SSブログ

さびしんぼう(1985年・日本) [2015年 レビュー]

監督:大林宣彦
原作:山中恒『なんだかへんて子』
脚本:剣持亘、内藤忠司、大林宣彦

 言わずと知れた「尾道三部作」の三作目である。
 いや、もはや「言っても知らない」時代か。振り返れば公開されて今年ですでに30年である。30年だが個人的には一度も観たことがなかった。「転校生」(1982)も「時をかける少女」(1983)も大好きな作品だったが、この「さびしんぼう」だけ観ていなかったのは、顔を真っ白に塗った富田靖子の“意味”が分からなかったからである。僕にとってそれは“ピエロ”にしか見えず、ピエロが主人公となるとどうしても「物悲しい映画」としか思えなかったことが一番の理由だった。しかし今回、それとは違う別の理由があって「さびしんぼう」は観ていなかったのだ、と改めて気付いたのだが、その理由は後にしよう。公開当時観ていたらどんな感想を持っただろう、と想像しつつも、30年後に観たからこその感動は少なからずあった。

 寺の住職の一人息子ヒロキ(尾美としのり)は放課後、カメラの望遠レンズで隣の女子校を覗くのが日課。音楽室でショパンの『別れの曲』を弾く少女に恋心を抱いていたからだ。ヒロキはその少女を勝手に“さびしんぼう”と呼んでいた。そんなヒロキの前に、ある日ピエロのような格好をした謎の女の子が現れる。その子の名前は“さびしんぼう”だという…。

 観てみれば、どストレートな初恋ドラマである。
 ただし原作にある「小学4年生のヒロキと小学4年生時代の母親が邂逅する」という不思議な設定(のアレンジ)が重要な味付けになっている。振り返れば「転校生」も「時をかける少女」も、青春時代のちょっと不思議なできごとを描いた作品だった。なるほど尾道三部作とは初恋を主題にしたファンタジー映画シリーズだったのだ。
 しかし三部作の中では本作が一番、監督の「私的」な部分が色濃く出た作品だったと思う。
 顕著なのは序盤、ヒロキの「性格」「恋心」そして「母親との関係性」を、友人二人とのやりとりで説明をする件。設定もセリフもリアリティとはほど遠く、監督の理想とする健全な青少年の、健全な友情、健全ないたずら、そして健全なる悪態と、それに付き合うオトナたちでしかないのだ。これはたとえ30年前でも観ていられなかったと思う。これから観ようという方には「これは大林宣彦風味」と諦めていただくほかない。が、ここさえ我慢すれば、そのあとに大きなお楽しみが待っている。なんと樹木希林と小林聡美が親子役で登場するのだ。この二人を親子にしつらえたキャスティングの破壊力たるや(もちろん30年後に観たからだが)、マーロン・ブランドとアル・パチーノの比ではない。小林聡美と尾美としのりによる「転校生」オマージュのやりとりもあって、このシークエンスだけでも十分に観る価値があると言っておこう。

 さて30年目にして初めて観た「さびしんぼう」は、今だからこそ大切なことを教えてもらった。
 それは「実らない恋ほど人を成長させるものはない」ということ。
 二役を演じた富田靖子の芝居は、それを受け止めた尾美としのりによって完成し、今もって見ごたえのある美しいシーンに仕上がっている。それはあまりにも純真で、僕自身は子どもを持った今だからこそ、改めて素直に受け止められたのではないかと思う。
 30年前僕は22歳だった。「転校生」のときは19歳、「時をかける少女」のときは20歳。しかし22歳のときはもはや学生ではなかった。東京という街で生き馬の目も抜くようなテレビ業界の荒波に揉まれ、すでに何度かの修羅場(シャレにならないので書けない)もかいくぐっていた時分に、我が心と身体は純真無垢な大林映画を求めていなかったのだ。
 記憶に残る未見の映画を観るという行為は、意外と面白いかもしれない。


さびしんぼう[東宝DVD名作セレクション]

さびしんぼう[東宝DVD名作セレクション]

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • メディア: DVD


nice!(9)  コメント(5)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 9

コメント 5

coco030705

こんばんは!お久しぶりです。お元気でしたか。
私はまだブログを続けております。もうすぐ10年になろうとしています。こんなに長い間続くとは思ってもみませんでした。色々あった10年ですが、続けられる限り続けると思います。(しつこいかしら?)

>「実らない恋ほど人を成長させるものはない」
う~ん、実らない恋はたくさんあったけど、成長の兆しはなかったも……。今も昔も全然変わってない自分に唖然とします。
by coco030705 (2015-04-10 21:23) 

Sho

このところ、いくつかの映画をyoutubeで観、いろんな人の感想を知りたくなり、ネットをうろうろしておりました。
その時、「そうだ、kenさんはどんなことを書いていただろう」と思い、お訪ねしたばかりでした。
やはりkenさんの映画評はいいです。
ここで又新しいレビューを読ませていただくことができて、とてもうれしいです!!
さて、この映画、ずっと気になりながら、それこそ30年未見です。
ぜひ観ようと思いました。
尾美としのりという俳優は、とても好きです。
観る度に、うまいなあと思っています。
by Sho (2015-04-11 08:41) 

ken

>coco030705さん
お久しぶりです。
ホントだ。気がつけば10年ですね。僕は未だに疎遠になったままですが、いつかまた頻繁に更新するときが来ると思います。末永くお付き合い下さいませ。

>Shoさん
いつもありがとうございます。
齢を重ねて改めて観る映画の面白さにのめり込みつつあります。観たけどレビューを書いていない作品もあるので、いつかまた整理したいと思っています。
by ken (2015-04-11 22:51) 

non_0101

お久しぶりです。
「さびしんぼう」から再開とはさすがですね(^^ゞ
私にとって“記憶に残る未見の映画”とはどれだろうなあと思い巡らせました。
また、いろいろな映画を教えて下さいませ☆
by non_0101 (2015-04-26 20:21) 

ken

お久しぶりです。
いや、再開させたというか、ちょっと時間ができたので
書いてみたって感じです(笑)
引き続きよろしくお願いします。
by ken (2015-04-27 12:32) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。