SSブログ

カリートの道 [2010年 レビュー]

カリートの道」(1993年・アメリカ) 監督:ブライアン・デ・パルマ

 元麻薬王のカリート・ブリガンテ(アル・パチーノ)は30年の刑期を食らいながら、友人の弁護士クラインフェルド(ショーン・ペン)の尽力によって5年で出所をはたす。自由の身となったカリートはかつての縄張りに戻るが、そこでは世代交代が進み、仁義を欠いた連中がのさばっていた。カリートは思案の末、堅気になる決心をし、まじめに働き始めるが、ある日恩人であるクラインフェルドから危険な仕事を頼まれてしまう…。

 「ゴッドファーザーPARTⅢ」から3年後。パチーノがこんな役をやると聞いた当時の人たちはどう思っただろう。マイケル・コルレオーネという映画史に残る強烈なキャラクターを演じたパチーノが、老いを感じて堅気に戻ろうとするヤクザの役。世間が期待する役だったのかどうかは分からない。興行成績も奮わなかったと聞く。しかしドン・マイケル・コルレオーネのイメージを持たずに観れば、これはこれで面白い。僕には「老いてかつての勢いを失った男がリタイアを決意する」という設定が刺さった。

 人生には必ずピークがある。その時期と長さは人それぞれだが、肝心なのはピークを過ぎて“下り坂”を降りるときだ。そのとき足元を見失わず歩いて降りて行けるか、あるいはつまづいて転がり落ちて行くかで、後の人生は大きく変わる。
 目の前に現れた“下り坂”を指差し確認した人間は大抵が歩いて降りて行く。逆に見て見ぬフリをした人間は、その多くが下り坂を転がり落ちて行く。
 カリートはその道をゆっくり歩いて降りようとしていた。男としては見習いたい選択だ。過去の栄光にすがって生きることほど惨めなことはない。
 この設定はいい。しかし脚本の詰めが甘い。
 30年の刑期を5年で上がれたカリートの喜びは誰にも分かるまい。本作に足りないのは、カリートの想いを観客に理解させる具体的な描写だ。刑務所で死ぬと覚悟していた男が、再びシャバに出て知る「生きる喜び」。デ・パルマはかつての恋人との再会にその想いを集約させたようだが、もっと些細なこと(たとえば雨に濡れることも、夜更かしすることも、刑務所では出来ないはず)に喜びを見出すシークエンスがあれば、堅気に固執するカリートの想いはもっと伝わったはずだ。
 いかにカリートに感情移入をはたすか。これが本作の評価の分かれ道である。

 デ・パルマはオープニングにエンディングを持って来た。先に結末を見せたのはミスリードのためだ。こういうテクニックはデ・パルマのセンスだろう。エンディングにジョー・コッカーの「You Are So Beautiful」を流したのもいいセンスだと思った。曲のタイトルそのままカリートのことである。
 デ・パルマは60年代のスタイルを踏襲しつつ、長回し撮影や画面分割など独自のスタイルを加味して、映画監督の役割と存在感をアピールした人物。オープニングのカメラアングルも、クライマックスの長回し(2分22秒)もデ・パルマらしい味付けで、往年のファンには味わい深い1本。
 悪徳弁護士を演じたショーン・ペンも存在感バツグン。

カリートの道 スペシャル・エディション 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]

カリートの道 スペシャル・エディション 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]

  • 出版社/メーカー: UPJ/ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD
     

nice!(3)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 3

コメント 6

movielover

その昔、深夜にやっていたのを観ました。
味のある渋い映画でしたが…
若かったからなのか、やっぱり「男の世界」のしがらみだったり感情だったりに重きが置かれていて、そこがテーマだからなのか、感情移入できなかったような気がします。
でもこういう映画嫌いじゃないです。
ショーン・ペンはやっぱりこの頃から存在感抜群でしたよね。
by movielover (2010-01-25 01:33) 

ken

本作のショーン・ペンはかなりキレてます。一見の価値アリですね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-25 20:28) 

クリス

kenさんのレビュー、ピークを過ぎて“下り坂”を降りるとき
どっちだったかっていうところ、『スカーフェイス』のトニー(アル・パチーノ)
と比較してみると面白いです!
今作も好きですが、同じデ・パルマなら『スカーフェイス』派かも。

ショーンの演技はともかく(もちろんイイ)、パンチには驚きました・・・。

by クリス (2010-01-25 21:58) 

ken

「スカーフェイス」は観てないんです。
観なきゃいかん、と思いながら、カリートを先に観ちゃいましたw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-25 22:31) 

u_yasu

ショーン・ペンは凄いですよね!
『カリートの道』、好きな映画です♪
by u_yasu (2010-01-26 01:19) 

ken

わざわざ薄毛のズラを被っての演技でしたからね。
ヴィジュアルを優先するなら、ショーンじゃなくても良かったのに、
それでも彼がやったというのは、役者としてのポテンシャルが当時から
いかに凄かったかの証明ですね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-26 03:17) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

BANDAGEタイムマシン ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。