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見逃していたら絶対オススメの10本〜2011年版〜 [2011年 ベスト10]

 あけましておめでとうございます。
 旧年中、東日本大震災にて被災された地域の皆さま、関係の皆さまには心よりお見舞い申し上げます。
 今年「ナニミル?」は7年目に突入しますが、昨年は過去最低の103本しか観ることが出来ませんでした。
 製作国別に分けると以下のようになります。

 アメリカ 34本
 日本 33本
 香港 18本
 フランス 4本
 韓国 3本
 イギリス 2本
 タイ 1本
 その他合作 8本

 なんとも寂しい数字です。2010年に続き「最も映画を観なかった記録」を更新してしまいました。
 これにはいくつか理由があるのですが、その一つは「レビューを書くのに時間がかかり過ぎている」というのがあります。なぜ時間がかかっているかというと、実は2010年から僕は「沢木耕太郎風にレビューを書く」トレーニングをしていたのです。
 何ともお恥ずかしいハナシですが、2009年の11月10日の毎日夕刊に掲載された沢木耕太郎さんの映画コラム「銀の街から」(このときのレビューは「千年の祈り」という中国映画)を読んで衝撃を受け、「このタッチで自分も書きたい!」と無謀にも思ってしまったのです。でも、とりあえず2年やってみて「やっぱ無理だった」と気付いたので、今年からもう少し気楽なタッチに戻そうと思います(笑)。

 もうひとつ2011年の特徴は、例年にも増して趣向が偏っていたこと。
 香港映画が18本もあるのは、主にブルース・リーとジャッキー・チェンのカンフー映画を観直していたからです。また開戦から70年と言う節目の年でもあったので、太平洋戦争をモチーフにした新旧作品もたくさん観ました。
 というわけで2011年は103本。
 年末年始恒例の「ベスト20」はさすがに20本揃わず、今年は「ベスト10」とさせて頂くことにしました。ではどうぞ!

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失われた大地(2011年・フランス/ドイツ/ポーランド) [2011年 ベスト10]

原題:LAND OF OBLIVION  監督・脚本:ミハル・ボガニム

 今年の東京国際映画祭に出品されたのだから、東日本大震災以前に作られていたと見るのが妥当だろう。
 皮肉なことにタイムリーな映画になってしまったこの作品は、チェルノブイリ原発事故の当日、隣町で結婚式を挙げた女性の物語。

 1986年4月26日。ウクライナ北部に位置するプリチャピ市の緑豊かな町で結婚式が行われていた。新郎は消防士のビョートル。新婦は笑顔が美しい娘アーニャ(オルガ・キュリレンコ)。
 ところがプリチャピの南4キロにある原子力発電所で火災が発生。ビョートルは新妻の「今日ぐらい休ませてもらって」という声を振り切って、式の途中で現場へ急行するが、ビョートルはそれきり帰って来なかった。さらに数日後。誰も真相を知らない町にやがて黒い雨が降り始める。

 2011年はチェルノブイリ原発事故から25年という節目の年。
 事故を風化させないために作られただろう作品が、日本にとって対岸の火事ではなくなったところがまず恐ろしい。そして私たちの日常生活のどこまで迫り、どこまで入り込んでいるのか分からない「放射能」の怖さを、改めて実感する作品だった。
 何が怖いって放射能以上に、情報を開示しない人間と、無知な人間が一番怖い。
 事故から数日後、原子力研究に携わる男のもとへ1本の電話が入って来る。外は雨。カメラは開いた窓から室内を捉えている。電話を受けた男は驚きを隠せず、「公表したのか?」と相手に迫る。想像するだけで心が粟立つ静かなやり取り。電話を切った男はガイガーカウンターを持ち出し、窓辺に差し出す。異常値。慌てて窓を閉めた男は妻に言う。
 「子供を連れて町を出ろ!絶対に雨に濡れるな!」
 子どもたちは水たまりで遊んでいる。今までは微笑ましく見ていたはずの光景が、まるで地雷原で遊ぶ子どものように見えてしまう。
 買い物客でにぎわう市場。男はガイガーカウンターを肉に当ててみる。異常値。男は店の人間に聞こえないよう、客に「食べるな」と告げるが誰も相手にしない。男の絶望的な表情。
 国や自治体は“パニック”を畏れて、常に“最善”を見失う。
 「放射能」はそんな愚かな人間の判断ミスをあざ笑うかのように、遥か先回りをしながら私たちの平和な日常を隙間なく踏み潰して歩く“モンスター”なのだ。

