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薬指の標本 [2007年 ベスト20]

薬指の標本」(2004年・フランス) 監督・脚本:ディアーヌ・ベルトラン 原作:小川洋子

 これは脳外科医さんが書いた紹介記事をチラ見して知った作品。
 何に惹かれたって、まずはこのタイトル。「なんて素晴らしい邦題なんだろう!」と思ったら、このフランス映画の原作は小川洋子さんの短編で、しかも邦題は短編のまんまだと知って、ちょっとガッカリ(笑)。

 本編は依頼人が様々な理由で持ち込むモノを標本として保管する“標本室”に仕事を見つけた若い女性と、その雇い主である標本作製士の物語。

 この映画はものの見事に「文学」してます。
 どう考えてもあり得ない、文学だからこそ許される設定を、フランスの女流監督は一切の迷いもなく映像にし、会話にし、優しい音楽を接着剤にして、100分のフィルムに仕上げています。
 原作も読んで見ました。
 小川洋子さんの「読者に何も強制しない、少しひんやりとしたタッチ」が全面に出ていて、なかなかの小品だと思います。と、同時にベルトラン監督はこの原作の空気感を見事に映像にしていたと思います。これがもしも原作通り日本で撮っていたら、ここまで再現出来ただろうか?と思うくらいに。
 原作を読んで知ったのは、ベルトラン監督オリジナルの設定が本編にあったこと。
 「港町の小さなホテルの一室を、造船工場で働く男と、主人公のイリスの2人で時間差でシェアする」という設定。
 これは秀逸でした。戯曲でも良かった原作を映画として面白くしたのはこのワンアイディアだったと思います。

 それにしても、映画の愉しみはやっぱり「ロケーションと女優」ですね(女性は男優ってことになるんでしょうけど)。
 アメリカに憧れていた子供の頃、僕はアメリカのB級映画ばかり観まくっていましたが、最近ヨーロッパやアジアの映画に惹かれるのは、興味の対象が変わったからなんだなと実感しました。この作品もそうだけど、行ったことのない国のなんでもない風景が妙に心に染みるのです。
 女優は目の保養になる(笑)。本作もイリスを演じたオルガ・キュリレンコがいい。彼女はウクライナ出身のスーパーモデルだそうですが、摩訶不思議な環境に無抵抗で馴染んでいく様は見ごたえがありました。

 僕が思い出したのは、村上春樹原作、市川準監督の「トニー滝谷」。
 「原作を読まずとも楽しめる映画であるべし」が僕のモットーですが、この作品も「トニー滝谷」同様原作と共に楽しむ映画だと思います。

薬指の標本 SPECIAL EDITION

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  • 出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ
  • メディア: DVD
薬指の標本 (新潮文庫)

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  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/12
  • メディア: 文庫

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うつせみ [2007年 ベスト20]

うつせみ」(2004年・韓国/日本) 監督・脚本:キム・ギドク

 キム・ギドク作品を観るのは「春夏秋冬そして春」、「サマリア」、「絶対の愛」に続いて4作目。
 ここへ来て
ようやく僕もキム・ギドクの世界観が分かってきました。そして、このタイミングで「うつせみ」を観たのは大正解だったような気がします。なんたって「恐ろしくおもしろい」と思えたから。

 毎日留守宅に忍び込んで寝泊りし、日々の生活を送るという主人公の設定がまず面白い。
 こういう設定の場合、どこかのタイミングで「ある事件」が起きるのは明白で、観客全員が容易に想像できる事件が待ち構えているからこそ観客の心拍数は不安定になり、これが一種の“吊り橋効果”となって、ただ主人公の日常を見ているだけなのに充分おもしろく感じるのだろう。
 しかも観客の興味は「ある事件」にのみ向けられているから、実は主人公の背景が一切描かれていないのだが、そこに不満を感じることもない。これは「観客の興味をリードしさえすれば余計な情報は割愛できる」という応用可能なテクニックで、だからこそ88分というコンパクトな尺にすることが出来たのだろう。大いに勉強になった。

