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第五福竜丸 [2010年 ベスト20]

第五福竜丸」(1959年・日本) 監督:新藤兼人 脚本:八木保太郎、新藤兼人

 2010年8月6日(金)広島、65回目の原爆の日。
 今年の平和記念式典にはオバマ大統領の命を受けた駐日アメリカ大使がはじめて出席をした。ルース大使は献花もコメントもしなかったけれど、これは大きな前進だったと思う。オバマ大統領の次なる決断に期待をしたい。
 そして歴代国連事務総長として、こちらもはじめて式典に出席した潘基文(バンギムン)氏。僕はこの人の演説に心打たれた。多くのメディアが取り上げたところとは違う次の文言である。

 「皆さん。65年前、この地には地獄の炎が降り注ぎました。
 今日、ここ平和記念公園には、一つのともしびが灯っています。 
 それは平和の灯、すなわち、核兵器が一つ残らずなくなるまで消えることのない炎です。
 私たちはともに、自分たちが生きている間、そして被爆者の方々が生きている間に
 その日を実現できるよう努めようではありませんか」

 世界が目指すべきは核軍縮ではなく核廃絶である。事務総長は「核兵器なき世界」実現のために制限時間を設けようと訴えたのだ。そのタイムリミットは「被爆者の方々が生きている間」だと。
 言われてはじめて気が付いた。核兵器廃絶は全人類のためだと思っていたけれど、一番は被爆者の方々のために行われるべきなのだ。そして世界は一人でも多くの被爆者の方々がご存命の間に「核兵器ゼロ実現」のニュースを伝えなければならない。

 すでに世界共通語になりつつある「ヒバクシャ」。その中にはヒロシマ・ナガサキ以外の方々もいることを改めて思い知らされるニュースが今月あった。
 遡ること5日前(8月1日)。
 ユネスコがビキニ環礁を世界遺産に登録したというニュースが配信され、あるテレビ局が一人のご老人のコメントを流していた。その人は第五福竜丸の元乗組員の男性だった。
 1954年3月、アメリカの水爆実験で被爆した日本のマグロ漁船、第五福竜丸。その男性は「事件を風化させないためにも、(世界遺産登録は)いいこと」と話されていた。
 風化していると思った。
 少なくとも僕たち以降の世代に第五福竜丸の被爆事故は詳しく伝えられていない。僕はコメントしているご老人の顔を見ながら、この全貌が知りたいと思った。
 ありがたいことに事故から5年後の1959年に新藤兼人監督が映画を撮っていた。なんて人だ。頭が下がる。

 
映画は被爆前と被爆後が4:6の割合で描かれている。
 被爆前はマグロ漁船乗組員たちの何気ない日常に終始しつつ、“最悪の偶然”へ辿り着いてしまったいきさつが描かれている。
 ヒロシマ、ナガサキ、そして第五福竜丸に共通しているのは、「被爆者には何の罪もない」という事実である。序盤、新藤兼人監督はこのテーマに沿って、あらゆるものを描写していたと思う。中でも家族たちに見送られ第五福竜丸が出航するシーンは、風に流される紙テープも美しく、このあとに待ち構える哀しい運命を微塵も感じさせない演出が心に痛かった。
 一転、被爆後は“混乱”である。
 当の本人たちはやけどによって顔面が黒くなる以外はさしたる自覚症状も無く、しかし人体から検出される放射線量が尋常ではないと焼津から東京の病院へ全員送られることになるのだが、では働き手を失った家族の面倒は誰が見るのか、といった保障に関するいうやりとりもある。が、ここで救われるのは唯一の被爆国である経験から「原爆症」という認知と、保障についての自治体の決断が思いのほか早かった点だ。
 また多くの国民が乗組員たちの病状を気にかけていたような描写もあり、第五福竜丸の被爆は当時ただならぬ事故として国民に受け止められていたことが分かる。

 威勢のいい乗組員を被爆前も被爆後もまとめていたのは、第五福竜丸の無線長、久保山愛吉(宇野重吉)だった。ドラマの後半は彼の闘病の様子に重点が置かれている。史料によると亡くなったのは被爆から半年後の9月23日。彼は「原水爆の被害者は、私で最後にして欲しい」と遺言を残したと言う。
 重い言葉だ。そして、核兵器による被害者をこれ以上出さないためにも、一刻も早く核兵器なき世界を実現しなければならないと思う。一人でも多くの被爆者の方々が生きている間に。

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アウトレイジ [2010年 ベスト20]

