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クヌート [2009年 レビュー]

クヌート」(2008年・ドイツ) 監督:マイケル・ジョンソン

 ホントかどうか知らないが、動物の子どもの中で一番カワイイと言われているのがホッキョクグマなのだそうだ。そうかな。猫も犬もフツーにカワイイと思うけど。でも白クマの子どもなんてなかなか見られるもんじゃないから、希少価値という意味では一番かも知れない。そう思っていた。本作を観るまでは。でも。

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キャラメル [2009年 レビュー]

キャラメル」(2007年・レバノン/フランス) 監督・脚本・主演:ナディーン・ラバキー

 どうやら僕は女性讃歌の映画が好きらしい。
 
 これはレバノンの首都ベイルートにある美容院に集う女性たちの群像劇。
 不幸になると知りつつ不倫から抜け出せない美容院の女主人。結婚を間近に控えながら、イスラム教徒であるが故の悩みを抱えている従業員。老いを受け入れられず女優のオーディションを受け続ける常連客。姉の介護のために自分の人生を棒に振ったと失望する近所の老女。
 普遍的なものと、お国柄によるものはあるが、女性ならではの悩みが客観的に綴られ、まるで短編集のようにさくさくと展開するところが小気味いい。

 まず特筆すべきは、美容院の女主人を演じるナディーン・ラバキー自身が監督を務めていること。順序としてはおそらく「監督が主演した」とするのが正しいのだろうが、その美貌とプロポーションから僕は「きっとレバノンのトップ女優に違いない」と思っていたので正直驚いた。
 その演出面で僕は観ながら二つの映画を思い出していた。
 1本は「ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた」
 監督自ら3人目のウェイトレスとして登場し、女性の精神的自立をユーモアを交えながら描いた佳作で、男には絶対に書けない脚本が爽快だった。女性監督による女性が主人公の映画は、男にとっていい意味での“裏切り”が散りばめられていて、まるで好きになった女性を興味深く観察する感覚に似て、観ているだけで心地良くなるのだ。
 もう1本は「オール・アバウト・マイ・マザー」。
 こちらはスペインの巨匠ペドロ・アルモドハルの作品だが、「女に生まれたが故のそこはかとない哀しみ」の描き方がとても良く似ていたと思う。これは宗教的な関係で男尊女卑が色濃く残るレバノンの“女性”監督だからこそ成し得た仕事だろう。男には理解されない、この国独自の「女の世界」が実に丁寧に描かれていたと思う。

 「キャラメル」はレバノン版の「SEX AND THE CITY」として観てもいい。
 はやり宗教的な関係でオリジナルほどあけすけに「女の性」は語られないけれど、個々で悩みを抱えていた4人の女性が、気が付くと行動を共にしている様が観ていて面白かった。それはまるで外敵から身を守るために身体を寄せ合う動物たちのようで、微笑ましくもあり愛おしくもある様だった。

 女性のもつ様々な側面を、いくつも垣間見せてくれる佳作。
 そして、英語圏以外の映画の面白さを再発見させてくれる掘り出し物。

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レッド・ドラゴン [2009年 レビュー]

レッド・ドラゴン」(2002年・アメリカ) 監督:ブレット・ラトナー

 「ハンニバル」を観てから、これもいつかと思っていたレクター3部作の1作目にあたる作品。
 いや、面白かった。
 これも「容疑者Xの献身」同様、原作の良さは出し切れていないだろうが
、サスペンス映画としては申し分ない。ストーリーとキャスティングという点においてはレクター3部作の中で本作が一番好きだ。

 まずキャスティング。
 主役2人のほかに、「スモーク」のハーヴェイ・カイテル、「イングリッシュ・ペイシェント」のレイフ・ファインズ、「パンチドランク・ラブ」のエミリー・ワトソン、そして「カポーティ」のフィリップ・シーモア・ホフマンが名を連ねる

 このキャスティング・バランスは絶妙だ。
 ときどき主役クラスの俳優が出ないシーンになると、途端にパワーダウンする作品があるけれど、本作のキャスティングはアンソニー・ホプキンスや、エドワード・ノートンが出ていないからと言って決して見劣りするシーンがない。誰と誰が2ショットになっても良い化学反応が起きていて、カットの隅々にまで力がみなぎっている感がある。実に素晴らしい。個人的にはハーヴェイ・カイテルである。相変わらず格好良くて参る。

