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見逃していたら絶対オススメの20本~2009年版~ [2009年 ベスト20]

 今年はいろいろあって忙しかった。
 そんなわけで観ることが出来た映画は168本。
 2006年の134本に次ぐ少なさでございました。ちょっと残念。
 
 振り返ると今年は映画のチョイスに大きな変化がありました。
 例年通り、鑑賞した映画を製作国別に分けてみると…。

 日本 61本
 アメリカ 54本
 イギリス 6本
 韓国 6本
 香港 5本
 フランス 4本
 オーストラリア 3本(マッドマックスシリーズw)
 中国 2本
 ロシア、ドイツ、トルコ、ポーランド、アイルランド、各1本
 その他合作 22本

 と、「ナニミル?」始まって以来、はじめて邦画がトップになったのです。
 驚きました。ただ最近の邦画を観たかと言うとそうでもないんですね。
 「GS映画」とか、「清水宏作品」とか集中的に観てますから。wowowの影響ですけど。

 でも今年も無事にオススメの20本が揃いました。
 2009年版のベスト20は次の通りです。
 あ、観た順に並んでます。今年も(笑)。

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AVATAR [2009年 ベスト20]

アバター」(2009年・アメリカ) 監督・脚本:ジェームズ・キャメロン

 公開直前。都内某所で3D版を観る機会に恵まれた。
 座席数は30と少ないが、デジタルシネマプロジェクターから送出される映像は230インチスクリーンに、音響はBOSEの7.1chサラウンドシステムから繰り出される。環境としては申し分なし。ここで「アバター」を観られたのは幸運だった。なぜなら僕はジェームズ・キャメロンが突き詰めたクオリティを、100%に近いところで体感することが出来たからだ。スクリーンの最前列や端っこで見る羽目にならなかったし、ひそひそ話をする客もいなければ、ケータイメールをチェックする輩もいない。僕は久しぶりに五感をフルに使って映画を愉む悦びを味わった。「傑作」と呼んでもいい大作で。

 この映画には語られるべきいくつかの側面がある。が、まずはテクニカルな部分の話を先にしてしまおう。
 僕は近い将来、「3D技術の応用は、本作によって大きく転換することになった」、と映画の教科書に載るんじゃないかと思う。
 
3D映画と聞くと未だに「飛び出すもの」と理解する人が多いが、ジェームズ・キャメロンが3Dで表現したのは、その真逆にある「奥行き」である。分かり易く言うなら「アバター」は「飛び出さない3D映画」。もしこれで「アバター」に興味を失ったら、そんな人は観なくていい。
 ジェームズ・キャメロンは最新技術を駆使しながら、それをウリにした「見世物」にすることなく、「世界観の伝達」にのみこだわって3D技術を応用したのだ。「画期的」という評価はこの点にこそ相応しい。
 
戦慄迷宮3D」の清水崇監督が、「クリエーターたちが新たな使い道を発見できなければ、3D映画は一過性のもので終わるだろう」と語っていたことを思い出す。一方でジェームズ・キャメロンは「もう3D映画しか作らない」と公言しているそうだ。僕は今日、清水崇監督のそれは杞憂に終わると確信した。そしてジェームズ・キャメロンの言葉には大きく頷いた。なにより3Dは2Dとは比べ物にならないほど映像が美しい。これを観ずして2010年以降の映画は語れないほど圧巻の美しさである。
 
 と言いつつ、実は2Dでも充分通用する作品でもある。
 僕は技術ばかりが先行して、脚本が稚拙だったら、批評家たちの酷評は免れないだろうと思っていた。上映時間は162分。ジャンルはSFアクション。主人公は無名の俳優。重要な登場人物はフルCGで表現されたキャラクター。過去の例を振り返ってもこれらの要素は不安材料でしかなかった。
 しかし。
 エンドクレジットを観ながら、僕は猛烈に感動をしていた。
 僕が最も心打たれたのは、本作の「コンセプト」そのものだ。大きく描かれているのは人間のエゴ、生物多様性を崩壊させる人類の悪事、そして資本主義に走るが故に起きる軋轢と悲劇。「アバター」は過去さまざまな過ちを犯してきた人間たちに“反省を促す”ために作られた壮大な“たとえ話”と言ってもいい。その証に劇中「9.11」をイメージさせるシーンも盛り込まれている。ただし本作でテロリストとなるのはアメリカ人である。
 地球を舞台にしたこれまでのSFエンタテインメントは、そのほとんどが「侵略を受ける」という被害者の立場で描かれることが多かった。しかし「アバター」はその逆。人類が侵略者となって他の星を襲う物語である。「エイリアン2」から23年。ジェームズ・キャメロンは人間を「エイリアン」に仕立て上げた。この発想の転換からすでに素晴らしい。

