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SPACE BATTLESHIP ヤマト(2010年・日本) [2011年 レビュー]

監督・VFX:山﨑貴

 「ヤマト」世代である。
 リアルタイムで観た原作は日本におけるアニメブームを牽引した作品。これを実写映画化すると聞いたときは驚いた。驚いたけれど、今の技術なら出来るのかも知れないとも思った。
 監督は「ALWAYS 三丁目の夕日」でやはりVFXも兼任した山崎貴。「もしや」と期待した人も少なくないだろう。
 しかし…。

 (※ここから本艦は太陽系を出て、完全ネタバレ圏に突入します。また艦長(管理人)が宇宙酔いで、いささか精神バランスを欠く場合がありますので、ご理解のうえお進みください)。

 僕は「日本で作るSF映画の限界」を見た気がする。
 と言うのも、あらゆるものが「狭い」のだ。
 一番最初に「狭い」と感じたのが、司令長官(橋爪功)がヤマトをイスカンダルに飛ばすという重要な会見をしたシーン。この会見に集まっていたメディアはわずか20人足らずだった。日本は「酔っ払った友人を介抱していたら突然殴られた」という歌舞伎役者の意味不明の会見に500人が集まる国である。なのに地球の命運を決める会見に20人もいない。しかも記者は全員日本人。おのれらアホか。いや百歩譲って、すでに多くの人間は被災し、機能しているメディアがないというなら、それでもいい。だったらそれは世界にどう配信されたんだ?もしかしてシカトされたのか?(笑)。

 ヤマトの艦橋(ブリッジ)も狭くて驚いた。
 これは原作のスケールが目に焼きついているから感じた違和感だけれど、ぶっちゃけ「しょぼい」。巨大宇宙戦艦の頭脳が、「ちょっと広めのリビング」ぐらいのサイズでいいのか?。J.J.エイブラムスの「スター・トレック」で作られたUSSエンタープライズ号のブリッジと比べると、原子力空母とポンポン船くらいの差である。本当に情けない。
 他に狭いと感じたのは、ブラックタイガーなど搭載機の格納庫。ここは冷凍食品の倉庫にしか見えなかったし、食堂は田舎の定食屋並みの狭さ。じゃあ、あのデカイ図体は一体何で埋まってるんだ?

 これら「狭い」問題はすべて制作予算に関わることだが、こうなった一番の理由は日本人の生活スタイルにあるような気がする。広大な国土を持つアメリカと違って、狭い国土で貧乏暮らしをして来た日本人にスケール感を求めるのは酷なのだろう。一言で「広い」と言っても、ヤンキースタジアム20,000個分の牧場で育った子供と、6畳二間で育った子供とではイメージする「広さ」が違う。僕は残念だけれど、「ヤマト」こそハリウッドで映画化されたら良かったんじゃないかと思ってしまった。

 一方で感心したこともあった。
 それはスターシャとデスラー総統をアニメキャラのまま出さなかったことだ。
 スターシャは森雪(黒木メイサ)の肉体を借りてイタコ状態で語り、デスラーは未知の生命体として登場した。これは大正解。…と言いつつ僕は、顔を真っ青に塗った香取慎吾が「ヤマトの諸君」とやったら相当笑えるな、と思いながら観ていた。序盤で失望したから、もうどうでも良かった。
 ついでだから木村拓哉。よく引き受けたなと思う。でも木村拓哉がやったおかげで「古代進」の影はどこにも無かった。波動砲を発射したのは、古代進ではなくSMAPの木村拓哉だ。
 森雪をブラックタイガーのパイロットに置き換えたのも良かったと思う。ただ、これはきっと当初森雪役をやる予定だった沢尻エリカのために変更した設定だろう。ま、どっちでもいいけど。
 キャラクターが似ていたのは真田四郎役の柳葉敏郎。島大介の緒形直人はどういうわけか山崎邦正にしか見えなくて困った。でも
一番酷かったのは木村拓哉と黒木メイサの絡み。木村拓哉に引っ張られて、黒木メイサの芝居もコントに見えてしまった。黒木メイサにしてみれば完全に「もらい事故」。同情する。

