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東洋宮武が覗いた時代 [2009年 レビュー]

東洋宮武が覗いた時代」(2008年・日本/アメリカ) 監督・脚本:すずきじゅんいち

 東京都写真美術館が行っている「写真美術館で観る映画シリーズ」の第46弾。
 第二次大戦中、「アメリカ人の反日感情による被害から守るため」という建前で強制収容所に入れられた約12万人の在米日本人と日系人たち。その収容所の中で写真を撮り続けた“日系1世”宮武東洋のドキュメンタリーです。

 入所の際は「手で
持てる物」意外の持ち込みは禁止され、日系人の大半が所有していた資産をタダ同然で売るハメになったと言います。またカメラの持ち込みは厳禁。そんな中、東洋は密かにひとつのレンズとフィルムを持ち込み、収容所仲間の大工にボディを作らせ、中の様子を撮ったのだとか。
 公式HPに貴重な写真が何点か掲載されていますが、多くの日本人が知る由もなかった日系人収容所のさまざまな表情が美しいモノクロームで切り取られています。

 本編に関して。
 いろんな点が説明不足。少々淡白な作りが残念です。僕の第一印象は「事の重大さを認識し難い」ということ。「アメリカの市民権を持っている人間がなぜ拘束されるのか?」と訴える日系人に、当初はなかなか共感出来ません。裏を返せば彼らは、「本土の日本人と我々は立場が違う」と主張しているように見えたからです。
 僕が足りないと感じた一番の要素は、ルーズベルト大統領が抱いていた「日本人に対する人種差別的感情」についての説明。
 ルーズベルトは開戦の5年前から対日有事を想定し、ハワイに住む日系人を強制収用しようとしていたと言います。そして開戦後、大統領行政令9066号(軍が必要と認めた場合、外国人を強制収用する)に署名をし、日系人は強制収用されるのですが、同じ敵対国のドイツとイタリア系アメリカ人は収容されませんでした。つまり「ルーズベルトの個人的感情が12万人にも及ぶ日系人の運命を弄んだ」と言っても過言ではないわけで、日本人監督がこのテーマを扱うならば、ここまで掘り下げなければ、やる意味はないと思うのです。
 誤解のないように言うと、僕はルーズベルト個人を非難したいわけではなく、人種差別の大きなうねりは大海に投じられた小石の波紋から生まれるものだ、ということを訴えて欲しかったのです。

 本作で初めて知った事実もありました。
 それは日系アメリカ人のみで組織された部隊、第442連隊戦闘団の存在。強制収容所からも800名が志願したと言われ、しかもアメリカ合衆国の歴史上、最も多くの勲章を受けた最強の部隊。
 劇中紹介されたエピソードで驚いたのは、ドイツ軍に包囲され救出困難な状態に陥っていた第34師団141連隊第1大隊(通称:テキサス大隊)を救うため、第442連隊に命令が下り、211名のテキサス大隊を救出するために、約800名の日系アメリカ人が死傷したと言われる作戦。このとき442連隊に救出命令を出したのはルーズベルト大統領本人だったそうです。

 東洋の写真で印象的だったのは、写っている人たちが思いのほか笑顔だったことでした。
 長い収容所の暮らしで精神を病んだ人もいる、と聞いたのに何故と思ったのですが、恐らくそこに「人種差別」がなかったからでしょう。日系人のさらなる苦難は戦後、自由を獲得してから始まるのだと思うと、人種差別という最大の偏見を忌み嫌わずにいられません。

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コメント 4

ばくはつごろう

予告編だけ見たのですが。
こういうのもフォローするんですね。
流石です。
by ばくはつごろう (2009-04-15 11:22) 

ken

僕は東洋のような50年後くらいに価値の出る写真を撮りたいと思いました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-04-15 21:27) 

Sho

多分この施設だと思うのですが、写した動画が残っていた、というテレビの特集番組をチラと見ました。
もしかすると、ご紹介の写真だったかもしれません。
なんか、「すごいなあ・・」と思いました。
by Sho (2009-04-17 22:37) 

ken

アメリカのことですから、記録フィルムももちろんあるでしょうね。
収容所周辺には、日系人を擁護したアメリカ人もいて、
東洋もそういったアメリカ人からフィルムを入手したと言われています。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-04-18 09:22) 

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