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カムイ外伝 [2010年 レビュー]

カムイ外伝」(2009年・日本) 監督:崔洋一 脚本:宮藤官九郎、崔洋一

 
原作ファンからすると悲しくなるほどの駄作。
 白土三平の原画を使い、カムイのプロフィールと、彼の置かれた状況をナレーションで伝えるオープニングは良かった。大抵の原作ファンはこの導入を喜んだだろう。しかし原作を読んだことのない観客がカムイの苦悩を理解できたかどうかは甚だ疑問だ。恐らく観客の大半は原作未読だったはず。なにせオリジナルが初めて世に出たのは今から約45年前なのだから。

 僕は子どものころに「忍風カムイ外伝」というテレビアニメを先に観ていた。その後上京し19歳で友人から原作を借り受け、「カムイ伝」と「カムイ外伝」を読んだ。原作を読んで驚いたのは、タイトルに「カムイ伝」とありながら、実はカムイ一人の物語ではなく、江戸時代のあらゆる身分の人間を登場させた壮大な群像劇だったこと。そして綿密な時代考証に裏打ちされたリアリティ溢れるドラマだったことである。しかも殿様から非人まですべての身分を描いているため、“忍び”の立ち位置も
良く分かる仕組みになっていた。
 だが原作を知らない多くの観客にカムイの“抜け忍”という立場と、その苦悩を伝えるにはオープニングのナレーションだけでは圧倒的に説明不足だったはずだ。山崎努が読んだオープニングの全文を採録してみよう。

 17世紀、日本。徳川時代。
 
貧しい村で一人の男がこの世に生を受けた。
 
男の名前はカムイ。
 
理不尽な階級社会の最下層で、少年はたくましく育った。
 
カムイの願いはただ一つ。強くなること。それは自由な人間として生きること。
 
やがて少年は村を抜け出し、あてどのない旅に出る。
 
だがそこにあるのはどこまでも冷たく大きな壁。
 
貧しさ故に忍びとなり、忍び故に技を磨き、その技で人を殺め、掟に縛られ、
 
やがて抜け忍になり、死の淵へと追いつめられる。
 
だが真の敵は追忍たちの果てしなく続く攻撃ではない。
 
誰も信じられない己の心である。
 
カムイの夢はこの世にないのか。
 
それでもカムイは逃げ続ける。
 
生きるために。

 
「カムイ外伝」という物語の要約としては素晴らしくまとまった文章である。
 クドカンが書いたのか崔洋一が書いたのか知らないが、僕はこのナレーション原稿には感動をした。続いてタイトルが出てきたとき、「巧くテイクオフしたな(映画の見方を巧く伝えたな)」と思ったのだけれど、しばらく観ていて僕ははたと気が付いた。とても重要なことがひとつ伝えられていない。それは“抜け忍”を始末する理由である。
 「カムイはともかく、すでに足を洗って何年も経ち、漁師の妻として子どもまで産んだスガル(小雪)をなぜ始末しなければならないのか」
 そう気が付いたが最後、観客はストーリーの整合性を見失ってしまうだろう。
そもそも「裏切り者には死あるのみ」という裏社会特有のルールだけじゃないところが、「カムイ伝」の面白いところなのだが、それが伝わっていないのは残念だ。

 そんなことよりも駄作に成り下がった一番の理由はCG演出のレベルとクオリティの低さによるものだ。中でも僕が一番ガッカリしたのは、カムイの必殺技「飯綱落とし」をスローモーションで見せたこと。もう一つの必殺技「変移抜刀霞切り」も同じく、いずれも目にも留まらぬ早さこそ「必殺技である所以」なのだが、それをスローモーションのみで見せるというセンスのなさに閉口してしまった。スローモーションは実際のスピードと比較してこそ、その効果が発揮される演出なのにだ。
 他にも忍者の身軽なアクションは再現性が極めて低く、「グリーン・ディスティニー」のようなファンタジーにもなりきれていない。この中途半端さはまったく納得できなかった。とにかくCGは酷すぎる。
 
 あとは松山ケンイチ。ここは個人の好みだが、僕はまったく好きじゃない。僕がプロデューサーなら水嶋ヒロに頼む。あるいはカムイの目尻を追い求め、韓国人俳優を起用するかも知れない。
 最後に崔洋一。テレビに出過ぎて映画の作り方を忘れたか。「血と骨」は良く出来てたのに。

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コメント 2

movielover

辛口ですね!

崔洋一「血と骨」は私も良かったと思います。
原作を知らないので、観たときにどう思うか微妙ですが、
こういう作品は背景をきちんと理解できないと、
映画自体への感情移入もできなさそうです。
この時代にCGのレベルが低い、は致命的ですね。

松山ケンイチはドラマかデスノートくらいでしか観たことがなく、
判断に苦しみますが、「ノルウェイの森」の主演なので気になるところです。

by movielover (2010-11-21 21:36) 

ken

原作に思い入れが強いとこういうことになってしまうんですね。
僕は「原作モノの映画は原作を読まずともおもしろい映画でなければならない」
と言い続けているので、自分(監督)だけ分かったつもりで作っている映画には
どうしても辛口になってしまいますね。
by ken (2010-11-22 14:19) 

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