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アウトレイジ ビヨンド(2012年・日本) [2012年 レビュー]

監督・脚本・編集:北野武

 前作から5年後という設定の続編。
 映画の前にまず【beyond】というワードのチョイスが上手いなあと思った。世の中に続編は数あれど「ビヨンド」と付けた作品があるか、映画データベースallcinemaで検索したけれど見当たらなかった。
 《場所》…の向こうに、《時間、範囲、限度》…を超えて、《優越》…より優れて、など単語の意味から察するに、ダブル・ニーミングも狙っているはず。さすが希代の漫才師だけあってと言うべきか言葉選びのセンスに感心。


 先代を自らの手で殺め、山王組の二代目となった加藤(三浦友和)は、元大友組の金庫番・石原(加瀬亮)を重用し組織を拡大。今では政治家も操るまでになった一方で古参の幹部はくすぶり続け、そこに目を付けたマル暴の片岡(小日向文世)が山王会の富田(中尾彬)を焚き付け、関西の巨大組織「花菱会」接触をさせる…。 

 続編の宿命である“前作越え”は、さすがの北野武と言えど難しかったようだ。正直言って期待したほどの出来栄えじゃなかった。ただ、監督自身が“前作越え”を意識していたかどうかは分からない。圧倒的な“しゃべくり漫才”だった前作と比べると、いくらか状況説明が必要な“3人のコント”のような脚本だったし、何よりビートたけし演じる大友が5年のムショ暮らしですっかり枯れていたという設定だったからだ
 これらは「結果そうなってしまった」わけではなく「狙ってやっている」のだから、監督は世間が想像するところの“前作越え”など、はなから考えていなかったのかも知れない

 そうならそうで見方は大きく変わる。
 「アウトレイジ ビヨンド」はこれまでの北野映画とは全く異なり、「牙の抜けた(折れたでも折られたでもない)ヤクザの映画」という監督としても役者としても新境地になるからだ。
 すっかり枯れた大友は実に味わい深かった。枯れても流れる血に変わりはなく、それが時々着火する様も心地よかった。本作は監督としても役者としても、今の身の丈に合った作品と言えるんじゃないだろうか。
 前作の続編ではあるが、あくまでもこれは後日談として作られたと思えば、観ていて愉しい。言うなれば前作の「おとしまえ」である。


 そもそも続編はもっと早くに撮られるはずだった。それが東日本大震災で延期され、こう言うカタチで産み落とされたのだ。3.11が監督に与えた影響も大きいだろう
 容易に想像出来る結末だが、オチのキレが見事で思わず息を呑む。そういう意味ではこれもやはり「漫才師の映画」だ相応の人生経験を積んでいるといくつか笑えるシーンもあって、まさにオトナのための映画である。


 それにしてもこれから先の北野作品がますます愉しみになって来た。

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ブリッツ(2011年・イギリス) [2012年 レビュー]

原題:BLITZ
監督:エリオット・レスター
脚本:ネイサン・パーカー

 寸暇を惜しんで映画を観るようになるとどうしても「アタマを使わなくていい映画」を選んでしまう。
 ジェイソン・ステイサム主演の映画は大抵が「とにかくスカッとする」ので、録画ストックの中から大して迷わずチョイスしてみた。結果、良い意味で僕の期待を裏切らない映画だった。

 西ロンドン警察のブランド刑事(ジェイソン・ステイサム)は、犯罪者への暴力が過剰でマスコミの格好のネタになっている。そんな中、連続警官殺しが発生、ブランドは着任早々のナッシュ警部代理(パディ・コンシダイン)とコンビを組み捜査に当たる。やがて“ブリッツ”と名乗る容疑者が浮かび上がるが、ブリッツの警官殺しはまだまだ終わっていなかった…。