 作品の根底には「コミュニケーション」という大きなテーマも横たわっている。
 「アバター」にはいくつか目を見張る設定があるが、中でも秀逸なアイディアが、「衛星パンドラのナヴィ族といくつかの動植物は“絆”を結ぶことが出来る」という設定だ。この“絆”を結ぶことによってナヴィ族は馬や鳥を乗りこなすことが出来るようになるのだが、僕にとっては「スター・ウォーズ」の「
フォース」以上に欲しいと思わせる能力だった。自然と対話が出来るなら、人間はもっと謙虚な生き物になれるだろう。そう思わずにいられなかった。

 極めて現実的な話もしておくと、3D専用メガネをかけて2時間46分を観ても、目が疲れることはほとんどないと断言しておく。なぜなら「飛び出さない」から。もしも何かと飛び出す映画だったら絶対にもたなかっただろう。 
 最後に再びテクニカルな話になってしまうが、この作品でもうひとつ僕が感心したのは「被写界深度の使い分け」である。被写界深度とはピントが合っている領域の広さのことだが、ジェームズ・キャメロンは3D技術を研究した結果、「だからといって何でもかんでもピントを合わせればいいってもんじゃない」と気付いたのだと思う。彼は3Dらしく見せるものと、2D的でいいものをカットによって分類し、観客の目の負担を軽くしようとしているのだ。とは言え、たとえ2D的でいいと判断したカットでも、時にライブ映像のような突発的ズーム・インを多用して、緊張感を生む演出を施すあたりはさすが。恐るべしジェームズ・キャメロン。まさに映画作りの天才である。

 僕は今日字幕3D版を観たが、吹き替え版の3Dと2Dも
観てみたいと思った。もしも僕と同じことを考える観客がいるなら、「タイタニック」の興行成績は塗り替えられるかも知れない。
 繰り返すが、これを観ずしてこの先の映画史は絶対に語れない、極めて重要な1本だ。

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飢餓海峡 [2009年 ベスト20]

飢餓海峡」(1965年・日本) 監督:内田吐夢 脚本:鈴木尚也 原作:水上勉

 昭和22年。大型台風が北海道を襲った日、北海道岩内で質屋一家3人が殺された。犯人は家に火を放って逃げ、その火は台風にあおられ町全体を焼き尽くしてしまう。
 同じ頃、台風の影響で青函連絡船が転覆し、多くの死者が出ていた。
 台風一過。上がった遺体は次々と引き取られていくが、なぜか2体だけ引き取り手が現れない。乗船名簿と照らし合わせてみると、乗客数よりも遺体が2体多いことが判明する。
 函館署の弓坂刑事は、身元不明の2つの遺体が、質屋の事件と関係があるのでは、と推測。捜査を開始するが…。

 予てから感じていたのだけれど、やっぱりこの時代の日本映画はあなどれない。特に戦後のどさくさを舞台にしたドラマは、今後この時代に撮られたものをきっと超えられないだろう。
 まずロケーション。
 時代設定から10余年しか違わぬ日本で、原作のイメージに近いロケーションはまだ至るところにあったはずだ。北海道、下北半島、東京、舞鶴。いずれも素晴らしいロケーションの下で撮影が行われ、モノクロであることも手伝って、そのリアリティを再現するのは不可能と断言する。今、この映画を撮ろうと思ったら、背景の大半にCGを施す必要があるだろう。唯一青函連絡船の転覆シーンだけが、CGによってオリジナルを超えた迫力ある映像になるかも知れないが。
 そして俳優の持つリアリティ。
 主演の三國連太郎は戦争経験者である。しかも大人しく出兵したわけではない。三國は召集令状を受け取りながら「戦争に行ったら殺されるかも知れない」と召集を拒否し、一度は逃亡をしている。そして中国へ逃げようとしていたところを、母親の密告によって現れた憲兵に捕まり、そのまま中国の前線に送り込まれている。三國の部隊は1,000人超だったが、戦後帰国出来たのは、2~30人だったという。こんな経験のある若手俳優は今、いない。
 細かい話だけれど、僕は三國連太郎ほど握り飯を頬張る芝居の巧い役者を観たことがない。これは飢えを経験しなければ出来ない芝居だと思う。そんなシーンが本編にも出てくる。
 最後にスタッフの執念。
 東京五輪とともに爆発的に普及したテレビのおかげで、この頃の映画産業は斜陽の一途をたどりつつあったが、映画人たちはテレビには出せないスケール感ある作品作りに燃えていたと思う。連絡船転覆によって騒然となる函館港の様子は、エキストラの数からしても、テレビには出来ない本物のドラマを作るんだ、というスタッフの凄まじいエネルギーを感じた。よく「風と共に去りぬ」を今、製作したら予算がいくらかかるか分からない、というが、本作にも同じことが言えると思う。画面の隅から隅まですべてが本物の映像という事実は、デジタル技術の普及した今、何物にも代え難い価値がある。