 ストーリー。
 このシリーズは「幼少期の受け入れ難い経験が、人格の形成に大きな影響を与える」をテーマに登場人物の創造がされているが、本作の猟奇殺人犯については「同情の余地あり」なのがいい。殺人のディテールは相変わらず残忍だが(鏡の破片をそこに突っ込むのはやめて)、人と鬼畜との境目で揺れている様は実に見応えがあった。

 と言いつつ不満もあるのだ。これが(笑)。
 ストーリー上の時系列は1作目だが、公開順では3作目である。本作はそれを踏まえて「レクター博士の素性」を極端に排除した作りになっている。おかげで“つかみ”も抜群で、映画としては見事なテイクオフを果たすのだが、シリーズ初見の人には「なぜFBIはレクター博士に助言を求めに行くのか」が伝わり難いだろう。僕は「過去2作を観ていて当然」という製作者のおごりが気に入らなかった。
 合わせてもう一点。“猟奇殺人犯”のトラウマに関する描写も若干だが足りなかったように思う。が、ここは上映時間との闘いで止む無く割愛したものと思いたい。

 映画は「終わりよければすべて良し」でもある。
 本作のラストショットは巧かった。そして多くの人が再び「羊たちの沈黙」を観たことだろう。僕も確実にそうする。

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容疑者Xの献身 [2009年 レビュー]

容疑者Xの献身」(2008年・日本) 監督:西谷弘 脚本:福田靖

 いろんなことに合点がいった1本。
 
 僕はテレビドラマをほとんど観ないので(と、言いつつ昨日から始まったNHKの「坂の上の雲」は観た。金かかってんなあ、と思いつつ来週も観る予定)、テレビからスクリーンへ進出した作品には基本ついて行けない。当然だがキャラクターの背景など「知ってて当然」で作ってあるし、テレビで放映されたエピソードもいくつか流用されていたりするからだ。じゃあ、どうして観たかと言えば、単なる興味からである。それ以上でも以下でもない。ついでに多くを語る映画でもなかったので、冒頭の“合点”を簡単にまとめる。

 合点その1 「みっちーのギャグの意味」
 「ガリレオ」を観ていない僕に、「実におもしろい」のオリジナルはみっちーである。本当に申し訳ないと思ったが、本編でそのセリフが出たときにはつい笑ってしまった。福山の白衣姿も、すかした物言いも、すべてがみっちーに見えてどうしようもなかった。

 合点その2 「KOH+誕生の理由」
 特に書くことなし。ただ僕が知らなかっただけで(笑)。

 合点その3 「日本アカデミー賞」
 作品賞、助演男優賞、助演女優賞、とノミネートされているが、主演男優と主演女優のノミネートはなかった。…が、観れば分かる。皆まで言うな。

 合点その4 「原作の完成度」
 脚本がこれでいいとは思わない。けれど原作は相当おもしろいに違いない、と思った。
 天才物理学者と天才数学者のかけひき。そして意表を突いたトリック。エンディングでつい「実におもしろい」と言いそうになった。ただ原作の良さが本作にどこまで出ていたのかが気になる。

 脚本についてのみ少し詳しく書いておく。
 僕は序盤でどうしても引っ掛かることがあった。それは別れた夫を偶発的に殺してしまった元妻と娘が、警察に届けることをせず、殺人の隠蔽を選んだ理由だ。隣に天才数学者がいたからと言って、その男が自分に好意を寄せているからと言って、「殺人」のほかに「隠匿」の罪まで犯す理由はない。
何よりリスクが大き過ぎる。ところがそのエクスキューズはないままドラマは進行する。中盤以降でその理由はあきらかになるが、感情移入させるにはタイミングが遅かったと思う。
 クライマックス。明かされたトリックには感心したが、追い込みが足りない。
 これは解答を聞いても納得感の薄い難解なクイズと同じで、「問題のポイントはどこにあるか」の説明が足りないのだ。少なくとも「なぜ元妻には完璧なアリバイがあるのか」と、「なぜ一点の曇りなく嘘をつき通せるのか」を観客にとことん考えさせるべきだったと思う。

