スワロウテイル [2010年 レビュー]
「スワロウテイル」(1996年・日本) 監督・脚本:岩井俊二
本作が公開された年、僕は33歳で、映画なんて年に2本も観ない生活をしていた。
仕事と酒に明け暮れて、じゃあ何のために仕事をしているかというと、ただ金のためだったように思う。それでも金はなかった。あったのは一文にもならない漠然とした夢だけだ。
僕がこの年に観た映画は「ミッション:インポッシブル」と「ツイスター」の2本だけ。「スワロウテイル」のことは知っていた。でも観なかった。
2010年にして初見である。
「流氓」という単語が出て来た瞬間、馳星周の「不夜城」を思い出した。
円を求めて日本へ乗り込んでくるアジア系移民。そのアイディアはもしやと思ったが、「不夜城」が発表されたのは96年8月。映画が公開されたのは同9月。パクリようがないタイミングということは、この数年前に日本で何かが起きていたということだ。
調べたらすぐに分かった。
95年4月19日。東京外国為替市場で1ドル=79.75円という市場最高値を記録している。しかも、この記録は未だに破られていない。
なるほど。ならば“円都(イェンタウン)”というアイディアは秀逸だ。
おとぎ話である。ただ生ぬるくはない。地べたを這うように生きる外国人がたくさん出て来る“オトナのおとぎ話”である。
だからいい。
時代背景にだけリアリティを持たせ、あとは徹底的に“本気の嘘”をつけば、その嘘は事実を超える。そのためには一瞬たりとも衒うことなく嘘をつき通さなくてはならない。それが出来れば読者や観客の意識の中に、作家が創造した世界観を確立することが出来るのだ。
たとえば僕は楊偉民の経営する漢方薬局が歌舞伎町のどの辺りにあるか、だいたいの目星がついている。あるいは劉健一のバーへ行けと言われても行ける気がする。もちろんそんなことがあるわけないのだが、「本気の嘘は事実を超える」とはこういうことだ。
だから当時、東京には“円都”があると思った観客もたくさんいただろう。映画としてはもうそれで充分だと思う。
それにしても、観ておけば良かったなと思った。
金に困ってあくせくしていた時代に観たら、僕はどんなレビューを書いただろう。そう思う作品だった。ひとつだけ今で良かったと思ったのは美術監督の名前に気がついたこと。種田陽平。「キル・ビルVol.1」で米国美術監督協会の最優秀美術賞にノミネートされるなど、国内外の映画美術賞を多数獲得している人物で、この人は日本が世界に誇る“アーティスト”の一人だと思う。調べてみたら映画「不夜城」の美術も担当し、香港で最優秀美術監督賞を受賞していた。
「スワロウテイル」は今こそ再び観る価値があるような気がする。
なぜなら、当時も今も円高不況の真っただ中にあって、グリコ(chara)やフェイホン(三上博史)の生き様が、2010年を生きる若者たちに何かしらのメッセージを与えてくれるんじゃないかと思うから。
本作が公開された年、僕は33歳で、映画なんて年に2本も観ない生活をしていた。
仕事と酒に明け暮れて、じゃあ何のために仕事をしているかというと、ただ金のためだったように思う。それでも金はなかった。あったのは一文にもならない漠然とした夢だけだ。
僕がこの年に観た映画は「ミッション:インポッシブル」と「ツイスター」の2本だけ。「スワロウテイル」のことは知っていた。でも観なかった。
2010年にして初見である。
「流氓」という単語が出て来た瞬間、馳星周の「不夜城」を思い出した。
円を求めて日本へ乗り込んでくるアジア系移民。そのアイディアはもしやと思ったが、「不夜城」が発表されたのは96年8月。映画が公開されたのは同9月。パクリようがないタイミングということは、この数年前に日本で何かが起きていたということだ。
調べたらすぐに分かった。
95年4月19日。東京外国為替市場で1ドル=79.75円という市場最高値を記録している。しかも、この記録は未だに破られていない。
なるほど。ならば“円都(イェンタウン)”というアイディアは秀逸だ。
おとぎ話である。ただ生ぬるくはない。地べたを這うように生きる外国人がたくさん出て来る“オトナのおとぎ話”である。
だからいい。
時代背景にだけリアリティを持たせ、あとは徹底的に“本気の嘘”をつけば、その嘘は事実を超える。そのためには一瞬たりとも衒うことなく嘘をつき通さなくてはならない。それが出来れば読者や観客の意識の中に、作家が創造した世界観を確立することが出来るのだ。
たとえば僕は楊偉民の経営する漢方薬局が歌舞伎町のどの辺りにあるか、だいたいの目星がついている。あるいは劉健一のバーへ行けと言われても行ける気がする。もちろんそんなことがあるわけないのだが、「本気の嘘は事実を超える」とはこういうことだ。
だから当時、東京には“円都”があると思った観客もたくさんいただろう。映画としてはもうそれで充分だと思う。