 事故後のプリチャピ市。長編映画としては初めての撮影だったと言う。
 ネット上で検索し見つけた観覧車やプールの映像が寸分違わぬ姿でスクリーンに映し出される。それはまさに「死の町」という言葉以外に見当たらない風景。
 本編でアーニャは、プリチャピ見学ツアーのガイドを務めているが、これも実際に存在するツアーらしい。ただし健康を損なっても自己責任とする念書にサインをさせられるそうだ。そんな場所で撮影に臨んだスタッフに最大級の賛辞を送りたい。
 またロケーションもさることながら、じわじわと朽ちていくオルガ・キュリレンコの演技にも心打たれた。

 人間が求めたエネルギーで、人間が命を奪われる現実。
 僕はせめてこの映画が1年前に公開されていたらと、思わずにはいられなかった。と言いつつ今からでもぜひ日本で一般公開して欲しいと願う1本。


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三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船(2011年・フランス/アメリカ/イギリス/ドイツ) [2011年 ベスト10]

原題:THE THREE MUSKETEERS  監督:ポール・W・S・アンダーソン

 今年も待ちに待った東京国際映画祭のシーズンがやって来た。
 1本目は公式オープニング作品。依田チェアマンが会長を務めるギャガ配給作品である(他意はない)。僕は劇場に入る直前、スタッフにメガネを渡されて初めて、これが3D上映だと気付くとんまぶりを発揮したが、それはともかく。結論から言ってしまうとこの作品は「当たり」だった。娯楽作品としてまったく申し分なしである。

 正直に言うと「ハリー・ポッター」もどきの邦題はどうかと思っていた。
 日本の映画会社はハリポタ人気に便乗して、ファンタジー系の未公開映画をストレートDVDとして何本もリリースした。当然その邦題にはハリポタ風サブタイトルが与えられ、これが「B級映画の印」のように見えるようになってしまったのだ。
 例を挙げよう。
 「ソード・オブ・ザ・ファンタジー/勇者と聖なる剣」(2002年・オーストラリア/アメリカ)
 「リトル・ウィッチ/ビビと魔法のクリスタル」(2002年・ドイツ)
 「ジョゼフィンと魔法のペンダント」(2005年・デンマーク)
 「レジェンド・オブ・ドラゴンホース/古龍・麒麟と秘められし魔法」(2006年・タイ)
 「ウルフハウンド/天空の門と魔法の鍵」(2007年・ロシア)
 「トレジャー・ランド/謎の古代人と秘密の笛」(2007年・アメリカ)
 「ムーンプリンセス/秘密の館とまぼろしの白馬」(2008年・イギリス)
 「セレスティアム・キングダム/天空の城と魔法の剣」(2010年・アメリカ)
 「ミノタウロスの秘宝/シンドバッドと迷宮の獣神」(2011年・オーストラリア)
 これらはいずれも劇場未公開のストレートDVDタイトルである。まるで「ドラクエ」が大ヒットした後、雨後の筍のように生まれたクソゲーRPGを見るようだ。こんな状態だから、僕に「王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」というサブタイトルはまったく刺さらなかったのだ。


 ところが、食わず嫌いにならなくて本当に良かったと思った。それくらい面白かった。
 では何が良かったかと言うと、第1に「配役」である。
 主要登場人物は全部で11人いるのだけれど、俳優全員が見事にハマっていて“座組”として完璧だった。フツー主要キャストが11人もいると、1人や2人は「ミスキャスト」と言いたくなる配役があるものだが、本作に限ってそんな不満は皆無。個人的には「オーシャンズ11」以来のハマり具合だったと思う。
 なにより肝心のダルタニアン役、ローガン・ラーマンが方々の紙媒体で見かけた写真からは想像も出来ないほど愛らしいマスクで、かなり好感が持てた。
 三銃士もそれぞれ素晴らしい。
 アトスのマシュー・マクファデインは、ラッセル・クロウを思わせる存在感があってクール。
 アラミスのルーク・エヴァンスは、若干オーランド・ブルームとキャラが被っているけれどスマート。
 ボルトスのレイ・スティーヴンソンは007を卒業した後のショーン・コネリーを彷彿とさせる。
 そして何より僕を熱くさせたのは、アンヌ王妃の侍女コンスタンスを演じたガブリエラ・ワイルド。この娘が登場した瞬間、僕の身体に電気が走った。そして純粋に「この映画、観て良かった!」と思ってしまった。それくらい「久しぶりに出会った美女」だったのだ。
 「映画は美女を眺めるものである」
 これは僕の映画哲学だが、本作はその典型と言っていい。