 それにしても、これは堤真一の映画だった。
 普段は豪気な役どころの多い彼が、背中を丸めた卑屈な役も出来ると知ってかなり驚いた。この役を堤真一が引き受けてくれたおかげで、作品そのものの“格”が上がったと言ってもいいだろう。
 ついでに福山雅治が担当した音楽そのものは気に入った。

 やはり原作は読んでおくべきか。

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容疑者Xの献身

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アイム・ノット・ゼア [2009年 レビュー]

アイム・ノット・ゼア」(2007年:アメリカ) 監督:トッド・ヘインズ

 ボブ・ディランの半生を6人の俳優によって描き分ける実験的映画。
 …と言いながら、主人公は誰もボブ・ディランを名乗っていない。これがまず僕を混乱させた。
 「THE FREEWHEELIN' BOB DYLAN」と思われるレコードジャケットも登場するが、似て非なるアートワークにしてしまっているし、ならば「詩人、無法者、映画スター、革命家、放浪者、ロックスター、すべてボブ・ディラン。6人の豪華キャストが演じる、生ける伝説」なんてコピーをチラシに掲載すべきではないと思う。僕に言わせればこれは「ボブ・ディランの生き様にインスパイアされた、トッド・ヘインズが独創的に構築したフィクション」である。

 断っておくと、僕はMTVアンプラグドのアルバムを1枚持っているきりで、ボブ・ディランのことは何も知らない。だからこそ僕はボブ・ディランのことが知りたくて観たのだけれど、何の知識も持たずに本作を観ると混乱するだけだ。少なくとも彼が辿った半生は知っておく必要がある。その裏側でディランは“どんな表情をしていたのか”を覗くのが、本作の正しい見方だろう。
 僕は何も理解できずにだらだらと観ている最中、「そういえば、みうらじゅんはこの映画をどう評価したのだろう?」と思った。そして映画のあとで調べてみたら、彼のこんな感想を拾うことが出来た。

 「この映画は『好きな人は好きかもしれないけれど、苦手な人はわからない』が、正直な感想です。だから、好きな人が観ればいいんじゃないですか?」

 仰るとおり。そして僕には分からなかった。
 ただし、映画の質感はとても良かった。リズムも、ダイアログも、俳優たちの演技もかなりいい。だから僕は「地獄の黙示録」以来、「この映画を理解したい」と心から思った。
 みうらじゅんさんは「オープニングの汽車が走っている映像の上に『メンフィス・ブルース・アゲイン』がかかって始まる。まるでこの映画のために作られた曲のようにかっこ良かった」と同じインタビューで語っていたけれど、ディランを知ればなるほどとうなずけるポイントがきっといくつもあるはずだった。それが理解できないのは悔しかった。悔しいと思わせるほど、これはスタイリッシュな映画なのだ。
 
 俳優の中では唯一、女性でディラン(をモデルにしたジュード)を演じたケイト・ブランシェットがいい。特にクライマックスで「僕はフォーク歌手じゃない」と語ったあと、しばらくしてカメラ目線になるのだが、その“目力”に衝撃を受けた観客は少なからずいただろう。「見ていたつもりが、実は見られていた」という主従逆転の衝撃。僕は「君たち(オーディエンス)が僕(ディラン)をどう見ていたかは知らないけれど、僕だって君たちを冷静に見ていたんだぜ」というメッセージかと思った。ディランに詳しい人は、あのショットをどう受け止めたのか聞いてみたい。

 実験的映画と評されたこの映画の構造は素晴らしいアイディアだと思う。
 「一人の生涯を、まるで群像劇のように多人数で描く」はぜひ別の人物で観てみたい。もしやマイケル・ジャクソンならかなり面白い作品になるんじゃないだろうか?

