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スチームボーイ [2006年 レビュー]

スチームボーイ」(2003年・日本) 原作・脚本・監督:大友克洋

 

 日清カップヌードルの新キャンペーン「FREEDOM」はちょっとした驚きだった。
 永らく続いた前キャンペーン「NO BORDER」が極めてジャーナリスティックなテーマだっただけに、ふいに僕の目に飛び込んできた大友克洋のアニメーションには強烈な違和感があった。
 しかしここで描かれる設定が“23世紀の月”と知れば、これまで地球規模だった「NO BORDER」から、さらに視野を拡げた結果見えてきた、あくまでも順当な(あるいは必然と呼んでもおかしくない)キャンペーンなのだと気付く。言葉を換えれば「NO BORDER」を実現するために必要な目線は宇宙の高みにあり、「FREEDOM」という理念こそがそれを叶える、ということか。
 余談だけど今回のコピー「FREEDOM」は、類語である「LIBERTY」じゃないところが面白い。
 LIBERTYとは「束縛から解放された自由」であり、FREEDOMは「束縛されない自由」である。CMアニメの舞台設定が「AKIRA」同様、地球であったなら「LIBERTY」でなければならなかったのだが今回は23世紀の「月共和国」。そこはきっと最初から自由な国だったのだろう。

 カップヌードルが目指すモノは理解できた。だからと言って僕の
違和感が消えたわけじゃない。
 残された違和感。
 それは大友克洋の新作を何の前触れも無くテレビで観てしまう居心地の悪さに他ならない。
 「大友克洋はなぜカップヌードルの仕事をしているのか?」
 決して悪い意味じゃない。でも素直にそう思ったのだ。
 だから僕は「スチームボーイ」を観ることにした。

 大友克洋は「スチームボーイ」を完成させるまでに8年と24億円を費やしたと言う。
 驚く。
 なぜなら、スクウェアの坂口博信が作った「ファイナルファンタジー」に勝るとも劣らぬ大駄作だったからだ。
 観ていて一番疑問に思ったのは「なぜ今19世紀のイギリスを舞台にした物語を作る必要があったのか?」という一点だ。これに関してはストックしている古い雑誌に興味深い記事があった。


 実際、企画の段階では、関係者経由で「AKIRA」のような超能力と近未来をなぜやらないのか、なぜ今頃19世紀をやるのかという声が大友にも聞こえてきた。
 しかし大友はきっぱり、「それは面白くない」とする。
 「ざらついた錆びた鉄の感じとか、油のギトギトしている感じとか、そういうのをやりたかったんです。(中略)未来っていうのは、なんて言うか、ツルツルなんですよ。新しいTV版の「鉄腕アトム(アストロボーイ)」なんか見ていても、ツルッとしていて自分にはピンと来ない。世界観が作れないんです。確かにCGで作るにはいいかもしれないけど、絵を描く人間たちにとっては面白くないんですよね」
 (「Invitation」2003年7月号 「大友克洋 製作期間8年・総制作費24億円の闘い」より抜粋)


 彼の言う「絵描きの満足度」は少なくとも僕には伝わらなかった。
 作り手がたとえ何と言おうと映画で最も大切なのはストーリーだ。確かにキレイな絵はあった。しかし絵がドラマを追い越すことは不可能だし、仮にそんなことがあったとしたらそれは映画じゃない。この点も「ファイナルファンタジー」と似ているところだ。
 個人的にはイギリスが舞台でありながら日本語劇になっているところも気持ち悪かった。まさか「カルピスこども劇場」じゃあるまいし。

 そして「スチームボーイ」公開から2年後。大友克洋は“ツルツルの未来”を描く仕事を引き受けた。3年前に「面白くない」と断言した仕事を、だ。
 引き受けはしたが彼は今も「面白くない」と思いながら仕事をしていると思う。その証拠に登場人物たちの目に力が無いのだ。
 比べてみれば分かる。「AKIRA」の金田や鉄男やジョーカーの目は希望と自信に満ち溢れていた。ところが「FREEDOM-PROJECT」の主人公タケルの目にその影はない。
 そこには絵描きとしての「FREEDOM」を失った大友克洋の苦悩が現れている。