 そして「ある事件」は起きる。観客の安易な想像を裏切る形で。
 この時点で観客をリードするものはなくなり、我々は一旦放置されることになる。しかしここからが「キム・ギドク」ワールドの始まりだ。一体どんな展開になるかは自分の眼で確認して欲しい。主人公に一切セリフを与えなかった脚本も見事なら、予想もしなかった収束のさせ方も見事。観客にとっては極めて満足感の高い作品だと思う。
 キム・ギドク作品はすべてチェックしよう。

 「3番アイアン」という原題を「うつせみ」という邦題にしたセンスも秀逸。

うつせみ

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  • 出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ
  • 発売日: 2006/08/25
  • メディア: DVD

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ゆれる [2007年 ベスト20]

ゆれる」(2006年・日本) 脚本・監督:西川美和

 デビュー作の「蛇イチゴ」では雨上がり決死隊の宮迫とつみきみほが兄弟を演じた。
 主役は宮迫だがドラマを牽引するのはつみきみほで、その饒舌な役柄からして「蛇イチゴ」という作品は、「言いにくいことをサラッと言ってのける」ある意味“女性的な映画”だった。
 それから3年後に西川美和が撮ったのは、「言いたいこともロクに言えない」男兄弟の物語。
 実を言うとこの映画が公開されると聞いたとき、僕は「西川美和は3年間も何をしていたんだろう」と思った。幸運にも28
歳という若さでデビューすることが出来た監督が、3年間も遊んでいて良いわけがない。
 しかし。
 僕は今日、「ゆれる」を観て思った。
 「蛇イチゴ」以降の3年は、この脚本を書くための3年だったのかも知れない。
 少なくとも、僕は3年かかってもこの脚本は書けないだろう。

 東京で売れっ子のカメラマンとなった弟。田舎で実家のガソリンスタンドを継いだ独身の兄。
 弟(オダギリジョー)は父(伊武雅刀)とこそ不仲だが、兄(香川照之)とは仲がいい。
 そんな兄弟が幼なじみの1人の女性を巡って、思いも寄らぬ関係に発展する…。

 観ていない人を思うと、物語のさわりを書くのも勿体無いくらいよく出来た脚本で、出来ることならこれ以上どんな内容なのか知らずに観て欲しい。
 観れば確実にあなたはオダギリジョーと共に蒼め、そして西川美和が仕掛けた巧妙な技に感嘆の息を漏らすのだ。
 表裏のある人間を演じさせたら、今この人の右に出る役者はいないだろう香川照之が安定した演技を見せ、オダギリジョーも(僕が見る限り)ここ最近の作品では一番の入れ込んだ芝居をしている。
 出番は決して多くないが真木よう子と“キム兄”木村祐一も出色。
 
 映画としてはかなり地味で、もしや舞台でもいいかと途中一度は思うが、そんな杞憂をラストカットがものの見事に吹き飛ばす。しかも映画作品として理想的な余韻を残すワンカットだけに、脚本家としてだけでなく、監督としての西川美和も称えずにはいられない。
 彼女にとってのこの3年は、実に意味のある3年だったのだろう。
 オススメの1本。


ゆれる

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  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • 発売日: 2007/02/23
  • メディア: DVD

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シェルブールの雨傘 [2007年 ベスト20]

シェルブールの雨傘」(1963年・フランス) 監督・脚本:ジャック・ドゥミ 音楽:ミシェル・ルグラン

 子供の頃からタイトルは知ってたけど実は観てなかった映画シリーーーズ!です。
 ちなみに前回は「死刑台のエレベーター」でした。

 僕が生まれた年に製作された映画を44年後に観て一番驚かされたのは、この作品がミュージカルだったことです。しかもただの一言も「素」で喋るセリフがありません。劇中すべてのセリフが歌(!)。郵便屋さんが「ゆうび~ん」というただ一言のセリフも歌
なんです(笑)。これに慣れるまでには若干時間がかかりましたが、本編スタートから30分後にはあの有名なテーマ曲が流れてきて、僕は一気にのめり込みました。あまりにもせつなくメロウな旋律は観る者の心に染み渡り、ただの恋愛ドラマを劇的なものに仕立てるのです。

