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第9地区 [2010年 ベスト20]

第9地区」(2009年・アメリカ/ニュージーランド) 監督:ニール・ブロンカンプ

 観ていて一瞬たりとも気が抜けなかった。
 理解し難い世界観。凝視しても認識し難いビジュアル。そして1秒後に何が起きるか分からない予定調和ゼロの構成。
 まったく素晴らしい。
 アカデミー作品賞にノミネートされたのも大納得。これは近年まれにみる革新的なSF映画だ

 “革新的”の意味は「アバター」とは別次元である。「アバター」は映画製作における技術な革新で、「第9地区」はストーリー上の設定が革新的なのだ。

 南アフリカ、ヨハネスブルグの上空に突如現れた巨大宇宙船は地球侵略を目的としていなかった。彼らは宇宙船の故障によって地球に漂着し、自分たちの惑星に帰ることも出来ずにいたのだ。やむなく彼らは難民として地球で暮らすことになり、それから28年が経とうとしていた。
 その間に、人間とエイリアンとの共同居住区「第9地区」はスラムと化し、トラブルが絶えなかったため、彼らを管理する超国家機関MNUは、エイリアンたちを強制収容施設へ移動させる計画を立てていた…。

 僕たちの世代に「宇宙人」とは「侵略者」というイメージが強い。それは昭和40年代から50年代にかけてのSFテレビドラマやアニメーションの影響だが(個人的には「ウルトラセブン」によって、そのイメージは固定されたと思う)、1977年の「未知との遭遇」と1982年の「E.T.」、つまりはスティーブン・スピルバーグによって僕たちの固定観念は覆されてしまう。「友好的な宇宙人の登場」である。
 それ以前「地球の静止する日」に登場したクラートゥも友好的な地球外生命体ではあったが、残念ながら日本公開は1952年。僕たちは観ていない。また今になって思えば、「スーパーマン」も「ウルトラ兄弟」も友好的な宇宙人だが、彼らの多くは普段人間の姿をして地球で暮らしていたので、彼らを宇宙人という意識で見ていなかった。
 と、言うわけで1982年以降のSF映画に登場する宇宙人は、「友好的」か「攻撃的」のいずれかに分けられた。その概念を打ち破ったのが本作である。まさかエイリアンを難民として描こうとは。
 その容姿から“エビ”と人間に蔑まされる彼らは、第9地区内での生活を余儀なくされ、時に軍の人間に銃を向けられ、役所の人間の言いなりになり、ジャンク屋に媚びてネコ缶(地球に来て大好物になった)を売ってもらったりするのだ。
 これはまぎれもなくアパルトヘイトである。
 「アバター」でジェームズ・キャメロンは地球人を侵略者として描いたが、ピーター・ジャクソンはそれ以上の大胆な発想を得たのである。クリエイターとして素晴らしいと思う。僕もほんの少しだけクリエイティブな仕事に携わっていて、「斬新な」とか、「画期的な」とか、「今までにない」いろんな企画を求められるが、この作品を観て、それは“常識を覆すことでしか成し得ない仕事”であることを知った。

 ドキュメンタリー風という手法で撮ったのも巧かった。
 ドラマは“エビ”に立ち退きを通達するMNUの職員ヴィカスに密着するカメラ目線で描かれ(そのルールは観客に気付かれないよう、途中で反故にされるが)、手持ちカメラの荒れた画角と、まったく無名の俳優たちによって、リアリティの獲得に成功している。
 また後半ドラマが進むにつれ、ヒトと“エビ”の協力が描かれたのも興味深かった。利害関係され一致すれば、種は違えど手を組むのが生物共存の原則である。つまり同じ理想を掲げることによって、差別は撤廃できるということだ。

 いろんな意味で勉強になる1本だった。ただのSF映画と片付けるのはもったいない。
 観て損はないと思う。

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コメント 12

きさ

面白い映画でした。
ただ、結構前半はスプラッタ的なので好みは分かれるかな。
宇宙人が豪快に差別されているあたりgなんとも大胆というか。
ドキュメンタリータッチで話は進みますが、ラスト近くが盛り上がるのでそれで点数が上がりました。
B級SF映画と思ったのですが、意外とお金はかかっているのかも。VFXは良く出来ています。

by きさ (2010-08-28 15:54) 

ken

宇宙人が差別されているから、新しいんだと思いますね。
金はかかってましたねえw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-08-28 20:08) 

ecco

kenさん。。。
映画と関係ない話でごめんね。
ぱせりが虹の橋を渡りに行ってしまいました。

まだ
ちゃんと記事書けないけど
しっかりぱせりのこと。
記事にしようと思います。


by ecco (2010-08-28 20:39) 

ken

いってらっしゃい、ぱせりクン。
by ken (2010-08-28 20:45) 

midori

この映画,
「NINE」
とか
「9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~」
なんてぇのと似たような時期に
公開されてなかったでしたっけ?
だから何がなんだかって感じだったんですよね.
kenさんにレビューされなきゃわからないままでした.
「第9地区」は観たいと思います,ありがとうございました.
by midori (2010-08-29 12:14) 

ken

確かになんだか重なってましたね。
でも「NINE」とコレは明らかに違いますw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-08-29 14:11) 

脳外科医

コレと「アバター」を立て続けに観ました。
アプローチ方法が相当に異なる2作ですが
宇宙人ものとしては両作共に素晴らしい出来でした。

確かに宇宙人=侵略者の概念はウルトラセブンで刻み込まれました。

by 脳外科医 (2010-08-30 18:36) 

ken

第1作の「姿なき挑戦者」は傑作だったと思いますw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-08-31 10:32) 

漣花

今日ツタヤで,手に取ったのですが,
今週は忙しいのだった・・・と思い,返却
しました。
時間があって,必ずじっくり観られる日に
借りようと思って。
by 漣花 (2010-08-31 23:31) 

ken

2本借りようとして1本で止める、ってこと僕もよくありますw
あー時間が欲しい!
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-09-01 14:00) 

てくてく

こんばんは^^
面白かったですね~。
観ている間中、ワクワクしてしまいました。
こんな映画に巡り合えるから、止められないんだよ~って感じ^^
by てくてく (2010-09-04 19:12) 

ken

そうそう。こんな映画に年に何本出会えるか、なんですけど
「いつか当たりを引くだろう」って希望的観測にギャンブル性もあって、
だから止められないんだと思いますw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-09-05 00:54) 

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