 ジェイソン・ステイサムが世に出たのは1998年、ガイ・リッチーの「ロック、ストック&トゥー・スモーキン・バレルズ」である。あれから13年。多少マッチョになったとはいえ、まだまだ尖った役が出来るのは素晴らしいと思った。「“一本筋の通った荒くれ者”をやらせるならジェイソン・ステイサムがいい」というキャスティング・ディレクターは未だに多いんじゃないかと思う。それくらい本作のステイサムも魅力的だ。ブランド刑事もステイサムで当て書きしたんじゃないかと思えるほどハマり役だった。

 作品そのものは「謎解き」と「復習」がある97分のB級クライムサスペンスである。だからあまり細かいところまで追求するつもりはないんだけれど、いくつか気になったことはある。
 たとえば、ブランドの相棒となるナッシュがゲイである必要性。ブランドを紙面で攻撃し続ける記者ダンロップの動機。ブランドがときどき記憶を失うとナッシュに告白したその後。ブランドに“ブリッツ”の情報をタレ込んだ情報屋ラドナーの背景。そして黒人婦人警官の私的なもみ消しを頼まれたクレイグ警部補に下心はあったのか否か。これらは(随分あるじゃないか)内心「どうなんだよ」と思いながら観ていた。
 でも「まあ別にただの娯楽作品だしなあ」と思ってスルーしたのは事実。それよりもステイサムの立ち振る舞いやシニカルな会話を楽しむべき映画と言った方が正しい。ステイサムの魅力は充分に引き出されている。

 愉快犯の“ブリッツ”を追い込む小気味いい結末も気に入った。
 少なくともステイサムファンは見逃さない方がいい。

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仮面ライダーV3対デストロン怪人(1973年・日本) [2012年 レビュー]

監督:山田稔 
脚本:伊上勝

 「オマエそれ映画か?!」と言われちゃいそうですが、れっきとした劇場公開作品です。
 iTunesにラインナップされていたのでつい観ちゃいました。
 というのも、この作品の一部は僕の地元・松山の奥道後でロケが行われたのです。しかもダブルライダーロケ!(笑)。そして僕はこの映画をロケが行われたホテル奥道後の映画館で観た気がします。iTunesでタイトルを見つけたときにはチョー懐かしくて思わずダウンロードしたのですが、これがまた意外なトラップで(笑)。

 原始物理学者の沖田は四国の山奥でウラニュウムの数百倍の威力を持つサタンニュウムを発見し、おかげでドクトルGに誘拐されてしまう。風見志郎と立花藤兵衛はデストロンとの攻防の末に沖田を救出するが、サタンニュウムの地図の在処を言い残し、息を引き取ってしまう。サタンニュウムをデストロンに渡すまいと風見志郎は四国へ向かうのだが…。

 いやあ、すごいストーリーです。
 書いてて思ったんですけど、ショッカーだのデストロンだのって、世界征服に役立つものの匂いのするところ、何の脈略も無く現れてたんですよね。笑っちゃうねえ。

 僕は何度か家族で行った奥道後温泉のロケーションを確認したくて観たわけですが、意外と使われているシーンが短くてガッカリ。ま、そりゃそうなんですけどね。タイアップ先の宿で30分もの尺のロケをするはずがないんです(笑)。でもほんのちょっとだけとは言え、かなり懐かしく見せてもらいました。
 あと何がトラップだったって、ダブルライダーは出てくるんですけど、変身前の本郷猛と一文字隼人は出て来なかった。つまり変身シーンがないってワケ。オープニングタイトルで「藤岡弘、佐々木剛」ってクレジットされてるのにですよ。これは詐欺でしょ!(笑)。

 それにしても今観て驚いたのは、思いのほか発破してることです。今みたいにデジタル処理じゃないから、かなりホンモノ感があって、そのスリルはなかなかのものでした。みんな身体張ってたんだねー。
 そしてやっぱりV3はカッコ良かった。タイフーン(バイク)もカッコ良かった。テレビシリーズもちょっと観てみたいぞ。

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クヒオ大佐(2009年・日本) [2012年 レビュー]