アウトレイジ」(2010年・日本) 監督・脚本・編集:北野武 編集:太田義則

 「全員悪人」というコピーに偽りなし。
 一言でいうなら北野武流の「レザボア・ドッグス」と言った構え。これが実に面白い。
 ハナシは単純で、ヤクザ同士の些細なやっかみが、権力闘争にまで発展する、というだけのこと。たったこれだけの様がなんとも面白いのだが、女子に言わせると「ホント、男ってバカよねぇ」になるらしい。これは僕より先に観た知人の女子アナ(北野映画ファン)の第一声。「でも、スピード感が半端じゃなかった」と続けた感想は同感。
 「CUT」に掲載された監督インタビューを引用するなら、「テンポはもう、漫才だよね」に尽きる。
 そう。これは、“漫才師が撮ったしゃべくりヤクザ映画”なのだ。
 だから監督名は「北野武」じゃなく、「ビートたけし」でも良かったんじゃないかと思う。それほどの新境地。観る価値は十分にある。

 出てくる役者たちが錚々たる顔ぶれである点も、これまでの北野映画とは大きく異なる。
 とにかく豪華だ。中でも椎名桔平、加瀬亮、三浦友和の3人が抜群にいい。
 まず椎名桔平。
 「役者は悪役をやりたがる」と良く聞くが、僕は椎名桔平の芝居を観ながら、その言葉を思い出した。剛速球投手のストレートを想わせる伸びとキレ。そして勢いと圧力。こんなに伸び伸びと、楽しそうに演じる椎名桔平、見たことない。
 加瀬亮。
 平成のヤクザ。「仁義なき戦い」には絶対に出て来なかったタイプの“ネオヤクザ”が実にハマっていた。フィクションだから実際にいる、いないは関係ない。「マジでいそう」だから良いのだ。英語をしゃべるという設定も効いていた。
 三浦友和。
 この人のおかげで作品が締まった。男性の客の何割かは、この人の立場で全体を俯瞰することになるだろう。いくつもの組を配下を持つ山王会本家の若頭・加藤。政治に置き換えると首相の女房役の官房長官といったところだが、スケールを小さくしてしまうと、単なる「嫌な上司に仕える部下」である。会長の関内(北村総一郎)は、組の面倒事はすべて加藤に圧しつけておいて、自分は方々にいい顔をして回るような男。そんなボスの下で加藤はじっと耐えているのだ。働くお父さんが一番感情移入し易い役を、三浦友和は抑揚を抑えて、巧妙に演じていたと思う。これが後半、ボディブロウのように効いてくる。
 加藤はやんごとなき理由で会長に面を叩かれるのだが、本作の緊張感のピークはここだったと思う。そして、このときの三浦友和の芝居が実にいい。三浦友和は年齢を重ねて年々良くなっていく。
僕は「こんな芝居も出来るのか」と激しく感動してしまった。
 ただすべての俳優に、僕は北野監督の演出を感じた。繰り返すがテンポは漫才なのだ。三浦友和の芝居には漫才でも重要な“間”を見せてもらった。

 僕がこれまでに観た北野映画の中では本作が一着だ。漫才で言う“オチ”も巧くて、僕は一瞬で放心してしまった。
 繰り返すが、単純なハナシである。しかし、見事にエンタテインメントに仕上がっている。
 遅ればせながら鈴木慶一の音楽も出色。
 久しぶりにヒットして欲しい。

アウトレイジ (北野武 監督) [DVD]

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裸の十九才 [2010年 ベスト20]

裸の十九才」(1970年・日本) 監督・脚本:新藤兼人 脚本:松田昭三、関功

 殺人事件で死刑判決を出す際に参考にされる死刑適応基準、通称「永山基準」の元となった死刑囚・永山則夫の半生を描いた作品。

 僕は何がきっかけだったか、ずいぶん昔から死刑制度に興味があって、その問題を扱った本を読んだり、ドキュメンタリーを観たり、映画を観たりして来た。そのおかげで僕は、日本の死刑制度の在り方に疑問を持つ人間になってしまったのだけれど、「では、死刑制度はどうあるべきか」を探るために、今もいろんな文献やこういった作品に触れている気がする。
 
 この映画を観ようと思ったのは、2009年10月11日にNHKのETV特集で放送されたドキュメンタリー、「死刑囚 永山則夫~獄中28年間の対話~」という作品を観たからだ。
 死刑宣告を受けた人間は、親族と担当弁護士以外の面会は許されていない。それどころか2006年に日弁連が死刑囚79人から取ったアンケートによると、3割近くは死刑確定後一人の面会もなく、中には「17年前が最後」というケースもあったというから、死刑囚の実態は知りようが無いのだ(この辺りは森達也著の「死刑」にも詳しい)。
 ところが、このドキュメンタリーでは永山則夫が残した膨大な往復書簡、本人のインタビューテープ、そして永山と獄中結婚した(のちに離婚)和美さんのインタビューによって、シャバで過ごした19年よりも長い、拘置所で過ごした29年の様子を、断片的ではあるけれど、垣間見ることが出来る。
 そんな中で僕が一番驚いたのは、永山にとっても謎だった「なぜ自分は4人もの人を殺したか」の答えを見つける件だ。永山は拘留されてから膨大な量の本を読み始めるが、そこでオランダの犯罪学者の言葉に衝撃を受ける。

