SSブログ

ボーダータウン 報道されない殺人者 [2008年 レビュー]

ボーダータウン 報道されない殺人者」(2006年・アメリカ) 監督・脚本:グレゴリー・ナヴァ

 この映画には「人としてその存在を認めたくないもの」が二つ出て来る。
 ひとつは、「人間の中に潜む“悪魔”」
 もうひとつは、「金と暴力の前で無力になる“正義”」だ。
 悪魔がいるのに正義がいないとヒーロー映画は成立しないが、残念なことにこの映画は成立している。それはこの映画が現実を描いているからだ。

 アメリカとの国境近くメキシコのシウダ・フアレスという街にはマキラドーラと呼ばれる工場群が立ち並んでいる。これは1992年に締結された北米自由貿易協定を受け、メキシコ政府が税制上の優遇措置を行ったことにより多数作られた輸出保税加工工場のこと。
 メキシコの安価な労働力で電気製品や自動車部品を作り、それを北米企業に輸出するシステムだが、この工場で働く若い女性たちが何者かに襲われ、殺害されるという事件が1993年頃から発生している。確認されているだけでも約500件。しかし実際には5000件に及ぶと言われている。
 しかし事件は未解決。その理由はなぜか。
 本来取り締まるべきメキシコ政府が間接的に共犯者であるからだ。
 繰り返しておくが、この映画はフィクションじゃない。現実をモチーフにして作られている。

 ドラマは暴行され、砂漠に生き埋めにされながら一命を取り留めた16歳の少女が、“正義”の最後の砦とも言える地元の新聞社を訪ねるところから大きく展開を始める。シカゴから取材にやってきたローレン(ジェニファー・ロペス)と地元新聞社のディアス(アントニオ・バンデラス)は命懸けで真犯人を追い詰めようとするが、メディアなど物ともしない“強大な力”が2人をねじ伏せようと迫ってくる…。

 「ホテル・ルワンダ」で見た、最悪の絶望がこの映画にも漂っていて哀しい。
 実はこの世には「神」も「ヒーロー」いないのだ。でなければ何故500人超の若い女性がなぶり殺しの目に遭うのか。
 もしも。
 ヒーローに代わる人たちがいるとすれば、それは“世界の耳目”だと僕は思う。
 世界中の人々がいま世界で起きている非人道的な事件を認知し、疑問を投げかけ、事実を解明しようとするアクションを起こせば、その行動がヒーローにとって代われるんじゃないか。そのためにも「正義を貫く報道」が大切なのだとこの作品は教えてくれる。  
 
僕は昨年ビルマで亡くなった旧い友人を思い出した。
 長井健司
 ただ事実を伝えようとして軍の凶弾に倒れたジャーナリスト。
 彼が最期まで握り締めていたビデオカメラは未だ取り返せていない。
 本編のエンディングでローレンが起こした“アクション”を僕は長井ちゃんのために起こせるか?
 そんなことも考えてしまった。
 資本主義の歪みを捉えた秀作。

 thanks! 940,000prv

ボーダータウン 報道されない殺人者 [DVD]

ボーダータウン 報道されない殺人者 [DVD]

  • 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
  • メディア: DVD

nice!(2)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 2

コメント 4

Sho

>ヒーローに代わる人たちがいるとすれば、それは“世界の耳目”だと僕は思う。
そうですね。
私も、ヒーローに代わるものを考えてみたいと思います。
by Sho (2008-08-22 09:04) 

snorita

これ、すごく怖いですねえ。知りませんでしたよー、興味津々です。
こんな事が一杯あるんだろうなあ....映画みてみようっと。

せめて目と耳を光らせて見るしかないって事ですかね?
by snorita (2008-08-22 10:35) 

ken

>Shoさん
 ぜひよろしくお願いいたします。

>snoritaさん
 怖いです。本当に怖いです。
 こんなことをなくすためには見るしかありません。
by ken (2008-08-22 12:13) 

non_0101

こんばんは。
ようやく観て書きました。
この物語が事実をもとにしていることが一番怖かったです(T_T)
何故、未解決のままなのでしょう(T_T)
でも、せめて観ることが出来て良かったです。
by non_0101 (2008-11-24 20:56) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。