 水上勉の描く人間像も圧巻だ。
 生きるために怪しい男とつるむ必要のあった犬飼多吉(三國連太郎)。
 不意に大金を手にし、一旦は這い上がったかに見えた娼婦の杉戸八重(左幸子)。
 どさくさに紛れた犯罪を許すまじと、その生涯をかけた刑事の弓坂吉太郎(伴淳三郎)。
 そして、戦中戦後の苦労を知らない正義感あふれる若手刑事、味村時雄(高倉健)など、真面目に生きようとしながら、時代に翻弄された人間の悲哀が重厚な筆致で綴られている。
 183分をまったく飽きさせることなく見せた本作は、出来れば「傑作」と言いたいところだが、個人的には演出と脚本に1か所ずつ不満がある。
 演出について。
 連絡船転覆のどさくさに紛れて小さな舟を手に入れ、沖に出た犬飼多吉と、質屋を襲った木島と沼田の3人。その中で木島が奪った現金入りの布カバンをたすき掛けにして終始大事に抱えていたのだが、沼田を襲うためにその布カバンを一旦外すアクションがある。この動作があまりに不自然だった。僕が木島だったらゼッタイに布カバンは外さない。これはストーリーの展開上、舟の上に現金だけ残るように仕向ける必要があって、そのためのアクションでしかなかったと思う。ここは作品全体を通して、鍵となるシーンだっただけにとても残念だ。
 脚本について。
 犬飼多吉の足取りが消えてから10年後、八重は新聞で「樽見京一郎」と名乗る実業家の存在を知る。そこから別の悲劇が起るのだが、「犬飼多吉と樽見京一郎は同一人物である」という仮説に対する警察の裏付けが決定的に甘い。
 この2点さえなければ、本作は「傑作」という評価が相応しい。
 されど、戦後の日本映画を代表する1本であることは間違いなし。秀作。

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飢餓海峡 (下巻) (新潮文庫)

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  • 作者: 水上 勉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1990/03
  • メディア: 文庫

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旅人(邦題「冬の小鳥」) [2009年 ベスト20]

旅人」(2009年・韓国/フランス) 監督:ウニー・ルコント

 東京国際映画祭6本目。「アジアの風」部門作品。
 
 1970年代の韓国。父親に捨てられ、孤児院に入れられた9歳のジニ(キム・セロン)が、その事実を受け入れて精神的自立を果たすまでの物語。女流監督の長編デビュー作にして、自身の体験を基にした自伝的作品なのだそうだ。
 
 観ればすべての人がキム・セロンに驚くと思う。と言うのも、およそ演技とは思えない言葉、素振り、そしてまなざしに観客は心を鷲づかみされるからだ。
 僕は途中これがドラマであることを失念しそうになっていた。僕はあわや「キム・セロンという少女の物語」を肉眼で観ているような錯覚に陥るところだったのだ。
 しかし、本篇は目の前の現実でもなければ、ましてやドキュメンタリーでもないことを、他の登場人物が簡単に教えてくれる。そして改めて驚くのだ。キム・セロンのそれは紛れもなく演技なのだと。
 これは「初恋のきた道」ではじめてチャン・ツィイーを見とめたとき以上の衝撃だった。