それにしても、観ておけば良かったなと思った。
金に困ってあくせくしていた時代に観たら、僕はどんなレビューを書いただろう。そう思う作品だった。ひとつだけ今で良かったと思ったのは美術監督の名前に気がついたこと。種田陽平。「キル・ビルVol.1」で米国美術監督協会の最優秀美術賞にノミネートされるなど、国内外の映画美術賞を多数獲得している人物で、この人は日本が世界に誇る“アーティスト”の一人だと思う。調べてみたら映画「不夜城」の美術も担当し、香港で最優秀美術監督賞を受賞していた。
「スワロウテイル」は今こそ再び観る価値があるような気がする。
なぜなら、当時も今も円高不況の真っただ中にあって、グリコ(chara)やフェイホン(三上博史)の生き様が、2010年を生きる若者たちに何かしらのメッセージを与えてくれるんじゃないかと思うから。
大人の、おとぎ話ですね。
1995年前後、ウォン・カーウァイみたいな監督が認知されだしたり、
いろんなメディアがアジアにも目を向け出したような気がします。
ちょうど私は学生でそんな動きにちょっとだけ敏感になっていて、
このあたりの作品も観てた気がします。
久しぶりに、また観てみようかなと思いました。
by movielover (2010-01-14 00:05)
ずーっと気になっていて、いつか見ようと思っている映画の一つです。
「不夜城」は見たのですが、美術監督が同じ方でしたか。
映画と言うのは、「その当時」のことを強烈に思い出させますね。
今見てみたいと思いました。
by Sho (2010-01-14 00:20)
>movieloverさん
この時代、僕は本当に映画と接点がなくて、今になって随分損をしたなあ、
と思います。久しぶりに観た人にどう映るのか、興味がありますね。
nice!ありがとうございます。
>Shoさん
「不夜城」って映画としての出来栄えは酷かったんですけどね。
美術は良かった記憶があります。
by ken (2010-01-14 02:54)
公開時に見たときは設定のセンスにやや鼻につくものを感じた作品だったんですが、その後も印象が長く残って、何度か見返した映画です。不思議な魅力があるというか。フェイホンが釈放されグリコの看板を見上げるところで「マイウェイ」が流れますが、歌詞とフェイホンの状況が妙にマッチして涙が出ます。
それと岩井監督はやはり子供の描き方がうまい。
by satoco (2010-01-14 12:34)
“飛べないはずの蝶”が飛んだシーンでしたね。
とても印象的なシーンでした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-14 21:32)
そう、蝶なんですよ。
『スワロウテイル』といえば、蝶になり、蝶を思えば、
『羊たちの沈黙』(ラストシーンに蝶のモビールが出てくるんです・・)が
思い出されてしまうんです・・・(視覚の問題で全く繋がりがないいん
ですが・・・)
My littoll loverの「yes」もすごく良かったですね。
若い才能が集結した作品だと思いました
大好きな作品です。
by spika (2010-01-15 10:20)
「羊…」は蛾だったんじゃないでしょうか?
映画のポスターワークにも使われて、刺激的な作品でした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-15 17:58)
え~!あたし・・ずっと蝶だと思ってました。
ちょっとこれ長めの宿題にして下さい。
『羊たちの沈黙』を一人で見るのは怖過ぎマス。。
確かに、犯人の家は蛾だらけでした。
だけど・・あの最期に出て来た黒い影のようなモビールは、
どうにも『蝶』の形だったように思ってて。
「蛾」のモビールだったら、見せる必要がない様に思うんですよね。
ちょっと確認させて下さい。
間違ってたら御免なさい。
by spika (2010-01-15 21:17)
いえ。僕もいつか確認したいと思いますw
by ken (2010-01-15 21:46)
劇場で見て、かなりインパクトが強かったはずなのに、ストーリーが
あまり思い出せないなぁ。悲。。もう一度観てみようかと思います。
by po-net (2010-01-17 20:48)
charaのヴォーカルが印象強くて、すべてがぶっ飛んだんだと思いますw
僕はこの世界観、悪くないと思いましたが、ちょっとファジーなのかも知れませんね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-17 21:54)
懐かしい。
by **feeling** (2010-01-20 21:10)
でしょう? nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-20 23:00)