 『貧困は人間関係を破壊する。
 社会から切り捨てられた人間は、その社会に対して、もはや何の感情も持てなくなる』

 永山則夫の肉声。
 「これだと思ったな。こういうために(事件は)
起こったんだってことを知ったんだ」

 獄中での様子が分かると、一方で彼が「外で成したこと」はなんだったのかが知りたくなった。
 ドキュメンタリーには新藤兼人監督が、永山の生い立ちから逮捕されるまでを「忠実に再現した」と言われる本編、「裸の十九才」が一部使用されている。僕は、親に捨てられ餓死寸前になりながら眼光鋭い4歳の則夫少年を見止めた瞬間、これは映画としても只事ではないと思った。

 映画は、集団就職で上京した少年、山田道夫(原田大二郎)が都会での生活になじめずドロップアウトしていく様を、幼少期の極貧生活に理由を探りながらカットバックを続ける。時代と人間の暗部が、濃淡の強いモノクロームで影絵のように描かれていて見応えは抜群である。しかも正義感はさておき、生きるためには人を殺めるしかない少年の“追い詰められた感情”が、実に丁寧に描写されていて、「どこかで立ち直るきっかけを与えてやれないものか」と、ついつい同情の目で観てしまう自分に驚いてしまった。

 僕は観ながら、18歳で上京したときのことを思い出していた。
 恐ろしく貧乏で、社会の底辺にいて、雨風をしのぐ場所はあったものの、孤立感に支配されていた時代。僕と永山の違いはどこにあるんだろうと思った。塀のむこうとこちらとでは、ボタンを掛け違えた程度の差しかないんじゃないだろうか。唯一永山になくて僕にあったのは精神的な支柱だけ、だったような気がする。
 時代は巡り、格差による貧困が蔓延する現代。いま改めて観ても充分に通用する強烈なメッセージに満ちた作品。原田大二郎の拙い演技が妙に生々しくて心に痛い。

裸の十九才 [DVD]

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無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)

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  • 作者: 永山 則夫
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 1990/07/10
  • メディア: 文庫

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NINE [2010年 ベスト20]

NINE」(2009年・アメリカ) 監督:ロブ・マーシャル

 ミュージカル映画はまずサウンドトラックを聴いてから劇場に行くに限る。
 そうするとすべてが知った曲に聞こえるからすごく馴染みやすい。僕は「シカゴ」のサントラを5年近くヘビロテした人間なので、「NINE」もロブ・マーシャルの新作と聴いてすぐさまサントラを買い、何度か聴いてから劇場に行った。結果は大満足。詳細は後述。

 ところで、この作品については興味深いデータがある。
 「NINE」はアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞、放送映画批評家協会賞において、合わせて20部門でノミネートされながら無冠に終わるという珍しい記録を作ったのだ。
 アカデミー賞受賞監督による2作目のミュージカル作品。
 2度のトニー賞に輝く大ヒットミュージカルの初映画化。
 アカデミー賞受賞、あるいはノミネート女優たちの夢の競演。
 投票してもなんら恥ずかしくない作品である。なのに票は集まらなかった。
 なぜか。
 アメリカでは興行的に大コケしたからだ。

 製作費8千万ドル(約74億円)に対し、アメリカ国内の興行収入は2千万ドル弱(約18億円)。2009年の全米興収ランキングは520作品中、110位だった。
 どうしてコケたのかまでは分からない。けれど「ネタ枯れになってしまった映画監督のハナシ」なんて今の時代にそぐわないということか。映画監督だからって冴えない中年男がモテモテなのは、そりゃ僕だって気分が悪い。妻はマリオン・コティヤール(超カワイイ!)
、愛人はペネロペ・クルス(超エロい!)、ミューズはニコール・キッドマン(スゲー貫禄!)、そしてモーションをかけてくるのはケイト・ハドソン。ま、ケイトはアンパンマンみたいな顔だったから別にいいけど(笑)、こんな設定を「薄っぺらい映画」だとアメリカ人は思ったのかも知れない。「俺たちはそれどころじゃないよ」と。「現実を観ろよ」と。
 けれど僕は終始ゾクゾクしていた。
 ゴージャスなキャスト。美しいロケーション。心に届く楽曲。そして皮肉の利いたセリフ少々…。
 よろしい。アメリカの映画人が評価しないなら、日本人客の僕が評価する。
 「THAT'S MOVIE. これは間違いなく一級のミュージカル映画です」
 
