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BROTHER(2000年・日本/イギリス) [2012年 レビュー]

監督・脚本・編集:北野武

 「アウトレイジ ビヨンド」がヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品されるというニュースを見て、ふと北野作品が観たくなった。
 北野作品は「ビヨンド」以前に15本あるのだけれど、僕が観たのは8本しか無く、特に本作は「アウトレイジ」のあとで強く「観たい」と思った1本だった。

 組織の抗争に巻き込まれ、日本に居場所を失ったヤクザの山本(ビートたけし)はL.Aへ単身高飛びする。そこにはヤクの売人をしている弟のケン(真木蔵人)がいた。山本はケンとその仲間を束ねて、地元を仕切るイタリアンマフィアに抗争を仕掛けて行く…。

 小さな組の組長が単身ロスに渡り、チンピラ以下の連中を束ねて地元マフィアを襲撃するという設定には相当無理がある。あるけれど、このストーリーは「北野武が『その男、凶暴につき』で映画監督デビューを果たしたストーリー」と似ているなと思った。
 日本映画界という閉鎖的な社会に単身飛び込み、圧倒的な暴力描写で世間をあっと言わせた北野武と、ロスで暴れまくる山本の姿が、僕にはぼんやり重なって見えたからだ。そうなるともう設定の無理は気にならなくなった。
 これは監督自身のエピソードをヤクザの世界に置き換えて撮った短編小説のようなものなのだ。

 本作は「アウトレイジ」と違って口数の少ない映画だ。
 それが「アウトレイジ」以前の北野作品の特徴でもあるのだけれど、口数が少ない分「間」が多い。北野作品の魅力は、この「間」にあると思う。
 僕にとって北野作品の「間」は、虫食いクイズと同じだ。その空白を埋めようと全力で頭を使う。もちろん正解は無い。だから観客は自分なりの解釈で物語を読み進めることになる。
 映画の完成を観客に委ねるに等しい仕掛け。正直、頭のいい映画の作り方だと思う。

 展開は誰もが読める。
 山本がロスを手中に収める結末にはならない。そうなったら究極のリアリティの欠如である。だからロスで好き放題やった山本は当然、最終的に追い詰められる。では見え見えの結末にたどり着いた先で、北野武は何を見せようとしたのか。
 北野武の美学である。ダンディズムと言ってもいい。
 シャイなたけしさんらしい脚本に僕は心が和んだ。どうしようもないヤクザの映画なのに不思議と心がほっこりした。
 山本の肝の据わり方といい、舎弟を演じた寺島進の兄弟愛といい、妙に感じ入る作品だった。
 僕はこの作品、好きだ。

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コメント 6

Sho

私もこの映画好きです。
なんで自分は北野武の映画が好きなのかなあ・・と思うと、
きっとkenさんのおっしゃる「間」なのだと思います。
「間」って饒舌ですよね。
「アウトレイジ」も観たいと思います。
by Sho (2012-09-06 21:53) 

ken

「アウトレイジ」はこの真逆にある作品です。
そちらも楽しんで下さい。nice!ありがとうございます。
by ken (2012-09-07 00:23) 

satoco

私もこの作品好きです。愛がありますね。弟たちもいい。
北野作品の中で、キッズリターンの次くらいに好きです。
by satoco (2012-09-09 10:31) 

ken

そうそう、キッズリターンは相変わらず観ることが出来ていません。
観なきゃ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2012-09-14 00:42) 

コザック

私もこの作品好きです。
みょうに男くさくて!愛を感じます!
ラストなんて結構熱い涙がこぼれて止まらなかった記憶があります。
こういう作品最近出会わないです。
by コザック (2012-09-17 23:07) 

ken

こういう作品に最近お目にかからないのは、商売にならないからかも知れませんね。
それは我々観客のせいかも知れません。
nice!ありがとうございます。
by ken (2012-09-18 15:28) 

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