監督:吉田大八
脚本:香川まさひと、吉田大八

 今さら観る理由は何もなかったんですけど、ブルーレイのハードディスクに150本ほどストックされている映画の中から、これをチョイス。何か大きく感動したいわけでもなく、だからってバカ笑いしたいわけでもなく、でもハラハラどきどきするのも面倒で、ただ「何か映画が観たい」という微妙な欲求に応えてくれそうな作品はこれかな、と思ったわけで。
 ちなみに「クヒオ大佐」の前に、西原理恵子原作の「女の子ものがたり」と「毎日かあさん」を観始めたんですが、どちらも開始5分観ただけで消去しました。特に後者は小泉今日子が観ていられなかった。

 カメハメハ大王の末裔でアメリカ空軍のパイロット「ジョナサン・エリザベス・クヒオ」と名乗り、何人もの女性を騙した実在の結婚詐欺師の物語です。

 この程度の情報は多くの人が持っていたと思います。そしてこの程度の情報が意外と浸透したのは宣伝の勝利だと思う。これ以上知られても、もちろんこれ以下でも良くなくて、たったこれだけの情報を持って劇場に行くのがベストだったと思います。
 ところが観てみたら意外と面白くなかった。理由は「中味が薄い」からでしょう。
 この映画。何を見せたかったのかが僕にはさっぱり分かりませんでした。

 クヒオ大佐の本性に迫るわけでなく、騙された女との愛憎を掘り下げるでもなく、全部が上っ面を撫でただけ。詐欺師の映画で思い出すのはスピルバーグの「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」ですが、この作品が詐欺師役のディカプリオだけで、FBI捜査官役のトム・ハンクスがいなかったら、相当つまらない映画だったと思います。
 やはり詐欺師は「サツに追われてナンボ」。クヒオ大佐に騙されている弁当屋経営のしのぶ(松雪泰子)の弟・達也(新井浩文)に正体を見破られるという設定が面白いだけに、もう一枚追っ手をプラスし、その攻防戦を厚く描けば、面白さは増したように思います。

 キャスティングミスという気がしないでもありません。
 堺雅人はクレバーな印象が強く、凡ミスを犯す小悪党の匂いがしない。これが、なぜクヒオ大佐はクヒオ大佐を名乗り、結婚詐欺師になるに至ったかを掘り下げ、その本名にまでたどり着くような構成なら、クヒオ大佐の背景次第で堺雅人はアリだったと思う。でも結果そうなっていない以上は、キャスティングミスと言われても仕方ないでしょうね。

 クヒオ大佐に騙される博物館学芸員役の満島ひかりは自然体な演技が巧くてスゴく良かった。
 しのぶの弟役を演じた新井浩文も相当イイ。詐欺師から金を巻き上げようってキャラがピッタリで、堺雅人と新井浩文の掛け合いだけは楽しみました。松雪泰子の薄幸ぶりも板についてたねえ(笑)。

 で結局、映画ではクヒオ大佐の人となりがよく分からなかったし、それが最大の不満だったので、ネットでいろいろ調べてみたけど、詳細は分からず。どれ原作でも読んでみようか知らん。

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結婚詐欺師クヒオ大佐 (新風舎文庫)

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その男、凶暴につき(1989年・日本) [2012年 レビュー]

監督:北野武
脚本:野沢尚

 「BROTHER」を観たらいよいよ原点を観直してみたくなった。
 劇場公開時あまりの衝撃に「2度と観ない」と心に決めた作品。23年ぶりに2度目の鑑賞である。

 深作欣二監督の降板を受け、北野武がプロデューサーの奥山和由から監督の以来を受けたとき、脚本の書き直しを条件に引き受けた、というハナシは当時から知られていたが、これを劇場で観た僕は、ここまで残酷な映画に仕上がっていようとは想像も出来ず、目をそらしたくなるような暴力描写に強烈な嫌悪感を覚え、その後ほとんど思い出そうともせず(レビューも書かず)、ある意味“封印”していた1本だった。