 オープニング。
 「オーバーチュア・デル・ドンネ」に合わせて、まさか主要キャストが全員登場するとは思いもしなかった。驚くと同時に、あんぐりと空いた口から何が出て来そうなくらいの胸騒ぎがする。怖い。でも観たい。レールとクレーンを駆使したショットの積み重ねが美しい。「シカゴ」を彷彿とさせる映像。カメラマンはロブ・マーシャルの盟友ディオン・ビープ。ステージを撮らせると本当に巧い。
 さらに感心するのは編集の妙である。
 現実と非現実の繋ぎ方。モノクロームとカラーの使い分け方。そして芝居から歌への移行を違和感なく見せるシーンの作り方。
 ロブ・マーシャルは天才だと思う。
 そして往年のミュージカル映画を観て「芝居の途中で突然歌い出すから嫌い」になってしまった人たちにも、「これなら大丈夫」と言わせるだけの作品に仕上がっていると思う。これぞ21世紀のミュージカルの作り方。ロブ・マーシャル式がスタンダードになるといい。

 先のキャストに加えて、ファーギー、ジュディ・デンチ、ソフィア・ローレンも名を連ねる。
 こんなことがあっていいのか?
 盆と正月とクリスマスと感謝祭が一緒にやって来たような、まさにお祭り状態である。その中心にいるのがダニエル・デイ=ルイス。当初はハビエル・バルデムがグイド役をやる予定だったと聞いたが、いやいやハビエルだったら僕は観なかったかも知れない。ソフィア・ローレンとの親子役はハマっただろうが、以外はきっとノー天気に見えたと思う。浮き沈みを味わう映画監督役にはダニエルが向いている。とにかく味があって良かった。でもタバコは吸い過ぎ(笑)。「オール・ザット・ジャズ」のロイ・シャダーを思い出してしまった。

 さて、ミュージカル映画には大抵の場合、オリジナルの舞台が存在する。先に書いたとおり「NINE」もしかり。だから評価されるべきはオリジナルであって、映画版ではないという意見があってもおかしくない。
 しかし本作の場合は、映画版だからこそ評価されるべき点がある。
 実はケイト・ハドソン演じるヴォーグ社の記者ステファニーは、映画オリジナルのキャラクターで、彼女が歌う「シネマ・イタリアーノ」はオリジナル舞台で作詞作曲を担当したモーリー・イェストンが、映画のために書き下ろした新作なのだ。この楽曲はTVスポットでも使われるほどインパクトの強い曲に仕上がっていて、この曲のあるなしで映画の雰囲気はずいぶん違っていただろう。僕はオリジナル舞台にこの曲が無いと知って、舞台版を観る気が完全に失せてしまった。


 そのオリジナル舞台はフェデリコ・フェリーニの映画「8 1/2」が原作なのだそうだ。
 一度トライして挫折した映画である。やっぱり観なきゃマズイか。

NINE [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: 角川映画
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NINE

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  • 出版社/メーカー: ユニバーサルインターナショナル
  • 発売日: 2010/03/03
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接吻 [2010年 ベスト20]

接吻」(2006年・日本) 監督:万田邦敏 脚本:万田珠実、万田邦敏

 小池栄子主演のインディーズ映画は、まるでキム・ギドク作品のような味わい。理解し難い主人公の感情と展開に最期まで目が離せなかった。しかも、これが原作なしのオリジナル脚本であるところに価値がある。この世には映像でしか表現できない文学もあるのだ。

 無差別殺人を犯し逮捕された坂口秋生(豊川悦司)は、自らメディアを呼び逮捕の瞬間をテレビ中継させ、その瞬間カメラに向って不適な笑みを見せた。その様子を偶然テレビで見ていたOLの遠藤京子(小池栄子)は、突如として事件に興味を持ち始め、裁判が始まるや弁護士の長谷川(仲村トオル)にまで接触。そこで京子は「坂口に差し入れをしたい」と申し出た…。