 第2は「テーマが純粋だった」ことにある。
 三銃士の舞台は17世紀。若き王、ルイ13世の命を受け宰相となったリシュリュー枢機卿(クリストフ・ヴァルツ)の陰謀を重要なプロットとしているものの、大テーマとして掲げているのは「愛に活きる」である。
 時にこの手の作品はプロセスにこだわる余り、「そもそも何のためにこんな大変な思いをしてたんだっけ?」と思い返すことがある。そんなときに動機が入り組んでいたりすると突然冷めたりするものだが、動機そのものが「愛に活きる」だとブレようがないし、忘れようもない。だから良いのだ。


 第3は「アンダーソン監督の手堅い演出」だろう。
 愛妻ミラ・ジョヴォヴィッチが立ち過ぎてる感はあったが、それでもアクション映画のツボはちゃんと心得ていて、見せ場の置きどころと時間の割き方が絶妙だった。111分という上映時間も良心的で、観客は中だるみすることなくエンドロールまで導かれるだろう。 
 それにしても役者が揃うと芝居は本当に面白い。
 これは良い意味でのスターシステム映画。デート映画のチョイスとしては完璧。
 続編もあるでよ。

_1_image_size_330_440_dn.jpg スクリーンで観るともっとカワイイよ♬

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イップ・マン 序章(2008年・香港) [2011年 ベスト10]

原題:葉問/IP MAN  監督:ウィルソン・イップ 脚本:エドモンド・ウォン
 
 タイトルロールはブルース・リー唯一の師匠にして、中国武術“詠春拳”の達人、イップ・マン。
 カンフー映画である。しかしこれまでのカンフー映画とはまったく趣が異なっている。その最大のポイントは、主人公が血気盛んな若者ではなく、妻子を持つ落ち着いた男性である点だ。
 
 1930年代の広東省佛山。
 多くの武術家が道場を開く土地で、家族と共に平穏に暮らすイップ・マン(ドニー・イェン)。彼は道場も弟子も持たなかったが、武術家として優れ、人格者でもあったことから、人々から「師匠」と慕われていた。
 やがて日中戦争が勃発。イップ・マンの家は日本軍に没収され、一家は貧しい生活を強いられることに。そんな中、日本軍の将校、三浦(池内博之)がイップ・マンの実力を認め、日本兵に中国武術を指導するよう迫る…。

 ドニー・イェンのカンフーが実に美しい。本作はこの一言に尽きる。
 その美しさは、単にテクニックとしてではなく、イップ・マンの“生き様”が大きく影響している。彼の物の考え方、言葉の選び方、行動の起こし方、いずれも徳を積んだ人でなければ出来ない“立ち振る舞い”が、カンフーを美しく見せているのだ。その流れるような美しさと清々しさは、まるで清流の如きである。
 また面白いことにイップ・マンは最後まで上着を脱がなかった。もしやカンフー映画の主人公で、その肉体を誇示しなかったのはイップ・マンが初めてではないか。
 肉体だけではない。ブルース・リーやジャッキー・チェンに比べると顔だって地味だ。ドニー・イェンは「カンフーの達人」と言うより「善良な一市民」と言った風情である。ところがいざ手を合わせると、一片の無駄も隙もないカンフーを繰り出すのだから、観客は皆イップ・マンの虜になる。こんなにスマートなカンフー映画は観たことがない。

 一方で強烈な反日映画である。
 観る世代によっては不快感も湧くだろう。しかしここは「中国人の積年の恨み」とあきらめて観るしかない。それよりも敵役を引き受けた池内博之に拍手を送りたいくらいだ。
 「メガネに出っ歯」という日本人蔑視のイメージを体現した渋谷天馬も良かった。嫌われ役はとことん嫌われてこそドラマで際立つ。その仕事を見事にこなしていたと思う。

 イップ・マンは実在の人物でも、ストーリーはフィクションである。
 例えば、イップ・マンの自宅を没収したのは実際は中国共産党だが、本編に中国共産党は一瞬たりとも出て来ない。中国映画だから当然である。
 そう言いつつ、登場人物の関係性はなかなか良かった。
 正義のイップ・マン、絶対悪の日本軍、そして愚者の強盗団。この三すくみ構造は物語に厚みを持たせることが出来て良かったと思う。欲を言えば強盗団の頭、金をもっと上手く使いこなして欲しかった。

 カンフー映画ファン必見。川井憲次の音楽も出色。第2作ももちろん観る。

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男はつらいよ(1969年・日本) [2011年 ベスト10]

原作・監督・脚本:山田洋次 脚本:森崎東

 「寅さんを初めて観たのはいつですか?」
 こう聞かれても、ちゃんと答えられる人はあまりいないんじゃないかと思う。なんたってこのシリーズは、昭和44年から平成7年まで足掛け26年で48本も作られているからだ。
 僕の場合、物心ついたときにはすでに寅さんは存在していたし、しかもテレビでも頻繁に放映されていたせいで、そもそも何を観て、何を観ていないのかすらよく分かっていなかった。それで冒頭の質問を自分に投げてみたのだ。