 そう思わせた決定的なシーンは2つあって、ひとつはヤクの売人が金属バットで刑事の頭を殴るシーン。もうひとつは殺し屋の清弘(白竜)の匕首を我妻(ビートたけし)が素手で握るシーンだ。これらは今回も観ていて胸のざらつく思いがした。
 しかし。
 そんなシーンも含めて、本作は実に完成度の高い作品だったことを、今回初めて知った。
 それは「お笑い芸人が初めて撮った割りには」という前置きなど論外で、今なら「キム・ギドクのような強烈な個性とメッセージを持った監督が日本にもいた」と言いたい。

 我妻諒介は犯罪者を追い詰めるためなら、暴力行為もいとわない刑事。おかげで行く先々でトラブルを起こし、署のたらい回しに遭っていた。そんなある日、港でヤクの売人の遺体が見つかる。我妻は乱暴な手口で密売ルートを暴いていくが、我妻の理解者である先輩刑事、岩城(平泉成)が麻薬の横流しをしていることを知る…。

 北野映画の魅力は「間」だと各所で書いて来たけれど、デビュー作からすでにその「間」は完成されている。特に印象的なのは我妻が黙々と歩くシーンが妙に多いことだ。その間セリフは皆無。観客は我妻が黙々と歩く度に付き合わされ、その“行間”を読まされることになる。
 これが何度も続くとさすがに「行間を読むにしてもヒントをくれよ」と言いたくなるのだけれど、今度はそのタイミングでヒント投下するのだ。
 命を狙われている売人の様子を伺った我妻は、帰り道に殺し屋の清弘とすれ違う。互いを知らない2人はそのまま行き過ぎるが、やがてカットが変わっても黙々と歩いていた我妻は突然踵を返し、売人のアパートまで走って戻る、というシーンだ。
 会ったことはないけれど、存在だけは知っている殺し屋と、今すれ違ったことに気付く我妻。
 この「間」も絶妙なら、たけしさんのフットワークも素晴らしく、かつ我妻の思考を知ることになるこのシーンは、本編最高のシーンだったと思う。

 我妻の相棒である菊池刑事(芦川誠)がヤクザに取り入るというオチも効いていた。
 菊池にしては身分不相応とも取れるバーに出入りしている謎がラストで解けるのだ。「何か引っ掛かるけれど、怪しむほどではない」という絶妙なフリ。感心。突っ込みどころがどこにも無い。

 もしかして北野武監督の最高傑作はこれかも知れない。
 いい大人になってやっとホンモノの味が分かった気分。

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赤いハンカチ(1964年・日本) [2012年 レビュー]

監督:舛田利雄
脚本:小川英、山崎巌、舛田利雄

 昭和30年代から40年代にかけて数々のヒット作を生み出した日活は日本最古の映画会社で(知らなかった)、今年創立100周年なのだそうだ。それを記念して日活を代表する作品群が世界各地で巡回上映されているのだとか。wowowでも「石原裕次郎30作品一挙放送」という企画を展開していて、僕も久しぶりに何本か観てみることに。

 僕がこれまでに観た裕次郎映画は「太陽の季節」(1956)、「狂った果実」(1956)、「嵐を呼ぶ男」(1957)、「俺は待ってるぜ」(1957)の4本。5年前にNHKBSで日活映画の特集をやったとき、一応デビューから時系列で観ていたのだ。
 この4本を観た感想は「究極のアイドル映画」であること。そして「当時のロケーションに見応えがある」ことだった。ではデビューから8年後の「赤いハンカチ」はどうかと思って観てみたら、これもまた完全なるアイドル映画だった。

 横浜の麻薬ルートを追いかけていた2人の刑事、三上(石原裕次郎)と石塚(二谷英明)。ある日、参考人として取り調べをしていた屋台の親父、平岡が石塚の銃を奪って逃走しようとしたため、三上は平岡を射殺してしまう。過失とは言え、世間の風当たりは強く、やがて2人とも警察を辞めてしまう。それから4年後、北海道のダム工事現場で働く三上のところへ、神奈川県警の土屋警部補(金子信雄)が現れる。土屋は石塚が今は実業家として成功していることと、4年前の事件が関連しているのではないかと持ちかける…。