 最後まで観終えて感じたのは、「SPACE BATTLESHIP ヤマト」という新作を作るにあたって、
「70年代の原作を2010年代の今になって映画化する理由」と、「どこに手を加えて、どこを守るべきか」の2点がきちんと詰められていない気がした。
 例えば宇宙空間には上下左右が無いけれど、それは完全に無視した作りになっている。
 20世紀はそれでも良かった。しかし今は国際宇宙ステーションの映像がリアルタイムで見られる時代である。そんな時代の子どもたちに「こんなのウソなんだぜ」と言われるような作りで本当にいいのか?
 劇中、敵の砲撃を避けるためにヤマトを横倒しにするシーンがあるが、その艦内で全員が姿勢を保つのに苦労していた。僕はこのシーンを観た瞬間「終わったな」と思った。
 日本はスケール感から言っても欧米のSF映画には負けるのだ。ならば日本は、宇宙物理学を徹底的に取り入れた新しいSF映画を作ってみるべきなんじゃないだろうか。ヤマトに限って言えば「イスカンダルまで放射能除去装置を取りに行く」という設定そのものが大ボラなのだ。だったら他の設定だけでもリアリティを持たせてくれたら、作品から受ける印象は大きく変わったと思うし、70年代の作品を今、実写映画化する意義もあったと思う。

 ちなみに原作を観ていない世代に聞いたら、「あのユニフォームからすでに違和感があった」と言う。確かに。やはり観客を無視して映画を作っちゃいけないのだ。そして「原作を知らなくても楽しめなければ映画じゃない」という
僕の持論はここでも正しかった。

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コメント 7

Sho

いやあ、kenさんのこういうレヴューはホントに好きですわあ・・・
もう、朝から笑えること笑えること・・涙拭きながら笑っとりました。
ふと思ったのですが、この果てしない広大さを数十年前に表現しえた松本零士という人は、すごい人ですねえ。
by Sho (2011-01-16 08:58) 

きさ

私はこの実写版、高く評価してます。山崎監督のファンですし。
原作アニメ世代ではあるのですが、原作に(特に西崎Pに)それほど思い入れがないので。
松本零士のファンではありますが、アニメのヤマトと松本零士の関係は結構微妙ですし。
まあ、限界は確かにありますが、大健闘したと思います。
どう転んでも結局色々言われるでしょうし。
by きさ (2011-01-16 09:53) 

ken

>Shoさん
 そう言えば、アニメ映画版のヤマトはどんなスケール感だったのか、
 今更確認したいと思いました。
 nice!ありがとうございます。

>きささん
 僕も山崎貴監督は好きです。
 そして今回のチャレンジには拍手を送りたいと思いますが
 製作陣の「ほったらかし」感が許せないのです。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2011-01-16 10:16) 

snorita

真田サン=ぎばちゃんらしいじゃないですか。ま、これでいいよ。許す。十分笑えたもん。
私も小学生んときはまったわー...
by snorita (2011-01-17 10:31) 

ken

まゆ毛の薄さが似てましたw
by ken (2011-01-17 18:53) 

カオリ

そう言われてみれば、慎吾ちゃんがデスラー総統として登場したらかなり笑えたでしょうね〜。
あの大きな船にこれっぽっちの人しか乗ってないの? 医者もひとりだけ??看護師は??みたいな、ちっちゃーい感じ、確かにありました。
確かに、ハリウッドで映画化してくれるとかなり見ごたえがあるかもしれませんね。
by カオリ (2011-05-16 21:48) 

ken

細かいところにお金も気も遣わないと、この手の作品は一気にバレますね。
ハリウッドのプロデューサー、カモン。
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-05-16 23:46) 

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