウエイド(ジョー・ドン・ベイカー)と思われる男に声をかけた返しの一言がこれ。
「お堅い英国のスパイはまだ合言葉ごっこか?この時代にあきれるよ」
こうなるともう自虐的ギャグである。もちろんこれはこれで楽しい。そして次は楽屋オチとも言える一言。元KGBの男に協力を依頼した際、ボンドは嘲笑気味にこう言われる。
「まだMI6勤務か?21世紀になるって時に?新しいMは女だって?」
観客が思っていることを登場人物が代弁してくれれば、観客の不満やイライラは解消される。これはその好例だ。たしかにジュディ・デンチは素晴らしい俳優だが、まさかMが女だなんて!と思った観客は少なくなかったはずだ。
そんな一部観客のマイナスイメージを、ジュディ・デンチは圧倒的な存在感で排除していくのだが、思えばセクハラ野郎の上司が女性という設定は(実際には、MI5のトップが女性と判明し、大ニュースになったことが関係しているらしい)、考え抜かれたいいアイディアだ。
総論。この6年の間に撮影技術も進歩して、なかなか見応えのある作品に仕上がっている。
アクションも良し、展開も良し、そしてメインのボンドガールも良し。ロシアのプログラマという設定でボンドと邂逅するナターリア(イザベラ・スコルプコ)が、とにかく可愛い。僕の中ではダニエラ・ビアンキに次ぐ第2位にランク・インした(笑)。
もうひとりのボンドガールは、オナトップという酷い名前の悪役で登場したファムケ・ヤンセン。歴代ボンドガールの中では珍しく出世した女優で、彼女はのちに「X-MEN」でジーン・グレイを演じることになる。
本作ではアストンマーチンDB5を登場させたり、Qの秘密兵器が思わぬ活躍をしたりと、シリーズ作品であることを忘れさせない演出も残されていて、新旧の持ち味をうまくブレンドしたシリーズの佳作と言えるだろう。満足。
JAMES BOND WILL RETURN
前作以来6年ぶりに制作されたシリーズ17作目。
調べてみたら、公開が6年も開いたのは007シリーズ最長のことだった。
なぜこんなにブランクが開いたのか。その真意は知らないが、少なくともこの間(1989~1995)に東西冷戦が終結したことは大きな要因のひとつだろう。
荒唐無稽なスパイ映画に「東西冷戦」は好都合だった。東側の組織や人間を悪者にしてもクレームが来ることはないし、その設定がどれだけテキトーでも文句を言う人間が西側にいるわけでもなかった。だからエンタテイメントの世界でスパイは存在していられたのだ。
本作は冷戦時代のあるミッションから描かれる。
ソ連の神経ガス工場に潜入したボンド(ピアース・ブロスナン)は施設爆破の任務を遂行するが、共に潜入した006ことアレック(ショーン・ビーン)は敵に射殺されてしまう。
それから9年後。モナコを訪れていたボンドはNATO軍の最新鋭タイガー・ヘリコプターが何者かに奪われる事件に遭遇する。その犯人は9年前にアレックを殺した現ロシアの将軍ウルモフ(ゴットフリート・ジョン)だった…。
このように冷戦時代のエピソードをフックにして、「冷戦終結後もボンドには重要な任務がある」というアピールが盛り込まれたストーリーなのだ。
新シリーズのスタートとも言われた本作では、なによりボンドの存在理由を万人に納得させる必要があった。でなければ007シリーズは終わっていただろう。結果的には成功した作品と言っていい。
何かを得るためには、何かを捨てなければならない。
本作には過去のボンドを嘲るセリフがいくつかあってニヤリとさせられる。
まずは3代目マニーペニー(サマンサ・ボンド)との、いつものようなやり取りの中で彼女がこう言う。
「それってセクシャル・ハラスメントよ」
僕はまさかマニーペニーの口からこんなセリフが飛び出すとは思いもしなかったので正直この瞬間は驚いた。もちろんマニーペニーは半ばジョークで使っているのだが、時代の変化を感じる決定的なセリフだ。
これに輪をかけて強烈な一言を放つのが、同じく3代目のM。貫禄充分のジュディ・デンチである。
「あなたは女性蔑視の太古の恐竜で冷戦の遺物」
ボンド映画の中でも、1、2を争う名セリフだと思う。と同時にこの17作目のチームは本気なんだな、と思った。本気で007の新シリーズを作ろうとしているんだな、と。
Mにそう言われたときのブロスナンの表情もいい。バツの悪そうな、けれど「それって俺のことじゃねーし」とも取れる表情は、ある意味ジョークだ。
さらに、ボンドが任務の協力を仰ぐべくCIAのウエイド(ジョー・ドン・ベイカー)と思われる男に声をかけた返しの一言がこれ。
「お堅い英国のスパイはまだ合言葉ごっこか?この時代にあきれるよ」
こうなるともう自虐的ギャグである。もちろんこれはこれで楽しい。そして次は楽屋オチとも言える一言。元KGBの男に協力を依頼した際、ボンドは嘲笑気味にこう言われる。
「まだMI6勤務か?21世紀になるって時に?新しいMは女だって?」
観客が思っていることを登場人物が代弁してくれれば、観客の不満やイライラは解消される。これはその好例だ。たしかにジュディ・デンチは素晴らしい俳優だが、まさかMが女だなんて!と思った観客は少なくなかったはずだ。
そんな一部観客のマイナスイメージを、ジュディ・デンチは圧倒的な存在感で排除していくのだが、思えばセクハラ野郎の上司が女性という設定は(実際には、MI5のトップが女性と判明し、大ニュースになったことが関係しているらしい)、考え抜かれたいいアイディアだ。
総論。この6年の間に撮影技術も進歩して、なかなか見応えのある作品に仕上がっている。
アクションも良し、展開も良し、そしてメインのボンドガールも良し。ロシアのプログラマという設定でボンドと邂逅するナターリア(イザベラ・スコルプコ)が、とにかく可愛い。僕の中ではダニエラ・ビアンキに次ぐ第2位にランク・インした(笑)。
もうひとりのボンドガールは、オナトップという酷い名前の悪役で登場したファムケ・ヤンセン。歴代ボンドガールの中では珍しく出世した女優で、彼女はのちに「X-MEN」でジーン・グレイを演じることになる。
本作ではアストンマーチンDB5を登場させたり、Qの秘密兵器が思わぬ活躍をしたりと、シリーズ作品であることを忘れさせない演出も残されていて、新旧の持ち味をうまくブレンドしたシリーズの佳作と言えるだろう。満足。
JAMES BOND WILL RETURN
ゴールデンアイ (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- メディア: DVD
東西冷戦が終結したとき、「ああ、もうこれで007シリーズは終わったな」とすら思いました。
なので、これが公開されたときは「まーだ、やる気かーいっ!」と思わず叫んでしまったくらい。
ちなみに先日WOWOWでこれまでの全作品一挙放送され、長男の依頼により録画&DVD焼きをやってました。
by 葵ママ (2010-07-15 21:10)
そう。その「まだやるんかい!」ってツッコミは想定内の作品だったと思います。
僕もwowowをブルーレイ録画&ダビングして観てますよw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-07-16 13:04)
これ、ショーン・ビーンの悪役が良かったですね。
Mが女性になったのは賛否両論ですが、私は悪くないと思います。
by きさ (2010-08-07 08:30)
僕も女性のMは大賛成です。それもジュディ・デンチで良かった。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-08-07 15:28)