LARS AND THE REAL GIRL [2010年 ベスト20]
「ラースと、その彼女」(2007年・アメリカ) 監督:クレイグ・グレスピー 脚本:ナンシー・オリヴァー
やられた。
序盤でさんざん笑ったら、後半にがっつり泣かされた。人の情けが身に沁みる良い映画だ。
小さな田舎町に暮らす心優しい青年ラース(ライアン・ゴズリング)は極端にシャイな性格でガールフレンドも作れない。ところが、ある日ラースは隣に住む兄夫婦に「彼女を紹介したい」と打ち明ける。日頃から弟を心配をしていた兄夫婦は大歓迎。ところがラースが紹介したのはアダルトサイトで購入したリアルドールだった…。
文字面(づら)で見ると、気色の悪いハナシをイメージすると思う。けれど間違ってもR指定ではないし、それどころかアカデミー賞脚本賞にノミネートされた作品である。変態的なシーンはないから子どもと観ても大丈夫。もしやリアルドールの説明に若干手間取るかも知れないが、「ポーズをつけられるマネキン」と説明すれば、おそらく子どもはそれ以上の質問をして来ないだろう(笑)。
いろんな意味で設定が巧い映画だと思った。
まず舞台が「雪の降る町」であるところ。全編空もどんよりとしていて、場面に漂う空気はキンと冷たい。観ているこちらまで人肌恋しくなるその空気感が、「人は一人じゃ生きられない」ことを無言で訴えている。観れば分かる。ファーストカットからそうだから大抵の観客は、人との接触を敬遠するラースの気持ちを「なぜ?」と思う。そしてその瞬間、観客もこの町の住民となり、もはや他人事としては観られなくなるのだ。巧すぎる。
「雪の町」効果はもうひとつある。
空気が冷たいだけに、「人の優しい心根」を温かく感じることが出来るのだ。「雪の町」は田舎町でもある。住民のほとんどが誰かしらと繋がっている小さなコミニュティで、その住民たちがラースの“心の病”と向き合おうとする。そんな彼らの気持ちが冷たい空気の中で温かみを増す。
悪人が出て来ないのも大きい。
この手のストーリーには主人公を卑下する登場人物がつきものだが、脚本のナンシー・オリヴァーはそういった人間を一切排除した。それどころか、ボーリング場のシーンでラースの兄ガスの同僚3人組を一旦悪役キャラ風に見せつつ、なんのことはないフツーにいいヤツだったと分からせる件も巧い。
仮にここまでラースの病を受け入れられない観客がいたとしても、おそらくこのシーンを最後に偏見は消えると思う。なぜならこのシーンは、先の3人組ですら「おかしなことになってしまったラース」を受け入れていることを教え、ラースの人格には一点の曇りも無いことを証明するシーンであるからだ。
俳優の演技をじっくりと見せた編集もいい。
カットが極端に短くなく、「おかしいからといって、決してラースから目をそらさない」という周囲の人々の気持ちを表現していたと思う。要所要所の間が絶妙だった。
その間を作ったのは、ライアン・ゴズリング自身だ。しかも人間相手以上の芝居を、リアルドール相手に披露している。この俳優、只者じゃない気がする。今後要チェック。
他には、ラースを最初に受け入れようとする兄嫁を演じたエミリー・モーティマー。一目観た瞬間に「Dear フランキー」の人だと分かった。大好き。そして適役。この人の裏表のない表情に救われるシーンは多い。
もう一人見事だったのは、精神科医を演じたパトリシア・クラークソン。彼女の物静かな演技は、「きっとこの人がラースを救ってくれる」と観客に安心感を与えたと思う。
本作は、ラースを助けたい一心でリアルドールのビアンカを受け入れようとする町の人たちの気持ちが最大の見どころである。そしてビアンカの気持ちを代弁する体で、皆がそれまで呑み込んでいた言葉を発信するようになる様もおもしろい。
僕が本作で一番心に刺さったのは牧師の言葉。
牧師はビアンカのことを「我々の勇気を試す存在」と説いた。
奥深い言葉だ。
思い返したらもう一度観たくなった。
やられた。
序盤でさんざん笑ったら、後半にがっつり泣かされた。人の情けが身に沁みる良い映画だ。
小さな田舎町に暮らす心優しい青年ラース(ライアン・ゴズリング)は極端にシャイな性格でガールフレンドも作れない。ところが、ある日ラースは隣に住む兄夫婦に「彼女を紹介したい」と打ち明ける。日頃から弟を心配をしていた兄夫婦は大歓迎。ところがラースが紹介したのはアダルトサイトで購入したリアルドールだった…。
文字面(づら)で見ると、気色の悪いハナシをイメージすると思う。けれど間違ってもR指定ではないし、それどころかアカデミー賞脚本賞にノミネートされた作品である。変態的なシーンはないから子どもと観ても大丈夫。もしやリアルドールの説明に若干手間取るかも知れないが、「ポーズをつけられるマネキン」と説明すれば、おそらく子どもはそれ以上の質問をして来ないだろう(笑)。
いろんな意味で設定が巧い映画だと思った。
まず舞台が「雪の降る町」であるところ。全編空もどんよりとしていて、場面に漂う空気はキンと冷たい。観ているこちらまで人肌恋しくなるその空気感が、「人は一人じゃ生きられない」ことを無言で訴えている。観れば分かる。ファーストカットからそうだから大抵の観客は、人との接触を敬遠するラースの気持ちを「なぜ?」と思う。そしてその瞬間、観客もこの町の住民となり、もはや他人事としては観られなくなるのだ。巧すぎる。
「雪の町」効果はもうひとつある。
空気が冷たいだけに、「人の優しい心根」を温かく感じることが出来るのだ。「雪の町」は田舎町でもある。住民のほとんどが誰かしらと繋がっている小さなコミニュティで、その住民たちがラースの“心の病”と向き合おうとする。そんな彼らの気持ちが冷たい空気の中で温かみを増す。
