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エンディングノート(2011年・日本) [2012年 レビュー]

撮影・編集・監督:砂田麻美

 日本のドキュメンタリー映画としては「ゆきゆきて、神軍」(1987)以来、2作目の【興行収入1億円】を突破した作品なのだそうです。そう聞いてしまうと遠い昔に「ゆきゆきて、神軍」も観たドキュメンタリー好きとして、これは避けて通れません。

 日本の高度成長期を支えたサラリーマン砂田知昭は会社を引退した2年後に胃がんの宣告を受ける。毎年検診を受けていたにもかかわらず、発見されたときにはすでに手遅れの状態。医者から“残り時間”まで教えられた元営業マンは、自分の最期を段取ることにした。そこでまず着手したのがエンディングノートの作成だった…。

 監督は主人公・砂田知昭さんのムスメ。
 学生時代から是枝裕和氏の下で映画作りに関わっていた彼女に取っては、「これ以上ない素材が身内から出て来た」ことになります。少なくともお父さんが“段取り命”の人でなかったら、エンディングノートを書かなかったら、この映画は成立していないワケですから。
 とは言え、うかつに「感動的」というありふれた言葉では片付けられないほどよく出来た作品でした。
 もちろんプロデューサーを務めた是枝監督から、的確なアドバイスが多々あったことでしょう。それでも実の父の“終活”を、善くぞここまで冷静に描き切れたものだと感心します。

 観れば分かってもらえると思いますが、被写体の父と撮影者の娘が冷静だからこそ、このドキュメンタリー映画「見世物」として成立していると思います
 対照的なのは女優・林由美香の最期に迫った「監督失格」。この作品は監督・平野勝之の“心の揺れ”を「見世物」にした作品でした。主観で描くか、客観で描くかによってで、ドキュメンタリーは大きくその姿を変えるのですが、もしもエンディングノートが主観で作られていたら、観客はその“重さ”に耐えられず、きっと直視するのも辛い作品になっていたでしょう。
 
 客観描写されているとは言え、ゴールに「死」があると分かっているからこそ、観客はやがて息を呑んで主人公とその家族の様を見つめることになります。まして(僕もそうですが)実の父をすでに亡くしている観客は、心を鷲掴みされるような哀しみを覚えるはず。しかし本作で観るべきは、そういった家族の哀しみ様ではなく、「人間は何を成すためにこの世に生まれて来たのか」という永遠の問いではないかと思います。

 僕は砂田友昭さんをサムライだと思いました。
 慌てず騒がず宿命を真正面から受け容れようとする姿に、日本人の美学を観ました。もちろん時には弱い部分も見せますが、自分よりもまず家族を想い、労り、愛情を注ぐ砂田さんの姿は、同じ日本人として誇りに思えるほどでした。

 「死」はすべての人に平等に訪れる最期のビッグイベント。
 自分の最期を見つめると、実は明日からの生き方にいい影響を与えるのではないでしょうか
少なくとも僕は「明日死んでもいいように、ムスメとは全力で遊ぶ」と決めました。

 秀作。

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Sho

是非、見てみたいと思いました。
>自分の最期を見つめると、実は明日からの生き方にいい影響を与えるのではないでしょうか
同感です。
死を見つめることは、生を見つめることと、ほぼ同義であると思います。
本当に、誰にとっても「明日死ぬかもしれない」ことは事実ですね。
これは決して「縁起か悪い」とかではなく、一つの事実だと思います。
私は生きている間に「ありがとう」とか「あの言葉が本当にうれしかった」とか、そういう思いは伝えておきたいと思っています。
この作品をご紹介いただき、ありがとうございます。
by Sho (2012-12-30 08:42) 

coco030705

こんばんは。
すごいですね。自分の父親がガンを宣告され、それをドキュメンタリーで
撮るなんて本当に勇気がいることではないでしょうか。
「客観的」という態度はどんなときでもとても大事なことだと思います。私は非常に感情的な人間なので、よく失敗するのですが、冷静さとか客観性がなければ、他人には自分の本当の気持ちを理解してもらうことは到底できないと思います。どうしてかわかりませんが、感情的になるというのは一種の「甘え」だからかもしれません。
ともあれ、kenさんのレビューを読んでぜひこの作品を観てみたいと思いました。
今年もブログで楽しませていただき有難うございました。では佳いお年をお迎えくださいませ。
by coco030705 (2012-12-30 22:51) 

ken

>Shoさん
 明日、死んでもいいように悔いなく生きることが、いかに難しいことかは誰もが理解していると思います。だからそれにフタをするのではなく、時折思い出しながら、生きて行くことが大事じゃないかと思いました。
 nice!ありがとうございます。

>coco030705さん
 僕も極めて感情的な人間で、時に失敗をやらかします。
 ただ面白いもので、ファインダーを通すと冷静になれるのも事実なんです。コレ実は「直視しない」と同じ行為であるからなんですけどね。
 すっかり放置気味のブログにお越しいただき、ありがとうございました。来年もどうなるか、自分でも分かりませんが、coco030705さんもどうぞよいお年を。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2012-12-31 08:46) 

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