デタッチメント(2011年・アメリカ) [2011年 レビュー]
原題:DETACHMENT 監督:トニー・ケイ 脚本:カール・ルンド
24thTIFFラストの10本目。
今年僕が観た中では一番の佳作で、もしやこれがグランプリを獲得するんじゃないかと思ったけれど、それはならなかった。TIFFの密かな愉しみは「自分がチョイスした作品がグランプリを獲らないかな」とこっそり期待すること。でもまだ一度も当たったことが無い。
代理教員として高校を渡り歩くヘンリー・バルト(エイドリアン・ブロディ)の新しい職場は、生徒も親も学校経営も破綻寸前の荒れに荒れた高校だった。ヘンリーはそれでも「失うものも恐れるものもない」代理教員としての立場を利用して生徒たちに真正面からぶつかって行く。
そんなヘンリーには介護施設に預けた父がいた。激しい認知症。父と向き合わない介護士のせいでヘンリーはことあるごとに呼び出され、父を介抱する羽目に。昼も夜も休む間もないヘンリーだったが、ある日未成年のストリートガールまで保護してしまう…。
原題の「DETACHMENT」は「無関心」という訳が適当だと思う。
「ATTACHMENT:愛情、愛着」の反対語である。
本作は「アメリカの教育現場で起きている様々な問題を白日の下にさらすこと」を第一の目的にしているが、代理教員を通して、現代人の歪なコミュニケーション能力についても意見しようとしている。
現代人、特に都市部で生活する人間は「誰かと繋がりたいと思う一方で、かといって深入りはしたくない」という矛盾した意識の下にプライベートを構築している。代理教員のヘンリーも大いなる矛盾を抱えた青年だ。父親とのコミュニケーションには積極的ではないが、学校の生徒たちとは積極的に関わろうとする。さらに未成年のストリートガール(サミ・ゲイル)まで保護し、自分のアパートに住まわせながら更生させようとする。
僕はヘンリーの行動に一貫性がないと思った。けれど途中、仕事とプライベートと分けて考えたときに「自分にも思い当たる節が無いわけじゃない」とも思えて来た。
少なくとも僕は、仕事とプライベートは別人格である。
例えば営業職ともなると、引っ込み思案ではいられなくなる。消極的では売り上げは上がらない。だから自分を偽って(自分を洗脳して)一歩前へ出ようとする。もちろん社会人としては必要なことだ。必要ではあるけれど、「仕事に追われる日々の中で自分自身を見失う」とよく言うのも、きっと別人格の時間が長過ぎるからなのだ。ということは、ヘンリーが未成年の街娼を拾った理由は、仕事もプライベートも関係なく、ただ自分の信念の所在を確かめたかったからだろう。
多くの人が自分の中に矛盾を見つけていると思う。僕もその一人として本作はとても考えさせられたし、いいキッカケと作ってくれた1本だった。
エイドリアン・ブロディのなりきり方が凄まじい。
それもこれもホームビデオタッチな質感やカメラワークにこだわった撮影が効いている。ブロディ以外の役者陣、クリスティーナ・ヘンドリックス、ルーシー・リュー、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ジェイムズ・カーンの芝居もリアリティに満ち溢れていた。
本作、中学高校の教員はゼッタイに観た方がいい。その気にさせるヘンリーのセリフをひとつ。
「この仕事の問題点は、誰にも感謝されないことだ」
なかなかの秀作。グランプリでも良かったのに。
もうこれ以上は無い、と言うほどの絶妙のタイミングでkenさんのこのレビューを拝読でき事に感謝です。
おっしゃるとおり、今人は「誰かとつながりたい」とやたら発信しながら
しかし濃密な関係は上手に回避していますね。
ぜひみて見たいと思いました。
by Sho (2011-12-24 10:09)
ことしはじめて、グランプリ作品をそうとは知らずに観ることができました☆
グランプリも熱くなったり笑ったりと、よかったですよ。
今作も観たいですね。わたしの中にも、別人格がいっぱいいます。シゴトのときのみならず、英語をはなすときも人格がちがう気がします。
プライベートがいちばん素なんだろなあって思う反面、どの人格もわたしなんだなあって納得していて、自分を見失うことはないですね。
by クリス (2011-12-24 13:17)
>Shoさん
僕も繋がりたいのに、繋がりたくない矛盾に満ちた人間です。
人って難しいですね。
nice!ありがとうございます。
>クリスさん
グランプリを獲った作品もスケジュールさえあえば観たかったんですよねえ。
この作品もなかなかの出来映えです。ぜひ機会があれば。
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-12-24 23:28)