悪人が出て来ないのも大きい。
この手のストーリーには主人公を卑下する登場人物がつきものだが、脚本のナンシー・オリヴァーはそういった人間を一切排除した。それどころか、ボーリング場のシーンでラースの兄ガスの同僚3人組を一旦悪役キャラ風に見せつつ、なんのことはないフツーにいいヤツだったと分からせる件も巧い。
仮にここまでラースの病を受け入れられない観客がいたとしても、おそらくこのシーンを最後に偏見は消えると思う。なぜならこのシーンは、先の3人組ですら「おかしなことになってしまったラース」を受け入れていることを教え、ラースの人格には一点の曇りも無いことを証明するシーンであるからだ。
俳優の演技をじっくりと見せた編集もいい。
カットが極端に短くなく、「おかしいからといって、決してラースから目をそらさない」という周囲の人々の気持ちを表現していたと思う。要所要所の間が絶妙だった。
その間を作ったのは、ライアン・ゴズリング自身だ。しかも人間相手以上の芝居を、リアルドール相手に披露している。この俳優、只者じゃない気がする。今後要チェック。
他には、ラースを最初に受け入れようとする兄嫁を演じたエミリー・モーティマー。一目観た瞬間に「Dear フランキー」の人だと分かった。大好き。そして適役。この人の裏表のない表情に救われるシーンは多い。
もう一人見事だったのは、精神科医を演じたパトリシア・クラークソン。彼女の物静かな演技は、「きっとこの人がラースを救ってくれる」と観客に安心感を与えたと思う。
本作は、ラースを助けたい一心でリアルドールのビアンカを受け入れようとする町の人たちの気持ちが最大の見どころである。そしてビアンカの気持ちを代弁する体で、皆がそれまで呑み込んでいた言葉を発信するようになる様もおもしろい。
僕が本作で一番心に刺さったのは牧師の言葉。
牧師はビアンカのことを「我々の勇気を試す存在」と説いた。
奥深い言葉だ。
思い返したらもう一度観たくなった。
いい映画みたいですね
気持ち悪いオタク映画と思っていましたが、
チィム・バートンの『シザー・ハンズ』に通じるような
感じなのでしょうか。
先入観を持たずに、あらゆるジャンルを観ているkenさんに
驚かされっぱなしです
by spika (2010-01-15 10:18)
おっしゃる通り、「シザー・ハンズ」の趣が確かにありました。
映画に限らず、あらゆることに偏見を持たない、が僕の信条です。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-15 17:52)
(大笑)チムはティムの誤りです。。。(恥ずかしい・・)
>映画に限らず、あらゆることに偏見を持たない、が僕の信条です。
なるほど。 でも凄いですね。
それはとても難しい事であると思うからです。
by spika (2010-01-15 20:45)
ローマ字入力だと、よく起こることですよねw
偏見を持たないことは、大変な努力がいりますね。毎日大変です。
by ken (2010-01-15 21:45)
やさぐれBettyには不向きな映画でした(´-ω-`;)ゞ
「我々の勇気を試す存在」!!!
なんか~落ち込んできた><;
会社の同僚はサントラまで買っていました☆
クマのぬいぐるみを治療するシーンにやられたそうです!
by Betty (2010-01-15 23:19)
そうなんですよね。文字面からみると、なんて変態!って思われても仕方ないのに、観るとあまりにも温かいストーリーになっていて。
そのギャップも、ノックアウトされた原因かもしれません。
焼き直し映画が多い中、こんなにオリジナリティに溢れた作品もなかなかないと思いました~。
by クリス (2010-01-16 14:42)
あ~,忘れていました,この作品。
何かレンタルしたDVDの予告編を見て,
絶対みようと思ってたのに!!!
ありがとう,思い出させてくださって(笑)
・・・いろんなことを,たくさん忘れてる・・・マズイですね(笑)
次の休日に観るわ♪
by rennka (2010-01-16 21:31)
>Bettyさん
やさぐれだったんですか~。まずそれが衝撃でしたw
テディベアの治療は僕もやられました。そんなことでいいのかな?
nice!ありがとうございます。
>クリスさん
オリジナリティという点が一番感心したところかも知れません。
まだまだやれるじゃん。アメリカ映画も、って感じ。
nice!ありがとうございます。
>rennkaさん
僕は今では覚えていることのほうが少ないですw
楽しんでください。nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-17 03:13)
この映画いいですよねぇ。ビアンカの表情やら周囲の反応やら色々とおかしくて、でも次第にラ―スを取り巻く人々と同じ視線でラ―スを見守っておりました。やはりライアンくんの演技が気になって、あまり話題にならなかったと思われる出演作を観ましたが、やはり不思議な魅力がありますね。
by po-net (2010-01-17 20:43)
ライアンはコメディも出来るし、シリアスも出来る俳優なんじゃないかと思います。
僕も何か1本観てみよう。nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-17 21:52)
>「我々の勇気を試す存在」
凄くイイ言葉ですよネ!
by u_yasu (2012-01-02 13:36)
本当にいい言葉です。
これからの日本で使える言葉かも知れません。
nice!ありがとうございます。
by ken (2012-01-02 21:28)