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ゼロの焦点 [2010年 レビュー]

ゼロの焦点」(2009年・日本) 監督:犬堂一心 脚本:犬堂一心、中園健司

 「松本清張を観る」第11弾(うおい)。
 2010年元旦から始まったこのシリーズ。今年最後の1本も松本清張がいいだろうとリメイク版を選んだ。広末涼子がたとえ誰のものになろうと(再婚相手が“ロウソクおじさん”とは思わなかったけれど)好きなものは好きなので、見納めには丁度いい。

 今年1月に観た1961年版の「ゼロの焦点」は期待したほど面白くなかった。
 面白くなかった理由のひとつは「なにかと説明が足りない」からだった。オリジナル版の上映時間は100分弱しかなく、だったらあと20分ほど伸ばして、より丁寧に説明を加えれば、かなり面白い作品になるだろうと思った。そこでリメイク版の尺を確認したら131分だと言う。なるほど。と言うことは「オリジナルの反省を活かして、リメイクはこの尺に落ち着いたんだな」と僕は勝手に想像をした。これを人は「思い込み」と言う。

 確かにオリジナルより丁寧に描かれたシーンも多い。
 特に先のレビューで「僕なら少なくとも憲一が巡査をしていた時代のシーンを入れる」と書いたけれど、まさしくそのシーンが挿入されていて、憲一(西島秀俊)と久子(木村多江)の関係性はより分かり易くなった。しかしどういうわけだが今回も鵜原憲一と曽根益三郎が同一人物であることを禎子に気付かせるシーンは作りが甘い。禎子のナレーションで明らかにするのはいいが、なぜフォローの映像をインサートしないのか。理解に苦しんだ。

 それにしても、昭和30年代初頭のドラマをいま映画化して、どこまで室田佐知子(中谷美紀)や久子の悲劇が伝わるだろうと気になった。と言うのも劇中の台詞で「パンパン」というワードが出て来たときに、その使い方が唐突過ぎると思ったからだ。
 GHQ占領下時代、米兵を相手に売春行為を働く女性。「ゼロの焦点」は当時社会の底辺にいた女性たちの中から、たった2つのエピソードを拾い上げまとめたものである。彼女たちも好き好んでパンパンに身を落とした訳ではなく、生きるためには抗えなかった運命を、どこまで現代の観客に理解させるかが、リメイク版に必要な要素だったと思う。それにしては背景の書き込みが圧倒的に足りていない。

 前後するが、オリジナルから書き足されて気に入ったシーンは他にもある。
 ひとつは雪の降る夜。事件の真相を知った久子が道路の崖を背にして、ナイフを持った佐知子に語りかけるシーン。ここでの木村多江の芝居は絶品だった。“薄幸女優”と呼ぶのは失礼だと知りつつ、けれどさすがと思わずにはいられなかった。本編で唯一泣けるシーン。
 もうひとつはクライマックス。佐知子が加担していた選挙で勝利し、マスコミの前で「女性の地位向上」を訴える佐知子に、禎子が「マリー」と声を掛けるシーン。いずれもオリジナルには希薄だった「被害者の想い」が解き放たれる瞬間だったと思う。
 ただし、もっともっと面白く出来たはず。もったいない。

 広末は可愛いけれど禎子にはミスキャスト。彼女は誰かに寄り添って生きる“扶養家族”の役でこそ魅力を発揮する女優だと思った。つまり「おくりびと」の美香や「龍馬伝」の平井加尾など“待つ女”に向いているのだ。禎子は待っていられずに行動してしまったせいで“女の強さ”が求められた。その芝居は彼女にはハードルが高いように思う。中谷美紀と木村多江が巧かっただけに頭ひとつ沈んだように見えたのは残念だった。

 さて。2010年もこれにて終了。
 今年はたった131本の映画しか観られなかったけれど、それなりいい映画に出会ったと思う。
 来年はどんな映画に出会えるのか、それもまた楽しみ。
 みなさま、どうぞよいお年を。
 今年のベスト20は年をまたいだ瞬間に発表します!

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コメント 6

coco030705

私はこの映画がとてもおもしろかったです。
映画のセットやロケ地もよかったし、3人の女優さんがそれぞれ魅力的に演じてました。広末涼子も持ち味のスレていない感じがよかったです。(確かに再婚相手があの人とは思いませんでしたが!(笑)
男優陣もそれぞれによかったと思います。松本清張独特の、暗さがあっておもしろい名作でした。
by coco030705 (2010-12-31 17:23) 

ken

きっとオリジナルを見ている人は少ないと思うので、
coco030705さんのように、素直に受け入れられる方も多いと思います。
ずいぶんとお金のかかった映画ですしね。見ごたえはありました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-12-31 19:08) 

うつぼ

原作を友人に借りておきながら読まずに映画も観ずにおります。。。
ロウソクおじさんと結婚した広末某嬢が昔の設定に合うのかどうか、という
のが気になっておりましたが、とりあえず観てみようかな。。。。
kenさんとはオフ会でお世話になりましたが来年もどうぞよろしくお願いします。
って、もう福山のカウントダウンライブに向かってますね。(^_^.)
明日の元旦は是非実業団駅伝を!私の勤務先も出ます!(弱いけど)
by うつぼ (2010-12-31 21:05) 

ken

ライブから帰ってきました。あけましておめでとうございます。
実業団駅伝は見たことがありませんでした。
なのでちょこっと観てみます。ちょこっとなのはこれから寝るから(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-01-01 05:26) 

Sho

原作を読んだのがずいぶん昔で、かなり忘れていますが
まさにkenさんのおっしゃる
>昭和30年代初頭のドラマをいま映画化して、どこまで室田佐知子(中谷美紀)や久子の悲劇が伝わるだろうと気になった
この部分が、ものすごく気になりました。現在の日本の若い女優で、誰が演じられるのかなあ・・と思いました。
佐知子を演じるには、凄みが必要だと思います。いつもは隠されている凄み。
そういう女優さんが今は少ないように感じます。

by Sho (2011-01-01 16:39) 

ken

中谷美紀と木村多江には満足しています。
ただこの背景を伝えるには言葉が足りていない気がしました。
原作、僕も読みたいと思います。
by ken (2011-01-01 22:17) 

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