SSブログ

こわれゆく世界の中で [2007年 レビュー]

こわれゆく世界の中で」(2006年・イギリス/アメリカ) 監督・脚本:アンソニー・ミンゲラ

 関係の良くない夫婦にとって、2人きりでいる車内ほど居心地の悪いものは無い。
 話さなければならないことが山ほどある2人があえて話さないのだ。
 逃げ場の無い密室に2人きりで。
 そこには、会話の題材を見つけられずに戸惑う若いカップルとは違う、危うい緊張感が漂っている。
 車を運転するのは建築家の夫、ウィル(ジュード・ロウ)。
 助手席で車窓の景色を眺めているのは映像作家の妻、リヴ(ロビン・ライト・ペン)。
 本編はそんなシーンからスタートする。

 観る者によっては胸が詰まりそうになるだろう。
 ハナシはどこへ向おうとしているのかと考えると、半ば憂鬱になりそうになる。
 ところが、このまま「冷え切った夫婦間の問題」という名の深海へまっすぐ降りて行くのかと思いきや、ハナシは一旦別のところへ向う。映画を観ながら僕は「救われた」と思った。しかし「そうであってこそ映画だ」とも思った。
 
 脚本を書いた監督自身、男であるからして主人公のウィルはいくつか“妻に話さない行動”をする。ドラマの軸となるのもここだ。
 ひとつは“話す必要のない”娼婦(ヴェラ・ファーミガ)との関係。
 もうひとつは“絶対に話せない”ボスニア人女性アミラ(ジュリエット・ビノシュ)との関係だ。
 アンソニー・ミンゲラが本作を通して我々に促すのは「一番身近な他人との和解
」である。だから僕はこの作品を既婚、未婚に関わらずカップルで観ることを強く勧める。そうすれば“不幸な第三者”を生まずに済むだろうし、「大事なことほど配偶者に話さなくなるのはなぜか?」というテーマで1度くらい話し合っても決して無駄じゃないだろうと思うからだ。
 ミンゲラの脚本で目を引いたのは、ウィルの共同経営者サンディをいくつかのシーンで
“パートナー”と呼ばせたこと。これは「一番近い他人は配偶者だけではない」という暗示でもあり、個人的にはなかなか興味深かった。

 作品として不満がないわけじゃない。
 作品の中盤、強力なスパイスとなる娼婦オアーナ(いいキャラだもんだから誰かと思ったら「ディパーテッド」で主役2人とヤッちゃう女優だった・笑)が途中で居なくなっちゃったまま最期まで出て来ないこと。惜しい。彼女は最後にもう一度登場させるべきだったと思う。
 それと肝心のラストシーン。ネタバレになるから書かないが、「そんなことでいいの?!」と激しく思った。
 単純に「分かり合えない男と女」というテーマなら、同じジュード・ロウ主演の「クローサー」の方が圧倒的に面白い。
 しかしこの作品はもうひとつ、「ジュリエット・ビノシュの立場で観る」という愉しみかたがある。特に30歳オーバーの女性は自らの恋愛観がこの作品の評価を大きく変えることだろう。

 thanks! 410,000prv

こわれゆく世界の中で

こわれゆく世界の中で

  • 出版社/メーカー: ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント
  • メディア: DVD

nice!(4)  コメント(8)  トラックバック(2) 
共通テーマ:映画

nice! 4

コメント 8

江戸うっどスキー

私も、ラストは不満が残りました。なんて、ステレオタイプ(笑)勿論、友人は満足気だったので、サンプルに打って付けですね^^;

ウィルの共同経営者サンディを観て、私はラブアクチュアリーのポルノ男優だ!としか思いつきませんでした。スルーしてください。ココ(>_<)
by 江戸うっどスキー (2007-04-23 21:28) 

ken

僕にとっては最後の最後、リヴの言動がいまいちだったんですよねえ。
サンディは「銀河ヒッチハイク・ガイド」にも出てましたね(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-04-23 22:48) 

うわぁ~、これ観たいんですよ。にキャスティングに惹かれて。kenさんの最後のコメントにあるように「ジュリエット・ビノシュの立場で」観てみようかな。
by (2007-04-26 16:17) 

ken

キャスティング、いいですよね。
ジュリエットの立場に立つと、かなりせつないです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-04-26 19:50) 

coco030705

こんばんは。
やっと見ることができました。
ジュード・ロウファンなので、必見ですね。
ジュリエット・ビノシュが、見終わったあともかなり印象に残っています。
力のある女優さんなんでしょうね。
TBさせていただきますね。
by coco030705 (2007-05-18 23:47) 

ken

ジュリエットはやっぱり「ショコラ」ですね。
「イングリッシュ・ペイシェント」も良かったなあ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-05-19 07:43) 

non_0101

こんばんは。
> 大事なことほど配偶者に話さなくなるのはなぜか?
やっぱり、配偶者ほど甘えられる反面、怖い人はいないからでしょうか。
一番信頼をおきたい人。
でも、肉親とは違って、関係を解消できるのです(^_^.)
だから、怖くもあります。
そんな人ほど傷つけたくない存在になるのかなあと思いました。
by non_0101 (2007-05-19 22:53) 

ken

「関係を解消できる」
というところが最大のポイントでしょうね。
こわいこわい!(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-05-21 00:00) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。