 序盤、まったく関係の無い2人の様が、時折カットバックで描かれる。観れば観るほど何の脈略もない2人。しかし明らかに主人公と思われる2人である。
 「彼らはこの先、どう繋がっていくのか?」
 映画を観ていて最もワクワクする瞬間だ。それは落語の三題噺を聞く愉しみに似ている。関係性のないワードを、どう繋いでストーリーに仕立てるのか。噺家にとって腕の見せどころである。脚本家もしかり。そう思えば映画だけでなく人生そのものも、繋がらないはずの人間同士が繋がるから面白いのだ。
 僕が「キム・ギドク作品のよう」と感じたのは、人間の狂気が2つ重ねられているからである。
 大抵のドラマは一人の“狂気”で成立している。たとえば「羊たちの沈黙」はレクター博士の狂気が軸であり、「スター・ウォーズ」はダース・ベイダーの狂気が軸となってサーガが構築されている。
 ところがキム・ギドクは、狂気の上にもうひとつ別の狂気を重ねようとする。その目的は狂気を狂気と思わせないためである。たとえばクラスにバカが一人なら目立って仕方ないが、2人もいるとどちらか片方は「まだマシな方」と思えるのと一緒。こうして観客の偏見を取り払おうとしているのだ。
 このテクニックに長けているのが、ティム・バートンとキム・ギドクの2人である。
 特にキム・グドクは、「人の“物差し”を壊す天才」だ。異常だと思っていた他人の狂気が、もしや自分の中にもあるかも知れない、と観客に思わせるテクニックは見事である。
 「接吻」にはギドクのそれに近いものを感じた。
 
 自分の中で、いつどんな感情が芽生えるか分からない。

 こんなに怖いことが他にあるだろうか。
 殺人は悪である。誰もが分かっていながら、それでも殺人のニュースを聞かない日は無い。
 考えたくないことを考えさせるのがギドク映画である。僕はラストで「接吻」の意味までも激しく考えさせられた。

 とにかく小池栄子が素晴らしい。
 テレビでの印象を一切消した、中でも能面のような表情が秀逸だった。薄幸のOLという役をここまでこなせるとは思いもしなかったし、小池栄子を選んだスタッフに拍手を送りたい。
 少しだけ作品に注文をつけるなら、長谷川の感情描写が若干足りなかったことと、直前に結末が読めてしまうことくらい。
 面白かった。
 小池栄子主演の新作がないことだけが残念だ。

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KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR [2010年 ベスト20]

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」(1997年・ドイツ) 監督:トーマス・ヤーン

 2009年に長瀬智也、福田麻由子コンビでリメイクされた「ヘブンズ・ドア」のオリジナル。
 タイトルはボブ・ディランが映画「ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」(1973)のために書き下ろした名曲中の名曲(邦題「天国への扉」)。
 余名わずかと診断された男2人が、まだ見ぬ海を見るために病院を抜け出し、いくつもの犯罪を犯しながら海を目指すロードムービーである。

 ロードームービーと海が大好きな僕にはこれだけで充分“ご馳走”で、脳腫瘍の症状の描写に一部納得いかないところはあったが基本は楽しんだ。実はコメディでもある。
 手の施しようの無い脳腫瘍と診断されたマーチン(テイル・シュバイガー)と、末期の骨肉腫と診断されたルディ(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)は病院の地下駐車場に停めてあったクルマを盗んで海を目指すのだが、そのクルマがヤクザのベンツで、しかもトランクには重要な“荷物”が乗っていた、という設定である。当然マーチンとルディの2人はヤクザに追われることになるのだが、このヤクザ2人が“おつむが少々弱い”というお約束の設定で笑いを牽引していく。
 
 迫り来る死を真正面から受け止められる心の強い人はそうそういないだろう。恐怖心を払拭するために「楽しいこと」を求めようとするのは当然の成り行きで、未見だがロブ・ライナー監督の「最高の人生の見つけ方」も同様のテーマなのだと推測する。ただ本作の場合、あれもこれもやろうとしない。目的はただ一つ「海を見に行く」という単純なものだ。
 ロードムービーのゴールは例えそれがなんであっても許されはするが、その「動機と理由がしっかりしていると、観客の興味は最後までブレない」ものなんだな、と僕は再認識した。マーチンとルディが海を見に行くことにしたいきさつはこうだ。ルディがマーチンに「実は海を見たことがない」と明かすと、マーチンは「いま天国で流行っていることは何か知ってるか?」と切り出す。

 「それは壮大な海の美しさを語り合うことだ。夕陽が溶け合う前に放つ、血のように赤い光を語る。そして海によっていかに太陽がその力を失うかを語る。残るのは心の中の炎だけ…。だがおまえは会話に加われない。見たことがないからだ」