 肝心のストーリーですが、恋人同士の2人、傘屋の娘ジュヌヴィエーブ(カトリーヌ・ドヌーブ)と自動車修理工のギイ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)が戦争のために離れ離れになってしまう、という内容で、これが「旅立ち」「不在」「帰還」と題した3部構成で描かれます。
 このサブタイトルからも想像できるように、本作は戦争によって引き裂かれた恋愛ドラマの典型とも言うべき展開になるわけですが、容易に想像がつく流れでありながら、そのラストシーンはあまりに美しく、そしてせつなく、非情な恋愛の現実を見事に描いていて、僕は猛烈に感動をしました。
 まさに映画史に残る名場面。

 いや~それにしてもカトリーヌ・ドヌーブが美しいです。反則なくらい。僕たちは今の彼女を知っているわけですから、「そうかあ。この娘があんな風になあ…」と考えて、ちょっと覚めてしまうことが無いでもないんですが(笑)、その邪念もいずれは振り払える見事な美しさです。
 プロダクションデザインや衣裳のカラー配分も素晴らしく綺麗で、カラー映画の特性を全面に押し出そうとしたジャック・ドゥミのセンスが随所に見られます。これはフランス映画ならではと言っていいのかも知れません。
 しかし、この映画で最も優れているところは、重要な登場人物の1人であるマドレーヌ(エレン・ファルナー)が実に魅力的なキャラクターであることでしょう。カトリーヌ・ドヌーブとはまたひと味違った美しい女優さんで、このキャスティングが確実に本作の完成度を高めていると思います。

 古い名作映画を今観ると、新しい発見がいくつもあります。そして「この映画の影響を受けて、あの映画のあのカットは作られたんだな」と気がつくのも楽しい。
 本作の冒頭、雨の降る石畳を俯瞰で撮ったクレジットショットは、いろんな監督たちにパクられた影響を与えたんですね。
 映画ファンは必見の名作です。


シェルブールの雨傘

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  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • 発売日: 1998/12/24
  • メディア: DVD

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ブラッド・ダイヤモンド [2007年 ベスト20]

ブラッド・ダイヤモンド」(2006年・アメリカ) 監督:エドワード・ズウィック

 まず一言。
作品の完成度の高さに絶句しました。
 「感動のあまり声も出ない」という経験も初めてでしたが、なにより社会派のテーマをここまでエンタテイメントに昇華させた作品を僕は他に知りません。

 主演がディカプリオだけに思い返すは今年のアカデミー賞。
 「ディパーテッド」なんてクソみたいな映画に作品賞をやるくらいなら、この「ブラッド・ダイヤモンド」にやれ!と僕は言いたい。「ディパーテッド」の100倍面白いし、100倍価値がある。じゃあどうしてノミネートすらされなかったのかと言えば、その理由は観れば分かります。セレブリティ揃いのアカデミー会員にとってはきっと耳の痛いハナシだったのでしょう。
 
 これは紛争に資金を提供する目的で不法に取引される“紛争ダイヤモンド”にまつわる物語。
 ここ数年アフリカを題材にした映画が数多く作られているけれど、観客も事件の当事者である可能性が高いという点では「
ホテル・ルワンダ」よりも激しく心を揺さぶられます。
 「自分が手にしたあのダイヤモンドは、一体どこで産出されたものなのか?」
 劇中そんなことを思ったが最後、一瞬たりともスクリーンから目を離せなくなるでしょう。本作はそれくらいのタブーに触れています。少なくとも2002年までは確実にあった「悪魔の取り引き」。描かれているのはその一例に過ぎないけれど。

