エレジー [2010年 レビュー]
「エレジー」(2008年・アメリカ) 監督:イザベル・コイシェ 脚本:ニコラス・メイヤー
このタイトル。
邦題をどうするかは、配給会社でかなり議論されたんじゃないかと思う。原題は極めてシンプル。「Elegy」とは悲しみを歌った詩などの文学や楽曲のことで、日本では悲歌、哀歌、あるいは挽歌と訳される。さてどうすべきか。
邦題をどう付けるかは、そのまま「映画をどの方向で売っていくか」という方針決定につながる。たとえばイザベル・コイシェの出世作「My Life Without Me」を「死ぬまでにしたい10のこと」としたのは、主人公と同年代の若い女性客を取り込もうとした松竹洋画編成室と宣伝部の強い意志の表われである。
この邦題は劇中に出て来るワードの引用とは言え、ネガティブ(死)とポジティブ(~したい)が共存する作品の本質を伝えるのに充分なコピーだった。そしてこのタイトルのおかげでPRの方向性も固まり、日本版のアートワークもオリジナルとはまったく異なる世界観で仕上げられた。たとえばDVDのパッケージ。誰もこの2本が同じ映画だとは思うまい。しかし、だからこそ日本でヒットしたのだ。
劇的ビフォーアフター
タイトルの重要性は分かった。話を「Elegy」に戻そう。
本作の邦題がただの「エレジー」に落ち着いたのは、配給会社の苦渋の決断じゃなかったかと思う。なぜなら本作はタイトルが雄弁過ぎると観客に見透かされてしまう程度の映画だからだ。
人生を気ままに生きてきた初老の大学教授と、30歳も離れた教え子との愛の物語。DVDのパッケージには「ペネロペが惜しみもなく肢体をさらす」といったコピーも刷り込まれていて、「ペネロペが身体を張って愛欲に生きる女を演じた」とミスリードさせている。
しかし実際はちょっと違った。年の差があるからこその猜疑心を男目線で執拗に描き、“老いらくの恋”の哀しみを存分に推したところで、終盤がらりと転調させている。これは構造上絶対に明かせないマル秘のストーリーであり、「Elegy」の本当の意味が明らかになる要所でもある。
問題はこれが「決して目新しくない」点だ。僕は即座に「オータム・イン・ニューヨーク」を思い出した。あの作品も褒められたものではなかったが、本作の場合は何の伏線もない強引な転調で、僕は正直呆れてしまった。邦題を考える人間はこの部分をどうしようかと悩んだと思う。しかし核心に触れたタイトルは一歩間違うと映画を浅く見せる恐れがある。本作も間違いなく、そのパターンにはまる映画だったからこそ、邦題も「エレジー」に落ち着いたのだろう。
ただし、ラストシーンの断片をオープニングで見せておき、さらに劇中登場するゴヤの名画「着衣のマハ」を、登場しない「裸のマハ」と共にもっとストーリーに絡めておけば、作品の質は大きく変わったと思う。
結果的に配給会社はこれを「ペネロペに依存した映画」と結論付けたのだ。
僕にはそれでも良かった。映画そのものは評価しないが、ペネロペは充分に堪能出来たからだ。中でも僕が一番ゾクゾクしたのが、猜疑心の塊になって醜態をさらした大学教授のデヴィッド(ベン・キングスレー)が、教え子のコンスエラ(ペネロペ・クルス)に詰め寄られる、このシーン。
「私とどうしたいの?
あなたは今までの人生で、誰とも本当のつながりを持とうとしなかった。
あなたにとって私は何なの?
嫉妬心や独占欲はなんの証明にもならない。
子どもだって玩具に飽きるまでは独り占めしようとする。
私たちの関係もそうなるの?
想像したことがあって? 私との未来を」
ペネロペにこんなこと言われて鵜呑み出来たのはトム・クルーズくらいのもんだろう。僕がベン・キングスレーじゃなくても「は?マジっすか!」と聞き返したくなる。「いいんですか?未来を考えちゃっても!」と。なんだかいい夢を観させてもらった。
個人的にはデヴィッドの友人で詩人のジョージを演じたデニス・ホッパーも気に入った。2人のやりとりにこんなセリフがある。
「美しい女は目に見えない」
「見えない?美しい女はイヤでも人目を惹くんだ。見逃すもんか」
「だが、その内面は見えない。見えるのは“美しい殻”だけだ。内面は美しさの壁に阻まれている」
詩人という設定らしい、いいセリフだと思った。
ついでにデニス・ホッパーにはアカデミー賞助演男優賞をあげてもいい、と思うほどの演技が後半のわずかなシーンにある。ファンは必見。
それにしてもペネロペはいつまで美しいままなのか、ふとそんなことを思う1本だった。
見てみたくなりました。
洋画を公開する際の「タイトル」は、本当に大事で大変でしょうねえ。
昔何気なく読んでいた雑誌に、「公開された洋画のグッドタイトル」みたいのがあって、「黄昏」がでてました。
ペネロペって、時が経つほどきれいになりましたね。歳も若返っていくようです。年老いた男と若い女の恋って言うのも、永遠のテーマですね。
by Sho (2010-02-07 14:07)
原作ね、読むと面白いですよ、原作。
でも、ペネロペあってのこの映画ってのは共感できます。
だって、ペネロペは美しいから。
色が白いは七難隠す、美しさは百難隠すってか。
by ばくはつごろう (2010-02-07 15:23)
>Shoさん
仮にこれが「哀歌」というタイトルだったら、まったく当たらなかったでしょうね。
そしてペネロペの作品じゃなかったら、買い付けもしなかった気がします。
nice!ありがとうございます。
>ばくはつごろうさん
やっぱ原作ですか。そんな感じはしてました。
ペネロペ、一度でいいから逢いたいですw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-02-07 17:48)
ぺネロぺは好きなのですが、
この映画は予告編観ていまいちっぽかったので、
観ようかどうしようか迷ってました…読んでさらに迷ってます…(笑)。
でもファンではないけれど、デニス・ホッパーよさそうですね。
さらに「裸のマハ」、「着衣のマハ」両方プラド美術館で本物を観たので、
映画での使われ方も気になります…やっぱり一応観てようかな(笑)。
by movielover (2010-02-07 23:29)
この作品に「裸のマハ」は出て来ません。
出せば良かったのに、と思って書いた次第です。
もし、「映画みたいけど、今日は何も観るものがないなあ」ってときなら
観てもいいかも知れません。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-02-08 00:51)