 79年から書き始めた映画ノートをめくってみると、僕は80年1月26日に第24作「寅次郎春の夢」を観ていることが分かった。でも、これが“初寅さん”ではなかったようだ。そこにはこんな記述があった。
 「シリーズ24作中、実際は4、5本しか見ていない私がエラそうにいえる立場ではないが…」
 何をエラそうに語っているかはさておき、僕は17歳の時点で4、5本の「寅さん」を観ていたらしい。
 でも「一体何を?」
 そこで松竹の「男はつらいよ」公式サイトで全作品をチェックをしたら、ぬるりと記憶が蘇って来た。僕が最初に観た「寅さん」は、昭和52年8月に公開された第19作「寅次郎と殿様」だった。
 この第19作は当時僕が住んでいた愛媛県が舞台になっていて、地元が映画に映っているということで、わざわざ映画館まで観に行ったのだと思う。スクリーンで観た風景がどんなだったかは最早覚えていないが、殿様の家のタオルが部位別に分かれていて、寅さんが「股」と書かれたタオルで顔を拭くシーンに笑った記憶だけは鮮明に残っている。

 寅さんほど上手くない前口上が長くなった。
 今回wowowの番組表にシリーズ第1作が並んだのを見て、僕はふと思うことがあった。
 ここまで書いてきたように、「男はつらいよ」は「寅さん映画」とも呼ばれる。そして多くの人が「渥美清の映画」だと思っているだろう。僕もずっとそう思っていた。でも実際は「山田洋次の映画」である。畢生の俳優が車寅次郎に命を吹き込んだとはいえ、山田洋次がフーテンの寅の着想を得なければ、歴史に残る(ギネスにも残る)国民的シリーズは誕生しなかったのだ。だから僕は「霧の旗」や「家族」や「幸せの黄色いハンカチ」を観るような気分で「男はつらいよ」を観てみようと思った。前口上これにて終わり。

 20年ぶりに故郷・柴又へ戻ってきた車寅次郎。
 異母兄妹のさくら(倍賞千恵子)と涙の再会を果たしたのもつかの間、寅はさくらのお見合いをぶち壊してしまい、再び旅に出ることに。ところが奈良で御前様(笠智衆)と娘の冬子(光本幸子)にバッタリ。気さくな美人になっていた幼なじみ冬子に恋した寅は、2人に連れ添って柴又へ帰って来るのだが…。

 文句なしの面白さである。
 山田洋次+森崎東の脚本も、渥美清の芝居も完璧。テレビシリーズで完成されていたとは言え、このクオリティの高さは驚きだ。
 まあ、とにかく笑える。僕は妻と1歳の娘が寝静まった深夜にヘッドフォンで観ていたのだけれど、少なくとも3度大きな声を出して笑ってしまった。
 まずは完全にベタなネタ。さくらと博(前田吟)の披露宴の席で、仲人を務めたタコ社長(太宰久雄)が、博の父親、諏訪颷一郎の「颷」の字が読めず、「すわ…ホニャいちろう」とごまかすシーン。山田洋次がコントの鉄板とも言うべきネタをここに持ち込んだのは、それでも静かに着座している颷一郎の心理状態を表現するためだ。
 続いては、冬子と遊びに行く約束をしていた寅さんが家を訪ねると、冬子はインテリ風の男と一緒にいて、御前様の「あれは婿になる男だ」の一言に呆然とするシーン。ここでの寅さんのアップは傑作だった。ミソだったのは、寅さんに新品の麦わら帽を被せたこと。夏の楽しいアイテムと寅さんの呆然とした表情が完全にミスマッチ。だから可笑しい。これぞ山田演出の真骨頂というべきカットだ。
 そして、傷心の寅がウィスキーを抱えて押し入れに隠れていたところをさくらに発見されるシーン。
 おいちゃんがさくらに「枕出してくれ」と言った瞬間、観客は「ああ寅さん、見つかっちゃう」と思う。観客に展開を分からせておきながら、それでも笑わせたのは寅さんの佇まいだ。麦わら帽を被ったままだったのも良かったが、普段は威勢のいい寅さんが、押し入れの中で首を折り曲げて小さくなっていたのが良かった。これはキャラクターのギャップによって笑わせると言う仕掛けである。
 いずれも観ている瞬間は思わず笑ってしまったが、笑ったあとに感心の溜息がもれる見事な演出だった。