 扱うテーマがどんなによくても、作品のクオリティが低くては伝わるものも伝わりません。
 本作が優れている点は、開始からブラックアウトするまでの2時間23分、緊張感の緩むところがただの一箇所もないところです。脚本の観点で言うと、事件の内容、発生のタイミング、収束のさせ方など、そのどれもが実に見事で、仮にケチをつけるならどんな事件に遭遇しても主要登場人物が死なないことくらい(笑)。
 主人公を3人にし、「隠す男」「狙う男」「暴く女」の三竦みにしたアイディアも秀逸。
 レオ。
 「ラストキング・オブ・スコットランド」を観ていないので何とも言えないけれど、それでも本作のディカプリオはアカデミー主演男優賞に匹敵する素晴らしい仕事をしたと思う。これまでのキャリアの最高傑作。
 フンスー。
 「彼は実際の事件に関わったホンモノの当事者」と言われても僕は絶対に疑わない。その存在は「リアリティー」ではなく「リアル」。「ホテル・ルワンダ」のドン・チードルを超越しています。
 ジェニファー・コネリー。
 場違いなセックスアピールもなければ、映画としての魅力を損なうわけでもない。この絶妙なバランス感覚が感動的かつ魅力的。

 「ナニミル?」を始めて2年と1ヶ月になります。
 現在までに掲載している映画レビューは629本ありますが、630本目となる「ブラッド・ダイヤモンド」は間違いなくこの中の1位です。
 この作品が公開されるGW時期、もし仮に「1本しか映画を観られない」ってことになったら、僕は「バベル」よりも「ブラッド・ダイヤモンド」を強く勧めます。この映画だけはゼッタイに観て損はありません。

 最後に。
 世界中のメディアがこの映画をどう評価したのか、参考までにリライトしておきましょう。

 世界の見方が変わる。    ロサンゼルス・タイムス
 最高に楽しめる!ディカプリオは非の打ちどころがなく、フンスーの演技は感動を呼び、コネリーはキャリア最高の演技。     マキシム
 すばらしい、すばらしい、すばらしい。     グッドモーニング・アメリカ
 ディカプリオのワイルドさが満開。     ニューズウィーク
 ゾクゾクするほどの傑作。      ニューヨーク・マガジン
 エドワード・ズウィックの最高傑作。     ニューヨーカー
 厳しい現実をえぐったエンターテイメント作品。ディカプリオ熱演!そして、演技という概念を超越したフンスーの演技。     プレミア

 1度でも「ダイヤ」と名の付く物に触れたことのある総ての人が観るべき衝撃の問題作。この10年で最高のハリウッド映画。     ナニミル?

 

ブラッド・ダイヤモンド [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: DVD

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僕が9歳だったころ [2007年 ベスト20]

僕が9歳だったころ」(2004年・韓国) 監督:ユン・イノ 脚本:イ・マニ 原作:ウィ・ギチョル

 久しぶりに韓国映画の「当たり」を引きました。
 これは電通が仕組んだ「韓流」のヘナチョコ映画とはまったく次元の違う、良質なアジア映画です。本作にはイケメン俳優も美人女優も出来てきませんが、「これを観ずして韓国映画を語る無かれ」と言っておきましょう。だって日本で作れと言っても絶対に作れないタイプの作品だと思うから。

 原作は韓国で130万部を売り上げたベストセラー「9歳の人生」。
 田舎の小学校に通うヨミンは目の悪い母親にサングラスを買うため、内緒でアルバイトをする心優しい少年。しかし学校では上級生をも黙らせるガキ大将。そんなヨミンのクラスに、ある日
アメリカ育ちの美少女ウリムが転校して来る。ヨミンはたちまち心奪われるが、気持ちに反してケンカばかりしてしまう…。

 ぶっちゃけ何てことない話です。なのにすごく面白い。特に昭和30年代生まれの世代には心に刺さるものが必ずあると思います。
 僕はまず「小学校の1クラスという小世界の中にも様々な人間模様があったなあ」と遠い昔に思いを馳せました。そこには「差別」も「偏見」も「格差」も「暴力」も「嘘」も平然と存在していたけれど、「義理」も「人情」も「思いやり」も「絆」も「男気」もあった。そして時代は今より温かかった。もっと細かく言えば、大人は子供のことをよく見ていたし、子供は大人の言うことをよく聞いた。さて「昔あったものがどうして今はないんだろう?」と思うと、この映画はますます心に染みるのです。