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トワイライト~初恋~ [2009年 レビュー]

トワイライト~初恋~」(2008年・アメリカ) 監督:キャサリン・ハードウィック

 太陽を浴びても死なないドラキュラ登場。死なないどころか光ってやがった(笑)。
 それにしても、この映画の前に「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」を観ておいて良かった。

 日本公開前、「高校生の女の子が、吸血鬼の男に恋をする」という設定を聞いた瞬間、「そんなもん誰が観るかい」と思っていたのだけど、続編の「ニュームーン/トワイライト・サーガ」が北米で大ヒットしていると言うので、気になって観てみることにした。
 原作は10代の女子を中心に世界中でヒットしたヤングアダルト小説なのだそうだ。どうりで登場人物のキャラ設定がむやみに“濃い”と思った。この手の小説は分かり易さが肝心だから。
 
 「インタビュー…」を観ておいて良かった、と思ったのは、ヴァンパイアの特性にいくつかの確信を持てたことだ。まずはヴァンパイアとなった瞬間から年老いることが無いこと。もうひとつは、動物の血だけで生きているタイプがいること。人の血を吸いたいのに人間と共存するためにじっと耐えている、と言う設定は単純に面白い。
 もちろん「そんなリアリティのないハナシ、観てられるかい」という方も沢山いるだろう。そういう人は観なくてよろしい。しかし観てみるともっとリアリティのない設定に気を取られて、メーンテーマの設定などどうでもよくなってしまう。
 その設定とは。実は主人公のベラ・スワン(クリスティン・スチュワート)が恋をするのは、「完璧な美しさを持つ」高校生ヴァンパイア、エドワード・カレンとなっている。演じているのは「ハリー・ポッター」シリーズのセドリックことロバート・パティンソン。
 僕に言わせればここでのパティンソンは、白塗りの力石徹だ。
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 ほら。どこか「完璧な美しさ」なんだ。
 ベラが可愛らしいだけに、ともすると「なんでソコ行く?」と思ったまんまで映画は終わってしまう。つまり「ヴァンパイアとの初恋という設定にリアリティが無い」なんて言っているヒマはどこにもないのだ。だから未見の方には「気にするな」と言いたい。
 僕は“白塗りの力石徹”だけが受け入れられずにいるうち、やはり白塗り(がちょっと笑える)のカレン家の人たちを受け入れ始めていた。というのも、彼らは純粋に「人間の味方」になろうとしていたからだ。僕が知る吸血鬼映画は「欲望に抗えず、愛する人の血を吸ってしまう」ものだった。しかしここに登場するのは、誘惑と闘い自分を見失わない高貴なヴァンパイアである。彼らを美しいと言うなら、それは外観ではなく精神だ。とするならば合点が行く。

 世界観は吸血鬼と狼男の対立を描いた「アンダーワールド」に似ていると言えなくもない。が、そこまで描き切れていないのがちょっと残念。さて続編はどれほど面白くなっているのか、展開が想像つかないだけに期待してしまう。

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秘密調査員 [2009年 レビュー]

秘密調査員」(1949年・アメリカ) 監督:ジョセフ・H・ルイス

 犯罪組織の大物を捕らえるべく奮闘する、財務省は秘密調査員たちの活躍を描く日本未公開作品。wowowの解説に「必見の傑作フィルム・ノワール」とあったので、売り文句に釣られて観てみた。ストレートなタイトルがいい。原題は「THE UNDERCOVER MAN」である。アメリカの映画タイトルは本当に単純だ。
 さて、正直観てみて驚いた。
 これは「アンタッチャブル」の原型じゃないか。

 主人公のフランク・ウォーレン(グレン・フォード)たちは、犯罪組織の大物を脱税で立件すべく、日夜懸命の捜査を行っていた。ところがやっとの思いで引き込んだ情報提供者たちが次々と謎の死を遂げる。それでも捜査の手を緩めないフランクだったが、ある日妻の身に危険が迫っていることを知る。

 テレビ版の「アンタッチャブル」は1959年にスタートし、4年間続いた番組だった。
 僕たちの記憶にある「アンタッチャブル」(1987)は、デ・ニーロがアル・カポネを、ケビン・コスナーがエリオット・ネスを演じた映画版である。本作はこの映画版に限りなく近い。つまり、それだけ面白いということである。終戦から4年後にこんな面白い映画を作るなんて、「さすが戦勝国」だなと、妙なところに感心をしてしまった。

 ハナシの筋が見えてしまえば、あとは如何にドラマチックに作られたかを確認するのみになってしまう。そうなると映像の派手さから言っても、当然87年版に軍配が上がるところだが、フィニッシュの爽快感は本作に軍配が上がる。  
 
ボスを逮捕された組織の人間たちは悪徳弁護士と結託し、陪審員全員を買収して裁判に臨もうとしていた。このままではフランクたちは絶対に負ける。そこでフランクから事情を聞いた裁判官が、開廷前に見事な裁きをする(ネタバレ自主規制)。僕は思わず膝を叩いて唸った。「巧い!」