 「男はつらいよ」には至るところに“涙と笑いの表裏一体”が仕掛けられていた。「笑いながら悲劇を語る」山田洋次。やっぱり凄すぎる。1969年度のキネ旬ベストテン第6位も納得である。
 余談だけど倍賞千恵子がとんでもなく可愛い。これだけでも観ないと損。
 またヘッドフォンで観ていたおかげで、面白いノイズも発見した。
 オープニング「松竹映画」のクレジットが明けると寅さんの前口上が始まるのだが、明けて64秒後。
 「そうです。私の故郷と申しますのは、東京葛飾の柴又でございます」
 の「そうです」のあとで、原稿を送る“紙ノイズ”が入っているのだ。機材が進化した今じゃ考えられないけれど、アナログ時代のほのぼのとした空気を感じる珍しいノイズだった。

 さて、こうなったら「男はつらいよ」もシリーズ制覇したくなって来たぞ。

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しとやかな獣(1962年・日本) [2011年 ベスト10]

しとやかな獣」 監督:川島雄三 原作・脚本:新藤兼人

 iTunes Storeで見つけた掘り出し物。
 僕はこれまで「ワンシチュエーションドラマは嫌いだ」と公言して来たけれど、本作に限っては撤回。
 実を言うと途中まで、これがワンシチューエーションとは気付かずに観ていた。たった二間の団地の一室で繰り広げられるドラマがこうも面白いとは驚きである。

 冒頭の“つかみ”からして見事。
 物語の舞台となる団地の一室。前田家では時造(伊藤雄之助)とよしの(山岡久乃)が、部屋の模様替えを始めていた。テレビを隠し、ステレオに風呂敷をかぶせ、テーブルクロスを薄汚れたビニールに替え、壁のルノワール「足を組む裸婦と帽子」は台所の脇にやり、さらに2人はみすぼらしい着物に着替えた。
 「そろそろ来るころかな?」
 と、時造が待ち構えたところへやって来たのは、息子・実(川畑愛光)が勤める芸能プロダクション社長の香取(高松英郎)。香取は所属歌手のピノサク(小沢昭一)と、会計係の三谷幸枝(若尾文子)を伴って乗り込んで来るなり、「お宅の息子に事務所の金を使い込みされた」とまくし立てる。が、時造とよしのは驚くでもなく、「何かのまちがいでは?ウチの実に限って、そんなことは…」と繰り返すばかり。

 早い話が親子でグル。
 時造とよしのが部屋の模様替えをしたのは、実の使い込みで潤った生活をごまかすためだったのだ。…と、ここまではあくまでも“つかみ”であって、この先はもっと面白い。
 香取と入れ替わりで帰ってきた実の開き直りぶりに唖然とする間もなく、やがてピンクのドレスで入って来たのは長女の友子(浜田ゆう子)。友子は時造のツテを使って小説家・吉沢(山茶花究)の二号をしていたが、理由あって戻って来た(この理由も面白い)。
 さらに、芸能プロ会計係の幸枝が一人で実を訪ねて来て、「私たちの関係も今日までにしましょう」と切り出す。実は幸枝の心変わりに驚き、時造とよしのは実が利用されていたことを知って驚く。そしてここからがいよいよ本作の核心である。何を隠そう本作の主人公は若尾文子演じる幸枝であり、幸枝は自らの身体を武器にして、あらゆる方法で金を手にし、旅館を開業しようとしていたのだ。

 とにかく新藤兼人の書く脚本が立て板に水で素晴らしい。
 特に時造のセリフなど演劇台詞のように朗々としているけれど、演じる伊藤雄之助の上手さと、山岡久乃の驚くほど自然体な芝居も手伝って、観客はあれよあれよという間に前田家に引きずり込まれていく。
 特筆すべきは川島雄三の演出である。
 ほとんどのカットは前田家の半径5メートル以内で撮影されていたにもかかわらず、時に大胆なカメラアングル(隣の家の玄関にキャメラを置いたり、天井からの真俯瞰や、床からの超ロウアングルなど)を挟み込み、画に変化をつけ、またイメージ映像として何度かインサートした白い階段(人生のアップダウンを表現している)も効果的で、飽きない画作りを心がけるとこうも印象が変わるものかと感心させられた。

 ワンシチュエーションドラマのこれこそ傑作。当時29歳だった若尾文子の美貌と大胆な演技も見もの。
 いや、iTunes Storeのラインナップは侮れない。

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インビクタス/負けざる者たち(2009年・アメリカ) [2011年 ベスト10]