 裕次郎30歳のときの作品であり、麻薬取引を追いかける刑事という設定でもある故、「さすがにアイドル映画とは言い難かろう」と高をくくってみていたら、刑事を辞職した三上は常にギターを持ち歩き、何かと1曲披露する人になっていて、「これをアイドル映画と呼ばずして何と呼ぶ」と言いたくなるほど、奇妙な見せ場のある映画だった。
 しかし、事件の設定そのものはハードボイルド風(あくまでも「風」である)で悪くない。「三上の射撃の腕前はオリンピック級」という、これまたアイドル映画ならではの“ムチャな設定”は頂けないが、叩き上げの刑事が麻薬取引に手を染めるという展開は嫌いじゃない。それを二谷英明がそつなく演じていたと思う。
 ヒロインは当時24歳だった浅丘ルリ子。とんでもなく可愛く、とんでもなく美人である(裕次郎とともに歯並びだけはイマイチだけど)。脇役として登場する桂小金治もなかなかいい。

 フッテージとしての見どころもいくつかある。
 中でも一番は、港の見える丘公園とホテルニューグランド。周辺は今では考えられないくらい殺風景で、一体何があって何が無いのか、スローモーションにして確認したいくらいだった。

 日活の屋台骨を支えたスター映画の典型。
 ただ「赤いハンカチ」はどこにも出て来なかった(笑)。

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BROTHER(2000年・日本/イギリス) [2012年 レビュー]

監督・脚本・編集:北野武

 「アウトレイジ ビヨンド」がヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品されるというニュースを見て、ふと北野作品が観たくなった。
 北野作品は「ビヨンド」以前に15本あるのだけれど、僕が観たのは8本しか無く、特に本作は「アウトレイジ」のあとで強く「観たい」と思った1本だった。

 組織の抗争に巻き込まれ、日本に居場所を失ったヤクザの山本(ビートたけし)はL.Aへ単身高飛びする。そこにはヤクの売人をしている弟のケン(真木蔵人)がいた。山本はケンとその仲間を束ねて、地元を仕切るイタリアンマフィアに抗争を仕掛けて行く…。

 小さな組の組長が単身ロスに渡り、チンピラ以下の連中を束ねて地元マフィアを襲撃するという設定には相当無理がある。あるけれど、このストーリーは「北野武が『その男、凶暴につき』で映画監督デビューを果たしたストーリー」と似ているなと思った。
 日本映画界という閉鎖的な社会に単身飛び込み、圧倒的な暴力描写で世間をあっと言わせた北野武と、ロスで暴れまくる山本の姿が、僕にはぼんやり重なって見えたからだ。そうなるともう設定の無理は気にならなくなった。
 これは監督自身のエピソードをヤクザの世界に置き換えて撮った短編小説のようなものなのだ。

 本作は「アウトレイジ」と違って口数の少ない映画だ。
 それが「アウトレイジ」以前の北野作品の特徴でもあるのだけれど、口数が少ない分「間」が多い。北野作品の魅力は、この「間」にあると思う。
 僕にとって北野作品の「間」は、虫食いクイズと同じだ。その空白を埋めようと全力で頭を使う。もちろん正解は無い。だから観客は自分なりの解釈で物語を読み進めることになる。
 映画の完成を観客に委ねるに等しい仕掛け。正直、頭のいい映画の作り方だと思う。

 展開は誰もが読める。
 山本がロスを手中に収める結末にはならない。そうなったら究極のリアリティの欠如である。だからロスで好き放題やった山本は当然、最終的に追い詰められる。では見え見えの結末にたどり着いた先で、北野武は何を見せようとしたのか。
 北野武の美学である。ダンディズムと言ってもいい。
 シャイなたけしさんらしい脚本に僕は心が和んだ。どうしようもないヤクザの映画なのに不思議と心がほっこりした。
 山本の肝の据わり方といい、舎弟を演じた寺島進の兄弟愛といい、妙に感じ入る作品だった。
 僕はこの作品、好きだ。