 今から60年前に「アンタッチャブル」の原型が出来上がっていたことにまずは感動。
 けれど87年版に感動した当時の僕の気持ちはちょっと複雑。
 そして「映画の歴史はやっぱり面白い」と得心。
 残念ながらDVDはありません。

アンタッチャブル(通常版) [DVD]

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イーグル・アイ [2009年 レビュー]

イーグル・アイ」(2008年・アメリカ) 監督:D・J・カルーソー

 年間に約800本の劇場用映画が公開される中。あれも観たい、これも観たいと思う一方で、ときどき「ゼッタイ、ミナクテイイ」という信号が自分の内から出ることがある。何故そんなシグナルが出るのかは分からない。自分でも気付かないセンサーが反応しているのか、モノによってはタイトルとアートワークを観ただけで、
赤いパトランプがウーウーと唸りを上げる。
 「イーグル・アイ」もそのひとつだった。ポスターを観た瞬間に僕は「ゼッタイ、ミナクテイイ」という内からのメッセージをキャッチした。そして劇場公開時はシカトし、wowowで放送される段でそれが正しいのかどうかを確認するために観た。すまんねスピルバーグ君。
 そして、結論から言うと、
 やっぱり危険信号は正解だった。
 まったくなんじゃこりゃな映画だ。

 早い話がコンピュータの暴走に振り回される人間のハナシ。
 人間の暮らしを豊かにするために開発された技術が、実は人間の生活を脅かすことになるかも知れない、というテーマだが、こんなものはアイザック・アシモフの「ロボット三原則」以降、何かと扱われてきたテーマである。分かり易いところでは「2001年宇宙の旅」。近年では「アイ,ロボット」が同様のテーマを扱った作品として記憶に残る。
 しかも「イーグル・アイ」というワードが出て来るまでに59分も要し、観客は主人公たちとともに「何がどうなってんのかさっぱり分からん!」状況に置かれるのだ。こういった扱いを受けることに慣れていて、それを好む人は観てもいい(つまりドMということか)。
 けれど僕は「主人公だけでなく、観客までもほったらかしにする」映画を好まないので、例えば家賃も払えない青年のアパートに最新の武器弾薬が届いたり、銀行口座に突然75万ドルが振り込まれていたり、乗り込んだクルマの運転手に「子どもを返して!」と泣きつかれたりするとイライラしてしまう。で、正直な感想が「なんじゃこりゃ」になってしまうのだ。

 一方で、「
さすがハリウッド」という点もある。
 中でもヴィジュアルクリエイティブのアイディアと完成度に驚く。特にコンピュータのインターフェースはグラフィックデザインが素晴らしかった。ホント、こういうのやらせるとコイツらは巧い。
 主人公の一人レイチェルを演じたミシェル・モナハンも良かった。彼女が登場した早々「サンドラ・ブロックそっくり!」と思ったのだけど、なんとも言えない“味のある”いい顔をしている。僕はハナシの概要が見えた60分過ぎ辺りから「観るの止めちゃおうかな」と思っていたのだけど、結果的にはミシェル・モナハンがその誘惑を断ち切ってくれた。アメリカ人は「隣のお姉ちゃん」的なサンドラ・ブロックが大好きらしい。僕は好みじゃないけど、ミシェル・モナハンは好きだ。「近距離恋愛」にも出ていたので、そちらも観てみようかと思う。

 「2001年宇宙の旅」を観ていない若い世代には面白いだろう。
 街中に無数に存在する監視カメラがちょっと怖くなる現代のミステリー。

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 ミシェル・モナハン。この感じがなんかスキ。



イーグル・アイ スペシャル・エディション【2枚組】 [DVD]

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宇宙大怪獣ギララ [2009年 レビュー]

宇宙大怪獣ギララ」(1967年・日本) 監督:二本松嘉瑞

 濃厚な韓国映画を観たあとにギララである。
 「なんたる雑食」と思われる方もいらっしゃるだろうが、このチョイスには僕なりの理由がある。
 実は雑誌「東京人」の11月号で「映画の中の東京」という特集がされていたのだけれど、中に映画評論家の川本三郎さんが「失われた昭和を求めて~今ひとたびの『銀幕の東京』」というコラムを書いていて、そこにこんな一節があった。