 オープニングからしばらくは、父と共に洋服を仕立てに行き、帰りに父とプルコギを食べ、父のために歌い、そして父の自転車で帰宅する“ありふれた幸福の断片”を通して、ジニの愛らしい笑顔が紡がれていく。ここまでは僕も純粋にドラマとして観ていた。しかし翌朝どこに出かけるのかと思いきや、新調したばかりの洋服を着て、父とともにやって来たのは孤児院。大好きな父はジニに別れを告げることなく逃げるように去って行き、ここからジニの激しい葛藤が始まるのだが、序盤の愛らしい笑顔から一転、自身を防衛するためにまとった鎧のようなジニの表情が美しい。
 クールビューティである。
 9歳の少女といえど自身を奮い立たせる姿はかくも美しいのかと僕は感動をしてしまった。その瞬間から僕はジニに感情移入をし、ドラマを超えて彼女にエールを送る“近所のオジサン”になってしまったように思う。そのクールビューティが時折、自分の境遇を呪って、あるいは自分の過去を反省して独白し、さめざめと泣くのだ。“近所のオジサン”は完敗である。「よしよし。じゃあウチの子になんなさい」と何度思ったか分からない。
 
 子どもに親は必要だ。しかし「親は無くとも子は育つ」と言う。
 その「育つ過程」をそっと覗くのが本作である。
 心を閉ざしていたジニは、やがて心を閉ざしていては自分の未来は無いと悟る。そして里親を見つけるための写真に収まるとき、ジニはそれまで見せたことのなかった笑顔を見せる。この笑顔をどう解釈するかは観客によるが、僕は女のしたたかさを認めると同時に、最愛の父との訣別を見た気がした。
 ちなみにジニの父親役をソル・ギョングが演じている。ところが顔出しするのは孤児院で別れ際のワンカットのみ。ここでのソル・ギョングの表情が抜群で、このワンカットが本作に圧倒的な厚みをもたらしている。
 
 キム・セロンの演技は必見。
 ウニー・ルコントの丁寧な演出が随所に光る、今年最高の掘り出し物。
 ぜひ日本でも一般公開して欲しい。

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私の中のあなた [2009年 ベスト20]

私の中のあなた」(2009年・アメリカ) 監督・脚本:ニック・カサヴェテス 脚本:ジェレミーレヴェン

 白血病の姉を救うため、臓器を提供するドナーとして生まれて来た妹と、その家族の物語。
 これはカナダに実在する家族をモデルに書かれた原作を「きみに読む物語」のニック・カサヴェテスが脚色したフィクション映画です。

 11歳のアナ(アビゲイル・ブレスリン)は姉のケイト(ソフィア・ヴァリジーヴァ)に腎臓を提供する手術を控えていた。姉を救うため、物心つく前から協力を強いられたアナだったが今回は拒否。しかも「両親を提訴したい」とある弁護士に相談を持ちかけた。理由を聞いた弁護士のキャンベル(アレック・ボールドウィン)はアナの依頼を受けることに。原告はわずか11歳の娘。そして被告は母。やがて家族それぞれの思いが露わになって行く。

 こんな映画ですから、僕は臓器移植からクローン技術に至るまで、
 「人間の生命に対する執着が生んだいくつかの問題」
 がメインテーマなんだと思っていました。もちろん序盤はドナーとして生まれて来たアナの尊厳を考える展開をするのですが、途中から大きく方向転換をします。
 これは「なぜアナは両親を提訴したのか?」という理由とリンクしているため欠かせない舵の切り方なのですが、個人的にはいささか肩すかしを食った気分でした。
 インプットしておくといいのは、これは倫理的な問題を観客に投げるものではないということ。僕が思う本作のテーマは「片思いの家族愛もある」だったと思います。

 ただとにかく泣けます。
 「心が震える」という慣用句がありますが、これは、「嗚咽で胸が波打つことを言うのだな」と思い知ったくらいです。
 僕はこの家族のお父さん、ブライアン(ジェイソン・パトリック)の立場でずっと妻と子どもたちを見ていました。何としても長女を救いたいという妻の気持ちは自分も同じ。けれど何を思って親を提訴したのか、下の娘とそれを支えた息子の気持ちも知りたい。もう頭の中はぐらんぐらんに揺れていました。そしてこういうときに男親は無力だなと思い知りました。男は観れば分かります(笑)。