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グリーン・ランタン(2011年・アメリカ) [2012年 レビュー]

原題:GREEN LANTERN
監督:マーティン・キャンベル
脚本:グレッグ・バーランティ、マイケル・グリーン、マーク・グッゲンハイム、マイケル・ゴールデンバーグ

 脚本家が4人もいるって、あからさまに「スタジオ主導で作りました」って言ってるようなもの。ちょっと恥ずかしいけど、これがハリウッドの映画作りの一例です。
 そんな事情はともかく。
 アメコミキャラってどんだけいるんだよって思いました。僕はこの原作全く知らなかったし、だから知識もゼロで観ることになったんですけど、何も知らなければ期待もゼロなので、それはそれでいいかもと思いました。だって意外と楽しめたし(笑)。

 宇宙警察機構〈グリーン・ランタン〉のアビン・サーは、無人の星に封じ込められていた最強の敵バララックスに襲われ瀕死の状態に追い込まれる。アビン・サーは近くの星(地球)に不時着し、自分に代わるグリーン・ランタンを選ぶ事にした。選ぶのは彼らにとって最強の武器でもある〈パワーリング〉。グリーン・ランタンは“恐怖を克服出来る勇者”が選ばれるのだが、リングは自信過剰でお調子者のテストパイロット、ハル・ジョーダンを選んでしまう…。

 「宇宙全域を守護する警察機構」って設定がリミッター効いてない感じでイイと思います。そもそもアメコミなんて何から何までウソなんだからリミッターかける必要もないわけだしね。あとあとキレイにたためるのなら、風呂敷なんていくら広げてもいいと思うわけです僕は。
 で、全身緑色のヒーローの特殊能力は何かというと、自分が想像したものをカタチにすることが出来る能力。〈パワーリング〉がその装置になるわけですが、このアイディアが面白いなと思いました。
 たとえばビルから落下する人を助けようと思ったら、下に巨大なエアマットを置いてもいいし、途中にネットを張ってもいいわけです。それはグリーン・ランタンの想像力によって異なるというワケ。“想像力”が武器ってスゴくないですか?(笑)。そんなヒーローがいるなんて知らなかったから、僕は意外と楽しめたんです。

 ただ主演のライアン・レイノルズは、ヒーローと呼ぶには物足りないルックスしてましたね。その代わりヒロインのブレイク・ライヴリーがイイ女だったので、モチベーションはキープ出来たまま最後まで観ることが出来た気がします。やっぱり本作は女優で持ってたかも(笑)。
 また続編作る気マンマンのフリがラストにありますが、続編製作の予定はまだ無さそう。この手のヒーローモノは続編の構成って意外と難しいからね。失敗も多いし。あれば観るけど劇場では観ないかも。

 それにしても、もうCGには驚かなくなって来たなあ。

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ワイルド・スピード MEGA MAX(2011年・アメリカ) [2012年 レビュー]

原題:FAST FIVE
監督:ジャスティン・リン
脚本:クリス・モーガン


 wowowのラインナップに久しぶりに並んだのを観て、「まだ作っとったんかい」と思いつつ、オリジナルキャストによる新作と知って観てみることに。
 ところがオリジナルキャストの復活は前作「ワイルド・スピード MAX」(シリーズ通算4作目)からだったらしい。なんだよ。3作目の「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」が吐きそうなほど面白くなかったから、完全にノーマークだったぜ。

 前科者になったドミニク(ヴィン・ディーゼル)と指名手配犯になった元FBI捜査官のブライアン(ポール・ウォーカー)はブラジルのリオデジャネイロに潜伏していた。2人は自由を手に入れるため、リオの裏社会を牛耳るレイエスの金に目を付けた。その額およそ1億ドル。そこでドミニクとブライアンはかつての仲間を呼び寄せることに。一方2人を逮捕するため、本国からは最強の捜査官ホッブス(ドウェイン・ジョンソン)のチームが送り込まれていた。

