ブラック・スワン（2010年・アメリカ）

原題：BLACK SWAN　監督：ダーレン・アロノフスキー

　羽田−ソウル間のフライト時間は約２時間。なのに映画のラインナップは妙に充実していた。
　ただ理解に苦しむのは2時間超の映画もたくさんあったことだ。金浦空港到着後、客が離れた席では「ガリバー旅行記」や「トロン：レガシー」があちこちで垂れ流しになっていた。
　僕はソウルに向かう機内で、搭乗早々30分近く寝てしまい、行きは映画を断念した。そして羽田に帰る機内でチョイスしたのが本作だった。CAとやりとりするだけでエンドマークを観損ねる可能性があったため、機内食もキャンセルして映画を観ることにした。
　
　「バレエ映画」と聞くとつい敬遠してしまう人がいるかも知れない。特にバレエと何の縁もない男子。しかし本作に限ってそれは「食わず嫌い」と断言したい。これはストレスによって現実と非現実の境を見失った一人のバレリーナの心理スリラーである。
　ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ（ナタリー・ポートマン）は元バレリーナの母親の子として生まれ、人生のすべてをバレエに捧げる毎日を送っていた。そんな彼女に最大のチャンスが訪れる。芸術監督のトーマス（ヴァンサン・カッセル）がそれまでのプリマ、ベス（ウィノナ・ライダー）を引退させ、ニナを起用すると発表したのだ。おかげでニナには重圧がかかっていた。演目は「白鳥の湖」。プリマは可憐な白鳥と、魔性の黒鳥を演じ分けなければならないのだが、ニナには黒鳥を演じる“引き出し”がなかった…。
　タイトルのブラックスワンとは言うまでもなく、この黒鳥のことである。

　バレエのプロから観たとき、ポートマンの評価はいろいろとあるだろう。けれど僕はその点については全く興味がない。僕はポートマンのシャープな肉体とそのポテンシャルから「バレエに生涯を捧げた女」という背景を受け止めることが出来たからだ。僕にはそれで充分だった。
　ただしこれがバレリーナの立身出世物語なら僕も愉しめなかったと思う。僕はバレエの世界にまったく明るくないからだ。
　けれど本作はバレエに関する知識がなくても充分愉しめる。
　観客は一体いつからニナの幻想に付き合わされていたのか分からないくらい、気がつくとズルズルとニナの深層心理に引きずり込まれている。そしてニナが黒鳥を舞うシーンではほぼ全員が心を粟立たせることになると思う。予告編でも一部露出していたが、CGの使い方がきわめて芸術的で、まさに映画にしか出来ない「白鳥の湖」を観ることになるからだ。

　初のオスカー受賞となったポートマンは言うに及ばず、ヴァンサン・カッセルも良かったと思う。僕に言わせれば彼は「オール・ザット・ジャズ」でロイ・シャダーが演じたジョー・ギデオン以来の名コーチだった。
　どうしても触れておきたいのはウィノナ・ライダー。落ちぶれたプリマ役で登場したけれど、この役を引き受ける器の大きさが好きだ。ウィノナ。
　佳作。

ブラック・スワン (ナタリー・ポートマン 主演) [DVD]

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コメント 16

ごぶさたしてます☆
わたしも、最近のウィノナの太っ腹ぶりが好き♪
かっこいいわ〜。

by ジジョ (2011-05-12 00:39) 

おひさしぶりです！
ウィノナは完全に吹っ切ってますね。これからも楽しみです。
nice！ありがとうございます。
by ken (2011-05-14 10:13) 

これは見たくて見たくて、もう予告編を何度も見ました(笑)
例えば「ピアニスト」のように「母娘」の関係性を指摘する人もいるようですね。心と言うものの無限さを感じます。早くみたいです。
by Sho (2011-05-15 11:05) 

娘に依存する母親の葛藤もドラマのフックになっています。
ぜひご覧になってください。
nice！ありがとうございます。
by ken (2011-05-15 12:05) 

こんばんは。
面白い作品でしたね。ナタリーももちろんよかったけど、
ヴァンサン・カッセルがすごくよかったです。彼の今までの役の中で
一番といっていいくらい。
ウィノナは昔の美しい彼女を知っているだけに、こんな役はちょっとつらいですね。
by coco030705 (2011-05-15 19:32) 

ヴァンサン・カッセルは「オーシャンズ12」で初めて知ったんですけど
「ブラック・スワン」でのトーマス役はハマってたと思いますね。
ウィノナにはこれからどこかで、再ブレイクして欲しいなと思います。
nice！ありがとうございます。
by ken (2011-05-15 20:47) 

先週見そこねました。
今週こそ必ず。
by うろごつはくば (2011-05-16 18:20) 

ぜひぜひ。
nice！ありがとうございます。
by ken (2011-05-16 23:41) 

ご無沙汰してます。
いつのまにかデザインも変わって…他の人のブログに来てしまったかと思いました(笑)。
この作品私も気になっています。
ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ウィノナ・ライダーの役どころ、やはり秀逸ですね。
ウィノナはエキゾチックな言動も含め、時々見せる振り切った感じが好きな女優です。
他の人に出せない面白さを持ってるんですよね。
早く観なくちゃ!!
by movielover (2011-05-20 22:43) 

こちらこそ、ご無沙汰してます。デザイン替えちゃいました。
先日、10年勤めた会社を辞めたら、なんだか気が楽になっちゃってw
ナタリーの黒鳥をぜひご自分の目で確認して下さい！
nice！ありがとうございます。
by ken (2011-05-20 23:15) 

お久しぶりです(^^)
>観客は一体いつからニナの幻想に付き合わされていたのか分からないくらい、・・・
の一文は私が感じたことが全て詰まっている表現です。
本当にズルズル引き込まれ一緒に胸が締め付けられる思いでした。
ウィノナ・ライダー！いろいろ経験してきたからアンナ目つきができたんでしょうね～素晴らしかったです。
by コザック (2011-05-22 10:07) 

コザックさん、お久しぶりです。
虚実入り乱れた見事な作品でしたよね。
僕は素直に感動しました。
nice！ありがとうございます。
by ken (2011-05-22 12:34) 

空港に途中で終わった映画の続きが観れる場所が有ってもよさそうですね。

by テンプラ・ソバ・ニーロ (2011-05-24 20:06) 

少なくともソウルには必要だと思いますw
nice！ありがとうございます。
by ken (2011-05-25 17:31) 

観てきました!!
ナタリー・ポートマンは言うに及ばず、そしてウィノナの振り切りっぷりがよかったです。
女優魂にやられました。

余談ですが、
ダーレン・アロノフスキーか、
ダーレン・アノロフスキーか、でいつも迷います(汗)。
by movielover (2011-06-13 23:47) 

ウィノナには、誰かもう一度チャンスを上げてほしいなと思いますけどねえ。
by ken (2011-06-14 12:40)