 これは、世界中のどの家族にも起こりうる問題を取り上げた、極めて普遍的な物語。

 姉妹を演じたソフィア・ヴァジリーヴァとアビゲイル・ブレスリンの演技が見もの。「リトル・ミス・サンシャイン」を観た方はぜひ、役者として一回り大きくなったアビゲイルを是非観てやって下さい(すっかり父の気分)。素晴らしい成長を遂げています。

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サマーウォーズ [2009年 ベスト20]

サマーウォーズ」(2009年・日本) 監督:細田守 脚本:奥寺佐渡子

 すごい映画だ。
 この1本でアニメーションの存在価値が200%ほど持ち上がったんじゃないかと思う。
 「実写じゃないからこそ醸し出せたリアリティ」
 明らかに矛盾した言葉だが、「サマーウォーズ」を語るには相応しい。
 そして、これから作られるアニメーション映画の新たな指針になるような気がする。
 
 高校2年生の健二は、憧れの先輩・夏希にアルバイトを頼まれる。それは「一緒に里帰りして欲しい」というもの。行った先で待ち受けていたのは大勢の親戚たち。そこで健二は夏希のフィアンセを演じることになる。その夜、突然の展開に寝付けずにいた健二のケータイにある数式が届く。数学が得意な健二が暇にまかせて解読をすると、翌朝世界は一変していた…。

 ドラマは健二たちが生きる現実世界「長野県上田市」と、ネット上のヴァーチャル空間「OZ(オズ)」の2か所で展開する。
 正直に言うと、僕のようなアナログ世代には取っ付き難い設定だった。それでも最後まで観ることが出来たのは、これが実写ではなくアニメーションだったからだ。
 実社会において「現実世界」と「仮想空間」には大きな垣根が存在している。それは言語や宗教や距離と言ったものではなく「異次元」という絶対理由によるものだが、しかしアニメーションというプラットホームで描かれる2つの世界は、見た目にどちらもただの「絵」でしかない。「サマーウォーズ」は現実世界に存在するモノも、存在しないモノも、等しく「絵」で描くことによって、この垣根を取り払うことに成功している。だから僕はクライマックスでどれだけカットバックされても何の違和感もなかったし、途中断念することなくエンドマークを確認することが出来たのだ。
 細田守の前作「時をかける少女」のレビューで僕は、「アニメーション最大のメリットは、実写と違っていろんなものを“省略”出来ること」と書いた。補足する。アニメーションは実写(リアル)ではない。だから観客は誇張も省略も許し、“リアリティのハードル”を下げる。「実写じゃないからこそ醸し出せたリアリティ」とはこういうことだ。
 「サマーウォーズ」の功績もここにある。例えどんな世界、設定の組み合わせであっても、アニメーションは異なる世界のつなぎ目にある“段差”を吸収する、ショックアブソーバーとなり得ることを証明したのだ。これまでも「夢」と「現実」を行き来するアニメーションはあった。しかし本作はそれ以上の垣根を容易く乗り越えている点が大きい。アニメーションの可能性はこの1本で確実に広がったのだ。
 実写ではこうはいかない。
 そもそも可視化不可能な世界を描くためにはCGかアニメーションという方法を取るしかないのだから、やればやるほど実写との段差は大きくなるばかりである。
 ショック=違和感がなければ観客は物語に没入することが出来る。奥寺佐渡子の脚本は「時をかける少女」ほど洗練されてはいないが、「インターネットがどれだけ拡充しようと、人はふれあいなしに生きられない」というメッセージが“初恋の芽生え”と共に描かれていて微笑ましい。残念だったのは大家族のキャラクターがいまひとつ立っていなかったことくらいだろう。

 単純にアニメーション映画として観ても、OZの描写は素晴らしいと思う。
 オープニングまもなく登場するOZをはじめて観たとき、実は「村上隆のパクリか?」と思ったのだけれど、村上隆とルイ・ヴィトンのアニメーションプロジェクト「SUPERFLAT MONOGRAM」を監督したのは細田守だ。もちろん互いにリスペクトする部分もあるだろうが、独特の浮遊感を作りだすカメラワークは確実に細田守のテクニックだろう。
 世界中の観客とアニメーターに、これが日本のアニメーションだと自慢していい、現時点で最高のクオリティを誇る1本。

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SING FOR DARFUR [2009年 ベスト20]

シング・フォー・ダルフール」(2009年・オランダ/スペイン) 監督:ヨハン・クレイマー

 僕が理想としていた映画と出逢いました。
 この作品は今から四半世紀以上前、僕が脚本の勉強をしていた頃に「こんなものが書きたいな」とイメージしていたまんまの構造をしています。