原題:INVICTUS 監督:クリント・イーストウッド 脚本:アンソニー・ベッカム

 1本の映画が生まれるきっかけはいろいろある。
 南アフリカ共和国第11代大統領、ネルソン・マンデラが自伝を出版した際、記者から「映画化されるとしたら、誰に演じてもらいたいか」と質問を受け、マンデラはモーガン・フリーマンの名を挙げた。それを聞いてフリーマンは南アフリカにマンデラを訪ね、自伝の映画化権を買いつけたという。
 やがて完成した脚本をフリーマン自らイーストウッドに送り、監督を依頼。イーストウッドが快諾し「INVICTUS」は世に出ることになった。

 1本の映画を観るきっかけもいろいろある。
 僕は昨夜ブログのメンテナンスをしていて気になる記事を見つけた。movieloverさんが書いた田口ランディ著「根をもつこと、翼をもつこと」の書評。その中でmovieloverさんは自身の近況について触れ、「生きる」ことについて考え、さらにネルソン・マンデラが獄中愛読してたという詩を紹介されていた。その一節。
 「私が我が運命の支配者。我が魂の指揮官なのだ」
 ガツンと来た。それで僕はMacの電源を落として、ハードディスクに録ってあった本作を観始めた。

 一言でいうと「真面目な映画」だ。
 フリーマンとイーストウッドという良識あるオトナが、世界中のオトナために作った真面目な映画。
 その間に挟まって、マット・デイモンがちょっと緊張気味に見えるのが微笑ましい。
 本作は、26年に渡る投獄生活から解放され、1994年に行われた南アフリカ史上初の全人種参加選挙に勝利し、大統領に就任したネルソン・マンデラが、国民の意識を根底から変えるために、翌95年に南アフリカで開催されるラグビーワールドカップを最大限利用しようとある行動を起こし、やがて変わりゆく“一国の成長”を観るドラマである。

 感心するところはいくつもあったが、まず溜息が出るのは、微に入り細に入り、きめ細やかなイーストウッドの演出である。脚本のまま撮っていたら、きっと「クソ真面目な映画」になったに違いないところ、ジャンボジェットの機長や警官の近くでゴミ拾いする少年の描写にスパイスを効かせる辺り、「さすが映画を知り尽くした名匠」と感じ入った。知り尽くしているせいで、若干言葉足らずかと思うシーンがないでもないが、そこは観るオトナが行間を読めばいいだろう。
 一方でこれは「言葉のチカラ」を観る映画でもある。
 言うまでもなく観客は何度もマンデラの言葉に耳を傾けることになるのだが、その言葉に圧倒的な説得力を持たせたフリーマンの演技も素晴らしい。ナレーションの仕事も手がけるだけあって、聞かせるテクニックは抜群。もちろん観客が自ら前のめりになったかと錯覚させられるイーストウッドのカメラワークも、その一助になっている。

 さて劇中マンデラは終始「赦し」を説いている。
 白人を恨むな。白人が愛するものを黒人も愛せ。
 反体制活動家として27年間も投獄されたマンデラが、復讐ではなく融和を謳えるのは何故なのか。
 その答えが、獄中で心の支えとしたウィリアム・アーネスト・ヘンリーの詩にある。

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 INVICTUS  -William Ernest Henley 

 私を覆う漆黒の夜

 鉄格子にひそむ奈落の闇
 私はあらゆる神に感謝する
 我が魂が征服されぬことを

 無惨な状況においてさえ
 私はひるみも叫びもしなかった
 運命に打ちのめされ
 血を流しても
 決して屈服はしない

 激しい怒りと涙の彼方に
 恐ろしい死が浮かび上がる
 だが、長きにわたる脅しを受けてなお
 私は何ひとつ恐れはしない

 門がいかに狭かろうと
 いかなる罰に苦しめられようと
 私が我が運命の支配者
 私が我が魂の指揮官なのだ

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 言ってしまえば、この映画のすべてである。
 だからネタバレと言えなくもないが、本作が言わんとしていることは、そんなレベルの低いことではない。「すべての人種、すべての国境を超えて、人は融和しなければならない」という人類最大のテーマをこの作品は掲げているのだ。
 正直言うと、僕もmovieloverさんの記事を拝見するまで、この映画を観る動機がなかった。一体どんな映画なのかアートワークではよく分からないし、タイトルも意味不明だ。けれどこの詩に触れたのは大きかった。近年こんなに心揺さぶられた言葉も無かった。だから僕は他人から「真面目か」と突っ込まれても、この映画をすべてのオトナに勧めたい。

 フリーマンとイーストウッド。
 2人の品格がにじみ出た、永きに渡って語り継がれるべき、良品。

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ブラック・スワン(2010年・アメリカ) [2011年 ベスト10]

