アウトレイジ ビヨンド(2012年・日本) [2012年 レビュー]
監督・脚本・編集:北野武
前作から5年後という設定の続編。
映画の前にまず【beyond】というワードのチョイスが上手いなあと思った。世の中に続編は数あれど「ビヨンド」と付けた作品があるか、映画データベースallcinemaで検索したけれど見当たらなかった。
《場所》…の向こうに、《時間、範囲、限度》…を超えて、《優越》…より優れて、など単語の意味から察するに、ダブル・ニーミングも狙っているはず。さすが希代の漫才師だけあって…と言うべきか、言葉選びのセンスに感心。
先代を自らの手で殺め、山王組の二代目となった加藤(三浦友和)は、元大友組の金庫番・石原(加瀬亮)を重用して組織を拡大。今では政治家も操るまでになった。一方で古参の幹部はくすぶり続け、そこに目を付けたマル暴の片岡(小日向文世)が山王会の富田(中尾彬)を焚き付け、関西の巨大組織「花菱会」と接触をさせる…。
続編の宿命である“前作越え”は、さすがの北野武と言えど難しかったようだ。正直言って期待したほどの出来栄えじゃなかった。ただ、監督自身が“前作越え”を意識していたかどうかは分からない。圧倒的な“しゃべくり漫才”だった前作と比べると、いくらか状況説明が必要な“3人のコント”のような脚本だったし、何よりビートたけし演じる大友が5年のムショ暮らしですっかり枯れていたという設定だったからだ。
これらは「結果そうなってしまった」わけではなく「狙ってやっている」のだから、監督は世間が想像するところの“前作越え”など、はなから考えていなかったのかも知れない。
そうならそうで見方は大きく変わる。
「アウトレイジ ビヨンド」はこれまでの北野映画とは全く異なり、「牙の抜けた(折れたでも折られたでもない)ヤクザの映画」という監督としても役者としても新境地になるからだ。
すっかり枯れた大友は実に味わい深かった。枯れても流れる血に変わりはなく、それが時々着火する様も心地よかった。本作は監督としても役者としても、今の身の丈に合った作品と言えるんじゃないだろうか。
前作の続編ではあるが、あくまでもこれは後日談として作られたと思えば、観ていて愉しい。言うなれば前作の「おとしまえ」である。
そもそも続編はもっと早くに撮られるはずだった。それが東日本大震災で延期され、こう言うカタチで産み落とされたのだ。3.11が監督に与えた影響も大きいだろう。
容易に想像出来る結末だが、オチのキレが見事で思わず息を呑む。そういう意味ではこれもやはり「漫才師の映画」だ。相応の人生経験を積んでいるといくつか笑えるシーンもあって、まさにオトナのための映画である。
それにしてもこれから先の北野作品がますます愉しみになって来た。
このタイトルは秀逸ですね。「こう来たか!」と、思いました。
>すっかり枯れた大友は実に味わい深かった。枯れても流れる血に変わりはなく、それが時々着火する様も心地よかった
ここを読ませていただき、私は高倉健さんを思い出しました。
「アウトレイジ」、そしてこの作品、是非観ようと思いました。
by Sho (2012-10-20 06:34)
言われてみれば、確かに健さんですね。
「あなたへ」での共演も観てみたくなりました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2012-10-20 22:43)
“しゃべくり漫才”
1作目は、ほんとに、オイコラワレの直撃連打でしたね。
今回、含みの持たせ方が秀逸で、観終わった後も
いろいろ想像してしまいました。
by aneurysm (2012-10-21 11:11)
次はどう来るでしょうか...
by キウイ (2012-10-21 11:39)
確かに続編に「ビヨンド」とつけちゃうセンスはなかなかですね。
まだ予定立てられていませんが是非観たいと思ってます!ついでに前作もDVDで予習。久々に観ましたが前作のインパクトは尋常じゃないので、さすがにそこを超えるのは難しそうですね。
by movielover (2012-10-21 14:05)
>aneurysmさん
含みとはその後の大友についてでしょうか?
僕はまったく考えませんでしたね〜。スカッとして以上終了でしたw
nice!ありがとうございます。
>キウイさん
たけしさんは次回作に何を用意しているんでしょうね?愉しみです。
nice!ありがとうございます。
>movieloverさん
そうです。超えないものと思って観て下さい。そうすれば面白いです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2012-10-21 23:52)