 この詩的なセリフには参った。僕がルディでも絶対に海を見るまでは死ねないと思う。
 映画を作るタイプは二通りあって、ひとつは映像で、もうひとつは言葉で組み立てようとするタイプだ。本作の場合は当然後者で、至るところに気の利いたセリフと設定が用意されている。感動的なのはクライマックス。ヤクザにまんまと捕まった2人が殺されようとする寸前、ボスに言われる一言が実にいい。個人的にはいまさら脚本賞をあげたいと思った。
 始まって3分と経たないうちに笑いが一発あるだけで、映画に対してぐっと好感を持つことも勉強になった。
 
 佳作。やっぱりロードムービーはおもしろい。

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파란 대문 [2010年 ベスト20]

悪い女」(1998年・韓国) 監督・脚本:キム・ギドク

 未見のキム・ギドク作品を新橋のTSUTAYAで見つけたので借りてみた。日本未公開のストレートDVD。16ミリ作品。「鰐~ワニ~」、「ワイルド・アニマル」に続く監督3作目。
 「悪い女」という邦題は「悪い男」にかけて発売元が勝手に付けたタイトルで、本作品を1フレームも理解していない人間による、観客に誤解を与えかねないサイテーの仕事だ。なんと言っても監督に対して失礼千万。このタイトルを付けた人間には「恥を知れ」と言いたい。そもそも本編に出て来る主人公は決して“悪い女”ではない。

 どこからともなく海岸の町に辿りついた若い女ジナは、とある民宿に住み込み、身体を売る商売を始める。その民宿を経営する家には大学生の娘ヘミがいた。ヘミは結婚するまでは恋人にも身体を許さないと決めているマジメな性格。そのためジナを軽蔑のまなざしで見ていたが、売春斡旋という仕事のおかげで家族が生活できることも知っていた…。

 この面白さをなんと伝えればいいだろう。
 まずは着飾らないところがいい。ロケーションが美しいわけでもなく、照明に凝るでもなく、まるで荒木経惟の写真のような、ありきたりだけど生活臭漂う絵の切り取り方が見事。その生々しさはドラマであることを一瞬でも忘れさせるほどだ。もちろん制作費の安さも関係している。しかしそう決め付けるのは、ギドクのセンスを無視しているに等しい。
 さらにギドクの目線。
 売春は人類史上最古のビジネス。セックスは睡眠と食事に次ぐ日常の行為。何気ない場所で毎日行われる営みには、交わった人の数だけ物語がある。それは人に聞かせるものではなく、ほとんどが当事者の内にしまい込むものだが、ギドクはあえてその中から社会の底辺に沈殿する物語をすくい上げようとする。分かりやすく言えば“不幸なセックス”に関わる人々の物語。
 「これ以上のドラマがこの世にあるか?」
 無いわけではない。しかし多くのクリエイターが見てみぬフリをしてきた素材ではある。
 僕は「日活ロマンポルノに似ているな」と思った。日常に潜むエロティシズム。そこには学歴も肩書きも年収も関係なく、一個の人間が平等に描かれているように思う。確かに人間を描くにこれ以上の素材は無いのかも知れない。

 一方で、これは「母性」にまつわる物語でもある。
 ギドクが用意した結末には多くの人が驚くだろう。しかし「母性を持つもの同士だからこそ、最後には理解し合える」というギドクの願いにも似た気持ちが、こういう結末にさせたんじゃないか思う。
 最悪の邦題だが、作品としては秀逸。これで未見のギドク作品はあと4本となった。

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Vicky Cristina Barcelona [2010年 ベスト20]

それでも恋するバルセロナ」(2008年・スペイン/アメリカ) 監督・脚本:ウディ・アレン

 昨年のアカデミー賞を賑わせた映画がレンタル店に出揃い、今が見どころといった感がある。
 本作はペネロペ・クルスが助演女優賞を獲得した作品。
 コダックシアターの舞台上でアンジェリカ・ヒューストンはペネロペをこう讃えた。

 「『それでも恋するバルセロナ』のペネロペ・クルスは、英語とスペイン語でしゃべり続けます。言葉の意味は分からなくても彼女の感情がありありと伝わります。奔放さと力強さが融合されています。美しい容姿の下に真のコメディエンヌが見えました。おめでとう」

 「ダウト」のヴィオラ・デービスを差し置いて、この賞をもらう資格があったかどうかは分からない。
 しかし並びを見てみるとエイミー・アダムス(ダウト)、マリサ・トメイ(レスラー)、タラジ・P・ヘンソン(ベンジャミン・バトン)と、強敵がいなかったのも事実。ペネロペは「ボルベール<帰郷>」(2006年)で主演女優賞にノミネートされたときに、強敵だらけ(ヘレン・ミレン、ジュディ・デンチ、メリル・ストリープ、ケイト・ウィンスレット…なんたる顔ぶれ!)で受賞を逃しただけに念願の受賞だっただろう。