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 山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズの第34作「寅次郎真実一路」(59年)は、このシリーズのファンにもあまり面白くなかったので、そういったら、若い映画好きがこんなことをいった。
 「僕はとても好きです。だって冒頭の寅さんの夢のシーンにギララが出てきたじゃないですか」
 (中略)これを聞いた時、ギララを知らなかった人間として、なんというか「負けた」と思った。(中略)彼は映画を大上段から批評しているのではない。ただ、味わっている。批評家より彼のほうが豊かな映画体験をしているのではないか。
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 僕も「なるほど」と思った。
 映画という有形財産は製作者のものであるけれど、映画は公開された瞬間から観客の無形財産にもなる。観客が抱いた“映画に対する思い”は、紛れもなく観客自身のものであるからだ。また、その“思い”は仮に少数意見だったとしても、第三者から非難されるべきものではない。
 ただし意見の食い違う者同士が、相手の意見を尊重しつつ、その映画の持つ魅力を語り合うのは、すばらしく生産的なことだと思う。たとえば僕が「風と共に去りぬ」のレビューで、「おーい、ちょっと待てーい!」と書いたことに端を発したコメントツリーは手前味噌だがその好例だ。
 僕は川本さんのコラムを読まなければ、きっと「ギララ」を観なかったと思う。松竹映画製作の怪獣映画は後にも先にもこれ1本きりで、以降、松竹が一度もこのジャンルに手を出さなかった理由は、本作のクオリティが招いた興業的惨敗にあることは間違いない。
 しかし、コラムに登場した“若い映画好き”は、こういった先入観がそもそも間違いであることを僕に教えてくれた。ステロタイプな発想では「豊かな映画体験」を得ることは出来ない、という自己反省を含めて僕は本作を観てみることにしたのだ


 オープニング早々、いくつか驚いたことが。
 まずオープニングテーマをボニー・ジャックスが爽やかに歌っている。
 タイトルは「ギララのロック」(おい!)。

 「♪地球、僕たちの星/宇宙、僕たちの世界/未来、僕たちの明日/皆、僕たちのもの」

 
…ってロックじゃねーし。昭和歌謡だし!(笑)。
 で、本編に入って驚いたのは、登場する宇宙船「AABガンマ」の造形に見覚えがあったこと。しかも今見てもちょっとカッコイイ。宇宙空間でケツから青白い火をボーボー出しながら飛んで行くのはどうかと思うけど、このデザインは悪くない。きっとプラモデルとかになっていたんだろう。で、なきゃ、僕が知っているはずがない。
 88分の映画でギララが45分過ぎまで出て来ないのも驚いた。
 その間はオチのない宇宙コントを観ている気分。ギララの登場を今か今かと待っていた子どもはずいぶん焦らされてしまったんだろう。その反動で「やっと出た!バンザーイ」だったのかも知れない。
 ドラマに恋愛の要素が含まれていて、それがエンディングに結び付くという展開も珍しい。そして留めに倍賞千恵子(さすが松竹!)がエンディングテーマ「月と星のバラード」を歌いあげる。

 「♪月と星のかなた はるかなこの空の果て/行きつくことのない 限りない この世界に
  あまりにも あまりにも ふたりは小さい/あまりにも あまりにも ふたりは小さい」

 永六輔先生の作詞である。「人間は小さい」と言うより、「宇宙は大きい」と言われたほうがよほど気分がいいのに、と思いつつ、倍賞千恵子の能天気な歌声を聴きながら、「ギララで言わんとしたことは、そういうことか?」と思った。
 絶対に違う。好意的にとるなら、「新たな環境因子や生物種の導入は生態系の崩壊や種の絶滅に繋がりかねない」というメッセージである。当時そういう意識があったかどうかは別だが、今となっては極めて重要なメッセージだ。

 とまれ、この1本で僕が「豊かな映画体験」を出来たかどうかは分からない。けれど、ひとつ気が付いたことがある。「ALWAYS 続・三丁目の夕日」の冒頭で登場して観客を驚かせたゴジラ。このアイディアは意外と「寅さん×ギララ」から来ていたんじゃないだろうか。そこに気付いただけでも、ギララは観た甲斐があった。なるほど、いい映画体験だった。