 舞台は「シング・フォー・ダルフール」という世界的音楽イベントが開かれる日のバルセロナ。
 このイベントによる渋滞に巻き込まれていた道化師が最初の主人公です。…が、その道化師に話しかけたイギリス人女性→その女性の鞄をひったくった少年→少年から鞄を受け取ったバイクの少年→バイクの少年が鞄を届けた初老の男→その男に使いを頼まれた部下…。といった風に次から次へと視点が変わるのが、この作品の最大の特徴。そしてクライマックスには思いもよらない出来事が待っています。

 その昔、僕が考えていたのは「街ですれ違うすべての人にドラマがある」、その様を1本のドラマとしてまとめられないか、ということでした。その考えの基となったのは、15歳のときに聴いたさだまさしの「主人公」という曲の歌詞です。
 「あなたは教えてくれた 小さな物語でも 自分の人生の中では、誰もがみな主人公」
 この歌詞に猛烈に感動した当時高校1年生の僕は、その3年後に高倉健主演の「駅 STATION」を観て、まさしくすれ違う人たち全員にドラマがある倉本聰さんの脚本に心震わせ、「でももっと多くの人が登場するドラマを自分でも書きたい」と思っていたんです。ジャンルで言うと「群像劇」ということになるのですが、本作の素晴らしいところはまるでネットサーフィンのように次々と登場人物を乗り換えていくところ。
総勢30人以上(動物1匹も含まれる)で紡がれるドラマの中に、ではどんなメッセージが込められているかというと、タイトルからも分かる通り「ダルフール紛争」に関するものなんですが、このアプローチの仕方がまた今までの同様の映画にはない極めてCOOLなものでした。

 本作はダルフールの現状を直接的に訴えたものではありません。そもそも舞台はバルセロナだし、登場するのはその日バルセロナにいた人たちだけです。
 本作はこの映画に触れることによって、ダルフールのことを気に留め、自らアクションを起こして、ダルフールの情報を得るべきだ、というメッセージを発信しています。人から与えられるものではなく、自ら情報を取りに行くことで、この問題に対する人々の姿勢も変えようと。
 しかも本作は商業映画でないところもミソ。あくまで非営利で製作され、利益の一部はThe Sing For Darfur Foundationへ寄付されるそうです。面白い成り立ちだなあ。
 
 CMディレクターが監督を務めているだけあって、カットの重ね方も大胆で映像はスタイリッシュ。そして純粋に映画として、とてもよく出来ています。
 人から人への繫がりは、どこへどう繋がっているか分かりませんが、仮に僕からスタートしてもダルフールに辿り着けるんじゃないかと思いました。アフリカのことだからといって対岸の火事と決めてかかってはいけない。「ホテル・ルワンダ」以来、久しぶりにそんなことを思い知った佳作です。
 配給元は100か所のスクリーンでの上映を目指しているとか。
 あなたの街でも見かけたら、ぜひ。

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ディア・ドクター [2009年 ベスト20]

ディア・ドクター」(2009年・日本) 監督・脚本:西川美和

 滅多に使わない言葉だけど、僕にこの映画は「待望」という言葉がピッタリだ。
 「ゆれる」の西川美和監督待望の新作は、医者と患者の関係に一石を投じる作品でした。

 とある過疎の村で働くたった一人の医師・伊野治(笑福亭鶴瓶)が、ある日突然失踪した。
 動揺する村民たち。
 警察が捜査を始めると、まもなく意外な事実が明らかになる。
 伊野はなんと、ニセ
医者だった。

 映画として本当に良く出来ています。
 完成度の高さを100点満点で表すなら、99.6くらいまで行ってます。
 残りの0.4が何かはあとで書きますが、少なくとも監督の自責点ではありません。

 完成度を高めているのは編集です。言い換えれば「時系列を崩した展開」。
 僕は冒頭、よもや伊野が失踪した夜から幕開けするとは思いもしませんでした。
 以降本篇は警察の聞き込み捜査を軸にしながら、伊野の日常をインサートする形で進行します。つまり観客は伊野がニセ医者であることを知った上で、彼の医療行為と村民の対応を見ることになるわけです。平たく言えば客観描写ですが、大げさに言えば「神様の立場」。これは大正解だったと思います。
 もし時系列で編集されていたら、観客は終始村民と同じ立場で観ることになったでしょう。そして中盤過ぎまでドラマの向う先は分からないまま、やがて伊野の失踪後「裏切られた」という気持ちを一旦飲み込み、「では彼はどんな思いで医療行為を行っていたのか?」を知るため、余計なシーン(時間)を必要としたはずです。となれば127分には当然収まりきらなかったでしょう。