 さて本題。
 本作でまず最初に気付くのは、ウディ・アレンのリラックスぶりである。と言っても彼が出ているわけじゃない。映像の端々からカメラの後ろにいるだろうウディの表情が見えて来るのだ。画面のどこにも力んだ様子が無く、自然体であると同時に、撮影そのものを愉しんでいる様子が伝わってくる。こんなことを感じる映画は初めてだった。
 リラックスの理由は俳優にあると思う。
 お気に入りのスカーレット・ヨハンソンに加えて、ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、パトリシア・クラークソンという実力者が顔を揃え、さらにタイトルロールの一人レベッカ・ホールまでもがかなりの巧者で、満足のいく脚本を素晴らしい俳優たちに演じてもらったウディは間違いなくご機嫌だっただろう。
 また、バルセロナで撮影した理由をウディは、「出資者がいたから」とカンヌでの会見で語っていたが、この街のロケーションを気に入ったのも事実。観光名所のみならず何気ない表情の街角でも、まるでスナップ写真を撮るように、お気に入りのカットを重ねているのが分かる。

 物語はバルセロナのアーティスト、フアン・アントニオ(ハビエル・ベルデム)を軸に、自由恋愛主義のクリスティーナ(スカーレット・ヨハンソン)と堅実派のヴィッキー(レベッカ・ホール)、そしてフアンの元妻マリア(ペネロペ・クルス)の“四角関係”を使って、ウディ得意の「恋愛論」を展開して行く。
 かなり面白い。しかも笑える。これは3人の女優を相手にまったくスタミナを損なわなかったハビエル・ベルデムの“体力”が大きいと思う。「ノーカントリー」でも見せたタフさは彼特有の持ち味かもしれない。仮にフアンをビル・マーレイがやっていたら、こんな作品にはなっていなかっただろう。いや、ふいにビルがやったら違う面白さが出たかもと、思っただけなのだが。

 スカーレットを起用した3本の中では出色の出来栄え。オススメ。

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The Namesake [2010年 ベスト20]

その名にちなんで」(2006年・アメリカ/インド) 監督:ミーラー・ナーイル

 長く映画を観て来て確信したいくつかの定理の
中に、「家族を描いた映画は面白い」がある。
 映画のみならず小説や演劇、あるいは絵画まで含めたエンタテインメントはすべて「コミュニケーションの描写」に他ならない。「家族」はそのコミニュケーションの起点であり、終点である。
 家族の物語は「普遍的でありながら、実は透明性に欠けている」という点も大きい。「これは家族の問題だから」と外野をシャットアウトする人を、あなたも目撃したことがあるだろう。
 つまり家族とは“小さな国家”なのだ。
 だから「家族」の数だけコミュニケーションの形があり、ルールがあり、秘密がある。「家族の物語」が面白い理由は、こういう背景があるからだ。本作もそんな1篇である。

 アメリカの大学で学んでいたアショケは、コルカタに暮らす美しい娘アシマと見合い結婚をする。2人はニューヨークに住まいを構え、やがて長男が誕生。アショケは学生時代の“ある経験”から長男を「ゴーゴリ」と名付けた。ロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリを由来にしていたが、やがて大学生になったゴーゴリは名前を嫌い、改名したいと言い始める…。

 命名の由来を親からちゃんと聞いたことのある人はどれくらいいるんだろう。僕も記憶では1度だけある。ただあまりに遠い過去のことで、父から「あみだくじで決めた」とはぐらかされた記憶しか残っていない。
 僕は18歳からすでに家を出て暮らした関係で、父との交流は決して濃密じゃなかった。
 共に暮らした18年という時間を、離れて暮らした時間が追い越して22年になったとき、僕は父を亡くした。その瞬間にはじめて僕は「僕と出逢うまでの父の生涯」を知りたいと思った。もちろん後の祭り。それが叶わないと気付いたときには
激しく後悔した。
 そして今日。僕はせめて命名の由来だけでも聞いておけばよかったと思った。なぜなら本作が「名前は、親の子に対する気持ちが込められた最初にして最大の贈り物」と思い知る作品だったからだ。本作にこれ以上の解説はいらないと思う。

 インド人の夫婦アショケとアシマの四半世紀に及ぶ物語である。
 この長い年数をそれぞれ一人で演じきった2人の俳優が素晴らしい。ヘアメイクの力を借りてはいるが、その佇まいから見事な表現だった。
 家族の歴史を辿った映画では、チャン・イーモウの「活きる」を彷彿とさせる。
 異国で暮らす家族を描いた映画では、ジム・シェリダンの「イン・アメリカ/三つの小さな願いごと」を、また結婚をテーマにアイデンティティを語る映画は「マイ・ビッグ・ファット・ウェディング」を思い出させる。
 やはり「家族」を描いた映画はおもしろい。
 そして、まだ間に合う人はぜひ「命名」の由来の確認を。