原題:BLACK SWAN 監督:ダーレン・アロノフスキー

 羽田−ソウル間のフライト時間は約2時間。なのに映画のラインナップは妙に充実していた。
 ただ理解に苦しむのは2時間超の映画もたくさんあったことだ。金浦空港到着後、客が離れた席では「ガリバー旅行記」や「トロン:レガシー」があちこちで垂れ流しになっていた。
 僕はソウルに向かう機内で、搭乗早々30分近く寝てしまい、行きは映画を断念した。そして羽田に帰る機内でチョイスしたのが本作だった。CAとやりとりするだけでエンドマークを観損ねる可能性があったため、機内食もキャンセルして映画を観ることにした。
 
 「バレエ映画」と聞くとつい敬遠してしまう人がいるかも知れない。特にバレエと何の縁もない男子。しかし本作に限ってそれは「食わず嫌い」と断言したい。これはストレスによって現実と非現実の境を見失った一人のバレリーナの心理スリラーである。
 ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ(ナタリー・ポートマン)は元バレリーナの母親の子として生まれ、人生のすべてをバレエに捧げる毎日を送っていた。そんな彼女に最大のチャンスが訪れる。芸術監督のトーマス(ヴァンサン・カッセル)がそれまでのプリマ、ベス(ウィノナ・ライダー)を引退させ、ニナを起用すると発表したのだ。おかげでニナには重圧がかかっていた。演目は「白鳥の湖」。プリマは可憐な白鳥と、魔性の黒鳥を演じ分けなければならないのだが、ニナには黒鳥を演じる“引き出し”がなかった…。
 タイトルのブラックスワンとは言うまでもなく、この黒鳥のことである。

 バレエのプロから観たとき、ポートマンの評価はいろいろとあるだろう。けれど僕はその点については全く興味がない。僕はポートマンのシャープな肉体とそのポテンシャルから「バレエに生涯を捧げた女」という背景を受け止めることが出来たからだ。僕にはそれで充分だった。
 ただしこれがバレリーナの立身出世物語なら僕も愉しめなかったと思う。僕はバレエの世界にまったく明るくないからだ。
 けれど本作はバレエに関する知識がなくても充分愉しめる。
 観客は一体いつからニナの幻想に付き合わされていたのか分からないくらい、気がつくとズルズルとニナの深層心理に引きずり込まれている。そしてニナが黒鳥を舞うシーンではほぼ全員が心を粟立たせることになると思う。予告編でも一部露出していたが、CGの使い方がきわめて芸術的で、まさに映画にしか出来ない「白鳥の湖」を観ることになるからだ。

 初のオスカー受賞となったポートマンは言うに及ばず、ヴァンサン・カッセルも良かったと思う。僕に言わせれば彼は「オール・ザット・ジャズ」でロイ・シャダーが演じたジョー・ギデオン以来の名コーチだった。
 どうしても触れておきたいのはウィノナ・ライダー。落ちぶれたプリマ役で登場したけれど、この役を引き受ける器の大きさが好きだ。ウィノナ。
 佳作。


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息もできない(2008年・韓国) [2011年 ベスト10]

原題:똥파리/BREATHLESS  製作・監督・脚本:ヤン・イクチュン

 何気なく自宅で観始めた130分後に放心してしまった。
 僕はこの7年間で約90本の韓国映画を観てきたけれど、今日からは「
殺人の追憶」も「オールド・ボーイ」も抑えてこれが「한국 영화로 가장 재미있는 작품」(韓国映画で一番面白い作品)と言おうと思う。

 借金の取り立て屋をしているサンフン(ヤン・イクチュン)は、一旦火がつくと抑えきれないほど激しく暴力を振るう気性の荒い男だった。そのせいか回収率も高く、実入りも良かったが、まとまった金が入るとサンフンはその金を必ずある場所へ届けていた。その帰り道、サンフンはすれ違った女子高生ヨニ(キム・コッピ)に誤って唾を吐きかけてしまう。謝罪を求められたサンフンはヨニを勢い殴って気絶させてしまうのだが…。

 テーマはDVである。
 サンフンは幼い頃、実の父に妹を殺され、錯乱した母親を交通事故で失っていた。父は罪を償い出所しているが、サンフンの心の闇が晴れることはない。暴力によって大事なものを失ったせいで、自らの鬱積も暴力によってでしか排出することが出来ない人間になってしまっている。
 一方のヨニも家庭に問題を抱えている。父はベトナム戦争の帰還兵で年金暮らし。しかし妻の死を受け入れられず、精神に異常をきたしている。弟は定職につかず怪しい仕事を始める始末。そんな家庭を恥じているヨニは抱える悩みを一切表に出さず、気丈に振舞っている。
 そんな2人が邂逅することによって、2人の人生が動き始める。本作は過去に引きずられながら絶望の中で生きてきた人間の「再生の可能性」を垣間見るものである。

