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キャラメル [2009年 レビュー]

キャラメル」(2007年・レバノン/フランス) 監督・脚本・主演:ナディーン・ラバキー

 どうやら僕は女性讃歌の映画が好きらしい。
 
 これはレバノンの首都ベイルートにある美容院に集う女性たちの群像劇。
 不幸になると知りつつ不倫から抜け出せない美容院の女主人。結婚を間近に控えながら、イスラム教徒であるが故の悩みを抱えている従業員。老いを受け入れられず女優のオーディションを受け続ける常連客。姉の介護のために自分の人生を棒に振ったと失望する近所の老女。
 普遍的なものと、お国柄によるものはあるが、女性ならではの悩みが客観的に綴られ、まるで短編集のようにさくさくと展開するところが小気味いい。

 まず特筆すべきは、美容院の女主人を演じるナディーン・ラバキー自身が監督を務めていること。順序としてはおそらく「監督が主演した」とするのが正しいのだろうが、その美貌とプロポーションから僕は「きっとレバノンのトップ女優に違いない」と思っていたので正直驚いた。
 その演出面で僕は観ながら二つの映画を思い出していた。
 1本は「ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた」
 監督自ら3人目のウェイトレスとして登場し、女性の精神的自立をユーモアを交えながら描いた佳作で、男には絶対に書けない脚本が爽快だった。女性監督による女性が主人公の映画は、男にとっていい意味での“裏切り”が散りばめられていて、まるで好きになった女性を興味深く観察する感覚に似て、観ているだけで心地良くなるのだ。
 もう1本は「オール・アバウト・マイ・マザー」。
 こちらはスペインの巨匠ペドロ・アルモドハルの作品だが、「女に生まれたが故のそこはかとない哀しみ」の描き方がとても良く似ていたと思う。これは宗教的な関係で男尊女卑が色濃く残るレバノンの“女性”監督だからこそ成し得た仕事だろう。男には理解されない、この国独自の「女の世界」が実に丁寧に描かれていたと思う。

 「キャラメル」はレバノン版の「SEX AND THE CITY」として観てもいい。
 はやり宗教的な関係でオリジナルほどあけすけに「女の性」は語られないけれど、個々で悩みを抱えていた4人の女性が、気が付くと行動を共にしている様が観ていて面白かった。それはまるで外敵から身を守るために身体を寄せ合う動物たちのようで、微笑ましくもあり愛おしくもある様だった。

 女性のもつ様々な側面を、いくつも垣間見せてくれる佳作。
 そして、英語圏以外の映画の面白さを再発見させてくれる掘り出し物。

キャラメル [DVD]

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コメント 4

Sho

>美容院に集う女性たちの群像劇
というところで、西原の「パーマネント野ばら」を思い出しました。
根底に、同性に対する慈しみがある作品なのかなあ、と思いながら読ませていただきました。
by Sho (2009-12-05 18:56) 

Betty

この映画観ます!観ます!O(≧∇≦)O
by Betty (2009-12-05 20:46) 

spika


わ~お! 『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』の記事も

書いていらしたんですね!


あたし・・近年でこの作品、自分の中のNO’1なんです。

パイの中に自分の感情を込めるなんてくだりは

『赤い薔薇ソースの伝説』に似ているなと思いますし・・


また前出の『容疑者Xの献身』の男を殺してしまうシーンは

ペドロ・アルモドバルの『ボルベール』を思い出させます。


映画は本当に楽しいですね。


by spika (2009-12-06 13:25) 

ken

たくさん観ると、観た分だけ、楽しみが広がるのが映画だと思います。
もちろん素直に楽しめなくなる時もあるけれど、それも映画の引きだしが
増えた証しだし、僕はそんな生活が好きです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-12-08 13:21) 

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