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母なる証明 [2009年 レビュー]

母なる証明」(2009年・韓国) 監督:ポン・ジュノ 脚本:パク・ウンギョ、ポン・ジュノ

 「殺人の追憶」「グエムル-漢江の怪物-」のポン・ジュノ監督の新作。
 ユナイテッド・シネマ豊洲では掛かっていなかったので、新宿バルト9まで遠征する。週末の天候は曇り。劇場はかなり混雑していた。チケット売り場は長蛇の列。
 「母なる証明」はシアター4。席数は僅か80席だが僕が観た回はチケットが完売していた。
 ちなみにバルト9で最大のシアター9(429席)は「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」を。次いで大きいシアター6(405席)では、「沈まぬ太陽」と「なくもんか」と「ゼロの焦点」を時間差上映していた。確か前作「グエムル」のときも、ポン・ジュノの作品は大きな小屋で掛かりにくいと聞いたが、バルト9では「剣岳 点の記」のメイキングである「剣岳 撮影の記」よりも小さな箱とは、何とも嘆かわしい。

 殺人事件の容疑者となった息子の無実を信じ、自ら真犯人探しに乗り出す母の物語である。決して目新しいテーマではない。しかし、少なくとも「殺人の追憶」を観た者はポン・ジュノに期待を寄せる。

 「すでに多くの人が使った“食材”を持ち出して、ポン・ジュノはどんな料理に仕立てたか」
 今回彼は考えた挙句に「知的障害」という素材を加えることにした(注:劇中や公式サイトで「知的障害」とは明言していない。あくまでも僕個人の認識による)。これは賛否分かれる点だと思うが、詳しくは後述する。
 映画が始まって間もなく、異様な緊張感が劇場を支配する。
 薄暗い漢方薬局で顔にしわを湛えた女が、乾燥させた薬草を裁断機でざくざくと切っている。女は外の様子をうかがいながら、それでも薬草を切る手を休めない。映画の文法で言えば確実に何かが起きる展開である。ポン・ジュノはそれを利用して観客の緊張を高めておき、続いて観客の予想を裏切る別の“仕掛け”を打つ。見事としか言いようのないテクニック。そして心理コントロール。「始まったが最後、観客の興味は絶対にそらさない」という確固たる信念を感じたシーンだった。映画作りに関して、今この人の作品ほど勉強になるものもないと思う。
 もうひとつ例を挙げる。
 容疑者の母が真犯人と思しき男を突き止め、その住まいへと急ぐシーン。母は歩を進めるにつれ足の運びが速くなる。流れる音楽にもつられて「いよいよ真相が明らかになる」と観客の心拍数が上がりきった瞬間、母の足がぬかるみに取られ、流れが停まる。
 緩急。
 急いたままで続くシークエンスは描き難い。そのための一旦停止。絶妙なワンカット。ポン・ジュノの才能に嫉妬する。

 随所に見せ場はあるが、肝心のストーリーをどう受け止めるかは個々で変わると思う。
 多くの絶賛の声も聞いた。さすがポン・ジュノだと。過去、最高傑作とも言われている。しかし僕は「知的障害」を扱ったばかりにポン・ジュノは袋小路にハマったと思った。僕にとって本事件の顛末は、僕の想像を超えてこなかったのだ。ネタバレにつながるので明言は避けるが、知的障害となれば「そこにしか行けない」ところで着地したように思う。
 ただし、それはポン・ジュノも承知の上だったのだろう。これは刑事や探偵が主役の推理ドラマではなく、母親という存在の大きさを知るためのヒューマンドラマであるからだ。
 クライマックス近く。母はある少年に「両親はいるか?」と聞く。少年は「どちらもいない」と答えると、母はさめざめと泣きはじめる。子どもの身を案ずる母親がいないがために、とある少年は不遇の生涯を歩むことになるのだ。
 さらに、ファーストカットへと繋がるエンディング。素晴らしい「伏線の妙」である。

 どうしても推理劇として観てしまう中盤に、何らかの手立ては無かったかと思わなくもないが、映画を観終えてからじわじわと湧きだすポン・ジュノからのメッセージは味わう価値あり。
 129分で充実のフルコースを味わった気分。

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