ティラノサウルス(2010年・イギリス) [2011年 レビュー]
原題:TYRANNOSAUR 監督・脚本:バディ・コンシダイン
24thTIFF8本目。
公式サイトの作品解説を読んで観てみたくなった作品。
「怒りをコントロール出来ず、自己崩壊寸前の男。彼が唯一心を開けそうな女性が現れる。しかしその女性も秘密を抱えていた…。ピーター・ミュランの存在感が冴え、予期せぬ展開が胸を打つ人間ドラマ。サンダンス映画祭外国映画部門監督賞受賞」
解説にある通り主演のピーター・ミュランがいい。
何がいいって顔だ。顔のシワがいい。ナイフで刻み付けたような深いシワが、本人の芝居以上に多くのことを物語っている。自分の内から出る「怒り」に抗えず、振り回され、傷つけ、傷ついて来た人生。そのシワには観る者に有無を言わせない迫力がある。僕は「この男に殴られないように観よう」と思った。僕が彼の近くにいても難癖を付けられないように。つまり遠巻きに、客観的に、冷静に。
ところが。遠巻きに観ていたから大抵のことには驚かないつもりでいたはずなのに、途中で大きな衝撃を受けた。ピーター・ミュラン演じる男が心許す女(オリヴィア・コールマン)の意外な告白である。
オリヴィア・コールマンが演じるのは心根の暖かい人だ。
決して美人とは言い難いけれど、男を包み込んでくれる優しさがある。しかし愚かな男はあとで思い知るのだ。そんな女性の多くは、他人より傷ついている女性であることを。
時々思う。その人の笑顔の裏にどれほど辛い経験があっただろうと。
たとえば年配の方のほとんどは、某かの「死」を経験している。「死」は人の一生で唯一定められた運命でありながら、直面するとやはり悲しい。場合によって受け入れることが困難なときもある。年配の方々は間違いなく、笑うことを忘れるような経験をしながら、歳を重ねているはずなのだ。だから僕は自分の身に不幸が降り掛かったとき、辛いのは自分だけじゃないと思うようにしている。
女の告白を聞いた主人公は自分の甘さに気付く。
人間は傷ついた人を癒せたとき、さらに大きな人間になれるのだと思った。
衝撃的な展開も決して“物語のなせる技”と思わせない周到な脚本が良し。
40オーバーでアンチハリウッドな人にはオススメ。
ピーター・ミュランに殴られないように。
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