 少し具体的なことを。
 この作品の見どころはまず子供たちの演技。主演の2人は実は芸歴の長い子役だそうで、その芝居の巧さはまさに大人顔負け。ヨミンを演じたキム・ソクは昔かたぎの実直な少年を、ウリムを演じたイ・セヨンは気の強い美少女を巧く演じていたと思います。
 でも僕が一番好きだったのはヨミンの幼なじみのクムボクを演じたナ・アヒョン。韓国の女優で言うとチョン・ドヨンのような雰囲気を持つ彼女は、純粋だからこそ憎まれ口を叩いてしまう微妙な役柄を実に見事に演じていました。
 ユーモア感覚を忘れない脚本も見事。おそらく僕たちも一度は通ってきた道だからこそ笑えるポイントが沢山あるのですが、無理やりな事件を作ることなく、さりげない出来事を積み重ねて、観客の記憶をくすぐるテクニックは絶妙。
 唯一ウリムが自らのことを話すクライマックスだけは「もう少し別のアプローチがなかったか?」と思ったけれど、そのあとの締め括り方が気持ちよかったので「相殺」って感じでしょうか。

 昭和40年代に小学生だった男子は必見の1本。
 自分のアルバムを観るような気持ちで、105分間思い出に浸ってください。
 僕は9歳のとき、熊本県下益城郡富合町にあった富合小学校に通っていました。そのとき大好きだった田中そお子ちゃんは、いま何をしてるかなあ(笑)。

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僕が9歳だったころ デラックス版

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  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • 発売日: 2006/08/25
  • メディア: DVD

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絶対の愛 [2007年 ベスト20]

絶対の愛」(2006年・韓国/日本) 監督・脚本:キム・ギドク

 愛する男を引き止めるために整形手術を受ける女の物語です。
 これはヘタなブームのせいで乱発された韓流映画とはまったく異なる、久しぶりに観た“骨太”の韓国映画。正直言ってかなり面白い作品だと思います。
 
 実はドラマのシチュエーションにところどころツッコミを入れたくなる箇所はあるんですが、それも上映時間短縮(本編98分)のためかと思えば全部許せるし、それくらい強烈なテーマで予想もしない意外な展開をします。
 キャストは整形後のセヒを演じた女優、ソン・ヒョナが素晴らしい。
 彼女は自ら整形の事実をカミングアウトした女優でもあり、この作品に対する理解力も深かったのでしょう。まさに迫真の演技を見せています。
 余計なお世話かもしれませんが、もしもアナタに恋人がいたらこの映画は絶対に2人で観たほうがいい。そして映画のあとで2人にとっての「絶対の愛とは何か?」を話しておきましょう。
 この壁を乗り越えられたら次は「バンジージャンプする」を2人で観てみてください(笑)。



 (※この先は、いずれ映画を観たあとでお越しください。)
 

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花よりもなほ [2007年 ベスト20]

花よりもなほ」(2006年・日本) 原案・脚本・監督:是枝裕和

 岡田准一がイイ。
 V6主演の映画「ハードラックヒーロー」と「ホールドアップダウン」を観たとき、岡田准一だけが飛び抜けた存在感を放っていたので、(クドカンの脚本じゃない)主演映画をいつか観てみたいと思っていたのだけど、是枝監督の新作はまさに“岡田准一の魅力”に溢れた作品だった。
 比べちゃ悪いんだけど、本作も岡田准一も「武士の一分」と「木村拓哉」ほど肩に力が入っていないのがいい。そう言えば、「武士の一分」
がまさしく“仇討ちを行う”のに対して、「花よりもなほ」は“仇討ち以外の道を模索する”というストーリーであるところも面白い。個人的には後者の展開が好きだ。