 そもそもこの作品は、俳優として活躍してきたヤン・イクチュンの内に眠るテーマだったそうだ。
 「自分は家族との間に問題を抱えてきた。このもどかしさを抱いたままでは、この先生きていけないと思った。すべてを吐き出したかった」
 そこで脚本を書き始め、資金を集め、初めて監督に挑戦し、自ら演じることにした。彼は「内容はフィクションだが、映画の中の感情に1%のウソもない」と言い切っている。それは観ればきっと誰もが理解できると思う。まるで肌を刺すようなヒリヒリとした緊張感が、ファーストカットからラストカットまで、すべてのカットに満ち満ちているのだ。「息もできない」のは実は観客の方だ。

 技術的にも感心するところが多かった。
 脚本に感心したのは、サンフンとヨニの過去の接点。ヨニの母親は生前、屋台を経営していたが、その屋台が何者かに襲撃されたことがあった。ヨニはそれを目撃していたが、実はその男たちの中にサンフンがいた、というシーン。映画的文法で言えば、ヨニがその記憶を呼び覚ましサンフンに詰め寄る、という展開が容易に想像できるが、ヤン・イクチュンはそうはしなかった。「まず観客にだけその事実を伝える」という方法をとって、観客の期待を最期まで裏切り続けるのだ。巧かった。ラストの余韻はこのシークエンスが効いている。
 また「
人と人の出会いはタイミングによって、その関係を大きく変える」という詩的表現にも取れて、個人的にはかなり気に入った。

 撮影に感心したのは、サンフンたちが街中を散策するシーンを手持ちカメラで、しかも俳優たちから離れてルーズショットで撮っていたこと。
 複雑な事情と関係にあるサンフンとヨニの存在はフィクションである。しかしそんな2人を雑踏の中に置くと、周囲の人々と溶け合って現実となって行くのだ。雑踏の中で時折その姿を見失いそうになると、「そりゃいろんな人間がいるよな」と観客は勝手に思う。そしてリアリティが生まれる。もちろん古くから使われてきた手法だけれど、この手法を使ったことで作品に緩急もついたのは大きかった。

 クライマックスでは編集にも感心した。
 全編を通して登場人物たちの回想シーン以外は基本時系列で展開したが、最後の最後に大きく時系列を入れ替えた箇所がある。この入れ替えは絶妙なアイディアだと思った。
 「どれほどの哀しみが横たわっているだろう、人間の笑顔の裏には」
 そう思わせる素晴らしい編集だった。圧倒的に感服。

 韓国社会が抱える問題を内包した、韓国映画ここ10年の最高傑作。
 NO MORE DOMESTIC VIOLENCE.


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月に囚われた男(2009年・イギリス) [2011年 ベスト10]

原題:MOON  監督:ダンカン・ジョーンズ

 僕はこの映画をiTunesStoreでレンタルダウンロードし、新神戸に向かう新幹線のグリーン車で、赤ワインを飲みながら、MacBookAirの11インチで観た。
 20年前には想像できなかった環境で僕が観たのは、20年後には現実になっているかもしれない「月で働く男の物語」だ。
 
 近未来。世界は石油に代わるクリーンエネルギーを発見していた。それが月の裏側から採掘するエネルギー源ヘリウム3。採掘作業から抽出、精製まではオートメーションで、人間は精製されたヘリウム3をポッドに入れて、ロケットで発射するだけでいい。だから月面で働くのはサム・ベル(サム・ロックウェル)一人きりだった。サムの契約は3年。その仕事もあと2週間に迫ったある日、月面で事故を起こしてしまう…。

 インディーズらしい、いい設定だと思う。
 月面基地で登場するのはサムと、サムの生活をサポートするロボット・ガーディ(声:ケヴィン・スペイシー)だけ。序盤こそ「これなら舞台でも出来るじゃないか」と、いつもの“戯曲風シナリオ嫌い”の不満が噴出しそうになったけれど、サムとガーディのやりとりは「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせたし、そもそも地球のクリーンエネルギーをたった一人で生産しているというアイディアがボディブロウのように効いて、20年後にはもしかしたら現実になっているかも知れない世界を、僕はまるでケージの中のハムスターを観察するように観ていた。
 「2週間後には地球に帰還し、妻と娘にも逢える」
 そんな背景が明らかになると、観客の頭の中には自分なりのストーリーラインが構築され、一気にエンディングまでイメージするのだが、そんな矢先に意表を突く事件が起きるのだ(この先、残念ながらネタバレします)。

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