 観客を「神様の立場」に置く理由はもう一つ。
 「医者と患者」、または「医者と患者の家族」、さらに「患者と家族」
の思いは、どれも一概に重なってはいない、ということを観客に理解させるためです。そのために西川美和はいくつかのエピソードを創造し、「患者とその家族が医師に寄せる期待にはさまざまな側面がある」ということと、「医師には病と向き合うべきか、患者と向き合うべきか、決断を迫られるときがある」ことを訴えます。
 そしてとどめは、「医師は神ではない」ということ。
 ここで「ニセ医者」という設定がボディブロウのように効いて来ます。しかも観客を最後まで楽しませる西川美和はまさに試合巧者。「ゆれる」とはまた一味違ったラストショットで試合を判定に持ち込みます。ジャッジはぜひ各々で。

 キャスティング。
 観る前に「大丈夫か?」と思っていた鶴瓶さん。
 本人が巧いのか、周りが巧いのか分かりませんでしたが、見事に「笑福亭鶴瓶」を消していました。正直ビックリです。
 ただワンシーンだけ「鶴瓶」が出て来るシーンがある。それが研修医の相馬(瑛太)と言い争うシーン。伊野はここで“ある想い”を相馬にぶつけるのですが、この芝居だけがまったく見ていられません。おそらく鶴瓶さんの引き出しに無い芝居を求められたのでしょう。深読みすると「悪党になりきれない善人」を演じていた、と取れなくもありませんが、いずれにしても「演じていた」風に見えてしまったのは残念。0.4ポイントの減点はここでした。

 さて僕の中で一番印象に残ったのは、作品のテーマより何より実は八千草薫さんの存在でした。
 脚本の完成度の高さは非の打ちどころがありません。しかし主人公より半ば重要な「鳥飼かづ子」という役を、誰がやるかによって本作の仕上がりは大きく違ったと思います。
 そんな役を八千草さんに引き受けてもらった西川監督は日本一の幸せ者。中でも、かづ子が伊野に食事を振る舞ったあと、台所に立ったまま背中で話すシーンは、八千草さんの見事な演技のおかげで、日本映画史に残る屈指の名シーンになったと思います。

 「ゆれる」の西川美和監督待望の新作は、前作にも劣らない“考えオチ”の秀作。

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光州5・18 [2009年 ベスト20]

光州5・18」(2007年・韓国) 監督:キム・ジフン 脚本:ナ・ヒョン

 1980年の韓国で実際に起きた、民主化を求める市民と制圧しようとする軍隊の10日間に渡る衝突を描いたドラマ。
 僕はこの作品についてはクオリティをどうこう言うつもりはありません。
 この映画には、多くの日本人が知るべき、重大な事実があります。
 一つ。
 民主主義の国に生まれた人間には理解し難い現実が、この世にはあるのだということ。
 二つ。
 これはわずか29年前に隣国で起きた事件であるということ。
 三つ。
 今まさにイランで同様の事件が起きているということ。
 僕にとっては「ホテル・ルワンダ」以来の衝撃でした。

 「5・18」は軍がデモ隊に対し、武力行使をした日です。
 劇中、タクシー運転手のミヌ(キム・サンギョン)は、弟のジヌ(イ・ジュンギ)と一方的に想いを寄せる看護師のシネ(イ・ヨウォン)の3人で映画を観ていました。その途中、館内に逃げ込んできた青年を、追って来た兵士がこん棒で激しく殴打。催涙弾も投げ込まれ、観客は慌てて外に出ると、そこは兵士が一般市民を次々と襲う修羅場だった…。
 「5・18」は平穏な生活を送っていた光州市民が、10日間にも渡って未曾有の恐怖を味わうことになる、悪夢の始まりの日でした。
 映画を観ていると、その恐ろしい事実に息が詰まります。
 しかしこの事実はどれほど日本に伝えられたのでしょうか。
 公式サイトには当時の新聞記事が掲載されていました。その見出し。
 