スチームボーイ 通常版

スチームボーイ 通常版

  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • 発売日: 2005/04/14
  • メディア: DVD


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コメント 11

堀越ヨッシー

はじめまして、堀越ヨッシーと申します。オイラも同じような事を思っていました。カップヌードルのCMのラストカットを見て、「何!?このクオリティの低さは?」と愕然としました。何より大友先生までが3Dの方に行っちゃったのが残念でなりません。漫画家出身なんだからせめて手描きアニメにこだわって欲しかったです。
「スチーム・ボーイ」は未見です。予告編で見た鈴木杏らの声の芝居があまりにもひどかったから...
by 堀越ヨッシー (2006-06-05 20:23) 

keiko-nari

これを知ったらジミーは悲しむだろうな・・・
楽しみにしていたから。
by keiko-nari (2006-06-05 20:28) 

ken

>堀越ヨッシーさん
 ようこそ。「FREEDOM」キャンペーンはこれから先、どういう映像が露出される
 のか、楽しみではあります。
 「スチームボーイ」は見なくていいと思いますねえ。
 nice!ありがとうございます。

>keikoさん
 やんわり、遠まわしに伝えてあげなはれ。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2006-06-05 23:13) 

SKY1

今晩は。スチームボーイは酷かったですね。おっしゃるとおりです。3Dのキャラクターについては、BSアニメ夜話でどなたかが「技術者がいない」と言う趣旨の事を言っていました。あのCMでも少年が呟いているのに、妙に口がパクパクしていて変な感じだと思いました。
by SKY1 (2006-06-05 23:59) 

ken

「スチームボーイ」が当時どういう評価を受けたのか知りたくなってきました。
CMアニメは今後の展開に期待したいところです。
by ken (2006-06-06 00:48) 

mouse1948

ペ・ドゥナの大ファンのken さん、初めまして。
こんばんわ。
コメントをありがとうございます。

大好きな女優さんが、映画だろうがTVドラマだろうが好きな女優さんの活躍を「映画」という枠に拘る必要が何処にあるのでしょう?
韓流、というブームは確かに韓国のTVドラマからでした。
でもそれが何なのでしょう。
ペ・ドゥナの大ファン?
「映画」はアートで、TVドラマはお茶の間で?
良いものは良い!
映画であろうがTVドラマであろうが。
「北の国から」はTVドラマですよ!
by mouse1948 (2006-06-07 21:35) 

ken

「北の国から」だけは別格です。
倉本聰さんが映画の脚本を書かないから(笑)。
by ken (2006-06-08 00:07) 

ジェラミイ

こんにちは。

『スチーム』は先日、WOWOWで初めて観ました。
8年と24億円にしては、あれですが、それなりにおもしろかったです。
個人的に19世紀イギリス、大好きですし。
でも『AKIRA』と比較してしまうと、大友先生の才能の枯渇を感じずにはいられませんでした。
by ジェラミイ (2006-06-16 09:05) 

ken

そうですねえ、ちょいちょいと作った映画だと思えばいいかも。
「AKIRA」と比較すると、うぬれコラー!と叫んでしまうのでやめましょう(笑)
by ken (2006-06-16 13:22) 

宙太郎

> 引き受けはしたが彼は今も「面白くない」と思いながら仕事をしていると思う。> その証拠に登場人物たちの目に力が無いのだ。
これらは違うのではないでしょうか?画力に関してはそう思いますが何か隠し玉があるのではと勘繰りたくなってしまう私は、大友ファンなのでしょうか?
きっと何かが・・・
トロさんのところから飛んできました、ずっと前からお名前は拝見しておりましたが、はじめてのコメントだと思います(?)。今後もよろしく御願いしますm(__)m
P.S. kenさんの鋭い考察には脱帽です!
by 宙太郎 (2006-06-20 20:56) 

ken

もちろん僕も大友ファンです。
新CMの出来栄えはかなりのものでしたが、昔の大友さんでしかありません。
残念です。今後ともよろしくお願いします^^
by ken (2006-06-21 00:10) 

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