 
オリジナルキャストとは言え、佳作だった1作目はどんなんだっけ?と思うほど、随分時間が経っているし、1作目の何が面白かったのかを思い出せないほど、本作は脈略のないストーリーだったと思う。
 とにかく僕は「イカしたクルマのぶっ飛んだドライブ」が観たかっただけなのに、その願望は満たされないまま終わってしまった。よりによってクライマックスを飾るのは真っ黒なボディの2010年式ダッジ・チャージャーである。色気が無いにもほどがある。

 それと途中「オーシャンズ11のパクリかよ」と思わせるのも良くない。
 レイエスの金を頂くために仲間を招集し、周到な準備を進めるシークエンスは、誰がどう考えても「オーシャンズ」である。そこにクルマを絡めたネタを盛り込もうと何をしようと、そう思わせてしまったら致命的でしょう。僕は途中何度観るのを止めようかと思ったか知れない。

 それでも中だるみを乗り越えたら、色気の無いダッジ2台が街を疾走するシーンは見応えがある。
 派手にクルマと街を破壊しながら、ある目的を果たすためにドミニクとブライアンが“デュエット”するのだ。
 また壮大な強盗劇の結末も観客が望む方向へ着地させてあって、娯楽映画としての仕事はしていると思う。
 これが「ワイルド・スピード」シリーズの1本でなければ、まずまず愉しめたと言えるかも知れない。
 例によって1本目が観たくなって来た。

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完全なる報復(2009年・アメリカ) [2012年 レビュー]

原題:LAW ABIDING CITIZEN
監督:F・ゲーリー・グレイ
脚本:カート・ウィマー

 知人の映画プロデューサーから勧められた1本。
 ジェイミー・フォックスとジェラルド・バトラーが共演したR15+のサスペンスです。

 ペンシルバニア州フィラデルフィア。
 クライド(ジェラルド・バトラー)は自宅に突然押し入って来た2人組の強盗に妻と娘を殺害される。犯人は逮捕されるが証拠に乏しく、有罪を勝ち取れないことを恐れた判事のニック(ジェイミー・フォックス)は主犯格のダービーと司法取引を行い、ダービーは極刑を免れる。これにクライドは猛反発したが現行の法律ではどうにもならなかった。
 それから10年後。クライドはついに復讐を開始する。それは抜け穴だらけの法律に対する復讐でもあった。

 かなり面白いです。
 見どころはクライドが仕掛ける復讐の手法。ニックとダービーの司法取引で煮え湯を飲まされたクライドは、ある殺人容疑で収監されたあと、ニックに次々と取引を持ちかけます。
 刑務所のベッドのマットを高級品に取り替えてくれたら自白をする。
 ランチにステーキとBGMを用意してくれたら行方不明になっている弁護士の居所を教える。
 明日午前6時までにすべての告訴を取り下げてくれたら復讐を終わりにする。
 協力者がいなければ絶対に不可能なことを、刑務所にいながら実行していくクライド。このまったく想像も出来ない、かつ巧妙な“復讐劇”こそ本作最大の見どころ。種類は違いますが「オーシャンズ11」や「ミッション・インポッシブル」と同じ。「ターゲットをはめるために幾重にも仕掛けた罠」を愉しむ映画です。
 
 たったの108分という尺もいい。
 冒頭クライドの家族が襲われるシーンはあっという間の展開で、なのに観客はたちまち感情移入を果たすほど、残酷で憎々しい作りになっているところが見事。以降、余計なサブストーリーも一切なく(ニックと部下のサラは男女の関係があるのかと思った)、ゴールへ向かってまっしぐら。見事にシェイプされた脚本で感心させられました。
 主演の2人も良い芝居をしています。
 ジェイミーは成績(有罪率)にこだわる傲慢な判事を嫌みなく演じ、ジェラルドは被害者と加害者の狭間に立つ復讐者の執念を実に冷静に演じていました。

 先の読めないスリルと意外性を味わいたいならオススメ。

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