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魚河岸おじさんへの返信(あるいは「誰も知らない」の追加記事) [映画にまつわるエトセトラ]

 魚河岸おじさん、こんにちは。
 
 いつもお越しいただきありがとうございます。
 こういう形でお手紙を頂くとは想像もしませんでしたが、こんなやりとりが出来ることをとても嬉しく思います。
 
「魚屋の映画日記」は僕も毎回楽しませてもらっています。
 魚河岸おじさんの記事は「自らに字数制限を課しているのか?」と思うほど贅肉の無い文章なのに、時折キラリと光る宝石のような言葉を見つけることがあって、そんなとき僕は感心を通り越して嫉妬する思いでいました。
 そんな魚河岸おじさんに「感動を超えた何かを感じた」と言われるのは嬉しい限りです。

 実は「誰も知らない」の記事は書き上げるまでにずいぶんと時間がかかりました。
 魚河岸おじさん同様、言葉が見つからなかったんです。
 だから本当は「言葉が見つからない」と書いても良かったんですが(実際以前はそう書いていたし)、でも最近はちょっとした理由があって、僕の中ではこれを「禁じ手」にしています。
 
 話が逸れました。
 
 「生きていくうえで本当に必要なものは何だ?」
 と、僕が思ったのは、明たち兄弟が感じた絶望を僕自身も味わった経験があるからです。
 東京は便利でいい街です。
 でもそれはお金を持っている人にとって「いい街」であるだけで、お金を持たない人間にとって、(特に地方出身者にとって)これほど住みにくい街はありません。
 自給自足が出来ない、頼るべき人間もいない、手を差し伸べてくれる人間もいない。
 八方塞とはまさにこのことだと思いました。
 この絶望感は味わったものにしか分かりません。
 明は自分たちの「無名性」に何より絶望したと思います。自分たちのことを「誰も知らない」というだけで、明日を生きることがいかに困難かを実感したことでしょう。
 だからお互いをよく知る者同士、つまり兄弟4人で一緒に暮らすことこそが唯一の生き抜く手段と自覚したのだと思います。
 ただ僕は自分を振り返って考えたとき、「この子達は将来どんな人間になるのだろう」という不安も覚えました。

 東京に対して絶望した僕はそれでもここで暮らすしかなくて、長い時間をかけて最悪の状況から抜け出したとき、「生きるために必要なのは金だ」と確信しました。なにより金を稼ぐことが男の仕事だと信じて疑わなかったんです。
 ところが2年前に父が亡くなり、父の棺に道中の安全を祈ってお守りを入れたとき、「オヤジの旅にもう金は必要ないんだな」と思ったら、急に肩の力が抜けました。そしてお金に対する価値観がガラリと変わったんです。
 「金は稼ぐためにあるものじゃなく使うためにあるものだ。もちろん使うためには稼がなきゃならないけれど、使う必要がないなら稼がなくてもいいんだ」
 簡単に言えばこういうことです。
 劇中、女子高生の紗希が援助交際まがいのことをしてお金を工面するシーンがありましたよね。明はそれを不純な金だと知って受け取らなかったけれど、紗希の行動には「使う必要があるから稼ぐ」という労働の原点があったような気がして、僕はちょっと感動したんです。
 いい大人(僕のことです)が長い時間かけて悟ったことを、紗希はいとも簡単にやってのけました。赤の他人を救うために。そして自分も救われるために。
 この紗希の行動が明の将来を決めたと思います。きっと彼は「金がすべてじゃない」と思ってくれたことでしょう。
 
彼らの将来を不安に思った僕は少なからずホッとしていました。しかしこの瞬間、僕は確実に「共犯者」だったと思います。本来教えるべきは女子高生ではなく、大人なんですから。

 魚河岸おじさんの手紙の中にあった「でも実際に近所にこういう子供たちがいるとして、気づくことが出来るのか、それとも見てみぬふりを決め込むかは解りません」は僕も同感です。
 今ここでうかつにキレイごとは言えません。
 だから、生きていくうえで本当に必要なものは何なのかを、この先じっくり考えたいと思います。

 返信の体をとって、映画について書ききれなかったことをさらに書いてしまいました。
 まともなお返事になっていなくて申し訳ありません。
 築地のお仕事も大変ですよね。深夜や早朝に築地を通る度、魚河岸おじさんのことを思い出します。体に気をつけててますます頑張ってください。
 いつか一杯やりましょう。

 追記
 「エピソード3」、6月25日の先々行ロードショーにも行ってきます。しかも広島で。
 性懲りもなく三度、カープの応援に行くのでした(笑)。

 魚河岸おじさんへ
                                              6月21日 ken拝


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コメント 7

魚河岸おじさん

お返事有難うございます。それにもっと深く作品についての記事
またしても流石!と思ってしまいました。
本当に一度飲りたいですね!
旨い鮨屋は任せてください、
じっくり大人の男(笑)の会話がしてみたいです。
by 魚河岸おじさん (2005-06-21 23:27) 

きりきりととと

MUSICAL BATONをお願いできないでしょうか? ぷりーず。
by きりきりととと (2005-06-22 02:07) 

ken

>魚河岸おじさん
 EP3をご覧になったあと一杯行きましょう。鮨屋はお任せです(笑)

>hyperbomberさん
 申し訳ありません。個人的にMUSICAL BATONは好きじゃないんです。
 TBがあるんだから、自主的に皆が楽しめばいいと思います。
by ken (2005-06-22 10:57) 

きりきりととと

ありゃ、ごめんなさい。承知致しました。
by きりきりととと (2005-06-22 13:48) 

う~ん、男同士のやりとり うらやましいです。
by (2005-06-22 23:50) 

お二人の友情にnice!
「生きていくうえで本当に必要なもの」
人それぞれの価値観があるんでしょうが
私にとってのそれは何なのか、見つけ出していこうと思います。
by (2005-06-22 23:56) 

ken

>よーこさん
 女同士のやりとりも、男としてはうらやましいときがあります^^

>paserinさん
 nice!ありがとうございます。
 頑張って見つけてみてくださいね。
by ken (2005-06-23 12:39) 

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