その名にちなんで (特別編) [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • メディア: DVD
     

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LARS AND THE REAL GIRL [2010年 ベスト20]

ラースと、その彼女」(2007年・アメリカ) 監督:クレイグ・グレスピー 脚本:ナンシー・オリヴァー

 やられた。
 序盤でさんざん笑ったら、後半にがっつり泣かされた。人の情けが身に沁みる良い映画だ。
 
 小さな田舎町に暮らす心優しい青年ラース(ライアン・ゴズリング)は極端にシャイな性格でガールフレンドも作れない。ところが、ある日ラースは隣に住む兄夫婦に「彼女を紹介したい」と打ち明ける。日頃から弟を心配をしていた兄夫婦は大歓迎。ところがラースが紹介したのはアダルトサイトで購入したリアルドールだった…。

 文字面(づら)で見ると、気色の悪いハナシをイメージすると思う。けれど間違ってもR指定ではないし、それどころかアカデミー賞脚本賞にノミネートされた作品である。変態的なシーンはないから子どもと観ても大丈夫。もしやリアルドールの説明に若干手間取るかも知れないが、「ポーズをつけられるマネキン」と説明すれば、おそらく子どもはそれ以上の質問をして来ないだろう(笑)。

 いろんな意味で設定が巧い映画だと思った。
 まず舞台が「雪の降る町」であるところ。全編空もどんよりとしていて、場面に漂う空気はキンと冷たい。観ているこちらまで人肌恋しくなるその空気感が、「人は一人じゃ生きられない」ことを無言で訴えている。観れば分かる。ファーストカットからそうだから大抵の観客は、人との接触を敬遠するラースの気持ちを「なぜ?」と思う。そしてその瞬間、観客もこの町の住民となり、もはや他人事としては観られなくなるのだ。巧すぎる。
 「雪の町」効果はもうひとつある。
 空気が冷たいだけに、「人の優しい心根」を温かく感じることが出来るのだ。「雪の町」は田舎町でもある。住民のほとんどが誰かしらと繋がっている小さなコミニュティで、その住民たちがラースの“心の病”と向き合おうとする。そんな彼らの気持ちが冷たい空気の中で温かみを増す。

 悪人が出て来ないのも大きい。
 この手のストーリーには主人公を卑下する登場人物がつきものだが、脚本のナンシー・オリヴァーはそういった人間を一切排除した。それどころか、ボーリング場のシーンでラースの兄ガスの同僚3人組を一旦悪役キャラ風に見せつつ、なんのことはないフツーにいいヤツだったと分からせる件も巧い。
 仮にここまでラースの病を受け入れられない観客がいたとしても、おそらくこのシーンを最後に偏見は消えると思う。なぜならこのシーンは、先の3人組ですら「おかしなことになってしまったラース」を受け入れていることを教え、ラースの人格には一点の曇りも無いことを証明するシーンであるからだ。

 俳優の演技をじっくりと見せた編集もいい。
 カットが極端に短くなく、「おかしいからといって、決してラースから目をそらさない」という周囲の人々の気持ちを表現していたと思う。要所要所の間が絶妙だった。
 その間を作ったのは、ライアン・ゴズリング自身だ。しかも人間相手以上の芝居を、リアルドール相手に披露している。この俳優、只者じゃない気がする。今後要チェック。
 他には、ラースを最初に受け入れようとする兄嫁を演じたエミリー・モーティマー。一目観た瞬間に「Dear フランキー」の人だと分かった。大好き。そして適役。この人の裏表のない表情に救われるシーンは多い。
 もう一人見事だったのは、精神科医を演じたパトリシア・クラークソン。彼女の物静かな演技は、「きっとこの人がラースを救ってくれる」と観客に安心感を与えたと思う。
 本作は、ラースを助けたい一心でリアルドールのビアンカを受け入れようとする町の人たちの気持ちが最大の見どころである。そしてビアンカの気持ちを代弁する体で、皆がそれまで呑み込んでいた言葉を発信するようになる様もおもしろい。

 僕が本作で一番心に刺さったのは牧師の言葉。
 牧師はビアンカのことを「我々の勇気を試す存在」と説いた。
 奥深い言葉だ。
 思い返したらもう一度観たくなった。

ラースと、その彼女 (特別編) [DVD]

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