山の音 [2006年 レビュー]
「山の音」(1954年・日本) 監督:成瀬巳喜男 原作:川端康成 脚本:水木洋子
久し振りに風邪をひきました。
風邪をひくと昔は家族が優しくしてくれて、イチゴだのチョコレートだのパイナップルの缶詰だの普段食べつけないものを食べられるのが嬉しかったのですが、今は仕事を休んで映画を観られるのが一番嬉しいかも知れません。
結婚まもない修一(上原謙)と菊子(原節子)だが、修一には絹子という愛人がいた。愛人の存在を知りながら菊子が耐えていられたのは、同居している夫の両親、特に舅の信吾(山村聰)が何かと菊子のことを気にかけてくれているからだった。
息子の女遊びを知りつつ強く言えない父。そんな家に嫁に出た長女が乳飲み子を連れて出戻ってくる…。
小津も成瀬もそうですが、この頃の映画は「家」をテーマにしたものが多いですね。
この作品も完全に「家」が舞台で、よくもまあここまで真正面から「家族」を撮ったもんだなと感心します。今なら「渡る世間は鬼ばかり」くらいしか、こういう作品は見ませんから。
見どころは「耐える女の生涯」です。
時代背景を考えると、菊子は随分思い切ったことをする女性として描かれているような気がしますが、でもだからこそ映画として成立しているんでしょうね。
映画の中での揉め事自体は別段驚くようなことじゃありません。“お隣の尾形さんちのゴタゴタ”くらいにしか思えないので観ていても「勝手にやってくれよ」という気がしないでもないのですが、家族内の微妙な人間関係こそが川端康成の書きたかったことなのでしょう。
しかし成瀬の見事なところは、エンディングのまとめ方です。
本作は多くの観客が想像したとおりの結末を迎えるのですが、最後の最後に実に気の利いたセリフがあるのです。これこそが小津や黒澤にない成瀬の持ち味かと思いました。
家族の物語はどんなに内容が残酷でも、映像のどこかに温かみがあります。
「誰かの子供でいられる時代が人にとって一番幸せな時代」
これは僕の持論ですが、こんな映画を観てもそう思ったのは、僕が独りで病んでいたからでしょうか。
「浮雲」の次は何にしようかとレンタル点で眺めていたとき、「山の音」を発見し
これにしようと思いました。未だ借りてませんが。
もう20年以上前で内容もほとんど覚えていないのですが、原作が好きだったのです。舅と嫁のプラトニックだけど男女の愛情も絡む部分が好きでした。
原節子に関しては、私もどうしてそんなに美しいと言われるのか理解できません。特に清純な感じも、日本的な美人とも思えないのですが・・。映画の中だと又違うのでしょうか?
>家族の物語はどんなに内容が残酷でも、映像のどこかに温かみがあります
これはハッとさせられました。
風邪のときは、なんかちょっと嬉しかったですね。私の風邪の定番は雪印の「ヨグール」でした。(笑) どうぞお大事に。
by Sho (2006-10-15 01:20)
僕は原作を知らないのでなんとも言えませんが、
舅と嫁のプラトニックな恋愛感情はまったく感じませんでした。
もっと直接的な表現がないと僕みたいな鈍感な人間には判りませんね(笑)。
by ken (2006-10-15 13:56)
見ました。
私は原節子が「耐える女」というよりも、「義父の慈愛に包まれた生活をいとおしんでいる女」のように感じました。
菊子にとっては、もう夫よりも義父の方がずっと大きな存在になっているように思いました。
by Sho (2006-10-16 23:58)
義父の愛情に支えられて今の生活を続けるのか、
義父の愛情にこたえるために今の生活を捨てるのか、
そういう見方も、もしかしたらあったのかなあ。
もう一度観ないと分かりませんね。
by ken (2006-10-18 12:44)