ビー・デビル(2010年・韓国) [2012年 レビュー]
原題:キム・ポンナム殺人事件の顛末
監督:チャン・チョルス 脚本:チェ・クァンヨン
本作のことを知ったのはfacebook。知人がこう書いていた。
「自分の中で韓国映画の一位は『息もできない』と決めていたが、遥かに凌ぐ」
僕は「息をできない」を観ている人がいたことにまず驚いて、それを韓国映画の一位としていたことにも驚いた。僕の中でも「息もできない」は韓国映画の第一位。同じ意見の人がそこまで絶賛するなら観ないわけにはいくまいと、久しぶりにDVDをレンタルした。
監督のチャン・チョルスはキム・ギドクの助監督だった、という経歴も気になっていた。
ソウルの銀行に勤めるヘウォン(チ・ソンウォン)は職場でトラブルを起こし、支店長から休暇をとるよう通達される。実はヘウォンはある夜、暴行事件を目撃してしまい、おかげで警察から何度も協力を要請され、公私ともにストレスを抱えていた。そこでヘウォンは幼い頃に過ごした思い出の島へ向かうことに。
過疎化が進み、島の住民はわずかに9人。その中には幼なじみのポンナムがいた。生まれてから一度も島を出たことの無いポンナムはヘウォンとの再会を喜んだが、その笑顔の裏でポンナムは地獄のような苦しみに耐えていた…。
サスペンス映画を観客が「面白い」と評価するかしないか、その最大のポイントは「フリオチ」のクオリティだと思う。フリとは「謎」である。オチとは「答え」である。
まずは如何なる「謎」を用意するかが肝だ。観客の脳を「なぜだ?」とフル回転させることが出来たら、仕掛けは完了。そして、その「答え」が意表を突き、かつ万人を納得させられれば、間違いなく観客の心は粟立つ。本作もそのクオリティは高かった。僕は思わず「うお」と声を出すほど衝撃的なオチのワンカットがあったのだ。
僕の中でこの作品の評価は、そのワンカットで決まった。それは文字面では表現し難い、映像ならではの表現方法だったから感動的ですらあった。
謎とは「ポンナムは、なぜヘウォンまで殺そうとしたのか」である。
(島を出たことの無かったポンナム(左)と、ソウルから訪ねて来たヘウォン)
“ある悲劇”をきっかけに復讐の鬼となるポンナムは、最終的に幼なじみのヘウォンまで付け狙う。ヘウォンはポンナムに何の危害も加えていないにも関わらずだ。僕はそれを「単に常軌を逸した行動」と勝手に呑み込んで展開を見守っていたのだが、途中で“ある悲劇”の別アングルが唐突に挿入される。これが「謎」に対する「答え」のワンカット。
このワンカットは謎が解けると同時に、観客が気付かなかった2つの伏線の存在も明らかにする。ひとつはソウルでの暴行事件。もうひとつは“ある悲劇”の処理に来た刑事と島民とのやりとり。絶妙である。何もかもが巧すぎて付け入る隙はどこにも見つけられなかった。
殺人事件を扱ったドラマは基本「動機」「方法」「犯人」のいずれかを解き明かして行くものだ。
そして、どの立場の人間が主人公となっても「被害者」と「加害者」という対立図式は変わらないのだが、本作はこれに「傍観者」を加えて三すくみのドラマにしているところが素晴らしい。
もちろん僕が無知なだけで、同様の作品が過去にあってもおかしくはないが、本作の場合は誰が加害者で、被害者で、傍観者であるのか言い切れない複雑さと、物語の最初と最後を傍観者目線で描くという構造も含めて、これは秀作と言っていいと思う。
キム・ギドクの味わいは確かにあった。
有り得ない設定を、観客に信じ込ませる“追い込み方”はギドク作品に近いものがある。
たとえば島の男がまるでガムのようにある葉っぱを噛んでいるのだが、それを「噛めば噛むほどバカになる葉っぱ」としている辺り、この奇妙な味わいは師匠譲りと言えるだろう。ただギドク作品に比べると圧倒的に雄弁で、表現もストレートであるから、ギドク作品よりも一般受けするように思う。
僕の中では「息もできない」は超えなかったけれど、韓国産サスペンスの中では「チェイサー」や「オールド・ボーイ」「殺人の追憶」と並ぶ名作。
今日、レンタルしてきます。
この映画を御紹介くださって、ありがとうございます。
by Sho (2012-03-11 09:52)
レンタルショップにあるといいですね。
by ken (2012-03-12 21:50)
ありませんでした。
この作品は、レンタルを自主規制したところもあったようですね・・
私はすごく観たいので、もう何軒かあたってみます。
それでもなかったら、買おうと思います。
by Sho (2012-03-12 22:31)
僕はDMM.comでレンタルしました。
by ken (2012-03-12 22:43)
今、そのサイトに行ってみました。
これは便利ですね。
ありがとうございます。
by Sho (2012-03-12 22:58)