イップ・マン 誕生(2010年・香港) [2013年 レビュー]
原題:葉問前傳/THE LEGEND IS BORN - IP MAN
監督:ハーマン・ヤオ
脚本:エリカ・リー、リー・シン
ヒット作の続編でいわゆる前日譚にあたるものは、およそ駄作が多いと警戒している。
今までで一番痛い目に遭ったのが「新・明日に向って撃て!」であることは、ここに何度も書いて来た。はたしてイップ・マンの場合はどうだろう。
「誕生」編は、6歳で詠春拳を学び始め、やがて成人して家庭を持つまでが描かれている。
敵役に日本人が配置されているのは過去2作と同じ。ここに幼なじみとの三角関係という要素が加味されて、文字通りイップ・マンの「青春時代」を描いたストーリーだが、物語としてはあまりにも平凡だ。
日本人の設定(悪徳貿易商人)も使い方(裏金を受け取らない中国人をシメる)もパンチに欠けるし、そもそも演じる澤田拳也がイマイチで(髪型なんてコシノジュンコだし)、我々が日本人であることを忘れてもカタルシスを感じるに至らず、なんともお粗末な復讐劇となっている。
初恋のシークエンスは、相手役のチャン・ウィンセンがまずまず可愛かったので百歩譲るとして、さて一番肝心なのはカンフーシーンである。
イップ・マンを演じるのはもちろんドニー・イェンではない。
ドニー・イェンに似たデニス・トーという無名の俳優である。実際に6歳の頃から武術を習い始め、18歳のとき史上最年少で「世界武術選手権大会」(知らないけど)で優勝したことがあるらしい。確かに(ドニーほどではないけれど)技は悪くない、しかしカンフーシーンの大半はフィルムが早回しされていて、これには興ざめしてしまった。
「序章」と「葉問」の最大の見どころは、間違いなくドニー・イェンのカンフーだった。
流れる水のような、無駄の一切無い、美しくも激しいカンフー。
それが今回は「完全に作られたもの」に見えてしまったのが残念だ。役者がどう頑張っても動きが遅く見えるのなら、その先の工夫は監督が行うべきである。
カット割りを熟考して撮影し、編集で劇的に見せる方法はきっとあったと思う。
無名の俳優を使う保険として、懐かしい人たちが担ぎ出されている。
サモ・ハン・キンポーとユン・ピョウ。「燃えよドラゴン」にエキストラ出演していた2人が、ブルース・リーの師匠の映画に出て来るのだ。まだ幼いイップ・マンの前で手を合わせる2人のシーンは、長年カンフー映画を観て来た者には実に感慨深い。個人的にこのシーンだけは観る価値があった。願わくばジャッキーも交えた3人の新作映画を観てみたいと思う。
イップ・マンの実の息子、という人も出て来る。スタッフの顔色を伺いながらセリフを棒読みする老人がいて、何者かと思ったらこれがイップ・チュンだった。スタントマンを使ってはいるが、この人とデニス・トーの組み手も見物。
しかし主軸のストーリーはどうにも貧弱で、やはり「前日譚」に佳作無しの証明になってしまった。
残念。
プロメテウスの様に、前日譚と言っても、薄皮一枚で繋げて
別物なら面白いですけどね。
by aneurysm (2013-03-24 18:37)
そうなんですよねー。
ひねりの無い前日譚はどうにもいただけません。
nice!ありがとうございます。
by ken (2013-03-27 14:59)