 閑話休題。
 時は元禄15年。「生類憐みの令」で有名な5代将軍・綱吉の時代。いささか平和ボケした江戸の下町を舞台に物語が始まる。
 物語の縦軸は“宗左”こと青木宗左衛門(岡田准一)が果たす仇討ちで、横軸には宗左が身を置く貧乏長屋の人々との交流が描かれる。
 面白いのはこの長屋に君主・浅野内匠頭の仇討ちを果たそうとする赤穂の侍が潜んでいることだ。是枝監督は“赤穂の志士”と“宗左”を対比することで、侍にとって“戦のない時代”が如何に“生き難い時代”だったかを観客に教え、当時は侍が“人として生きる道を模索していた時代”でもあったことを訴える。しかしそこには現代的な考え方も織り込まれていて、先に書いたとおり仇討ちそのものを否定しようとする姿勢も見え隠れする。
 この作品最大のテーマは「復讐が生むものは恨みと憎しみだけであって、復讐の連鎖が続く限り、人間は決して成長しない」という現代社会に対する警鐘である。その証拠に日本人が大好きな「赤穂浪士」を是枝監督は「寝込みの爺さんを大勢で襲うのはいかがなものか」と茶化し、「赤穂浪士」に対する日本人のイメージを変えてみせようという密かな企みが見てとれる。素晴らしい。

 この作品のもう一つのテーマは「父から息子へ繫ぐもの」。
 「仇討ちを果たさん!」とする赤穂の侍、寺坂吉右衛門(寺島進)と、「仇討ちをどうしよう?」と悩んでいる宗左が碁盤を挟んで向き合うシーン。宗左は寺坂と話すうち、とても大切なことに気が付いて(ネタバレ自主規制)胸を熱くする。ここでは不覚にも泣きました。「自分が父親から受け継いだものは何だろう?」。映画の後でこんなことをじっくり考えるのも悪くないと思います。
 残念なのは、赤穂の志士の描写が弱いことと、藩が仇討ちを奨励していたという背景が伝わり難いこと。この2点を除いてはなかなかの出来栄えだったと思います。
 比べちゃ悪いけど「武士の一分」より全然面白かった(笑)。

花よりもなほ 通常版

花よりもなほ 通常版

  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • 発売日: 2006/11/24
  • メディア: DVD

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雪に願うこと [2007年 ベスト20]

雪に願うこと」(2005年・日本) 監督:根岸吉太郎 脚本:加藤正人

 先日、「2006年の映画興行収入で邦画が洋画を
21年ぶりに追い抜いた」と言うニュースが配信されました。
 映画産業が盛んな国では公開作品を「自国映画」と「外国映画」に分けて括ります。
 日本の場合もそれを「邦画」「洋画」と表現し分類してきましたが、最近僕はこれに「アジア映画」という括りを足してもいいんじゃないかと思います。
 日本に多くのアジア映画が上陸するようになったのは、DVDとインターネットの普及が大きな要因でしょう。時を同じくしてハリウッド映画がマンネリ化してきたのもきっかけのひとつ。その反動で「恋する惑星」、「八月のクリスマス」、「初恋のきた道」と言った良質のアジア映画に注目が集まり、日本人にとっても身近なアジア映画の人気が高まって行くのです。
 僕たちが期待するアジア映画は、まさしくハリウッドの対極にあります。
 「低予算で作られる良質なドラマ」
 これこそ、洋画でも邦画でもない、第3のジャンルだと僕は思うわけです。

 「雪に願うこと」はかなり地味な映画です。
 この作品が2006年の邦画興収にどれほど貢献したのか分かりませんが、ランキング上位の作品(1位「ゲド戦記」、2位「LIMIT OF LOVE/海猿」、3位「THE 有頂天ホテル」、4位「日本沈没」、5位「デスノート the Last name」)と比べれば足元にも及ばない数字だったと思います。そういう意味でも今、勢いのある邦画というジャンルにあってこの作品は、ますます地味な印象を増幅させているような気がします。
 しかし、この作品は2005年の東京国際映画祭でグランプリを受賞しました。その年の審査委員長だったチャン・イーモウはこんなコメントを残しています。
 「満場一致。審査員全員がこの映画を好きになった」
 僕もこの映画が好きです。そしてこう思いました。「雪に願うこと」はハリウッドかぶれした「邦画」なんかじゃなく、世界に通用する「アジア映画」なのだと。

