フル・フロンタル [2004年 レビュー]
「フル・フロンタル」（2002年・アメリカ） 監督：スティーヴン・ソダーバーグ
「言葉」はいくつあるんだろう？
例えば「広辞苑」には約23万項目が収録されているというけれど、その中に含まれていない言葉も沢山ある。
普段良く使う言葉、滅多に使わない言葉、使われなくなった言葉、新しく生まれた言葉。
世の中にはいろんな言葉が溢れていて、けれどそのいくつもの言葉を僕たちはいくつも使いきっていない。
例えば「常套句」に類する言葉だって使わない言葉は沢山ある。そう気がついたのは離婚をしたときだった。
「性格の不一致」
よく耳にする言葉だけど、ある特定の状況下に置かれない限り、この言葉を使う必要は無い。と、同時に常套句とは、説明しようの無い状況や感情を曖昧に表現する便利な言葉だということも、僕自身使ってみてはじめて知った。
「フル・フロンタル」を観終わったあと、どう評すればいいかを考えていたときに浮かんだ言葉は「意欲作」だった。
この言葉。僕は今まで一度も使ったことが無かったと思う。
目にして読んだことはあっても、自分の言葉として発する機会は今まで皆無だった。
そして「性格の不一致」と同様、うまく説明できないモヤモヤを別のものにすり替えた「記号」でしかないことも知っている。
スティーヴン・ソダーバーグの意欲作。
僕が映画会社の宣伝部の人間で、こんなコピーを書いていたら、その瞬間にクビだ。
もう少しまともな言葉を探そう。
「言葉」と言えば、この映画の中には実に奥の深い言葉が沢山隠れている。心に刺さる言葉、理解し難い言葉、思わずニヤリとさせられる言葉、そして大笑いさせられる言葉。それらを理解するためには、まず沢山の映画を観ている必要がある。
ソダーバーグと同じレベル、までは必要ないにしても、出演者たちに関する映画を観ておくとかなり楽しめる（はず）。
ソダーバーグのデビュー作「セックスと嘘とビデオテープ」はマストアイテム。
ついでにこの物語の入り口くらいは知っておいたほうがいい。せっかくだから書いておく。
【ロサンゼルス、金曜日。今夜、ビヴァリーヒルズの高級ホテルで、映画プロデューサー、ガス・デラリオの40歳の誕生パーティーが、開かれることになっている。パーティーに招かれた者、招かれたと思い込んでいる者、招かれなかった者、それぞれの一日が今、始まる】
メジャー監督が再びインディーズ作品を撮った、とは良く使われた文句だけど、つまりソダーバーグがやりたいと思ったことを形にした、と受け取れば、この作品に興味を抱く人たちは沢山いるだろう。もちろん僕もその一人。
だけど「意欲作」という言葉しか出てこなかった僕は、まだまだ理解力が低いと言うことだ。
やれやれ。
いずれにしても、映画監督、脚本家、カメラマンを目指す人間には絶対にオススメ（ソダーバーグの撮影がまた見事なのだ）。それ以外の方々には、「オーシャンズ12」を待っていればいいのでは？ と申し上げておきましょう。
- 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
- 発売日: 2004/05/21
- メディア: DVD
TBさせていただきました。
私にはこの映画、全然理解できなくて、言葉も知らないので何の表現も
できなかったのですが・・・。kenさんは「意欲作」ですか！それも難しい・・・。
出演者達のほかの作品、今からでも見ようと思います。
by muchan (2005-11-08 13:51)
古い記事にコメントを頂けると、自分でも読み返すきっかけになるので
すごく嬉しいです。そして自分の記事を読みながら「そんなこと考えてたんだ」
…ってまるで他人事のように思えるところも面白い（笑）。
つまり映画とは、鑑賞したときの自分の状態で大きく評価が変わる代物
なんですよね。当たり前ですけど。そんなことを再確認しました。
by ken (2005-11-08 14:42)
結局ソダーバーグが、究極に作りたい作品っていうのは、こういうのなのかもしれませんね。だから、クルーニーとの共同製作会社を止めたり、大作作りからは距離をおくとかいう発言が聞かれるのかもしれません。
ただ、撮影はゾクゾクする程センス良かったですねー！毎度のことですが。
by クリス (2007-05-13 10:43)
ソダーバーグの天才ぶりは撮影にあるのかも知れません。
この人のカット割りは本当に勉強になります。
by ken (2007-05-13 22:51)