 5月19日付朝刊
 読売「空てい部隊出動 光州」
 朝日「学生街頭デモ 機動隊と衝突」

 いずれも1面ですが記事は小さく、この日デモ隊や光州市民が味わっただろう恐怖の100分の1も伝えられていません。ましてや情報を流すのは最終的にデモ隊を鎮圧した軍政部。そこから出される情報がはたして正しいのかどうかは、誰にも分からないでしょう。
 例えばたった今も、時事通信社からこんなニュースが流れて来ました。
 「目撃者によると、テヘラン中心部に約1,000人のデモ隊が集結し、警官隊が催涙弾を発射した」
 本当に催涙弾が発射されただけなのでしょうか?
 警官はこん棒を振りかぶっていないのでしょうか?
 わずかな情報から、私たちは想像力を働かせるしかありません。もしかしたら何の罪もない人が、権力を持った一部の人間のエゴで、生命の危機にさらされているかも知れないのです。
 世界の耳目は市民の味方です。
 本編を観て「自分がもしも光州市民と同じ立場に置かれたら?」と想像をしてみましょう。すると、きっと新聞やテレビのニュースをもっと注意して見るようになると思います。

 かつては映画製作に国の検閲があった韓国。
 そんな国で、この映画の製作が許された今の環境に感心。また国民の6人に1人が観た計算になる観客動員に感動。少なくともこの映画が何らかの教訓となって、世界中の民主化運動に関わる人の命をひとつでも救うきっかけになれば。

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時をかける少女 [2009年 ベスト20]

時をかける少女」(2006年・日本) 監督:細田守 脚本:奥寺佐渡子

 アニメーション版。
 原田知世のオリジナル版を慈しむ者としては全く観る必要性を感じなかったのですが、ふとしたきっかけで観てみたら意外や面白かった。

 脚本がいい。
 誰が書いたのかと思ったら女性だったことにまず納得。そして後に「しゃべれども しゃべれども」を書く人だったのも腑に落ちた。僕が気に入ったのは、恋愛にリアリティを感じていなかった少女が、クラスメイトのさりげない告白をきっかけに目覚めた“もう一人の自分”となかなか折り合いをつけられないでいる様。およそ男の脚本家には書けないだろう繊細な心の揺れが、
実に可愛らしく、そして微笑ましく描かれていました。
 「しゃべれども…」と共通しているのは観客に“感じさせる”脚本だったこと。細田監督の演出も良かったのですが、“沈黙の芝居”が効果的だったと思います。この「決してむやみに語らせない」、あるいは「観客に行間を読ませる」タッチは奥寺さんの持ち味なのかも知れません。

 ストーリーもいい。
 タイムリープという特殊能力を、恋愛の重大局面で使ってしまう設定が女子高生の身の丈に合っていて、事が重大にならない分、安心して観ていられます。と、同時に極めてメルヘンチックだったオリジナル版から時代を経て、いかにも現代的な作品に仕上げられていたのが僕には新鮮でした。
 そして素晴らしい青春映画だったと思います。
 印象的だったのは、未来から来た少年と真琴の別れのシーン。涙とは無縁の生活を送って来た真琴が、ここでは天にも届かんばかりの泣き声を上げます。このシーンを観ながら僕は、人を大きく成長させるのはやっぱり「別れ」なんだなと思いました。
 別れの涙は相手を想う涙。その瞬間、自分が相手に対してどんな感情を抱いていたかを知り、それまでの自分を恥じることになります。そうして生まれた後悔の念から「時の流れは決して止められない」、さらに「時間は決して無限ではない」ことを知るのです。そうと知った真琴は、これからきっと充実した生活を送るのでしょう。僕がそう感じたこの後味の良さも、評価すべき重要なポイントだと思います。

 最後にもうひとつ。
 本作はアニメーションだったことが効いています。アニメーション最大のメリットは、実写と違っていろんなものを「省略」出来ることです。人の顔。街の風景。役者の芝居。不必要な情報を排除し、見せたいものにフォーカスする演出はアニメーションにしか出来ません。最も効果的だったのは“少年”が時間を止めたシーン。街のど真ん中で真琴と会話するこの場面は、実写だったらスクリーンに余計な情報が溢れて、観ていられなかったかも知れないと思いました。

 日本中の中高生にオススメの愛すべき青春映画。
 原作読んでみようかな。

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