 ばんえい競馬の調教師。こんな役をやらせたら日本一の佐藤浩市が完璧な仕事をしています。が、それ以上に驚くのが伊勢谷友介、小泉今日子、吹石一恵の3人。根岸吉太郎監督の演出力が優れているのか、3人ともここでしか観られない素晴らしい演技を披露しています。
 なかなか見ることのないばんえい競馬の調教シーンもみどころのひとつ。特に気温の低い早朝にソリを引く馬の姿はまるで蒸気機関車のようで、その神々しい姿は感動の一言。
 今さらですがこれは東京国際映画祭グランプリに相応しい名作。
 個人的には、ばんえい競馬に対する偏見が消えた「開眼」の1本でもありました。

雪に願うこと プレミアム・エディション

雪に願うこと プレミアム・エディション

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • 発売日: 2006/11/10
  • メディア: DVD

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THE QUEEN [2007年 ベスト20]

クィーン」(2006年・イギリス/フランス/イタリア) 監督:スティーブン・フリアーズ

 アカデミー作品賞にノミネートされたと聞いて、あわてて東宝の試写室へ足を運ぶ。
 これはダイアナ元皇太子妃がパリで交通事故死した直後から7日間の英国王室の様子と、就任間もないブレア首相の行動を描いたドラマだ。

 この作品を「歴史事件を再現したテレビドラマの様」と言った宣伝マンがいた。映画を観終えた僕は素直に「的を得た表現だな」と思った。
 確かに政治絡みの「密室の出来事」をテーマにした作品はこれまでも多数作られて来た。が、残念ながらこの手の作品は、よほどセンセーショナルな事件でない限り、エンタテイメントとして成立させることは難しい。だから「娯楽映画」ではなく「歴史検証」という大義の元、テレビドラマとして作られることが多かった。
 この観点から言えば、世界中を魅了したダイアナ元妃の極めてスキャンダラスな事件は、エンタテイメントになり得る数少ない「政治密室劇」だったかも知れない。しかし、僕は東宝の試写室へ向かう道々、「ダイアナ人気は死してなお衰えず、こんな作品まで生んでしまったのか」と、ほんの少しだけ嫌悪感に似た感情を抱いていた。アカデミー作品賞にノミネートされたその完成度を確認するためとは言え、僕はダイアナ人気にあやかったこの作品を観ることに全く抵抗が無いわけではなかったのだ。
 
ところが…。
 この映画に対する僕の勝手な思いは、エンドロールが流れるまでにすべて蹴散らされていた。そして僕は自己批判した。「オマエはなんと考えの浅い男なんだ」と。

 まず驚くべきは脚本である。
 おそらく当人以外に誰も正解を知らないはずの、シチュエーションと会話の内容を巧みに構成し(エリザベス女王とトニー・ブレアのセリフに関して、一部本人たちへの配慮として書かれたと思われるセリフはあったが)、圧倒的なリアリティを確立している点は見事としか言いようがない。
 例えば英国王室内のやりとり。ブレア家内のやりとり。いずれも“次に出てくるセリフを待ち遠しく思わせる”緊張感は絶賛に値する。さらにダイアナの存在を、王室領に生息する鹿に見立てた描写も素晴らしい。

 また優れたセリフに命を吹き込み、観客の前で「エリザベス女王」その人になったヘレン・ミレン。
 「THE QUEEN」は
この女優の成し遂げた仕事を確認するためだけに観てもいい。
 ヘレン・ミレンは「実在する歴史上の人物」という極めて困難な役どころを完璧に演じ切り、我々を確実に“あの夏”までタイムスリップさせるのだ。
 この作品は彼女のおかげで「テレビドラマ」も「映画」も関係ない、「まったく別次元のエンタテイメント」に昇華していると言っていいだろう。

 僕はこの作品がアカデミー賞を獲る獲らないに関わらず、ダイアナ元妃を知るすべての人にオススメします。
 充分に観る価値アリの一本。

クィーン [DVD]

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  • 出版社/メーカー: エイベックス・マーケティング
  • メディア: DVD

 
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